第87話 茶会
踊り子達の写真の売れ行きは上々のようだ。
やはりというか必然と言うか、露出度高めのエロい写真の人気が高い。
王国では写真は王家しか使えないらしいから、そういうのは無いのだろう。
俺の領が写真を提供できる背景には、アルケミスト達の尽力がある。
精細な写真を実現するための高純度で粒子の細かいインクを造ってくれている。
そうは言っても鮮やかな色の石を探すところから始めるのはさすがに手間だ。
うちでは王国から安いインクを取り寄せ、写真用のインクを精製している。
それでも元が既にインクだから、残留物もそこそこ鮮やかな色になっている。
それらは絵の具やクレヨンに加工し、学校での美術教育に利用することにした。
一言に美術・芸術と言っても様々な分野や手法がある。
どれが向いているかはやってみないと分からないという部分もあるだろう。
仮に向いて居なくても、基礎知識があればどこかで役に立つかもしれない。
だから、領内の子供達にはある程度網羅的に美術・芸術を学んでもらう。
まず、幼児教育では積み木遊びやお絵かき、粘土遊びの時間を設ける。
5歳から10歳までは定期的に作品を提出させ、美術館の1室に飾る。
絵画は2ヶ月に1度、木工細工か彫刻は半年に1度、陶芸は1年に1度だ。
また、絵本や小説と言った物語も1年に1本以上提出してもらう。
11歳から15歳はどれか1つを選択して1年に1度以上提出する。
また、希望する者は金属加工も体験できるようにしておこう。
どれも下限であって上限はなく、好きな物は好きなだけ作って良い。
未成年の製作については、材料や画材等は基本的に領で負担する。
人それぞれ得手不得手も好き嫌いもあるだろうから質は問わない。
とにかく、子供のうちに体験してもらう事を大切にする。
ビデオ教材の視聴や指導員のいる実技工作室は無制限で利用できる。
少し身体表現寄りになるが、演劇や読み聞かせ的な事もしてもらおう。
まず、基礎教育の一部として未成年には週に1度以上音読クラスがある。
それに加えて、月に1度以上、演劇や読み聞かせも練習してもらうのだ。
また、音楽も座学と実技をそれぞれ週1回以上受講してもらう。
年に一度文化祭みたいなお祭りも開こう。
そこで15歳以下は作品展示か演劇、音楽のいずれかで参加してもらう。
15歳以上については参加は自由としておく。
これで高名な芸術家が輩出できるかは正直分からない。
ただ、家具を作るにしても服を作るにしても、美術的センスはある程度必要だ。
家の造り方や、煉瓦の並べ方、植木や花の植え方にしたってそうだ。
物造りに関わる仕事をするのなら、この体験は何かしら役に立つだろう。
マーガレット’「失礼します。お茶の用意ができました」
一樹「ああ、ありがとう」
マーガレットが大きなワゴンを押して入ってきた。
十数種類の茶葉、5つのティーポット、大きな水差し、湯沸し用の魔道具。
当然だが、俺一人用というわけではなく、これから来客の予定があるのだ。
一樹「今日はこの服で頼む」
マーガレット’「分かりました」
俺は落ち着いたデザインのフレンチメイド服を差し出す。
マーガレットの服はオシャレ系の園芸用作業着だ。
そのまま街に出ても不自然は無いが、お茶会には似合わない。
マーガレットが俺の目の前で服を脱ぎ始める。
見たいような目を逸らしたいような軽い葛藤。
まあ、今更だししっかり見せてもらうとしよう。
マーガレットが下着姿になって脱いだ服を畳んでいく。
褐色の細い肢体、程よくしまった小さめのお尻がかわいい。
改めて俺に向き直ってブラを外すと、形のいいおっぱいが現れた。
美術教育と言えば、裸婦デッサンをどうするかな?
人物を描くというのであればヌードデッサンは基本だと聞く。
だが、ヌードデッサンとヌードショーをどう区別するのか?
参加者がスケッチブックを持ち込めばデッサン会と言い張れてしまうか?
マーガレットが今度はお尻を向けてパンツを下ろす。
現れたかわいいお尻は脚よりちょっとだけ白い。
領民の受講料は原則無料にするつもりではいる。
だが、それでは女の裸を見たいだけの男子生徒が殺到しそうだ。
本当に絵を描きたい生徒でも、裸の女を前にすれば多少はエロい気持ちも沸く。
両者を客観的に見分ける方法はないし、そもそも明確な境界などないのだろう。
マーガレット’「あら?下着はついてないのですね。直接きればいいですか?」
一樹「あ、すまん。下着はそのままで、着替えるのは上だけで大丈夫だ」
マーガレット’「そうでしたか。失礼しました」
マーガレットがお尻を見せ付けるようにパンツを履き直す。
今度は俺に向き直って上体を傾け、おっぱいをブラジャーに収めていく。
デッサン会と称して色街の外でヌードショーとかされても面倒だな。
ヌードデッサンは色街の一角で行うことにしよう。
参加者は成人のみで、領民も有料とする。
モデルさんへのギャラも必要になるだろうしね。
マーガレット’「着替え終わりました。似合いますか?」
一樹「ああ、とてもかわいいよ」
マーガレット’「ありがとうございます」
ジェシカ’「失礼します。『白百合』の3名がお見えです」
一樹「分かった。通してくれ」
俺は急いで畳まれたマーガレットの作業着を机の裏に隠した。
アーニャ「アーニャ以下3名参上しました。本日は指名依頼をありがとうございます」
一樹「よく来てくれた。入ってくれ」
アーニャ「はい」
アーニャに続いてマリーとリリーも入室する。
一樹「かけてくれ」
アーニャ「いえ、このままでけっこうです。簡単な仕事と伺っていますので、さっそく内容を伺えますでしょうか?」
一樹「実は意見を聞きたくてね。忌憚のない意見を聞きたいからあまり畏まられても困るんだ。楽なしゃべり方でいい。俺の事も一樹と呼び捨てで構わない」
アーニャ「分かりました」
リリー「そりゃ、助かる。堅苦しいのは苦手でね」
一樹「話が速くていいね。寛いで欲しいからかけてくれないか?」
アーニャ「わかったわ。・・・一樹」
マリー「失礼します。えーと、一樹・・・さん」
一樹「よろしく頼む」
アーニャ「それで、何の意見が聞きたいのかしら?」
一樹「実は知り合いがお菓子作りに凝っていてね。俺だけじゃなくて女の子の意見も聞きたいというんだよ」
アーニャ「お菓子?」
一樹「今回はクッキーだな。それに俺の領で作ってるハーブティーについても意見が聞きたい。美味い不味いはもちろんだが、クッキーとの組み合わせについてもね」
アーニャ「生憎とあたしは料理家でも料理評論家でもないわよ?」
リリー「俺も味に拘る趣味は無いね。食えるもんなら何でも食わなきゃ冒険者なんて勤まらないからな」
一樹「問題ない。普通の女の子の意見が欲しいんだよ。単純にこれが好き、とか、これとこれの組み合わせが好き、ってくらいで構わない」
アーニャ「女の子なら領内にいくらでも居るじゃない?すぐ終わる簡単な仕事とは聞いたけど、これって冒険者の仕事かしら?」
作った者、出す者が普通の人間ならそれでもいいんだろうけどな。
一樹「『魔族』の作ったものと知れば口にするのを躊躇う者も多いだろう。それに、領主に出された食べ物を不味いとは言い難い。その点、アーニャ達なら遠慮なく意見を言ってくれるんじゃないかと思ってね」
アーニャ「それはそうだけど・・・むしろあたしはついでなんじゃないのかしら?」
一樹「何のことだ?」
アーニャ「いいわ。付き合ったげる」
一樹「ありがとう」
リリー「そういう事なら頂こうかね。肉がないのは残念だが、金貰って物が食えるなら万々歳だ」
アーニャ「リリー!」
マリー「ご馳走になります」
摂取エネルギーのうち、糖質のベストバランスは50~55%だったか?
小麦と砂糖を大量に食べてもらうことになるから、普通の夕食ではまずいか。
一樹「確かにクッキーばかりではバランスが悪いな。あとで肉と野菜中心の夕食も用意しよう」
アーニャ「けっこうよ。こんな依頼であの額なら、報酬は夕食費を抜いてもおつりが出るわ」
一樹「遠慮は要らんぞ?」
アーニャ「ご心配なく。始めましょ」
一樹「そうか?では、まずはハーブティーからご賞味いただこう」
メイド服姿のマーガレットが淹れるハーブティーが心地よい香りを立てる。
お茶会は和やかな雰囲気の中で進んでいった。
シュバルツの作るクッキーはどれも好評のようだ。
リリーは味より歯応え重視でナッツ入りがお気に入りらしい。
アーニャはジャム系、マリーはバター系が好みのようだな。
あとはハーブティーとの組み合わせを検討していく。
一樹「いろいろな意見をありがとう。参考にさせてもらうよ」
アーニャ「あたしも楽しかったわ。これでお金をもらうなんてなんか悪いわね」
一樹「そういう契約だからな、気にせず受け取ってくれ」
リリー「ご馳走さん。だが当面は甘い物はもういいかな。肉料理の試食会なら歓迎するぜ」
一樹「分かった。その時はまた呼ばせてもらおう」
マリー「ご馳走様でした。とってもおいしかったです」
一樹「どういたしまして。ところで、これとは別にもう1つ『白百合』に依頼したい仕事があるんだがいいかな?」
アーニャ「内容次第ね。おいしい仕事は基本的には大歓迎だけど、これでも冒険者なの。あまりうちのメンバーを甘やかさないでもらえるかしら?」
一樹「そう言われると言い難いな」
アーニャ「一応聞いとくわ。どんな依頼なの?」
一樹「温泉旅行に行って欲しい」
マリー「温泉ですか」
リリー「くははっ、お茶会の次は温泉旅行かよ。俺らの職業ってなんだったっけ?」
アーニャ「どういうことかしら?」
一樹「実は俺の領内で温泉が出てな。今温泉旅館を準備中なんだよ。まだ仮設の状態ではあるんだが、女性目線での意見を聞かせて欲しい」
マリー「この辺りで温泉って出るんですか?」
一樹「いや、山脈の東側になる。『魔界』側だな」
リリー「そりゃまた随分とでかい領地だな」
一樹「そうかな?生憎と王国の事情には疎いもんでね、比べようがない」
山脈を跨いでいるといってもL字型に細長い『領域』だけどね。
そこまで詳しく教える必要もないだろう。
アーニャ「なるほど、それなりに危険な仕事ってわけね」
一樹「いや、一応の安全は確保しているつもりだ。平坦な道と乗り物も用意してある」
リリー「そりゃーすごい」
アーニャ「それなら誰でもいいんじゃないの?街の娘から適当に募集すればいくらでも集まるわ」
一樹「いや、未だ仮設の状態なんだ。一応の安全は確保したつもりだが万全とは言えないし、そこへ通じる一般向けの通路も未完成だ。今回は秘密の通路を使うことになるから、誰でもと言うわけにはいかない」
アーニャはしばし思案を巡らしている様子を見せる。
アーニャ「マリー、この仕事お願いしていいかしら?」
マリー「え?私ですか?」
アーニャ「この後警備の仕事が入ってるのよ。悪いけど街中での仕事だから魔法使いの出番は少ないわ」
マリー「そうなんですか?」
リリー「聞いてないぜ?」
ガシッとテーブル下でなにやら音がする。
アーニャ「それに、秘密の通路なら知る者は少ないほうがいいでしょう?」
一樹「確かにそうだな。だが、お前達3人なら信用できると思っている」
リリー「んー、俺は口は堅いつもりなんだがどうも隠し事は苦手でね。うっかり口を滑らしちまうかもしれないな」
アーニャ「あたしも同感ね。こういうのは頭脳派のマリーが適任だわ」
マリー「そうでしょうか?」
アーニャ「そういうわけでマリーだけでもいいかしら?あたしは生憎とそういう娯楽施設には疎いのよね」
一樹「わかった。たくさんの意見が欲しいところだが、そういう事情なら仕方が無いな」
アーニャ「たくさんの意見と言っても、同じグループじゃどうせ似たような意見にまとまるからあまり意味はないわ」
一樹「そういうものか?」
アーニャ「ええ。じゃあマリー、頼んだわよ?」
マリー「分かりました」
アーニャ「じゃあ、細かい内容は二人で詰めて頂戴。一樹、夕食は要らないと言ったけど、やっぱりマリーの分だけお願いしていいかしら?」
一樹「ああ、もちろんだ。問題ない」
マリー「え?あの、私が交渉するんですか?」
アーニャ「マリーもそろそろそういう練習もしたほうがいいわ。それに、一樹が相手ならひどい内容にはならないわよ。ねえ?」
そう言ってアーニャは俺に意味ありげな目配せをする。
一樹「もちろんそのつもりだが、相場はよく分からなくてな。そちらからも適正な条件を提示してもらえたほうがありがたい」
アーニャ「なら一樹も練習ね。とりあえず仮契約ってことにして、あたしが後でチェックする。それでいいかしら?」
一樹「わかった」
マリー「わかりました」
アーニャ「じゃあ、二人ともごゆっくりー」
リリー「がんばんなよ」
意味ありげな笑みを残して二人はそそくさと退散する。
なんなんだ、いったい?
マリー「えっと、では温泉旅行の件ですね。具体的な内容を伺えますか?」
一樹「そうだったな。えーと・・・」
マーガレット’「どうぞ。お二人ともちょっと緊張してらっしゃるようですので、リラックス系のハーブを淹れて見ました」
一樹「そうか。ありがとう、助かる」
マリー「ありがとうございます」
沈黙の中、二人してハーブティーを口に運ぶ。
カップとソーサーの当たる音がやけに大きく聞こえる。
一樹「えーと、仕事の内容は温泉旅館の体験リポートだ。不便な点の指摘はもちろん、改善提案もあればぜひお願いしたい」
マリー「はい」
一樹「あと、周囲を見て回って危険な虫や植物があるようなら教えてくれ」
マリー「分かりました」
一樹「食事と寝床はこちらで用意する。日当は銀貨2枚・・・いや危険手当込みで3枚か」
マリー「は、はい」
一樹「『魔界』の毒草や毒虫には詳しいのか?」
マリー「専門ではありませんが、勉強はしています」
一樹「では技術料込みで4枚かな」
マリー「い、いえ!そんなにもらえません!」
一樹「そうか?いや、あまり自分を安売りしない方がいいぞ?」
マリー「いえ、毒虫については専門ではないので技術料はいただけません」
一樹「そうか。では、日当は銀貨3枚でいいのか?」
マリー「はい、大丈夫です。いえ、むしろ多すぎるくらいです」
一樹「それならいい。では、次に日程だが・・・」
後の事はなぜかよく覚えていない。
夕食を摂り、暗くなる前にアーニャたちの宿に送って行った。
出迎えたアーニャは妙な顔で俺を見ていたか。
夕食に何を食べ、何を話したのか思い出せない。
契約書は残っているから夢ではなかったはずだが・・・。
それにしても随分と遅くなってしまったな。
これではカシたちとの試合稽古に間に合わないか。
アウラエル「随分とお早いお帰りですね」
一樹「ああ、宿まで送ってきただけだからな」
アウラエル「マリーさんはてっきり泊まっていくものかと思っていましたよ」
一樹「いや、すでに宿を取っているようだし、仲間と一緒のほうが気安いだろう」
アウラエル「そうですか。まあ、この建物は女を連れ込むには不便ではありますね」
一樹「いや、だからマリーはそういうのじゃないから」
アウラエル「いずれにしろ客間は必要なのではありませんか?カトリーヌさんの時のこともありましたし」
一樹「それはそうかもしれないな」
開拓村の拠点には地下の俺の寝室を除けば使用人部屋しかない。
キャシーが来た時も個室とはいえ使用人部屋に泊まってもらった。
アウラエル「ミカエルとガブリエルには集合住宅に部屋を与えて、男性用の大部屋を客室に改装してはどうでしょう?あの二人の仕事は家の外の事ですし、屋敷内に部屋を与える必要はありません」
一樹「あの2人はいいかもしれないが、それでは男の使用人を雇えなくなるだろう?」
アウラエル「この距離なら集合住宅からの通いでも問題ありません。それに、どの道浴室は1つしかありませんよ」
脱衣所と浴室を合わせれば200平方メートルと、広さだけはあるけどね。
アウラエル「主様と私どもが入っているときに他の男を入れるわけには参りませんし、それ以外の使用人や配下の兵は全員が女です。男の使用人をここに住まわせても、風呂に入る時機に困ってしまうでしょう」
一樹「なるほど」
アウラエル「それに、お風呂でするのもよいのですが、たまには私もベッドでかわいがって頂きたいですわ」
一樹「そ、そうか」
アウラエル「はい。マリーさんはどちらがお好きでしょうね」
一樹「いや、だから・・・」
アウラエル「冗談ですよ。マリーさんは別としても、今後そういう機会もあるでしょう。それでなくとも使用人以外の誰かを泊める機会もあるかもしれません。備えがあるに越したことは有りませんよ」
一樹「そうだな。わかった。男用の大部屋は客室に改装することにしよう」
アウラエル「はい。楽しみにしてますね」
毎度毎度いいようにアウラエルに遊ばれてるような気がする。
だが、客室があったほうがいいのは確かではあるな。
客が男だったときの為に独立した風呂もつけておくか。
大部屋は80平方メートルほどもあるし、専用のトイレもつけるか。
それでも2~3部屋は作れるかな?
備えがあるに超した事はない、か。
事前に客室があったなら、マリーを泊めると言う選択肢もあったのか?
いや、マリーはかわいいけど、まだそういう関係って訳じゃないしな。
まだ?・・・そもそもそういう関係になることは有り得るのか?
俺はこの世界では『魔族』で人類の敵らしい。
仕事の関係であればこそにこやかに応じてくれているが、それ以上はどうなる?
友人くらいならなってくれるかもしれないが、それ以上はどうだ?
仮に彼女が応じてくれたとしても、俺はこの世界では子供を残せない。
生まれてくるのは彼女のクローンであって俺の子供ではない。
いったい誰がどんな理由でこんなシステムを作ったのか。
仮に彼女が応じてくれたとしても、それは彼女を悩ませる事になるだろう。
生まれていたはずの彼女の子供たちも、その機会を失うことになる。
彼女はこの世界の男と普通に結ばれたほうが、きっと幸せなのだろう。
マリーが俺と結ばれる事を望んでくれるのなら喜んで受け入れよう。
しかし、俺の方からアプローチすれば彼女を苦しめる事になる。
俺は飽くまで領主として、また友人としての態度を貫く。
それが、おそらくは最良の選択のはずだ。




