第71話 賊
開拓村と商業特区のそこかしこに花壇や植木鉢を設置したい
一気にやっても管理が追いつかないので、まずは大通りからだ。
ベンチサイズの大きな植木鉢を街道沿いに並べることにする。
人を呼ぶためにも、花と緑に彩られた美しい街にしていきたい。
さて、そこで問題になるのが誰にその管理をやってもらうかだ。
花のある街は美しいが、管理が杜撰だと一気にみすぼらしくなる。
通常であれば管理代行業者を探すか作るかして委託するところだろう。
だが、俺は敢えて個々の花壇の「管理権」を競売にかけることにした。
花壇や植木鉢にはそれぞれ手の平程度のプレートが付けられる。
「管理権」を取得した商会などはそこに店の名前などを表示できるのだ。
そのプレート以外の張り紙や書き込み、立て札などの掲示は禁止する。
ただし、色違いの花で文字や模様を表示するのはOKだ。
花壇の「管理権」による収入は期待していない。
せいぜい月に銅貨数枚か、良くて銀貨1枚といったところだろう。
しかし、商会名を掲げた花壇をみすぼらしい状態にしたくは無い筈だ。
逆に美しい花壇に仕上げれば、名前が表示された商会の印象はよくなる。
皆が競い合って美しい花壇を作ろうとするのではないだろうか?
これなら花壇の管理費が浮くどころか、わずかながら収入源にもなる。
管理委託した相手が良心的で意欲的な業者か心配する必要もないだろう。
入金額より集金費用の方が高くつきそうだが、それでもメリットは大きい。
まあ、うまく行かなければ普通に公費で業者に管理委託するだけだ。
仮に入札が全く無かったとしても、特に痛手になるわけでもない。
とりあえずやるだけやってみよう。
管理が杜撰な場合や料金滞納があれば管理権剥奪とかのルールは定めておくか。
あとは今の料金以上の提示があれば競売をしなおすとしておこう。
目立つ場所の花壇とかなら、少しは財政の足しになるかもしれない。
花壇管理権の競売についてはクリスに手配を依頼しよう。
俺はいつものように午前中は素振りや抜根作業で汗を流す。
午後は報告に目を通したりダンジョンの改装をしたり魔法の練習をしたり。
人口も税収も耕作面積も徐々にではあるが増えつつある。
仮想通貨の店舗用端末が受け入れが順調に進んでいるのはちょっと意外だった。
王都でも『アーバンコア』周辺では似たようなシステムが使えるらしい。
ちょっと悔しい気もするが順調に進んでいるなら何よりだ。
さて、今日は週に一度のおっぱい引き締め魔法の練習の日だ。
一応、習得目的は靭帯を縮ませることで相手の動きを制限すること。
それはいいんだが、俺の担当する客はなぜかやけに色気を振り撒いてくる。
生殺し状態できついんだが、これも何かの修行なのかな?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
浴槽の中で全裸の女が俺の胸にもたれて息を整えている。
女はおっぱい引き締め魔法の客の1人、色街で働いている踊り子だ。
来る度に誘うような言動を繰り返し、どう対応したものか思案していた。
最後は、なぜかアウラエルに促される形で関係を持つことになった。
意図は分からないが、俺を楽しませようと頑張っているのは伝わってきた。
踊り子なだけあって体力もあり、自分の見せ方も心得ているようだ。
全身をフルに使った激しい行為はなかなかに甘美な時間だった。
しばらくこのまま余韻に浸っていたい気もする。
一樹「さて、そろそろ用件を聞こうか?なにか頼みたいことがあるんだろう?」
踊り子「そっちから聞いてくれるとは思わなかったなー。一樹せんせーやさしい」
一樹「茶化すなよ」
踊り子「本気なんだけどな。えっとね、あたしの村はこの街の西の山の向こうにあるの。山の西側に山賊が住み着いちゃったみたいで、ちょっと困ってて」
一樹「なるほど」
山賊退治か。そんなことなら色仕掛けなんか要らなかったのにな。
もっとも、俺たちが力を振るえるのは『領域』の中だけだ。
ご要望に沿えるかどうかはまだ分からない。
一樹「それは王国騎士どもの仕事じゃないのか?」
踊り子「向こうの領主様には何度も嘆願はしてるんだけど、ぜんぜん動いてくれないの。だから、おねがい。あたしに出来ることならなんでもするから」
一樹「悪いが約束はできないな。王国領内でこっちの兵は動かせないんだ。だが、山の中なら何とかなるかも知れないし、とりあえず状況を確認しておこう」
踊り子「ありがとう!ほんとうにありがとう」
一樹「礼を言うのはまだ早いよ。俺が手を出せる場所か分からないからね」
踊り子「じゃあ、山賊をやっつけてくれたら改めて御礼するね」
女は改めて胸を押し付けながら俺の頬を舐める。
踊り子「それとも今すぐもう1回する?」
一樹「いや、やめておこう。まずは山賊の状況を確認してみるよ」
踊り子「わかった。お願いしますね」
「対価を受け取らずに特定の人間に便宜を図ってはならない」
街を治めるにあたり、アウラエルから何度かそう言われた事がある。
プライベートならともかく、領主としてそれがまずいのはまあ理解できる。
賄賂と正当な対価をどう線引きするかという問題はあるだろうけどね。
だが「盗賊から民間人を守る」というのは領主として当然やるべき勤め。
俺の領民が盗賊の被害を受けているなら、対価なしでも動く必要がある。
いや、俺がここで持つ権力や日ごろ徴収している税を対価と考えるべきか。
だが、今回山賊で困っているのは王国領内の王国の国民だ。
これを助けるのは王国貴族たちの仕事で、俺がやるべきことではない。
俺がやるとなると、相応の対価を要求するのが筋だろう。
しかし、さっきの踊り子や村人には、兵を動かせるほどの金銭は用意できない。
かといって、話を聞いた上で「じゃあヤらせろ」なんて言える筈もない。
となると敢えて色仕掛けに引っかかるのが一番スムーズに事が運ぶわけか。
アウラエルもそこまで考えた上で彼女を俺にあてがったのかも知れない。
おっぱい引き締め魔術で俺が担当している他の客もなにか事情があるのだろうか?
誘ってきたら、もう何も聞かずに抱いてしまうのがいいのかもしれない。
スパイとか暗殺者を相手にそれやっちゃうとまずいんだけどね。
アウラエルの連れて来る女なら、おそらくそういう危険は無いだろう。
それにしても妙な気分だな。
『御礼』だの『お詫び』だので体の関係を提示してくる女は前世にもいた。
俺はそんな女たちが苦手だった。いや、嫌悪していたと言ってもいい。
しかし、あの踊り子の『御礼』にそんな不快感は覚えない。
山賊退治の対価としてすんなり受け入れている自分が不思議だ。
前世での女たちとさっきの踊り子、何が違ったんだろうな?
一樹「なるみ、開拓村の西の山に山賊の巣窟があるらしい。雪風とゴブリンたちで探してみてくれ」
なるみ「山賊の巣ならいくつかあるよ」
一樹「そうなのか?なんで俺に言わない!?」
なるみ「言った方がよかった?かずきおにぃちゃんの街に近い分はちゃんと駆除してるよ?」
一樹「他は放置なのか?」
なるみ「まあ開拓者除けとしてはゴブリンより効果的だしね。火を使う分森へのダメージもあるからコスパとしては微妙だけど」
俺たちにとっては森を切り開く開拓者も敵の1つだ。
なるみにしてみれば山賊もゴブリンも一緒か。
まあ、実際似たようなものかな?
なるみ「貴族にになられると面倒だからたまに間引いてはいるよ」
一樹「待て、山賊の話だよな?」
なるみ「そだよ?」
一樹「確認したいんだが、お前の言う山賊ってのはどう言うものだ?」
なるみ「ヒトの生態区分の一種でしょ?自分で物を作ったり商売したりせずに力で他のヒトの生産物を奪うやつら」
一樹「まあ、そんなとこだな」
なるみ「んで、山に住んでるのが山賊で、街に住んでるのが貴族」
一樹「ええと、最後はちょっと違うんじゃないかな?」
俺も一応ここでは貴族的な立ち位置になると思うんだけどな。
なるみ「そうなの?」
一樹「貴族はほら、国防とか治安維持とかインフラ整備とかいろいろ役割もあるから」
なるみ「それも聞いたことはあるんだけど、山賊の縄張り争いとの違いがよくわからないんだよね。山賊の親分だって、手下にはけっこう優しかったりするみたいだし」
この世界って国際秩序とか法秩序とかあんまり発達して無さそうではあるな。
それにアーネストさんと毒の件から考えると、貴族が強権を振るってそうだ。
税も領主の裁量なら、地域によっては重かったり徴収が強引だったりするのか?
だとしたら山賊とそう変わらない領主もいるのかもしれない。
一樹「俺もその辺は上手く説明出来ないが、今の話は他所ではするなよ?」
なるみ「そなの?わかった」
日本の戦国武将も最初は山賊とか海賊扱いだったりしたのも居るんだっけ?
そういえば、ノブレス・オブリージュなんて言葉もあったな。
その辺の意識の違いはありそうだけど、端的に説明するとなると難しい。
俺自身、あんまり理解できてない気もする。
山賊が規模だけ大きくなってもそれはやはり山賊・・・
あれ?そういえばさっき、「間引いてる」とか言ったか?
山賊を間引くってことはつまり、そういうことだよな?
俺も「武装強盗は処刑でOK」と言ったような気もする。
・・・・・ま、いいか。
いやいや、むしろ逆か。
王国との交易を考えるなら街道の安全確保は必須だ。
なら、山脈の西側の山賊はむしろ根絶させたほうがいい。
一樹「なるみ、俺の『領域』内の山賊は順次殲滅しよう」
なるみ「いいけど、開拓者対策はどうするの?」
一樹「代わりにゴブリンと忍者を配置する」
なるみ「おっけー。今の魔力量ならけっこうな量を用意できそうだもんね」
一樹「ああ、そうだな」
今なら数千匹のゴブリンを召喚することも可能だな。
実際、既に4000匹近くいる、というか有るんだよな。
ゴブリン型ガーディアン、ゴブリンに似せた魔道人形だ。
ゴブリンは召喚コストが安いから使い捨てするには便利だ。
けど、街道付近の森にゴブリンがうろついてたら討伐隊とかきちゃうかな?
そういえばアビーには俺の手下のゴブリンも居るって言っちゃった気もする。
なら、街道沿いの森には俺の配下のゴブリンを配置してるって公表しちゃうか?
その上で野良ゴブリンも居るかもしれないから気をつけろ、と。
樹木をきられるのは困るが、山菜採りや野いちご摘みまで規制するつもりはない。
だが、近隣住民が俺のゴブリンと思って野生のゴブリンに近づき襲われても困る。
俺のゴブリンは普段は茂みに隠れ、伐採する者以外には姿を見せないよう指示して置こう。
一樹「地図上に山賊の住処を表示できるか」
なるみ「できるよ。こんな感じでいい?」
地図上の目印は山脈の西側に点在している。
あんまり山奥でも襲う対象が居ないし、適度に街道に近い場所ということか。
この街の西側の山向こうの村、その東側のアジト、これか?
一樹「まずはここから始めよう。雪風たちを派遣して入り口の数や敵の戦力を確認してくれ」
なるみ「らじゃー!」
一樹「さっき、山賊を間引いていたと言っていたが、そのまま殲滅はできるか?」
なるみ「んー、ちょっと厳しいかな?今の戦力だと山賊を間引くのもちょっと手間だったんだよね」
一樹「そうだったのか?そういうのは早く言ってくれよ」
なるみ「手間ではあったけど支障は無かったんだよ。基本的に人目の少ない場所だから、一人になった所を雪風さんがサクッとね」
一樹「そ、そうか」
なるみ「新人が狙い目だね。急に居なくなっても『けっ、怖気付いて逃げやがったか』とか言って探しもしないから」
一樹「それだと強い奴ばっかり残る事にならないか?」
なるみ「その方がよくない?」
一樹「そうなのか?」
なるみ「人数が増えると森への負荷は増えるでしょ?でも弱い山賊じゃ抑止力になんないじゃん。コスパ悪いよ」
人数多ければそれだけで相手を萎縮させる効果はあると思うけどね。
それに今は弱くてもちゃんと新人を育成しないと組織の維持が・・・
というか、抑止力って普通は山賊にかけるもんじゃ無かったっけ?
なんか、自分の立ち位置がよく分からなくなってきた。
まあ、弱い山賊じゃどうせ長生きは出来ないか。
なるみ「でも強い山賊ならそこらの警邏隊や新人騎士くらいなら返り討ちにしたり、駄目でもうまく逃げたりするからね。あと、少人数の方が見つかり難いってのもあるかな」
しぶとくコスパのいい開拓者除けになるというわけか。
街道で迎え討つならともかく、山中の山賊を討つのは確かに面倒かもな。
それに相手のフィールドでの戦いなら騎士でもリスクを伴うだろう。
そのくせ功績としてはいまひとつインパクトが薄い。
山賊も護衛付の馬車は襲わないだろうから、貴族にとっては直接は無害。
貴族や上級騎士が積極的に討伐したがる相手でもないか。
一樹「なるほど。山賊もゴブリン程度には役に立つのは分かった。だが、一応人間の街の領主としての顔もあるから街道の安全を守らんとな」
なるみ「わかった。じゃあ、山賊はポイしてゴブリンに置き換えだね」
一樹「そうだな」
ドラマでダイナミックエントリーとかいうのやってたな。
複数の入り口から一気に雪崩れ込むことで迎撃体勢を取る暇を与えない。
とりあえずゴブリンかオーク辺りを一気に突っ込ませてみるか?
だが、要救助者が捕らえられている可能性も考えた方がいいか?
その場合は要救助者にまで俺が敵認定されてしまう可能性もあるな。
そうすると救助活動に支障が出るかもしれない。
それ以前に、ゴブリンやオークでは敵と要救助者を判別できないか?
とりあえず雪風に状況確認をしてもらおう。
中にいるのが山賊だけならオークの群れをぶち込む。
要救助者が居そうなら、危険だがジェシカやエイミー達に頑張って貰おう。




