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第92話 魔手

壊された大浴場の解体が進み、庭木や石材が一時撤去された。

代わりに俺が山の斜面に半ば埋もれる形でダンジョン地上部を造る。

外観は幅100m、高さ8mほどの野面積みの石垣だ。


高さはあるが、山の斜面にほぼ埋もれているため違和感は少ないはず。

後は庭師の腕前でうまいこと馴染ませてもらおう。

いずれ苔とか生えれば良い雰囲気になるはずだ。


このダンジョンの屋上を土台として露天風呂を組み直してもらう。

高さが出来たことで眺望はよくなり、同時に覗かれる心配は減る。

脱衣所などが入る建物は斜面の上、露天風呂の南側に作られる。


男湯と女湯の入り口を挟むように、3つの大きな木戸を造る。

飾りも標識も無い木戸は、一見するとただの壁か塀のようだろう。

木戸と気付いたとしても、メンテ用の入り口か倉庫と思われる筈。

実際にはダンジョン内部に待機するガーディアンの出入り口だ。


通常の石垣であれば栗石等が詰まっているはずの場所は空洞だ。

そこに敵の足止めに向きそうなガーディアンを待機させておく。

野面積みは本来ならただでさえ崩れやすく、高い石垣には向かない。

その中身が空洞であると考えるものはそうそう居ないだろう。

なるみの緻密な計算と魔力による強化が無ければ実現できない事だ。


まずは高さ3mの乙女の裸像型のゴーレムを150体。

これは大盾タイプを100体と弓タイプを50体だ。

敵は森の中なので、魔法使いタイプやマシンガンは止めておいた。

次にフルプレートアーマーのオーク兵を200体。

遠めに見る限りはがたいのいい人間の重装兵士にも見えるだろう。

小さな敵がすり抜けない様、ゴーレムの隙間を埋めてもらう。


続いてウィセルとサジタエルのコピーを各100体。

ダンジョンの屋上には彼女らが通れる程度の穴をいくつか開けておく。

上に作る建物には、そこからほぼ垂直に上がれる通路を作ってもらう。

天使風ガーディアンは羽ばたく事無く飛べるので、そこから出撃できる。


コピーなのでやはり仮面をつけてエロ衣装にしたくなる。

我ながら謎の拘りだが、人形を相手に遠慮をする必要もない。

ただ、ウィセルのおっぱいはガッチリホールドしないとまずいらしい。

高速でランスチャージのような攻撃をするため、かかるGが強い為だ。

仕方がないので下の方を超ハイレグTバックにしておいた。

サジタエルの方もミニスカートにして全体的に布面積を減らしておく。


温泉宿の防備はこんなものでいいだろう。

森の中では復活した雪風たちが変わらず警戒を続けている。

ゴブリン程度なら抹殺できるし、オーガロードとかにも早く気付ける。

雪風たちで対応できない大物はゴーレムで足止めしつつ天使達で叩く。

状況次第ではその間に俺も駆けつける、と言うわけだ。


防衛を第一に考えるなら砦とかも作りたいところだけどね。

ただ、それだと温泉旅館としてくつろぎの空間を演出しにくい。

それに、どんな相手かは不明だがお隣さんを無駄に刺激しかねない。

防衛設備を置けない分、こっそり大軍を潜ませると言うわけだ。


温泉宿1つの防衛に天使型ガーディアン200人は過剰にも見える。

だが、どの道航空戦力は欲しいと思っていた。

ここならメインダンジョンとも近いし、空軍基地ってことにするかな。

あとで開拓村側の砦にも同様に天使の軍勢を召喚することにしよう。


さて、防衛強化はひとまずこれでいいとして、『聖騎士』をどうするか。

リーリエシュタッヘル公爵の横槍の目的はどこにあるのだろう?

直接の原因は『魔界』の産物が生む南部貴族と北部貴族の経済力の差かな?

この街の産業にリーリエシュタッヘル派閥を噛ませてやれば手を引くか?

ゴネ得をさせるようで癪に障るが、少しの飴で黙るならそれも手かな?


例えばホテルの運用業者や百貨店のテナントについて紹介を頼むとか。

あちらの息のかかった業者なら、公爵にも幾らか金も流れるだろう。

どこの派閥の業者だろうと、しっかり運営して納税するなら文句は無い。

まあ、クリスにはちゃんと話は通しておくけどね。


一樹「ルシファー!聞こえるか?話がある!」


話を通しておくと言えば近隣の転生者にも警告はしておくか。

おそらく奴らの狙いは俺のダンジョンだけど巻き添えを食う可能性もある。

それに、通常であれば山越えする奴らを警戒しておけばよかったはず。

だが、俺がトンネルを通したせいでいきなり襲われる事になるかもしれない。


ルシファー「よう、一樹。ようやく戦う気になったのか?」

一樹「いや、ただの情報共有だよ。もうすぐこっちに『聖騎士』が来る」

ルシファー「そりゃご親切にどうも。だが、俺だって山脈の監視くらいはしてるぜ」

一樹「実は山脈にトンネルを通したんだが、成り行きで『聖騎士』を通らせる事になっちまってな。知らない人間からするといきなり『聖騎士』が沸いて出る事になるかと思ってさ」

ルシファー「山脈にトンネル?やるじゃねぇか。山脈の新人戦はお前が制したって訳だ?」

一樹「いや、いろいろ事情があって東西に細長い『領域』を得ただけだよ」

ルシファー「細長い『領域』ねぇ。まあ、そういう事にしといてやるよ」


実際そうなんだけどな。

まあ、力を隠してるって見方の方が自然か?


一樹「『聖騎士』の狙いは多分俺のダンジョンだと思うんだが、近くにあるダンジョンも襲われる可能性があるからな。一応知らせとこうと思って」

ルシファー「敵は何人だ?」

一樹「俺が知る限りでは4人だ」

ルシファー「称号持ちは1匹だけか?」

一樹「そのはずだ。奴らの話を信じるならな」

ルシファー「なんだ、そんな程度の話で俺を呼び出したのか?」


称号持ちが1人ではご不満と見える。

まだまだ力の差は大きそうだな。


一樹「連れは『聖者』と『賢者』の候補者らしい。たぶん、若い方の騎士も『聖騎士』候補なんだろう。けっこうな使い手だと思うぞ」

ルシファー「なるほど、それはちょっと厄介そうだな」

一樹「そうだな。気をつけてくれ」

ルシファー「ところで、なんだって『聖騎士』なんぞに狙われてるんだ?細長い『領域』のルーキーがよ」

一樹「俺は連続婦女誘拐事件の容疑者なんだとさ」

ルシファー「物騒だな。そんな事件が起きてんのか」

一樹「いや、犠牲者は一人も居ない。難癖つけて俺のダンジョンを潰したい奴がいるらしい」

ルシファー「人間どものやりそうな事だぜ。だが、ますます妙だな。『聖騎士』を動かせるレベルの貴族に睨まれてんのか?お前、実はけっこうレベル上がってんじゃないのか?」

一樹「まだ60ちょいだよ。人間族との衝突を避ける為に『領域』の一部を街にしたんだ。おかげでいろいろとしがらみがな」


正確にはレベル68だったかな?

周囲のダンジョンマスターと睨み合ったまま動きが無い。


ルシファー「なるほどな。人間どもを飼おうとするプレイヤーはたまに居るが、うまくいったって話は聞かねえぞ」

一樹「飼うとかじゃなくてさ、共存を目指してるんだよ」

ルシファー「その結果、濡れ衣で殺されたんじゃ世話ないぜ?」

一樹「それに関しちゃ返す言葉もない」

ルシファー「なんだったら、その嫌疑を俺に押し付けたらどうだ?」

一樹「いや、何言ってるんだよ」

ルシファー「『聖騎士』が俺のダンジョンに来てくれるってんならむしろ有り難い。今更普通の冒険者が相手じゃ大した戦闘データも取れないからな。せいぜい利用させてもらうさ」

一樹「せっかくの提案だがそんな真似はできないよ。自分で何とかしてみる」

ルシファー「勘違いすんなよ。他のプレイヤーがNPCに殺されたんじゃつまんねえだろ。その跡地の『領域』争奪戦も面倒だしな。それに俺とお前は敵同士だ。何も遠慮することはないさ」

一樹「だとしても、人に濡れ衣を着せるなんて真似はできない」

ルシファー「NPCになに言われようが知ったこっちゃねえさ。もう何匹殺したかも覚えちゃいねえしな。今更誘拐容疑なんざ屁でもないさ」


こいつは本当にこの世界をゲームだと思っているのか?

それとも、そう思い込もうとしている?


不意に、いつかの骸骨ブラの長身の美女が現れた。

瞬間移動・・・彼女がルシファーのダンジョンコアなのか?

ルシファーは美女から受け取った何かを投げて寄越す。


ルシファー「情報料だ、受け取れ」

一樹「いや、そんなつもりでここに来た訳じゃない。情報料は不要だ」

ルシファー「俺とお前は敵同士だ。わざわざ敵に塩を送るような真似は止せ」

一樹「だったらこれはいいのかよ?」


俺はルシファーが投げてよこした金属塊を指す。


ルシファー「敵だからこそ借りを作りたくないんだよ。借りがあったら戦い難いだろ」

一樹「無理に戦う必要もないと思うけどな」

ルシファー「なら、どうする?現状で明示されているクエストは『魔王』という称号を獲得することだけだ。前に進むには戦うしかないだろう」


どうしてもVRゲームと言う前提で話を進めるのか。

まあ、それを否定できる要素もないんだけどな。

だが、同時に圧倒的な存在感、現実感もある。


ルシファー「俺と戦えよ、一樹!勝てばごっそり相手の『領域』を奪える。『魔王』の座に近づけるぜ?」


好戦的な発言と裏腹に、俺の『領域』を侵食する気配はない。

本当は戦いたくないんじゃないのか?


一樹「戦いたいという割には其方からは掛かって来ないんだな」

ルシファー「そりゃお前、戦う気の無い奴を殴るのは戦いじゃねえだろ。そりゃただのいじめってもんだ。それとも、その質問は挑発と受け取っていいのか?」

一樹「いや、純粋な疑問だよ。だが、陣取りゲームじゃ無かったのか?」

ルシファー「そりゃーそうさ。けど言うだろ?『イジメカッコ悪い』ってな。プレイヤーならカッコ悪いことしちゃ駄目なのさ。魅せるプレイで勝たなきゃオーディエンスが納得しないだろ?」

一樹「なるほど」

ルシファー「戦う準備が出来たらいつでも言って来い。いや、いきなり攻撃して来たっていいぜ?後発プレイヤーへのハンデとして、先手は譲ってやるよ」

一樹「悪いが戦う気は無いよ」

ルシファー「そうかよ。ま、気が変わったらいつでも来いや。歓迎するぜ」

一樹「待ちぼうけ食うことになると思うぞ。所でこれって何なんだ?」

ルシファー「オリハルコンさ。対戦相手の武器が木の棒切れじゃ締りが無いからな。それでちゃんとした武器を誂えておけ」

一樹「オリハルコン?」


『聖騎士』の鎧にも使われていた希少金属だったか。

鉄ベースでオリハルコンで補強という話だったから鉄よりは強いのだろう。

だが、『聖騎士』でも総オリハルコンの鎧は使えない程に希少な金属。


ルシファー「あばよ」

一樹「ちょっ・・・」


ルシファーは姿が掻き消えた。

瞬間移動で拠点に戻ったのだろう。


このオリハルコンのインゴット、どうしよう?

『聖騎士』を呼び込んでしまったのは俺だし、情報料としても貰い過ぎだ。

たぶん、まだ見ているだろうから置いていけば気付きはするのだろう。

だが、奴の性格的に回収しにくるとは思えない。


放置されたオリハルコンは通りすがりの冒険者が入手することになる。

下手をすれば今こちらに向かっている『聖騎士』一行の手に渡る。

とりあえず持ち帰って、次に会った時にでも返すとしよう。


今度は『聖騎士』一行の止まるホテルを訪ねて話をしてみよう。

飴をちらつかせて退いてもらえるよううまく誘導したい。

だが、誘拐事件の捜査と言う建前だから、あまり露骨に誘うわけにもいかない。


一樹「聖騎士殿、目的地は川の東側ということだったな。遊技場のような風変わりなダンジョンがあると聞いたが、疑惑のダンジョンとはそこのことかな?」

トールヴート「左様。人を誘い込むような餌が撒かれ、若く健康な娘のみを選別するかのような構造になっている。何かご存じ無いか?」


彼らの言う遊技場こと『えろえろダンジョン』には危険な仕掛けなどない。

正確には、明示されたルールを守っている限りは攻撃されることはない。

ゴブリンの棲家との間にもしっかり隔壁が設けてある。


一樹「いや、俺も冒険者達から話を聞いただけだ。同族とはいえ隣家に勝手に忍び込むわけにもいかんのでな。それに、男は入るなと書いてあるらしいじゃないか」

トールヴート「そうらしいな。そちらは粗方調べつくされているようだし、俺の体格では最後の通路を通れん。『ゴブリンダンジョン』側に入ってみるしかあるまい」

一樹「犠牲者の報告は上がっていないと聞くが、何を根拠に捜査に押し入るのだ?」

トールヴート「『遊技場』には隠し通路の入り口らしきものが1つ見つかっている。構造的には他にも在っても不思議はない」


ローズと秋風が景品の補充の為に入る隠し通路か?目聡い奴もいるものだ。

誘拐して連れ込むための通路じゃないけど、俺が弁明するわけにもいかない。


一樹「つまりは状況証拠だけか?誘拐が事実なら囚われの娘なりその遺体なりが見つかるだろうが、誘拐の事実が無いと言う証拠は掴み様がないだろう。どう調査するつもりだ?」

トールヴート「分からん。まずは現場の状況を見てから考える」

一樹「誘拐が事実なら犯人を殺す、という事について異論はないし状況次第では協力もしよう。だが無罪の場合、証拠が見つかるまで捜査を続けるというなら結局はダンジョンの最奥にいきつき、無実の『魔族』と戦うことになるのではないか?」

トールヴート「その時は非礼を詫びて引き返そう」

一樹「勝手な話だな。逆の立場で考えてみろ。お前の家に武器を掲げて押し入って来た者が居たとして、素直に帰せるか?」

トールヴート「勝手は承知の上だ。それでも放置する訳にはいかん」


捜査が強引過ぎるという点は認めるわけか。

犠牲者報告の無い状況で連続誘拐事件を本気で疑っている訳でも無いだろう。

それでも囚われの娘がいる可能性は無視できない、というのはやはり建前か?

リーリエシュタッヘル派閥ら南部貴族の思惑が背景にあるのだろう。


一樹「つまりは、いずれにしても殺すと言うことか?そういう話なら協力はできんぞ」

トールヴート「今の段階では現場を見て判断するとしか言えん。貴殿ならどう調査する?」

一樹「周辺調査はするにしても、証拠が無い所か犠牲者の報告すらない段階で住居に踏み込むのはさすがにやり過ぎだ。やるとしたら、囮捜査だな」

トールヴート「具体的には?」

一樹「地下鉄道は近いうちに一般公開する予定だ。通常運行が始まれば乗車料はずっと安くなる。その『遊技場』に100人でも200人でも送り込んで、未帰還者が居ないか確認してはどうだ?向こうには誰が公爵家の手の者で誰が普通の冒険者かなんて区別はつくまいよ」

トールヴート「なるほど。失礼だが、こちらとしてはそれを貴殿が密告する可能性も考えねばならん」

一樹「もちろん、俺に知らせる必要もない。公爵との関係を伏せ、一般の冒険者として入領すればいい」


この捜査方法ならリーリエシュタッヘル公爵家の手の者で景品を独占できる。

俺がその手伝いをしてやってもいい、という提案だ。

まあ、その程度の小金で納得するとも思えないけどね。


トールヴート「その捜査方法では娘らを危険に晒す事になるな」

一樹「冒険者の仕事に危険は付き物だ。きちんと説明して互いに納得した上で依頼すれば問題ないだろう。それに現状で犠牲者の報告はないわけだし、リスクがあるとしてもかなり少ないと言う事だろう?」

トールヴート「なるほど。帰ったら公爵閣下に進言しておこう」

一樹「ああ、それならついでに頼みたいことがある。この街には魔界の産物に加えて鬼族の工芸品や大量の保存食も集まる。王国南部に販路を持つ商会と繋いでもらえるとありがたい。南部から取り寄せたい品もあるしな」


この地の商売に一枚かませてやる、というメッセージだ。

ついでにペルメ油の安定供給ルートも確保したい。


トールヴート「伝えておこう。だが俺は商売の事は疎くてね。詳細は後で別の者と話してくれ」


あれ?予想外に反応が薄いな。


一樹「承知した。では話を戻そう。どうあってもそのダンジョンに押し入る気か?」

トールヴート「今になって約束を反故にするつもりではあるまいな?」

一樹「捜査の内容次第だ。繰り返しになるが、誘拐が事実ならそいつを殺す事に異存はない。だが、証拠も無いのに捜査のためにダンジョンの深部まで踏み込むというのなら、それは罪の有無に関わらず殺すという事と同義だ。その場合の咎人の貴殿らの方になる。俺は共犯者になるのは御免だぞ」

トールヴート「・・・・では、今回は周辺の捜索と聞き取りを中心にすることにしよう。ダンジョンにも入るが、浅い階層で疑わしい状況が確認できなければそこで引き返し、深層には立ち入らぬと約束しよう」


「疑わしい状況」ね、どうとでも解釈できる言葉だ。


一樹「気のせいかな。一切譲歩する気は無いとも聞こえるが?」

トールヴート「疑わしい状況がある以上は捜査しないわけにはいかんのだ!」

一樹「俺の知る『捜査』とは随分と意味合いが違うようだ。誘拐の有無を確認すること自体は大いに賛成だ。だが、貴殿のいう『捜査』は誘拐の事実の有無に関わらず被疑者を殺すことだろう?」

トールヴート「それは相手の対応次第だ」

一樹「対応に問題があるのは貴殿らの方ではないのか?」

トールヴート「・・・・平行線のようだな」

一樹「そのようだ」


捜査を切り上げる言い訳も公爵家の金づるも提示した。

それなのにこの男はなぜ退かない?

まさか、犠牲者報告ゼロの誘拐事件を本気で疑っているのか?


トールヴート「どうあっても捜査を邪魔立てすると言うのか?」

一樹「いいや。無実の男に濡れ衣を着せて殺すと言うなら協力はできんというだけだ。協力しないことを邪魔立てというなら、それは傲慢と言うものだろう」

トールヴート「では地下10層だ」

一樹「ん?」

トールヴート「誘拐の疑いがある以上は調査しないわけにはいかん。だが貴殿の言う事も尤もだ。地下10層、そこまで潜って確たる証拠、囚われた娘またはその遺骸が確認できなければ引き返すと約束しよう」

一樹「譲歩になってないな。見たところ小さなダンジョンだ。地下10層もあるとは思えん」

トールヴート「ならば地下5層ではどうだ?」


あそこは地下5層が最奥部なんだよね。

けど、それは俺は知らない事にしないといけない。


一樹「あの規模では5層もあるかも疑わしいな。それに、『遊技場』ではなくゴブリンの巣窟に自ら潜った冒険者とどう区別するのだ?」

トールヴート「『遊技場』が罠なら犠牲者は全裸のはずだ。生きていたなら本人から聞き取りもできる。では3層でどうだ?」


地下3層のボスを倒して引き返したら油壺が落ちる仕組みだけどね。

そこは俺は知らない態でいくわけだし、条件としては妥当か。

さすがにこれ以上は断る口実が見つからない。


一樹「承知した。3層までで犠牲者が見つからなければ引き返す。その言葉に偽りはあるまいな?」

トールヴート「星神ルシファー様の御名に己の誇りに賭けて誓おう」

一樹「では地下鉄道の使用を許可しよう。手荷物検査と消毒については担当者の指示に従ってくれ」

トールヴート「承知した。協力に感謝する」


3層のボスを倒したら帰り道は火の海になる。

だが、奴らが入るときだけその仕掛けを解除するのも不自然か?

『聖騎士』は炎耐性付きの鎧を着けているから問題は無いだろう。

他の3人も『聖者』『賢者』候補の優秀な人材らしいし、何とかなるか。


だが、当日は俺も念のために『ゴブリンダンジョン』に控えておくとしよう。

奴が約束を守るなら良し、守らないなら俺自身が戦うしかない。

それまでは、いつも通り領内の仕事をこなすとするか


今日は色街の劇場に入れた新演出のお披露目の日だ。

舞台では3人の女の子が、ミニスカートで踊っている。

腰を振るたびにパンツがチラチラと見えて観客の視線を集めている。


色街には3つの劇場を作った。

うち2つは、ダンスやストリップを眺めながら酒を飲むスタイルだ。

酒代とは別に時間で席料を取り、代わる代わる踊り子が出てくる。


色街で一番大きなこの劇場は、演目ごとに入場料を取るスタイルだ。

ある程度名の売れた人気の踊り子たちがここで色っぽいショーをする。

演目ごとの売り上げがはっきりする分、集客力があればそれだけ稼げる。


舞台にふわふわと浮いた1組の手袋が現れる。

手袋は透明人間でも入っているかのようにしっかりと手の形に膨らんでいる。

その手袋が踊り子のスカートの裾を摘み上げると、パンツが見えて歓声が上がる。

踊り子は少し照れたような表情を浮かべつつもそのまま踊り続ける。


これは地球で見た3DCGのエロムービーを再現したものだ。

浮遊魔法を使う手袋型ゴーレムを使っている。

ただ、このサイズ単体ではパワーと制御を両立することはできなかった。

そこで制御用のゴーレムを別に舞台の周囲に設置してある。

それらが連携することで、このショーを実現しているのだ。


手袋は2人目の踊り子に移動し、服の上からおっぱいを揉んだり揺らしたりする。

やはり照れたような表情を浮かべるだけで、踊り子はそのまま踊り続ける。

最後に服をずらすと、片方のおっぱいが露出して歓声が上がる。

ちょっと照れたような顔をしつつも、そのまま小ぶりな乳房を揺らしながら踊り続ける。


手袋が3人目に移動すると、片方がするりとスカートの中に滑り込む。

もう片方がスカートの裾を摘み上げると、お尻に張り付いた手袋が見える。

張り付いた手袋はパンツの上からお尻を撫で回し、揉みしだく。

踊り子は照れたような表情を浮かべつつも、やはりそのまま踊り続ける。


だんだんとエスカレートしていく手袋の悪戯に、客席も熱を帯びていく。

今まではなかったであろう見世物はなかなかに好評のようだ。

この演出は「エロ魔人の手袋」と名付ける事にした。

センスはアレだが、こういうのは分り易くて俗な感じがいいだろう。


踊り手次第ではもっと過激なショーもやっていく。

ステージを汚したり壊したりしない限りは基本的に内容でNGは出さない。

俺のほうでは「エロ魔人の手袋」の他に「触手モンスター」も用意した。

演者を抱え上げ、触手があちこち撫でたり出入りしたりする演出だ。


いずれの演出も、体を売るよりは楽だし稼ぎもいいと踊り子たちにも好評だ。

また、ここでズボンを張らせた男たちが娼館に雪崩込み、そっちの売り上げも伸びる。

商売熱心な踊り子は、ショーの後でさらに客を取ったりもしているようだ。

1人だけ相手をするとしてオークション形式で値を吊り上げたりもしている。


こういった業界に対して眉を顰める人間も多いだろう。

だが、大衆が目を逸らしがちな場所だからこそ、領主として目を向けて行くべきだとも思う。


脅されたり騙されたりして嫌々働いているようなら助けなくてはならない。

だが、自ら選んだのであれば、それ以上は俺がどうこう言う話ではない。

俺の仕事は、彼女らが安心して働き、正当な対価を得られる環境を作ることだ。

積極的にこの業界を推して行くつもりはないが、ひっそりと守っていくことにしよう。


急に耳鳴りのような不快感に襲われる。

また『領域』をぶつけられたのか?

前回よりも耳鳴りがひどい。


なるみ「かずきおにぃちゃん、たいへん!『領域』が侵食されてるよ」

一樹「わかった。すぐ戻る。警報をきってくれ」

なるみ「あい」


耳鳴りは止んだが不快な余韻が煩わしい。

『領域』を侵食してきたのはルシファーか?それとも南西の奴か?

俺は物陰を見つけてメインダンジョンに瞬間移動した。


なるみ「見て、言われたとおり1億ポイント投入して侵食しかえしたよ。ちょっと進んだところで相手が5000万ポイントで防衛してる」


防衛側には2倍の補正が付くんだったな。

侵食してきておいて早々に守りに入ったのか?


一樹「なら10億ポイント投入して侵食を進めよう」

なるみ「おおー過激だー」

一樹「一方的に殴りかかってきといて負けそうだからやっぱ止めますなんて勝手な話があるかよ」

なるみ「なるほどー」


こちらの『根』がじわじわと相手の『領域』を侵食していく。

防御側が5000万なら、こっちは1億飛んで1万ポイントで奪える。

しかし、その場合はこちらは『根』に込めた1億ポイントをほぼ全量失う。


ただ、差が大きいほどに勝った側の損失は小さくなるらしい。

11億対5000万なら、こちらの損失は83万ポイント程だった。

『根』での殴りあいはレベルの差が顕著にでるようだな。

『領域』をぶつけて防御力を相手に晒すのはやはりリスクが高い。


さて、相手はこちらを止めるためには6億近くを用意しないといけないな。

しかも、こっちの『根』の先と隣接するへクス全部にだ。

或いは1箇所に22億ポイント込めて、ぶつけて相殺させる手もあるか。

その場合、こっちはさらに10億ポイント追加投入できるんだけどね


なるみ「あ、伸びきった『根』を切断しようとしてるね」

一樹「相手が充填している場所の隣接ヘクスに各100万ポイント投入だ」

なるみ「あいさー」


どうやら6億ポイントずつの壁を作る余裕は無いらしい。


一樹「これは?」

なるみ「ダンジョンコアのあるヘクスだね」

一樹「ここまで侵食したらどうなる?」

なるみ「相手のダンジョンコアは死んじゃうね。相手の『領域』は全部空白地帯になるよ」

一樹「支配下に置けるわけじゃないのか?」

なるみ「それは相手のダンジョンマスターを殺すか降参させてコアを奪った場合だよ」


相手はダンジョンコアに6億ポイントを投入して防衛に当てたようだ。

3億ポイント程を追加投入すればこちらが勝つことはできる。

だが、負かすつもりはあっても殺すつもりまでは無い。


それに、こんな紐みたいな『領域』を手にするのに既に12億ポイント使った。

更に3億ポイント投入して勝ったとしても、跡地は空白地帯になるのか。

となると、周りの他のダンジョンマスターと『根』の伸ばしあいをする事になる。

『根』での殴りあいはやはり効率が悪いようだ。


一樹「仕方が無い。乗り込んで降伏勧告するしかないか」

なるみ「ここの魔力が9億ポイント以上残ってるよ。せっかく充填したんだし、ジグザグに侵食して相手の力を削いでからの方が確実じゃない?」

一樹「それはそうなんだが・・・」


売られた喧嘩とは言え、必要以上にいたぶるような真似はしたくない。

だが、力が拮抗した状態で乗り込めば激しい戦いになり、犠牲も増えるか?

ここで使わなければ9億ポイントの魔力も死蔵されることになってしまう。

それに、命がかかった状況では慎重すぎるという事はないだろう。

『聖騎士』の件もあるし、明日の戦いは短時間で確実に勝ちたい。


一樹「そうだな。なるみの言うとおり、もう少し相手を弱らせてから乗り込むか」

なるみ「おっけー。どう進む?」

一樹「これ、コアを囲むようにぐるっと侵食したらどうなるんだ?」

なるみ「『根』が切断されるから、コアは魔力供給を受けられなくなるね。その場合も周囲の『領域』は空白地帯になるよ」

一樹「それも後が面倒だな。それなら奴の『領域』の外縁部をぐるっと侵食してからコアを孤立させたいが、さすがに時間が掛かり過ぎるか?」

なるみ「相手の規模次第だね。今までの反応からすると相手のダンジョンレベルは50くらいかな?10万から20万ヘクスくらい?」

一樹「さすがに侵食だけで全部を頂くのは無理か。外縁部を含む枠を造るように侵食して力を削ごう」

なるみ「おっけー。どこから始める?」


言っては見たがどう進めたものか?

今は相手のコアの目の前で『根』を突きつけあっている状態だ。

此方は9億、相手は6億、防御側に2倍の補正がかかるからお互い手が出せない。

だが、外縁部の侵食の為にこれを動かせば、相手の方からまた侵食してくるのか?

9億の『根』はそのままに、別の『根』に1億くらい入れて侵食を進めるか?

いや、9億ポイントの魔力を死蔵させたくないという目的からすると本末転倒か。


一樹「この9億の『根』は外縁部の切り取りに使おう。代わりに睨み合いに3億を追加投入だ」

なるみ「あい」


相手は虎の子の6億をぶつけてくるわけにもいかないだろう。

3億はおそらく死蔵することになるが、9億よりはましだ。

9億の『根』は明日の降伏勧告をより確実にする為に使い切る。


一樹「細かい動きは任せる。こっちの『根』をきろうとしてきたら、相手の2倍程度の魔力を投入してくれ。攻撃用の魔力の追加は無しだ」

なるみ「あいさー」


相手が降伏勧告に応じるなら、ダンジョンコアの人格も残すつもりでいる。

マスターにもある程度の裁量権を与え、サブダンジョンの管理者にするつもりだ。

相手がどういうつもりかは知らないが、俺が勝つ限りはお互いひどい事にはならない。

こんな考え方は傲慢だろうか?


まいったな、戦うつもりなんて無かったのに。

けど、攻撃された以上はしっかり応戦しないとね。

この世界では誰が守ってくれるわけでもない。

ただ奪われるのを待つわけには行かない。

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