表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/125

第63話 芝居

逃げ惑う農兵たちと入れ替わりに現れたのは薔薇の紋章を掲げた騎士団だった。

重厚な雰囲気の全身鎧に身を固めた騎士たちと、頑丈そうな馬車の列。

アウラエルが持ち帰った打ち合わせによれば、ローゼンヴァルト公爵軍だ。

降りていって握手でもしたい所だが、まだ表立って馴れ合うわけにはいかない。


負傷兵の治療に当たっている卯月と皐月、鬼族、オークたちを下がらせる。

代わって公爵家の治療師団が馬車から降りて負傷兵たちの治療に当たる。

同時に兵士たちが戦死者の遺体の回収も進めていく。

伯爵家の暴挙による犠牲者を公爵家が救済するという演出だ。


白旗を掲げた騎兵が砦の前に出て、小さな台の上に大きな金貨袋を乗せる。

これは開拓村への追加投資として元から予定されていたお金であるらしい。

身代金という名目にすることで、リーリエシュタッヘル派閥への貸しにする。


俺はわずかに門を開いて捕らえていた貴族子弟たちを解放する。

武具をすべて剥ぎ取られ、下着同然の姿で衆目の前を歩かされる貴族たち。

伯爵家に従った貴族子弟たちに恥をかかせることも演出のひとつだ。

おかげで俺はやつらの武具からいくらか希少素材を剥ぎ取ることもできた。


これ見よがしに置かれた金貨袋の大きさに、下級貴族たちは顔を引き攣らせる。

俺が騎士たちを狙い打ちにしたせいで、想定より捕虜が少なかったせいもある。

まあ、奴等を萎縮させる目的はより効果を増したからよしとしよう。


しばらくの間、砦を挟んで公爵家の騎士団と俺たちがにらみ合いを続ける。

その間に治療師団が死傷者の治療と回収を手早く進めていく。

すべての死傷者の回収を終えると、騎士団はゆっくりと後退していった。


「公爵家でなければ魔族の軍勢を抑えることは出来ない」

そう印象付けるための小芝居というわけだ。

こっちは端から戦う気はないのだが、あっちが向かってくるのだから仕方がない。

当面の間は怖い『魔族』を演じるしかないのだろう。


前回の巨大レーザー砲はどうにも印象が薄かったらしい。

馴染みの薄い兵器では、伝聞だと想像力が追いつかないのかもしれない。

そこで今回は巨人と襲い来る鉄塊という、分かりやすい物理の暴力にした。

飛び散る肉片と血飛沫の中を逃げ帰った兵たちは恐怖を喧伝してくれる事だろう。


これで公爵家による伯爵家からのこの地の管理権剥奪はスムーズに進む筈だ。

建前とはいえ公爵家直轄領になるのは癪だが、とりあえず戦争は避けられる。

政治的な事はクリスとアウラエルに任せ、今度こそのんびり開拓ライフの再開だ。


公爵家騎士団が撤退した後にぽつりと残された大きな金貨袋。

そしてそれを取り巻く大量の血だまりと肉片。

これは掃除が大変だな。


一樹「アクアスプラーッシュ!」


金貨袋を回収してから即席の水魔法で惨状を川のほうへと押し流す。

とりあえず水が出ればいいのだから細かい制御は必要ない。

砦の前の道が少し削れたが、だいたい元の情景を取り戻した。


赤く染まった川に手を合わせ、短い黙祷を捧げる。

本格的な葬儀は遺体を持ち帰った公爵たちに任せるとしよう。


町の方ではやはり放火をしたり暴れだしたりする者が居たようだ。

しかし、鬼族たちに警備をしてもらったおかげで被害はほとんど出なかった。

前回はちょっと不満そうだったけど、今回はちゃんと活躍の場を提供できたかな?


それに経済特区(予定)の人間族を守ることで、鬼族の印象もよくなっただろう。

今後の街の運営上、両者には仲良くなってもらわないといけない。

もっとも、戦前はいくらか交易もあったらしいし、あまり心配は要らないかな?


天使の羽を現したアウラエルが戦闘終結を告げ、俺達はささやかな凱旋をする。

豪華な馬車は持っていないのでカトリーヌ嬢の馬車を借りることにした。

華やかな飾りはないが、上質そうな木材で作られたしっかりした造りの馬車だ。

アウラエルを先頭に、俺たちとカトリーヌ一行、鬼族の戦士団が続いた。

ついさっきまで公爵家の騎士団とにらみ合っていたというのに、奇妙なものだ。


凱旋を終えた俺は開拓村の拠点でシャワーを浴びる。

血の臭いってのはどうにも鼻腔に張り付いていけない。

だが、慣れてはいけない感覚だ。これくらいでちょうどいい。


公爵家の騎士団は装備の質も高そうだったし、統率の取れた動きが取れていた。

おそらくは兵達の練度も高く、戦闘能力も高いのだろう。

『聖騎士』とか以外なら問題なさそうというのは認識が甘かったかな?


それに、治療師団から感じる魔力もそこそこ高かった。

ヘーゼルホーヘン・ジュニアが連れて来た攻城魔道師と同等以上かもしれない。

威力より精度を求められる治療師であれなら、攻城魔道師は如何ほどだろうか?


公爵家ともなれば王国に3人いる『賢者』を1人抱えている可能性もあるか?

『賢者』は『魔王』の城門を多少なりと崩すだけの力があるはず。

俺の小さな砦など木っ端微塵だろう。


「公爵家でなれば魔族の軍勢を抑えることはできない」

そのメッセージを伯爵家やリーリエシュタッヘル派閥に伝えるための行動だった。

もしかしたら、俺への牽制も兼ねていたのかも知れない。

考えすぎかもしれないが、どの道油断は禁物だな。


いつものように浴室のドアをノックする音が聞こえる。

女性型ガーディアンか、それともアウラエルかな?

こんなタイミングで遊ぶのはどうかとも思う。

だが、こんな時だからこそありがたくもある。


一樹「どうぞ」

キャシー「失礼いたします」

一樹「え?あ、、カトリーヌさん?」


小さなタオルで前を隠したカトリーヌ嬢が立っている。

さすがに恥ずかしそうではあるが、それでも背筋が伸びているのはさすがだ。


キャシー「こちらでは女のほうから殿方のお風呂にお邪魔するのが慣例とは存じませんでした。不勉強で申し訳ありません」

一樹「いや、別にそういう慣習というわけではありませんよ?」

キャシー「ですがここでは皆さんそうしてらっしゃるのですよね?一樹様のご趣味なのですか?」

一樹「まあ、そんなところです」

キャシー「では、私にとってはこれが正解ということですね」

一樹「無理をなさる必要はありませんよ?」

キャシー「いいえ、自分の務めは心得ておりますわ。今回の戦闘でも多くの犠牲者が出たときいております。おかげで父はより動き易くなることでしょう」


憂うような、同時に自嘲めいた響きが混じる。


キャシー「それをより確かなものにするためにも、私たちは強く繋がらなければなりません」


決意を込めた眼差しが俺を射抜く。

子供が出来れば公爵が動き易くなると言っていたか。

除籍された娘では伯爵への直接の圧力にはならないかもしれない。

しかし、ローゼンヴァルト派閥による包囲網がより強固になる。

王家への働きかけもより活発になるのかもしれない。

俺がもっと早くに受け入れていれば、今日の戦いは起きなかった?


キャシー「一樹様、私ではご不満でしょうか?至らぬ所があればどうか教えてください」

一樹「不満などと滅相もないことです。カトリーヌさんこそ、俺でいいんですか?」

キャシー「一樹様が戦の度にお心を痛めているのは存じておりますわ。犠牲者を最小限に抑えようと心をくだいてらっしゃる事も。戦闘後は敵味方を問わず治療を施し、戦死者の帰国を支援してくださっている事も」


これは彼女の本心だろうか?

それとも自分に言い聞かせているのか?


キャシー「それから民と共に開墾に汗を流される姿も、民の為に先頭に立って魔獣と戦う姿も、領主として人として好ましい姿と思っておりますわ」

一樹「俺がやれることなんてそれくらいですからね」


魔獣といってもウサギだしね。


キャシー「開拓地の抜根を自らの手で行う領主なんて初めて聞きましたわ」

一樹「怪力ばかりが取り柄なもので」

キャシー「いいえ、それ以上のものをお持ちですわ」


俺の手を握るカトリーヌの手が微かに震えているのを感じる。

貴族とやりあうなら政略結婚もありうると分かっていたはず。

咎められるべきは伯爵ではなく、覚悟の足りない俺のほうか?


震える手に俺の手を重ねて魔力を浸透させ、「まどろめ」と念じる。

カトリーヌの緊張が解かれ、体の力が抜けるのを感じる。

これはカエデの協力で覚えた新魔法で、緊張をほぐす効果がある。

「恋と錯覚させるのも優しさ」とはアウラエルの言だったか。


一樹「お相手願えますか?」

キャシー「はい」


背伸びをしたキャシーがぺろりと俺の頬を舐めた。


一樹「え?あ・・・カトリーヌさん?」

キャシー「一樹様、お顔が真っ赤ですよ。殿方はどこかを舐めると喜ぶという話は聞いていたのですが、ほっぺたで正解のようですね」


いや、その人が意図したのは別の場所だと思うぞ。

けど、ほっぺたも別解として有りなのか?


一樹「そうですね。ですが、正解がひとつとは限りませんよ?」

キャシー「では他の答えも見つけて見せますわ」

一樹「俺もカトリーヌさんの正解を探してみましょう」

キャシー「キャシーとお呼びくださいませ」

一樹「キャシー」

キャシー「はい。ところで、子供というのはどうやって作るものなのでしょう?」

一樹「はい?」

キャシー「裸でベッドに入ったら後は殿方に身を任せればよいとしか聞いていないもので。ああ!こちらの慣習ではまず洗いっこなのでしたね」

一樹「そ、そうですね」

キャシー「では洗って差し上げますね。こちらで作られる石鹸はとてもよい使い心地ですわ」

一樹「ええ、部下が頑張ってくれています。おかげで飛ぶように売れていますよ」

キャシー「えいっ」


小さな掛け声とともにキャシーが俺に抱き着いてくる。

体を密着させるのはやはり少しハードルが高かったか?


キャシー「こ、これでいいんでしょうか?」

一樹「ええ、問題ないですよ」


俺も石鹸を手にとって泡を立て、キャシーの背中を洗う。

お互いに少しずつ下のほうへ手を伸ばしていく。


キャシー「一樹様のそこは私どもとは随分と形が違いますのね」

一樹「人間族の男も似たようなものだと思いますよ」

キャシー「その・・・後学のためによく見せて頂いてもよろしいでしょうか?」

一樹「かまいませんよ。この辺りはデリケートなんで優しく触ってくださいね」


キャシーが中腰になって俺のそれをしげしげと眺める。


一樹「キャシー、もしよかったらなんだけど・・・」

キャシー「なんですの?」

一樹「破る前の状態を一度見させてもらっても?」

キャシー「あら、ひょっとしてお疑いですの?」

一樹「滅相もない。知的好奇心というやつですよ。後学のために」


ちょっと意地悪だったろうか?

同じ理由で俺のモノを眺めている身としては断り難いだろう。

加えて俺の魔法でちょっと大胆な気分になってもいる筈だ。


キャシー「分かりましたわ。私の純潔の証、しかとご確認くださいませ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ