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第76話 駆除

一樹「残りの盗賊どもの制圧を急げ!」

エイミー’「洞窟内の制圧、完了しております。要救助者を発見したため、現在は牢の鍵を捜索中です」

一樹「そうか、ご苦労。牢はどこだ?」

エイミー’「こちらです」


洞窟の横穴を利用したらしき牢には、頑丈そうな鉄格子が嵌め込まれていた。

これも盗賊のアジトには不釣合いな立派過ぎる設備だ。

中にはエルフ族らしき少女が捕まっている。

エルフ風のガーディアンはいるが、本物を見るのはこれが初めてか。


一樹「助けに来たよ。今から開けるからもう少し待っててくれ」


『人間族語』で話しかけてみたが怯えた様子でこちらを窺っている。

言葉が通じていないのだろうか?

『エルフ族語』の『翻訳の腕輪』も早く作らないとな。


一樹「硬く鋭い金剛石の刃よ、回る円環となって断ち切れ!ダイヤモンドカッター!」


俺の指先に直径2cmほどの円盤が現れて高速回転する。

その円盤を牢の鍵に押し付けると、チーズか何かの様に削れて切れ落ちた。

これは盗賊退治ときいてすぐに練習を始めた魔法だ。

盗賊退治とくれば、囚われの美少女の救出はお約束の展開だしね。


一樹「なるみ、エルフの言葉が分かる者はいるか?」

なるみ「そっちに行っている中だと、ナターシャさんだね」

一樹「ここに呼んでくれ。この子の対応を頼む」

なるみ「らじゃー!」


なるみとの通信を終え、残りの牢も開けていく。

囚われていたのはエルフ族が1人、鬼族が2人、狼人族が3人だ。

全員を洞窟の入り口の方に誘導し、毛布と暖かいスープを与える。


一樹「人攫いか。それにしても見事に若い女ばかりだな」

雪風「その様です。盗品らしき金品は見当たらず、牢ばかりが充実していますね」

一樹「雪風か、さっきはすまなかった」

雪風「いえ、無様を晒した上にご迷惑をおかけしました」

一樹「怪我はないか?」

雪風「大事ありません」

一樹「そうか。要救助者はこれで全部か?」

雪風「生存者は以上になります」

一樹「・・・・死んだのは何人だ?」

雪風「2名が、突入時にはすでに絶命しておりました」

一樹「案内しろ」

雪風「はっ」


このまま何も見ずに帰りたい。

だが、そういうわけにも行かないのだろう。

美少女の救出劇なんて、少しでも浮かれたさっきの自分を殴りたい。


雪風「こちらです」


やはり横穴を利用したらしき部屋に木製のドアが嵌め込まれている。

さっきの牢屋の鉄格子と比べると随分と粗末な造りだ。

軋むドアを開けると、部屋にこもっていた異臭が流れ出てくる。

中には裸の少女の遺体が2体と、後ろ手に縛られた裸の男が2体。

少女の遺体の姿勢を整え、目を閉じて自分のシャツを脱いで被せた。


一樹「お前たち、扱うのは女が専門なのか?」


なんとか平静を装い、言葉を搾り出す。

こいつらの事はまだ何も分かっていない。

だが、それを悟られないように質問を選ばなくては。


盗賊「そのほうが買い手がつき易いもんでね」

一樹「なるほど。ではなぜその娘を殺した?大事な商品じゃないのか?」

盗賊「見ての通りのごろつき集団でね。女を攫わせて置いて遊ばせねぇってんじゃ収まりがつかねぇのよ」

一樹「なぜこの娘を選んだ?」

盗賊「売りに行く先が人間の町だからな。人間の女は腐るほどいるからいい値がつかねぇのさ」


反吐が出るとはこういう感覚か。


一樹「あと捕まっていたのは鬼族にエルフ族、狼人族だったか。そっちは高く売れるのか?」

盗賊「ああ、亜人の女を欲しがる奴は多いからな」

一樹「誰が買うんだ?」

盗賊「ああ?いろいろだよ」


俺は盗賊の肩に手を置いて魔力を浸透させる。

カエデたちを相手にするときと違って抵抗が強い。


盗賊「いてっ」

一樹「誰が買うんだ?」

盗賊「だからいろいろだよ!」

一樹「シュリンク」

盗賊「がぁっ!」


魔法をかけた盗賊の左肩が縮み上がる。

どうやら全身の腱に有効というのは本当らしい。


盗賊「何しやがる!」


盗賊の肩にはうっすらと赤く俺の手形が残っている。

魔力浸透への抵抗が強かったから、ついつい力が入ってしまったようだ。

魔力を浸透させるのに物理的な圧迫は必要ないはず。


一樹「誰が買うんだ?」


俺は盗賊の右肩にそっと手を乗せる。

今度は無駄に力を入れないように注意しながら魔力を流し込む。


盗賊「知らねぇ!どっかの貴族とかじゃねぇのか」

一樹「シュリンク」

盗賊「ぐぁっ!」


後ろ手に縛られたままの盗賊の両肩が引き攣る。

今度はもう少し大きな筋肉で試してみるか。

こっちは手の平じゃなくて指とかでもいいのかな?


一樹「誰が買うんだ?」


中指と人差し指を立てて、盗賊の大腿四頭筋辺りに当ててみる。

恐慌のせいか魔力浸透への抵抗はさっきよりは小さい。


盗賊「・・・しらねぇ」

一樹「シュリンク」


鈍い音と共に膝から先が跳ね上がる。

再び下に落ちた爪先はあらぬ方向に曲がっていた。

俺は指先をもうひとつの大腿四頭筋に当てる。


一樹「誰が買うんだ?」

盗賊「・・・あ、亜人の女を買い集めてる貴族がいる。誰かはしらねぇ!本当だ!」

一樹「それで?」

盗賊「そいつが欲しがってるのは鬼族とエルフ族と狼人族だ。あとは、天使族か竜人族の女なら金貨500枚出すって話だ」

一樹「ほう・・・」

盗賊「兎人族と猫人族は要らねぇってよ。そっちを買うのは本当にいろいろだ。金持ちの変態どもだよ」

一樹「その貴族とはどうやって連絡を取るんだ?」

盗賊「こっちからは連絡は取れねぇ。たまに向こうから黒尽くめの使者が来るんだ。それで金と武器をくれるんだとよ」

一樹「それで?」

盗賊「指定された場所に女を連れて行くんだ。後はしらねぇ」


こいつから聞き出せそうなのはこんなところだろうか?

もう一匹が知っている情報も似たようなものかな?

まあ、一応聞くだけ聞いてみよう。


盗賊「待ってくれ!知ってることは全部話す!っつっても、そいつが話した以上の事はしらねぇ!」


視線を向けたもう1匹の盗賊がなにやらわめき出す。

特に顔が似ているというわけでもないが、区別するのも面倒だ。


盗賊「っつか、聞いたろ?俺らのバックには貴族様が居るんだ。俺らを捕まえたっていい事無いぜ?」


「シュリンク」を戦闘で使うなら、もっとスピードが必要だな。

触れた瞬間に魔力を流し込み、即座に魔法を発動させないといけない。

魔力を流す所まではカエデたちを相手に練習できるかとも思った。

しかし、さっきの感じだと敵対者の抵抗は意外と強い。

こちらを敵として警戒している相手で練習する必要があるか。


盗賊「ひょっとして、この女はあんたの知り合いだったのかい?だったら悪かったよ。けど、俺らを殺したからってそいつが生き返るわけでもないだろう」

一樹「殺した本人が言う台詞では無いな」

盗賊「そうだな、悪かった。代わりに残りの女は全部あんたにやるよ。金の隠し場所も教える。オカシラはけっこう溜め込んでるはずだぜ。だから水に流しちゃくれねぇか?」


「水に流す」か、それを決めるのは俺ではないな。


盗賊「なんだったら俺のことは領主様に突き出してくれればいい。大人しく裁きを受けるからよ、後は領主様に任せて俺の事は忘れてくれや」

一樹「安心しろ、今は俺がここの領主だ」

盗賊「え?いや、そんなはずねぇだろ」


オカシラといいこいつといい、『領主』に引き渡されたいらしい。

バックに居る貴族ってのはバルバス家かヘーゼルホーヘン家辺りか。

向こうに引き渡せば処刑したことにしてこっそり放免って事か。


一樹「そういえば、忘れろと言ったか」


俺は盗賊の右肩に指を乗せ、すばやく魔力を浸透させる。


一樹「シュリンク」


盗賊の肩がが縮み上がり、くぐもった悲鳴をあげる。


一樹「肩が壊れてしまったかな?まあ過ぎた事だ。忘れろ」


今度は左肩に指を当ててみる。

警戒のせいか魔力の浸透に少し時間がかかる。


一樹「シュリンク」

盗賊「がぁっ!なんなんだよ!」

一樹「気にするな。忘れろ」


やはり戦闘中にこの魔法を使うのは無理があるだろうか?

それとも単に俺の訓練が足りていないだけか?


盗賊「ふざけんな!」

一樹「そうだな、言葉も行いも一度実行に移せば無かった事になど出来はしない」

盗賊「あん?」

一樹「なあ下郎、お前にチャンスをやろう」


男は痛みで息を荒くしながら、訝しげにこちらを見る。


一樹「犯した罪が無かった事になるとするなら、それは加害者の誠実な謝罪と償いにより被害者が元の平穏な日常を取り戻した時だけだ」

盗賊「どうすりゃいいんだよ?」

一樹「あの娘を生き返らせろ。心も体も元の様に癒して見せろ。命も心も尊厳も純潔も、お前たちが奪ったものを全て返してやれ」

盗賊「・・・無茶言うな」

一樹「ああ、お前は取り返しのつかないことをした。ならばその罪も永劫消える事は無い」


俺は盗賊の頭を掴んでその上体を立ち上げる。

頭蓋骨が軋む音が微かに聞こえてくる。


寛容さも更生も大いにけっこう。

だが、被害者を差し置いて他人が許しを与えるなど偽善も甚だしい。

なぜ奪った者だけが全てを忘れて生きる事が許されるというのか。

奪われた者はただ平穏に生きる事すら許されないというのに。


盗賊の喉から声とも音とも取れぬ物が聞こえてくる。

俺は手の平から魔力を浸透させて中の様子を探ってみる。

脳を弄る事は危険らしいが、こいつは生かしておくつもりも無い。


「痛み」と「怖れ」らしきものを探り当て、増幅してみる。

男の脳内から湧き上がる何かが「痛み」を消し去ろうとする。

同時に男の体が首が折れんばかりに暴れ始める。

ゴキッという鈍い音とともに後ろ手に縛った縄が抜け落ちた。

折れた腕を出鱈目に叩き付けられるのを、どこか他人事のように感じる。

頭部を掴む手に少し力を加えると、男の体は力を失った。


エミリー’「一樹様、捕らえた盗賊どもを集め終わりました」

一樹「ご苦労。この娘らを埋葬する。表の娘らの目に入らぬように運び出してくれ。丁重にな」

エミリー’「はっ!」


盗賊どもの姿を洞窟の外に出した娘たちには見せない方がいいだろう。

洞窟内の比較的広い空間に縛り上げた盗賊どもを集めさせた。

戦闘で半数ほどが死んだようで、残っているのは10匹ちょいだ。


一樹「これからお前たちを尋問するが全員を連れ帰るのは面倒だな。有益な情報を提供する者だけを・・・そうだな、3人だけ連れ帰るとしよう」


俺の言葉が残りの盗賊共に浸透するまで少し待つ。


一樹「一人ずつばらばらに予備的な尋問を行う。エミリーたちは見張りを10人残し、後は2人1組で盗賊1人を担当し、互いに距離を取って情報を聞き出せ」

エミリー’「はっ!」


エミリー達が2人組を作ってそれぞれ盗賊を1匹ずつ連れて行く。

俺も残った中から1匹を担当して尋問する事にしよう。

せっかくだから尋問用の魔法も開発できないか試してみるか。

俺は男の頭頂部を掴むと、男の脳内に魔力を浸透させた。


一樹「今からいくつか質問をする。全て『はい』と答えろ。いいな?」

盗賊「は、はい」

一樹「お前は人間族か?」

盗賊「はい」

一樹「お前はエルフ族か?」

盗賊「ち、違います」

一樹「いいから全て『はい』と答えろ。今だけは嘘をついていい」

盗賊「は、はい」

一樹「お前はエルフ族か?」

盗賊「はい」

一樹「お前は男か?」

盗賊「はい」

一樹「お前は女か?」

盗賊「・・・はい」

一樹「お前は腕を3本持っているな?」

盗賊「はい」

一樹「お前の目は2つだな?」

盗賊「はい」

一樹「亜人狩りの依頼人を知っているか?」

盗賊「・・・・・はい」

一樹「依頼人と誰が会っているか知っているか?」

盗賊「・・・はい」

一樹「それは誰だ?ああ、ここからは普通に答えていい」

盗賊「・・・・・スカンって奴です」

一樹「相手を見た事はあるか?」

盗賊「・・・はい」

一樹「どんな奴だ?」

盗賊「黒尽くめでフードを深く被ってる以外は何も」

一樹「そいつについて他に知っていることは?」


男は怯えたように頭を横に振る。

どうやら本当に何も知らないようだ。


一樹「お前がこの一味に加わったのはいつからだ?お前は何人殺し、何人犯した?」

盗賊「・・・先週来たばかりでまだ誰も。いい仕事があるって紹介されて。こんな奴らとは知らなかった!」

一樹「嘘は、よくないな」


盗賊の体が崩れ落ちる。

精度はまだ不安があるが、嘘発見器の真似事はできそうだ。

できれば目を見るだけで看破出来るようになりたい所だけどな。


それにしても、なかなか用心深い相手のようだ。

亜人の密売ルートを持ち、大金と良質の武具を提供できる者。

それなりの地位と権力のある奴だろうから、やはり貴族か。

今回潰したのは末端の下部組織の1つに過ぎないのだろう。

大元を突き止めて叩かなければ同じことが繰り返されることになる。


黒尽くめとやらはまたここにやってくるだろうか?

スカンって奴を使ってなんとか情報を引き出せないか?

いや、そんな如何にもな裏社会の人間を出し抜ける気はしないな。

仮に捕まえたとしても、たぶん対尋問訓練とか受けてそうだ。

こっそり後を追うか、殺して遺留品から推測するくらいしかないだろう。


或いは、生け捕りにすればさっきの嘘発見器の真似事が役に立つだろうか?

一応俺のオリジナルのつもりだが、似たような発想をする人間が居ても不思議は無い。

耐尋問訓練の中で既に対策されている可能性は十分にある。


まあ、やってみるしかないか。

まずは俺のほうで魔法の精度を上げなくては話にならない。

そいつらに通用しなくても、犯罪捜査とかで役に立つ機会はあるだろう。

魔法の練習を兼ねて、残りの連中も俺が尋問してみるとしよう。


この場に転がっている盗賊はあと4つか。

俺は2つ目の盗賊の身体を引き起こし、額を掴む。


一樹「今からいくつか質問をする。すべて『はい』と答えろ。いいな?」

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