第91話 接触
カボチャ「今日はこのフープという輪っかを使った運動をする。これを少し前のほうに高く投げ上げて、進んでキャッチする。こうだ」
執務室のモニターに映っているのはピンクの髪とうさ耳の大男だ。
その大男が手にしたフープを投げ上げると、数歩進んでキャッチする。
体育教師の1人として前に雇った兎人族で、名をカボチャという。
フープの方は竹で編んだ輪を革で包んで滑らかに仕上げたものだ。
鬼族の職人達に依頼して造ってもらった。
カボチャ「とりあえず1巡目は全員これだけやってみよう。もし、それで余裕だなって思う人は、落ちてくるのを待ってる間に何かやってみよう。例えばこうだ」
フープを投げ上げると、バレエのシェネの形で回転してフープを捉える。
再び投げ上げると、今度は飛び込み前回り受身を決めてフープを捉える。
見ている生徒から歓声と拍手が上がる。
カボチャ「ありがとう!では、とりあえず1回目は投げて進んでキャッチする、全員それだけやってみよう。余裕がある人は2回目からなにか動きを加えてみよう。かっこいい動き、かわいい動き、面白い動き、なんでもいい。キャッチするのがまだ不安な人は無理せずにキャッチするだけでもいい。ではぶつからないように距離を取って2列に並んで、順番にやってみよう!」
生徒達は言われたとおりにフープを投げ上げ、数歩進んでキャッチする。
新体操みたいなことをやらせたい訳だが、俺自身が新体操をよく知らない。
こっちの世界では独自の進化を遂げて面白いものが出来るかもしれない。
とりあえず、しばらく様子を見てみるとしよう。
未成年の領民には、週に2回は運動系クラスを受講するよう指示している。
また、そのうち月に1回以上はダンス、体操、曲芸から選択してもらう。
いずれも上限はなく、例えば毎日体操クラスを受講することも可能だ。
劇場や遊園地で活躍してくれるパフォーマーが育つことを期待したい。
一流と言われるアスリートやアーティストの指導者には1つの共通点が有ると聞く。
1人目の指導者が教えたのは技術や心得ではなく「楽しさ」であったらしい。
まずは好きにならなければ練習量も集中力も上がらないのだろう。
逆に好きになれば、自分から積極的に訓練や情報収集に励むようになる。
だから、入門クラスでは楽しませる事を第一に考えるよう講師にお願いしている。
エイミー’「失礼します。クリストファー=シュテッヒパルメ氏が面会をご希望です」
一樹「分かった。通してくれ」
クリス「失礼します」
入ってきたのは金髪碧眼の美青年だ。
公爵家の配下だが、主に『経済特区』の管理をしてくれている。
彼が直接俺のところまで足を運ぶとは珍しい。
一樹「何かあったのか?」
クリス「ええ、『聖騎士』一行が一樹様に面会を求めています」
一樹「俺にか?『聖騎士』からすれば俺は滅ぼすべき敵なんじゃなかったのか?」
どういう訳か、この世界では黒髪・黒目は『魔族』の特徴とされている。
俺は人類の敵って事になるらしい。
クリス「少なくとも今は戦う気はないようですね。リーリエシュタッヘル公爵の紹介状もありますので、断れば角が立ちます。少しお時間頂けませんか?」
一樹「分かった。とりあえず会ってみよう」
クリスの上にいるローゼンヴァルト公爵家と並ぶ王国の2大公爵家だったか。
その紹介状を持つ者を門前払いにするわけにもいかない。
クリス「ありがとうございます。では、さっそくお連れしますね」
クリスが退出すると、代わりに4人の男女が入ってきた。
先頭に立つ赤髪の大男は、見覚えのある白銀の鎧に身を包んでいる。
男「失礼する。貴殿が一樹殿か?」
一樹「如何にも、俺が一樹だが?」
男「我が名は『聖騎士』トールヴート。しばしの滞在をお許し願いたい」
一樹「王国の守護者がこんな辺境に何の御用かな?」
トールヴート「クエストと言ってな、王国貴族の子弟には、若い時に旅をして見聞を広める習慣があるのだよ。この地で騒ぎを起こす気は無い。貴殿の定めた正規の手続きに則って入領致した」
一樹「そういう事なら拒むつもりは無いが、それは後ろのお仲間も同意の上かな?」
後ろの若い3人の男女は殺意にも似た視線を送っている。
まあ、この世界の人間族ならばそれが普通らしいがな。
トールヴート「何分若輩者ゆえ融通がきかんのだ。ご容赦願いたい。こう見えていずれは『賢者』よ『聖者』よと将来を嘱望される秀才達だ。覚えておいて損はないぞ」
改めて後ろの3人に目をやってみる。
騎士と思しき男が1人と、鎧のない女が2人。
いずれも無言のまま刺すような視線を送っている。
名乗る気は無いらしい。
『賢者』と『聖者』は『魔王』が生まれたときに『勇者』と共に戦う者だったか。
この世界で『魔族』とされる俺も仮想敵ないしその配下と教わっているのだろう。
トールヴート「それにローゼンヴァルト公爵はこの地のダンジョンコアが『アーバンコア』に相当すると主張しているようだ。まだ結論は出ていないようだが、『アーバンコア』への攻撃は国際条約違反に当たる。こやつらの個人的な感情はともかく、少なくとも今はまだ手を出すわけにはいかんのだよ」
おお!ローゼンヴァルト公爵はそんな事までしてくれているのか。
有難いが借りがどんどん膨らんでいくな。
公爵と言い天使族といい鬼族といい、頭の上がらない相手が増えていく。
一樹「そういう貴殿はどうなのだ?俺は貴殿の仲間の仇では無いのか?」
トールヴート「戦士が戦場で散ったのならば恨む筋合いもあるまい。こちらから挑んだ戦いならば尚の事」
一樹「ほう、『聖騎士』にも道理の分かる者が居るのだな」
若い騎士「貴様!」
トールヴート「待て!一樹殿、あまり若い者をからかわんで頂きたい。こちらは戦うつもりは無いのだ」
一樹「それは失礼。だが、そのような視線を向けられてはな」
トールヴート「こいつらには貴殿の領内では騒ぎは起こさせん。約束しよう」
一樹「『聖騎士』は人間族の守護者ときいたが、子守までするとは忙しいな」
若い騎士「言わせておけば!」
トールヴート「待てと言っている!実は少々事情があってな」
一樹「どんな事情かは知らぬがご苦労な事だ。ともかく、正規の手続きを踏んで入領し、この地で騒ぎを起こさないと言うのであればとやかく言うつもりはない」
俺は話を切り上げようと目で退出を促す。
どうやら友好的な関係を望んでの訪問ではなさそうだ。
立場や力のある者が入領する際には領主に挨拶をする慣例でもあるのだろう。
こうやって顔を合わせた事で、お互いに一応の義理は果たせたはず。
トールヴート「待たれよ。実は頼みたいことがあるのだ」
一樹「喜んでと言いたい所だが、出直していただこうか。後ろの若輩者とやらに最低限の礼儀を叩き込むのが先決では無いかな?」
トールヴート「いやいや耳が痛い。だが、ぜひとも聞いて頂きたい」
内容を聞いてしまうと断る理由を探すのが手間だな。
この男はともかく、後ろの3人に便宜を図るのは気が進まない。
トールヴート「『魔界』へのトンネルを使わせて欲しいのだ」
こちらの返事を待たずにトールヴートが話を進める。
一樹「生憎とまだ未完成だ」
トールヴート「まだ非公開なのは承知している。だが、もう完成しているのだろう?」
『魔界』への道を作ること自体はすでに何人かに話している。
だが、完成したことを知っているのはマリー達だけのはず。
トールヴート「そう怖い顔をなさるな。別に『白百合』の3人から無理に聞き出したわけではない。だが、『聖騎士』というのは一応名誉子爵扱いでね。領地も持たぬ似非貴族ではあるが、冒険者ギルドに登録された活動履歴、その閲覧権限くらいはあるのだよ」
「仕事」という体裁を整える為にギルドを通したのが仇になったか。
依頼をこなした回数で冒険者の評価も上がるって言うしね。
一樹「なるほど。既にご承知のようだが、まだ客を乗せる段階ではないのだ。他を当たって頂こう」
トールヴート「乗せる?やはり乗り物も用意しているわけだな。トンネルがあるとはいえ、道理で『魔界』への往復時間が短いわけだ。もしや地下鉄道かな?」
しまった!マリーはその点については伏せておいてくれていたのか。
一樹「現時点で非公開なのは承知していると、貴殿は言った筈だが?」
トールヴート「いや、申し訳ない。ただ、我々も時間が惜しいのだ。無理を言っていることは承知している。十分な金額を用意しよう」
王国の守護者である『聖騎士』は長く王国を離れるわけにはいかないのか?
或いは『聖騎士=ガーディアン仮説』は正しく、遠隔地では長く活動できない?
一樹「何をそんなに急いでいるのか知らんが、修行というならなおのこと自分の足で山を越えるべきだろう。聞けば『聖騎士』や『賢者』というのは『勇者』を補佐して人類を脅かす強敵と対峙する役目だとか。ならば、普通の冒険者がこなしている程度の事はこなせなければな」
若い騎士「貴様!『聖騎士』様がこれほど頼んでいるというのに!」
トールヴート「やめよ」
一樹「誰のせいで話がこじれていると思っているのだ?足手まといを自覚もできないやつに『聖騎士』が勤まるとも思えんな」
トールヴート「ご指摘ごもっとも。耳が痛い。だが、今のわれらには使命があるのだ。地下鉄道を使わせてはもらえまいか?」
一樹「その面子で行う『使命』であれば想像は容易だな。秩序を乱すと分かっている者を通すわけにはいかん」
若い騎士「魔族風情が秩序を語るか!」
トールヴート「止めよと言っている!」
トールヴートの鉄拳が若い騎士の顔面を捉えた。
僅かだが唇に血が付いてるな。
まあ、『聖者』候補の優秀な治癒術師がいるみたいだから問題ないか。
トールヴート「部下が大変失礼を致した。貴殿が鬼族を住まわせているというダンジョンには決して手は出さんと約束しよう。もちろん、鬼族にもその家屋や田畑にも害は加えない。我々の目的地は境界だという小川より東側だ」
小川の東側には俺の最初のダンジョンがある。
ただ、俺ではなく『プライベート・ブラック』のダンジョンという事にしている。
その為、冒険者ギルドには小川がお隣さんの領地との境界線と説明しているのだ。
さて、こいつらの狙いは俺のダンジョンか?それともルシファーのダンジョン?
それともこの半島で最強の『魔族』だというノワールさんだろうか?
一樹「『魔族』は横の繋がりが薄いとはいえ、同族を売るほど険悪でも卑劣でもないぞ」
トールヴート「なるほど。なればこそご理解頂きたい。あるダンジョンで人間族やエルフ族、鬼族などの娘の誘拐が継続的に行われている疑惑があるのだ。今回の使命はその真偽を確認し、事実であればそのダンジョンを破壊することにある。同族の娘たちを守りたいという気持ち、どうかご理解頂きたい」
確か南部貴族が『えろえろダンジョン』にそんな難癖をつけているんだったか。
狙いはやはり、こいつらが『ゴブリンダンジョン』と呼ぶ俺のダンジョンか?
一樹「なるほど。事実であれば我等『魔族』としても看過できぬ事態だな。だが、飽くまで事実であればという話だ。確証のない状況での強引な調査や破壊活動を認めるわけにはいかない」
トールヴート「承知した。それについては十分に留意すると約束しよう」
こうなると、気は進まないがこいつらの要望を受けざるを得ないか?
突っぱねたい所だがこれ以上は断る理由が見つからない。
乗車賃は一人銀貨2~3枚の予定だが、金貨1枚くらい吹っ掛けてやるか?
トールヴート「料金は4人で金貨50枚では如何だろうか?」
一樹「50枚?」
トールヴート「いや、失礼。地下鉄道の貸切、しかもイレギュラーでの運行依頼としては安すぎるかな。金貨100枚で如何だろうか?」
そういえば王都の地下鉄は乗車料が高騰していると言う話だったか。
粘ればもっと引き出せそうだが、金で動くと思われるの癪だな。
一樹「金額はまあいいだろう。ただ、西側の生き物は小さな虫はおろか、胞子や花粉すら極力向こうには持ち込みたくないのだ。手荷物検査と全身の徹底消毒など、こちらの指示にはしっかりと従っていただく。それも条件として加えさせていただこう」
トールヴート「承知した。それについては街の入り口で既に誓約済みだ」
一樹「それと、往路を急ぐ理由は理解したが、復路に地下鉄道は不要と言うことでよろしいな?貴殿のいうような悪事が発覚したなら、場所によっては俺の方からも手勢を出そう」
トールヴート「それは心強い。受け容れていただいたこと、感謝する」
そういって『聖騎士』は右手を差し出す。
『魔族』殺しの急先鋒のはずの『聖騎士』と握手とはね。
不思議な気持ちを覚えつつも、俺はその手を握り返した。
トールヴート「申し訳ないが、事情が事情だけに出来るだけ早く出発したい。いつなら大丈夫だろうか?」
一樹「なんとか調整してみよう。では、3日後に来ていただこうか」
後ろの3人が露骨に不満そうな顔をする。
ほんとはすぐにでも出せるんだけど対応を考える時間が欲しい。
それに、彼らが言うような誘拐事件は実際には起こってないしね。
トールヴート「3日・・・承知した。それでも山を徒歩で越えるよりは早そうだ。では、その間に復路の為に食料などの買出しを済ますと致そう」
一樹「では準備が出来次第、追って連絡しよう」
4人が退出してからモニターで観察してみる。
入り口で預けた武器の類を受け取っているようだ。
若い男は剣、女2人は杖をそれぞれ使うのか。
『聖騎士』はといえば、槌と・・・なんだあれは?
縦幅1.5メートルはありそうな金属製の巨大なタワーシールド。
特筆すべきはその厚さ!50mm?いや、60mmくらいか?
あんなものを持って戦えるのか?
壁役の防御特化型の『聖騎士』もいるということだろうか?
そういえばクヌギさんと戦った『聖騎士』は確か剣を使ってたんだよな?
俺が戦ったトネールとかいう奴も両刃の剣を使っていた。
しかし、『聖騎士』の武器が必ずしも剣とは限らないようだ。
それはともかくとして、誘拐疑惑をどうするか?
『えろえろダンジョン』ではルールに従っている限りは攻撃は受けない。
冒険者ギルドでは俺のダンジョンからの未帰還者の記録は無いといっていた。
ルールを守った上で攻撃を受けたと言う報告も上がっていないと言っていた。
それでもなお、リーリエシュタッヘル公爵は誘拐疑惑を主張している。
証拠も無しに決め付けてかかる奴とは議論のしようがない。
阿呆としか思えないが、実際に絡まれると厄介な相手だ。
思い込みが激しいだけの阿呆なのか、それともそういう戦略なのか?
戦略として有効だとしても、俺なら選択したくはないけどね。
『魔界』の産物が王国北部経由で流通するから北部貴族の懐が潤っている。
『アーバンコア』の出力低下で魔石の価格が高騰し、それに拍車をかけている。
更に安全に魔石やマリョクタケが入手できるダンジョンの登場で流入が増えた。
南部貴族のリーリエシュタッヘル公爵たちはそれが面白くないんだろう。
それゆえに難癖をつけておいしいダンジョンを潰そうと言う事なのか?
その動きに対応するためには誘拐の事実が無いことを示さなければならない。
でも、無いことを証明するって、所謂『悪魔の証明』だよな。
対応を考える時間として3日と言ってはみたけど、どうしようもないか?
彼らも調査するって何をどうするつもりなんだろう?
どこまで潜ったってあそこには囚われの女の子なんて居やしないのに・・・。
エイミー’「一樹様、『白百合』一行が来ております」
一樹「わかった。通してくれ」
エイミー’「はっ!」
アーニャを先頭に3人が入ってくる。
マリーはややばつが悪そうにリリーの後ろに縮こまっている。
アーニャ「失礼します。領主様、昨今は格別のお引き立てとご配慮を賜り、感謝申し上げます」
一樹「よしてくれ。場所にもよるが、今更そんな畏まる仲でも無いだろう?」
アーニャ「そう?よかった」
一樹「この間はマリーを危ない目に遭わせてしまってしまってすまなかった。今後は気をつけるよ」
アーニャ「前にも言ったけど、そこはあたしの判断ミスでもあるわ。続きは後で本人と話して頂戴」
一樹「わかった。そうしよう」
アーニャ「一樹、手を出して」
アーニャが俺の手を包むようになにか柔らかい布を渡す。
確認しようとすると両手で俺の手を抑えこむ。
アーニャ「ちょっと!こんなところで広げないで!今回は王都に戻るだけだけど、念のためよ。一応約束もした事だしね」
布はまだ微かに温かい。
一樹「わかった。何も無いとは思うが、一応気をつけておく」
アーニャ「ありがとう。預けるとは言ったけど、用が済んだらあとは好きにしていいわ。もう代わりも買っちゃったから」
一樹「そうか」
いや、どうしろというんだ?
アーニャ「パンツくらいどうという事もないわ」
一樹「ん?」
アーニャ「気にしないで、こっちの話よ。マリーとリリーはやっぱり抵抗があるみたい。できるだけ離れないようにするから、何かあったらあたしの臭いを追って頂戴」
一樹「ああ、わかった」
リリー「悪いな。俺のパンツなんかもらっても旦那も困るだろ」
一樹「いや、それは・・・」
リリー「自分の身は自分で守るさ。マリーのことはありがとな」
一樹「気にするな」
アーニャとリリーが退室する。
二人の後ろに居たマリーが、気まずそうな顔で残された。
マリー「一樹さん!助けてくれてありがとうございます。それと、ほっぺた、すみませんでした!」
マリーが深々と頭を下げた。
一樹「いや、俺のほうこそ配慮に欠けていたようだ。申し訳ない」
マリー「いえ、状況が状況でしたから・・・。何より私のためにがんばってくれたのに、私ったら動転してしまって、本当にすみません」
一樹「いや、仕方ないよ。気持ちは分かるから・・・たぶん、なんとなく」
マリー「そ、そうですか」
一樹「そうだ、あれ返さないとね。探してくるよ」
マリー「いえ!だいじょうぶです!あのパンツは差し上げます!」
一樹「・・・俺に?」
マリー「あ・・・すみません!一樹さんが持ってても仕方ないですよね」
一樹「そ、そうだね。取ってくるよ」
マリー「いえ、けっこうです!私、もう行かないと!その、あれは捨てといてください!ありがとうございました!」
マリーは勢いよく頭を下げると、そのまま逃げるようにドアを開ける。
振り返るマリーに俺が手を振ると、マリーもこちらに手を振り返す。
仲直りできた、って考えていいのかな?
なるみ「かくしてかずきおにぃちゃんのぱんつコレクションに新たな1枚が加わるのであった」
一樹「きいてたろ?捨てといてくれ」
なるみ「ほんとにいいの?」
一樹「ああ」
なるみ「ふーん。じゃあ、はい」
なるみが俺の手に見覚えのあるパンツを握らせる。
自分の手で捨てろということか?
なんでわざわざそんなことを・・・・。
なるみ「どうしたの?ゴミ箱はそこだよ」
なんでだろう?俺の腕がゴミ箱のほうへ伸びるのを拒んでいる。
一樹「考えてみれば最後の『捨てといて』は時間がなかったからだよな。倉庫に余裕が無いわけじゃないし、次に会う時まで預かっておくか」
なるみ「ん、そうだね。そうしよっか」
一樹「じゃあ、しまっておいてくれるか?」
なるみ「おっけー。じゃあ、次はすぐに渡せるように、すぐに手の届くところに置いておくね」
一樹「そうだな。頼んだ」
なるみ「はーい」
この分だと、俺の寝室に新たな『おしりぐるみ』が2つも加わりそうだな。
だが、それだとアーニャの分はすぐに匂いが消えてしまうんじゃないのか?
いや、握りこまされたせいで既に俺の臭いが移って分からなくなってるか?
すぐにジュリエッタを呼んで、少しでもアーニャの匂いを覚えさせるかな。
ふいに、耳鳴りのような感覚に襲われる。
なんだ?この感じ?
なるみ「誰かが『領域』をぶつけてきたみたい。急いで確認して」
俺が操作するより早く、画面は『領域』管理アプリに切り替わる。
『領域』をぶつけられたのは山脈南西部、最後に拡張した辺りか。
ぶつかっている部分の魔力はこちらが1万、相手は30万か。
すぐに100万ポイントほど投入して防御を固めるべきか?
一樹「なるみ、この感覚ってずっと続くのか?」
なるみ「いや、警報だよ。確認したからきっとくね」
耳鳴りのような不快感が消えたが、なんとなく嫌な余韻が残っている。
『領域』をぶつけられると言うのはこんな感じなのか。
なるみ「どうする?こっちも30万くらい魔力を注入しとく?」
一樹「いや、しばらく様子を見てみよう。念のためすぐ後ろのヘクスに100万ポイントずつ注入だ」
なるみ「あいあいさー」
『領域』をぶつけるのは宣戦布告に等しい行為らしい。
しかし、かつての俺のようにそれを知らずにぶつけてきた可能性もある。
だが、一気に侵食されないように一応の備えはしておこう。
一樹「もしも相手がこちらの『領域』を侵食してくるようなら、1億ポイントを投入して一気に相手のコア付近まで反攻しよう」
なるみ「おおー過激だ」
『領域』がぶつかっているのに『根』の魔力を増やさなければどう見える?
魔力に余裕がないか、或いは『根』による侵食のルールを知らないかだ。
いずれにせよ、弱いダンジョンマスターという事になるだろう。
「弱い相手なら暴力で潰す」、そんな相手ならこちらも遠慮は要らない。
一樹「もし、こいつの『領域』が俺以外のダンジョンの『領域』とも隣接していた場合、その境界は分かるのか?」
なるみ「それは大丈夫。アプリ上で黄色い太線で表示されるよ」
相手が攻撃的な奴なら、俺以外の『領域』とも接している可能性がある。
うっかりそっちにまで誤爆してしまう心配はなさそうだな。
まずはしばらく様子見をしてみよう。
侵食してくるようならこっちから侵食し返す。
俺は比較的好条件で『領域』拡張できた筈だから、レベルは他より高い筈だ。
『根』のぶつかり合いに関してはある程度強気でいっても大丈夫だろう。
動きが無いようならこちらから同盟か相互不可侵条約を提案しよう。
協力関係の築けるお隣さんが増えるなら心強い。
日本人かな?せめて地球人であって欲しいけど。
なんにしても、友好的な関係が築けるように頑張ってみるとしよう。




