第80話 カボチャ
兎人族というのはなかなかフットワークの軽い種族らしい。
キャロットたちに受け入れの約束をして以来、続々と入ってきた。
農業が得意らしいので、農園側の集合住宅に案内する。
約束していた兎人族専用の養育施設もその隣に作った。
託児所は基本無料にしているが、ここはそういうわけにもいかない。
妊婦や乳幼児とその母親などの住居も兼ねている。
また、兎人族専用の設備を無料にしては他の種族との公平性に欠ける。
金額については保留とし、当面は労役で払ってもらおう。
大農園予定地の開墾作業をお願いすることにした。
女系制社会らしいので、ひとまずジンジャーを代表者に指名する。
兎人族協会を組織し、将来的には金銭か農作物を家賃として払ってもらおう。
兎人族専用の養育施設の隣には、農園用の大型倉庫も用意した。
開墾が終われば農作物の倉庫になるだろうが、当面は材木置き場だ。
『経済特区』と同様に人間用と貨物用のエレベーターを付ける。
キャロット達に約束した護衛を兼ねて、忍者を603人召喚する。
雪風、ジュリエッタ、シャルロットのコピーを各201体だ。
各100人を養育施設を含む農園周辺の警備に当てた。
残り各101人はメインダンジョン周辺の警備だ。
それぞれは1体は雪風’のようにして代表者を勤めてもらう。
開拓村側の『本体』と同期して、俺との連絡役を担う。
さらに、剣士を200人召喚し、養育施設の地下に待機させる。
これは農園側でモンスターの襲撃などがあったときの備えも兼ねる。
同様にアーチャーも200人召喚し、普段は地下に待機させる。
養育施設に襲撃があったときは、施設周囲に設置された矢狭間を使う。
山脈南西部に『根』を伸ばしまくり、俺のレベルは60まで上がった。
この状態では剣士やアーチャー数百人の召喚はそう苦ではない。
『魔王』はレベル1000と言うから、万単位で呼べるのだろう。
ただ、剣士2人でオカシラを抑えるのがやっとだった。
身体能力はおそらく普通の人間の戦士より少し上程度か?
鍛え上げた騎士の戦闘能力には及ばないようだ。
単純な召喚だけではなく、そろそろ素材収集に力を入れるべきか。
それとも天使など上位のガーディアンの割合を増やせばいいのか?
いや、それだって素材で強化する余地は有ると言う話だったな。
ミスリルなどの希少金属やルビーなどの宝石類。
それに魔物の腱や皮などか・・・魔物を狩りつつ金を溜めないとな。
開拓村の人間族に兎人族の男達が加わり、農園予定地の開墾は加速した。
俺は農業の事は詳しくないが、ダンジョンのおかげで力だけはある。
細かいことは彼らに任せ、俺はひたすら抜根作業を繰り返した。
魔力による筋力強化は『魔力パス』の強化訓練にもなるし丁度いい。
日が傾いてきた頃に解散してそれぞれ夕食や風呂に向かう。
俺も泥と汗を流すべく開拓村の拠点の浴室に向かった。
いつも女性型ガーディアンが洗いに来てくれるが、今日は誰かな?
一樹「え?キャロット?」
キャロット「やっほー!赤ちゃん作りに来たよー!」
浴室の扉を開けて現れたのは、見覚えのある小さな兎人族の少女。
山賊退治で討ち漏らした2匹の襲撃を受けた一座の一人だ。
俺の不手際でもあるのだが、一応助けた相手でもある。
その際、なりゆきで子供を作る約束をしてしまったのだ。
しかし、本当に来るとは思わなかった。
兎人族の女は強い男の精を欲しがると言う話も確かに聞きはした。
俺は遺伝的素質はともかく、ダンジョンの魔力込みならそこそこ強い筈。
だから大人2人の方は、いくらか本気も含まれていたのかも知れない。
だが、キャロットはその2人の真似をしていただけではないのか?
一樹「待て、君はまだ子供だろう?」
キャロット「ぶー!キャロットはもう大人です。同い年の女の子たちだってもう子供作ってるんだから」
一樹「そうなの?」
キャロット「うん!成人したてのぴっちぴちだよー」
これで成人・・・ほんとか?
アウラエルが兎人族は成人でも幼く見える者も多いと言っていたな。
浴室にガーディアン以外の女が入るときはアウラエルのチェックが入る。
彼女は俺の第一夫人ということになっているし、俺はここの常識に疎い。
だから俺が関係を持っていい相手かどうかの裁量権を預けている。
キャロットがここに来たと言う事は、アウラエルが認めた相手と言う事。
そして、兎人族の仲間たちも俺の所に行くと知って見送ったのだろう。
ならばこの世界においては大丈夫な相手と言う事か?
幼く見えるが、兎人族としてはもう大人?
キャロット「約束したよねー?」
一樹「そう、だったな」
キャロット「魔族の人ってお風呂でするんだね。知らなかった」
一樹「いや、それは成り行きと言うか俺の趣味と言うか」
キャロット「ふーん。けど、ちょうどいいね。避妊ジェルは使わないから、きれいきれいしなきゃだもんねー」
一樹「そう、だな」
避妊ジェルは精子だけでなく雑菌やウイルスも殺してくれるらしい。
ハーブから作られる避妊と性病予防を兼ねた優れものだ。
その辺の知識はしっかりあるということか。
そういえば、成人と主張する割に言葉遣いは見た目以上に妙に幼い。
幼げな見た目を利用してそういうキャラを演じていると言うことか。
そういうことなら遠慮は無用か。
キャロット「座って!きれいにしてあげるから」
一樹「なら、お願いしようかな」
キャロット「うん、あとで交代だよ?」
一樹「ああ、わかった」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
キャロットはしっかり大人でした。
踊り子なだけあって自分の見せ方を心得ている感じもいい。
柔らかい身体を使ってのY字バランスなども魅せてくれた。
兎人族の女ってみんなこんな感じなのかな?
ジンジャーとラディッシュに相手してもらうのも楽しみだ。
さて、余韻に浸っていたいがまだ武術訓練も残っている。
まだ鬼族たちの試合形式の訓練には間に合う時間のはずだ。
だが、向こうへは瞬間移動できるがこっちへは走らないといけない。
移動する前に街を一通り見回っておくか。
男「失礼ですが、領主様とお見受けします」
見ると、ピンクの髪の大男が立っていた。
頭にはウサ耳、兎人族の男か?
一樹「確かに、俺が領主の一樹ですが?」
男「俺の名はカボチャといいます。お手合わせ願えませんでしょうか?」
よく見ると道着風の服装、武道家か?
それにしてもカボチャって・・・。
一樹「生憎と徒手の武術は心得ていない」
カボチャ「そちらは武器ありで構いません。こう見えて密かにブーツと籠手に鉄板が仕込んであります。俺の蹴りは下手な槌より強力ですよ」
胸の前でぶつけた拳はガチンッと硬い音を立てた。
「密かに」って、こんな街中で堂々と言うことだっけ?
アウラエル「控えなさい!主様、このような者の相手をしていては切がありません。参りましょう」
一樹「そうだな。悪いが他を当たってくれ」
カボチャ「お願いします!俺は、俺はジンジャーさんと結ばれたいんです!そのためには一樹さんと戦って強さを示さなければならないんです」
ジンジャーというと、あの巨乳の踊り子か。
そういえば子作りをする約束をしていたんだったな。
アウラエル「名前から察するに兎人族の女ですね。ならば半年も待てば次の子を産めるようになりましょう。それまでお待ちなさい」
カボチャ「仰るとおりです。しかし、残された時間は2年もありません。半年は長いです」
一樹「2年だと?何か病気でも抱えているのか?」
カボチャ「いえ、至って健康であります」
アウラエル「主様、兎人族の寿命は30年ほどです」
30年?
そういえば『魔族』は長命とか言っていたな。
この世界の平均寿命は短いのか。
それに兎人族は成人していても幼く見えるという話だった。
この男も顔つきは中高生くらいに見えるが、身体はかなりがっしりしている。
こう見えて20代終盤という事だろうか?
一樹「カボチャと言ったか。俺はどちらかというと遠距離攻撃のほうが得意でな。戦うとなると開始時の距離で有利不利が大きく変わるし、下手をすると追いかけっこに終始することになるぞ」
カボチャ「では、長距離からの開始で構いません」
一樹「いや、悪いがいい場所がない。こんなことでいちいち地形を変えるわけにもいかんからな」
カボチャ「では・・・・」
一樹「お前が俺の魔道防壁を破れたら勝ち、というのはどうだ?」
カボチャ「そんなことでいいのですか?」
一樹「言うじゃないか。こて調べだ。とりあえずこれを破ってみろ」
カボチャ「ふんっ!」
魔道防壁を破ったカボチャの拳が俺の鼻先で止まる。
一樹「なるほど。ではこれはどうだ?」
カボチャ「ふんっ!・・・では足で失礼。はっ!」
拳では破れなかったが、踵が俺の鼻先で止まる。
距離感すげー正確だな、こいつ。
一樹「では最後だ。これでどうだ?」
カボチャ「はっ!ふんっ!」
一樹「どうした?これを破れんようでは近づいても俺は倒せないな。試合をするまでもないか」
カボチャ「・・・いきます」
カボチャが数歩下がって身構える。
魔力の発動を感じる・・・肉体の強化か。
あれ?この魔力の収斂密度、けっこうやばくないか?
裂帛の気合とともに飛び後ろ回し蹴りが俺を襲う。
全身のバネと魔力、ついでに鉄板で強化された蹴りは俺の防壁を砕いた。
事前に強化しておいたスピードで回避し、交差する瞬間に足首を掴む。
カボチャはべちゃっと地面に叩き付けられた。
一樹「すまんな、そのままだと見物人に当たる危険があった」
カボチャ「大丈夫です。受身は取りました!」
ほんとか?まあ、元気そうではあるな。
一樹「近づきさえすれば俺を倒せることは証明できたな。あとは状況次第、どちらが強いとも言えない」
カボチャ「いえ、これは溜めが必要な技なので、本来はだれかとの連携が前提です。1対1では使えません」
一樹「それは俺も同じことだ。前衛が居るから安心して魔法が撃てる。それに、お前には奇襲と言う選択肢もあるだろう」
カボチャ「いえ、そんなことはできません」
正々堂々がモットーというわけか。
暑苦しいのは苦手だが、こういうのは嫌いじゃないね。
カボチャ「自分は不器用なんで、隠密行動は苦手なんです」
一樹「そ、そうか」
奇襲も戦法としては有りって認識なのか?
まあ、やり方はどうあれ実戦なら死んだら終わりだもんな。
卑怯だの正々堂々だのは、平和な世界でこその概念なのかもしれない。
カボチャ「完敗です。一樹さんの次を待ちます」
一樹「いや、俺からもジンジャーに口添えしよう」
兎人族は強い者の遺伝子を欲しがっているらしい。
共感はできないが、生存戦略という意味では理に適っている。
だが、どういうわけか俺との子供は相手のクローンになるらしい。
それならカボチャと子を作ったほうが強い子が産まれそうだ。
カボチャ「いえ、それでは余計惨めです。半年間は他の女の子にアタックしながら待ちます!」
それ、「待つ」って言うの?
だが、元気な様で何よりだ。
一樹「そうか。なら、よかったらここで働かないか?学校で子供たちに運動を教えて欲しい」
カボチャ「武術を教えればいいんですか?」
一樹「いや、希望する者には教えて欲しいが、基本的には遊びを教えてくれ。遊具は用意するから、参加者全員が楽しみながら体を動かす遊びを考えて指導して欲しい。あと、なんか曲芸的なかっこいい動きとかも教えてもらえると有難い」
カボチャ「分かりました。やってみます」
一樹「生徒が怪我をしないように気をつけてな」
カボチャ「はい」
アウラエル「生徒に手を出すのもいけませんよ?」
カボチャ「え?駄目っすか?」
アウラエル「当然です」
一樹「あー、担当生徒と未成年には手を出すな。あと、当然だが無理やりも駄目だぞ」
カボチャ「分かりました。担当生徒以外の成人を口説けばいいんですね」
一樹「まあ、そうだな」
カボチャ「了解です!よろしくお願いします」
一樹「ああ、よろしく頼む」
あれ?人選間違ったかな?
だが、身体能力は高いし、まっすぐな性格ではありそうだ。
短命なせいか異性に貪欲なのは気になるが、約束は守ってくれるだろう。
それに、万が一学校にモンスターや不審者が現れてた時の備えにもなる。
それにしても、『聖騎士』以外にも俺の魔道防壁を破れる奴はいるのか。
さっきのが全力って訳じゃないが、6~8割くらいは出してたと思う。
さらに多重展開すれば完封することはできるだろう。
だが、裏を返せばあいつに近距離で貼り付かれれば俺は防戦一方になる。
その間に他の敵が俺の背後を付くとか、ガーディアンを殺すとかも可能か。
「強敵に負けない方法は味方にすること」とは何の台詞だったかな?
今後も強い奴を部下にできそうな機会があれば積極的にいくとしよう。




