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第59話 えろえろダンジョン

使い魔から送られてくる映像に女ばかりの冒険者パーティーが映し出される。

すでに見知った顔のアーニャ、マリー、リリーの3人組だ。


場所は俺たちの最初のダンジョンの新設区画の前。

ゴブリンが住み着いた場所とは別に作った新しい方の入り口だ。

入ると二股に分かれており、片方はゴブリンのいる場所につながっている。

そちらには扉を設けてゴブリン側からは入れない様になっている。

もう片方が、今回新設した『えろえろダンジョン』というわけだ。


アーニャ「『男子禁制』か。ここね、先行したパーティーが壊滅したというダンジョンは」


先頭の金髪の剣士、アーニャが壁の文字を読み上げる。

アーニャの言うとおり、残念なことにこの新設エリアでも死人が出てしまった。

まあ、元より冒険者ってのは俺たちの存在を知りながら侵入してくる連中だ。

こちらの警告や注意書きなんて、なかなか守ってはもらえないようだ。


リリー「ここのダンジョンマスターは男嫌いなのかね。それともスケベ野郎かな」

マリー「『大柄な者、男っぽい容姿の者も攻撃される惧れあり』とありますよ?大丈夫でしょうか?」

リリー「ほほう、でかい女は女じゃねぇってのか?上等だ!ぶち殺す!」


赤毛の大柄な女戦士が拳を手のひらに打ち付ける。

もっとも、言葉の割りに平静を欠いている訳でもなさそうだ。


アーニャ「安い挑発に乗らないで頂戴。ここの主に女と認めてもらう必要なんてないんだから」

マリー「『男子禁制』しか聞いて無いですよ。こういう情報はしっかり伝えてほしいですね」

アーニャ「帰ったら文句言ってやりましょう。けど、今はぼやいても仕方ないわ。リリー、お化粧しましょうか?」

リリー「おい!アーニャ、お前まで俺が女に見えないって言うのかよ!?」

アーニャ「そういうわけじゃないけど、ここのガーディアンがどういう基準で男女を判別してるかわからないじゃない?減らせるリスクは減らしたほうがいいわ」

リリー「要らん!」


なぜか楽しそうな顔で提案するアーニャとむくれるリリー。

きっとアーニャは人の髪とか化粧とかいじるのが好きなんだろう。


アーニャ「いきましょうか」


リーダーのアーニャを先頭に新設ダンジョンへと入っていく。


アーニャ「見えたわ。あれが例のレリーフね」

マリー「男が近づくと目が光って攻撃してくるんでしたね」


ラウンドシールドを掲げたアーニャがそろりと近づく。

レリーフに変化は見えない。

手足はないが、ゴーレムの1種だ。

男が入ってきたら攻撃するよう命令されている。


アーニャ「大丈夫そうね」


しかし、リリーが近づくとレリーフの目が光る。


リリー「なんだと!?」


リリーが盾を構える。

レリーフから射出された物体がコツンと軽い音を立てる。


マリー「どんぐり?」

リリー「どんぐりだと?」


見下ろすリリーのこめかみに2個目のどんぐりが命中する。


リリー「ぶち壊す」

アーニャ「落ち着いて、リリー。石造りの仕掛けを壊すのは骨だわ。障害にならないなら無視して進むわよ」

リリー「わかったよ。だが、ここのダンジョンマスターは殴る」


すまん、リリー。

ゴーレムの認識能力には限界があるようだ。


アーニャ「ええ、そうしましょう。マリー、リリーについてきて」

マリー「あ、はい」


等間隔で射出されるどんぐりをリリーが盾で弾きながら進む。

マリーと呼ばれた淡い栗毛の魔法使いがその後ろに従う。


マリー「けど、これだと私がどう認識されてるかわかりませんね」

リリー「マリーはどう見ても女だろ。ま、次で試してみようぜ」


レリーフの真下まで来たところでどんぐり攻撃は終了した。

角を曲がると、再び正面にレリーフが現れる。


リリー「どうする?マリーで試してみるか?」

アーニャ「確認したいところだけど、さっきのどんぐりが警告で、次は本気の攻撃という可能性もあるわ」

マリー「どうしましょう?」

アーニャ「まず私がいくわ。リリー、盾を貸してくれる?」

リリー「わかった、気をつけろよ」


リリーのちょっと重そうな盾を構えたアーニャが進む。

レリーフは反応しない。

アーニャは少し戻ってからマリーを呼ぶ。


マリー「大丈夫でしょうか」

アーニャ「レリーフの目が光ったら、すぐに戻るか盾の影に隠れるのよ」

マリー「はい」


マリーが恐る恐る通路を進む。

レリーフはやはり反応しない。

アーニャはそのままマリーをレリーフの真下まで送り届ける。

そして曲がり角まで戻って盾をリリーに返した。

冒険者ってのはいつもこんなことをしているのか?

俺が言うのもなんだが、面倒なものだ。


アーニャ「悪いけどリリーは強行突破ね。気をつけて」

リリー「ああ。だが、アーニャは先に行ったほうがよくないか?攻撃のスイッチが入ったら仲間も一緒に攻撃されるかもしれない」

アーニャ「確かにその可能性もあるわね。悪いけど先に行かせてもらうわ」


元のラウンドシールドに持ち替えたアーニャが通路を渡りきる。

続いて盾を構えたリリーが通路に進入する。

レリーフの目が光り、鋼鉄の矢がリリーの頬を掠める。

1射目は警告だ。


アーニャ「リリー!戻って!」


アーニャの言葉を待つまでも無く、リリーが素早いバックステップで曲がり角に戻る。


リリー「バリスタかよ!こんなの何発も撃たれたら盾が持たない!」

マリー「リリー!胸当てを外してみてはどうでしょう?」

リリー「胸当て?なんでだ?」

マリー「入り口には『男っぽい容姿』と書いてありました。つまり、外見で判断しているということです」

リリー「それが胸当てとどうつながるんだ?」

マリー「リリーはおっぱい大きいじゃないですか!」

リリー「な・・・」

アーニャ「試してみましょう。あなたなら目が光るのを見てから盾を構えても間に合うでしょう?」

リリー「やるしかねぇか」


リリーが鎧の胸当てをはずすと、立派な谷間が姿を現す。


なるみ「おっきーねー」

一樹「そうだな」


俺となるみ、アウラエルの3人は山頂の執務室のモニターで彼女らの様子を眺めている。

新設ダンジョンの動作確認だ。


リリーは胸当てを右脇に抱えた。

左腕は盾をすぐに構えられる位置で、胸が見えるように少し開いている。

リリーが警戒しつつじわじわと歩を進めるが、レリーフは反応しない。


アーニャ「大丈夫そうね。マリー、お手柄だわ」

マリー「いえいえ」

リリー「ここのダンジョンマスターはあれだな。女の敵だな」

アーニャ「そうね、殺しましょう」

マリー「単純にゴーレムの性能的な問題かもしれませんけどね」


そのとおりだ、マリー!

ゴーレムは俺やガーディアンたちのことはほぼ確実に仲間と認識できる。

ただ、それ以外についての識別能力はあまり高くないらしい。


アーニャ「どうだっていいのよ、そんなことは」

マリー「そ、そうですね」


3人は再び角を曲がり、3つ目のレリーフの前に出る。

こいつは通路いっぱいの火炎魔法を出すのだが、今回は反応がない。


マリー「女と認識されれば素通りできちゃうんですね」

アーニャ「そのようね」


ゆるくカーブした長い階段を降りると、少し開けた場所に出る。

行く手を阻むように横たわる広い溝には湯気が立ち込めている。

対岸には幅1mほどの足場があり、溝の中央には対岸まで飛び石が並んでいる。

溝の幅は約20m、飛び石同士の間隔は1mちょいと言った所。


対岸には岩壁が聳え立ち、その中央には通路らしき細い穴が見える。

それとは別に、こちらから見て右側の方にも人が入れそうな穴が開いている

右側の穴からは湯が流れ出し、小さなプールを経由して溝に流れ込んでいる。


アーニャ「『重量制限あり。一切を身に着けず体一つで渡るべし。大柄な者は引き返すべし。』か。ご丁寧に棚と籠まで用意してあるのね」

マリー「裸で進めということですか。なんだかお風呂みたい」

アーニャ「未知のダンジョンで全裸は遠慮したいわね」

リリー「そうすると、あれは浴槽なのか?」


リリーが対岸右側のプールを指差す。


アーニャ「女性専用の浴室ということなら、男を排除するというのもわからなくは無いけれど」

リリー「俺も排除されかけたけどな」

アーニャ「ええ。それに大柄な者は不可というのも意味が分からないわ」

リリー「この足場、体重かけると沈むな。ギルドの情報どおりだ」

アーニャ「鎧のまま進むと、最初は少しだけ、途中で急に深く沈むようになるんだったわね」

マリー「ギルドの情報によると『沈んだあとで水が赤く染まり、そのまま上がってこなかった』と」

リリー「水中の人食いモンスターか、厄介だな」


ちなみに後半の飛び石の沈み込みが攻撃のトリガーだ。

単に足を滑らせて落ちただけなら攻撃されない。


アーニャ「男女の識別に難はあったけれど、一応は指示に従っている限りは安全ということみたいだから、重量オーバーしない限りは大丈夫なんじゃないかしら?」

マリー「じゃあ指示通り体一つで?」

アーニャ「ここでいう『大柄な者』が具体的にどの程度かは分からないけど、私ならたぶん、剣1本分くらいの余裕はあると思うのよね」

リリー「じゃあ、俺はここで荷物番かな?」

アーニャ「お願いね。マリーは下着になって杖だけ持ってついてきて」

マリー「わかりました」


アーニャとマリーが背嚢を下ろし、手早く服を脱いでいく。


なるみ「いよいよだね」

一樹「そ、そうだな」


やばい、にやけていたか?

アウラエルを見ると画面を注視したままでこちらの表情に気づいた様子はない。

気づかない振りをしているだけかもしれないが・・・。


アーニャ「いきましょう」


下着姿になった二人が慎重に飛び石を進む。

身軽になった二人の体重ならば飛び石は沈むことはない。

対岸へ渡ると、正面の壁に横向きでないと入れない細い道がある。

ゆるくカーブした先から明かりが差し込んでいる。


アーニャが鞘のままの剣を通路に差し込み、壁や床をつつく。

罠などがないか確認しているのだろう。


アーニャ「壁面にあちこち穴が開いてるのが気になるわね。槍でも出てくるのかしら?」

マリー「ここから先はギルドにも情報がありませんでしたね。引き返しますか?」

アーニャ「難しいところね。『壁面に穴の開いた通路がありました』ってだけじゃ、情報収集依頼はたぶん未達成扱いよね」

マリー「そうですね。けど、命には代えられませんよ」


しばし逡巡する二人。


アーニャ「行くわ。この辺りで女だけのパーティーなんてあたしたちくらいだもの。どの道またこっちに依頼が回ってくるわよ」

マリー「大丈夫でしょうか?」

アーニャ「何でか知らないけど、女と認識されている限りは攻撃されないみたいだし大丈夫じゃないかしら?先に私が入ってみるわ。何かあったらサポートをお願い」

マリー「分かりました」


抜き身の剣を手にしたアーニャが通路に進入する。

壁の穴からぬるりとした何かがアーニャの肩に落ちる。


アーニャ「ひゃっ!なに?スライム?」


あわててアーニャが後ずさる。

二人がかりで張り付いた小さなスライムを引き剥がす。


アーニャ「今度は何が攻撃のトリガーだったのかしら?武器を持っていたから?」

マリー「これ、スカーフスライムですね。攻撃の意図はないのかもしれません」

アーニャ「スカーフスライム?」

マリー「ふけや垢だけを食べるスライムで、人体には無害なんです。美容目的で使われたりもするんですよ」


そういってマリーはスライムを自分の手に這わせて見せる。

さすがマリー、博識だ。


アーニャ「美容ね。ほんとに浴室のつもりなのかしら?」

マリー「そうかもしれませんね」


改めて剣を握りなおしたアーニャが通路に挑む。

スカーフスライムが壁の穴から出てきて肌に張り付いていく。


アーニャ「無害・・・なのよね?」

マリー「そ、そのはずです」


アーニャがかに歩きで細い通路を進んでいく。

突如、壁の穴から触手が飛び出し、身動きのとりにくいアーニャの四肢を掴んだ。


アーニャ「なに?」

マリー「アーニャ!」

アーニャ「武器を取られたわ。手足を掴まれて身動きできない」

マリー「アイスバレット!」


氷の弾丸がアーニャの左手を掴む触手を襲い、凍りつかせる。

しかし、氷は触手のうねりとともにあっけなく剥がれ落ちた。


マリー「きかない?」


狭い通路で仲間が捕まっている状況では炎や風系の攻撃魔法は使いにくい。

物理耐性と氷結魔法耐性は高めにしてある。


マリー「アーニャ、ウィンドカッター使うよ。ごめん、ちょっと痛いかも」

アーニャ「待って。拘束されてはいるけど、今のところそれ以上の攻撃はないの」

マリー「けど、このままじゃ・・・」

アーニャ「武器を持って入ったのがいけなかったのかしら?けど、武器を取り上げたあとも拘束を解かないのはなんで?一度ルールを破ったらやっぱり殺されるの?」

マリー「アーニャ!」

アーニャ「確かにこのままただ待ってるわけにも行かないわね。マリー、やって!」

マリー「わかった」

アーニャ「ひゃぁっ!」

マリー「アーニャ!?」

アーニャ「スライムが・・・スライムがパンツ食べてるの!」

マリー「あ・・・ほとんどのスライムは主に動植物の死骸を食べるの。だから、革製品とか毛織物とか木綿とかもよく食べるよ?」

アーニャ「そ、そうなんだけど・・・」

マリー「スカーフスライムが特異な点は、他のスライムは動けない動物がいれば生きたまま食べてしまうのに対し、生きているものはまったくといっていいほど食べない所ですね」

アーニャ「そう、なんだ?」


唐突なパンツ発言にマリーが素に戻っていく。

妙な沈黙があったあとで、触手がするすると穴に戻っていった。

装備全解除の完了だ。


ちなみに、ここまでなら『女装した小柄な男』でも入れるかもしれない。

しかし、脱がした時点で男と分かれば穴から杭が飛び出すようになっている。

スカーフスライムは生きた人体には無害だが、死体ならよく食べる。

変なことを考える男がでないことを祈ろう。


ここが公共の施設であったなら方々からクレームがつくかもしれないな。

しかし、ここは公共施設ではなく私有地内の私的な施設だ。

従って俺が恣意的に入場者を選別することに文句を言われる道理はない。

また、女たちも俺が招いたわけではないし、入っていいなんて一言も言ってない。

追い出されなかったからといって侵入者であることが否定されるわけではないのだ。

そして、施設の管理者としては侵入者を監視するのは至極当然の事だろう。


かなり屁理屈っぽいことは否定しないが、間違いとも言えないはずだ。

少なくとも、奴らはダンジョンマスターという存在を知った上でダンジョンに入る。

ダンジョンにもぐる冒険者は自分が侵入者と認識した上で挑んでいるはずだ。

ならば、こちらもそのつもりで扱ってやろうじゃないか。

遠慮なく覗・・・いや、しっかりと監視しなくてはな。


アーニャ「素っ裸だわ」

マリー「アーニャ?」

アーニャ「剣も下着も全部取られちゃったわよ!なに?下着つけてたのがいけなかったの?」

マリー「えっと、怪我はない?」

アーニャ「ええ、相変わらずスライムが這い回ってはいるけど、どこも痛みは無いわ」

マリー「そう、よかった」


「よくない!」とでも言いたげな表情のアーニャだが、さすがに自重したようだ。


アーニャ「このまま奥を見てくるわ。素っ裸だもの、文句はないはずよね」

マリー「うん、そうだね。気をつけて」


アーニャが狭い通路を抜けると、広く明るい空間に出た。

入って右側には浴槽があり、桶や椅子なども用意されている。

奥には縄梯子や小さなトンネル、滑り台などが並んでいる。


アーニャ「なによ、これ?遊技場つきの浴室?親子向けなの?」

マリー「アーニャ!大丈夫ですかー!?」

アーニャ「平気よ!ここは安全みたい!」


通路越しに二人が声をかけあう。

マリーは少し迷ったものの、全裸になって通路に入っていく。


マリー「ひゃっ」

アーニャ「マリー?」

マリー「大丈夫です。ちょっとくすぐったいですね」

アーニャ「全裸でもスライムは出てくるのね」

マリー「ええ、でも拘束はされませんでした」


二人はお互いの体に張り付いたスライムをはがしあった。


マリー「この浴槽は安全なんでしょうか?」

アーニャ「変な穴もないし、モンスターが潜むような場所もなさそうね」

マリー「桶にロープがつけてあるのは盗難防止でしょうか?」

アーニャ「椅子も固定されてるわね。どちらも高価な品には見えないけれど」

マリー「お湯の温度はちょうどいいみたいですね」

アーニャ「入っちゃおっか。リリーには悪いけど、スライムのぬるぬるを落としたいのよね」

マリー「そうですね」


浴槽はかけ流しの温泉、といきたかったが、無いので温めた天然水だ。

「ルールに従う限りは安全」というこちらのメッセージは伝わったと思う。

あとはこちらの用意した餌に気づいてくれるかどうかだ。


マリー「変なところですよね。子供を連れて来て遊ばせろってことでしょうか?」

アーニャ「それにしては危険な仕掛けが多すぎよね。小さい子なら見た目が男か女か分からないなんてよくある話だし」

マリー「そうですね。飛び石を踏み外したらやっぱり死ぬのかな?それに、リリーの体重で沈むなら子供をおんぶした母親が乗っても沈みそうですよね」

アーニャ「そうよね・・・。あら?あのキノコ、売れるやつじゃない?」

マリー「マリョクタケ!マジックポーションの原料になるやつですよ!それにこっちはリュウゼンタケ!高級食材じゃないですか!」


四つんばいになってさっそく採取を始めるマリー。

どうやら餌には気づいてもらえたようだ。


アーニャ「マリー、あなた今裸なのよ?」

マリー「あ・・・・」

アーニャ「まあ、誰に見られてるわけでもないし、気にすることもないかしら?ちゃちゃっと集めちゃいましょ」

マリー「そ、そうですね」


雲梯や滑り台などがジグザグに入り組んだ空間に高級キノコが点在している。

さすがに冒険者なだけあって、二人は苦も無く縦横無尽に駆け回る。

といっても、4階層をぶち抜く高さ15mほどの立体アスレチックだ。

広さも浴槽のあるフロアで30m四方ほど、上の方は更に広くなっている。


アーニャ「この辺にしときましょうか」

マリー「私はまだまだ平気ですよ?まだ半分も探索できてないじゃないですか」

アーニャ「リリーをあまり待たせると悪いわ。それに、これ以上取ってもどうやって持って帰るの?」

マリー「そっか、そうでしたね」


ここには衣服はもちろん、皮袋も麻袋も持ち込めない。

キノコは両手に持てるだけしか持ち出せないのだ。

ただ、浴室の手前までなら袋くらいは持ち込める。

しかし、何往復もして袋をいっぱいにすれば、今度は重量制限にひっかかる。

飛び石の前まで往復するという手もあるが、そこまで頑張るならまあいいだろう。


アーニャ「指示に従う限りは無害なダンジョンのようだし、またいつでも来れるわ」

マリー「そうですね。ところで、帰りはまたあのスライムの穴なんでしょうか?」

アーニャ「せっかくさっぱりしたところだし、粘液まみれは遠慮したいところね」

マリー「ひょっとして入り口右側にあった浴槽はそのため?」

アーニャ「それなんだけど、実は向こうに『出口』って表示があったのよ」


『出口』の表示は入って右側のスロープにある。


マリー「これは滑り降りろということでしょうか?」

アーニャ「位置的にみて、飛び石を渡って右側にあったプールにつながってそうね」

マリー「これまでの流れから行って危険はないと考えていいんですかね」

アーニャ「私が先に行くわ。声をかけるから待ってて」


アーニャは両手にめいっぱいキノコを掴んだまま、器用にスロープに身を躍らせる。

数秒の滑走の後に水しぶきがあがったのは、想定通りの場所だった。


リリー「アーニャ?マリーか?無事か?」

アーニャ「二人とも無事よ!マリー!大丈夫だから降りてきて!」


アーニャの呼びかけに応じて、今度はマリーが水しぶきを上げる。


リリー「なんで二人ともまっぱなんだ?剣はどうした?」

アーニャ「後で話すわ。お土産あるわよ」

マリー「このスロープをよじ登ればいろいろ持ち込めるんですかね?」

アーニャ「やめたほうがいいわ。『逆行禁止』って書いてある。どんな罠があるか分からないし、キノコのために命までかける気はないわよ」

マリー「ほんとだ。そこそこレアなキノコだけど、持ち出せる量が少ないから稼ぎとしては微妙かな?」

アーニャ「そうね。でも、ノーリスクと分かっていれば探索時間も大してかからないでしょうし、魔界に来たついでの小遣い稼ぎくらいにはなりそうね」


合流した3人は帰途についた。

こちらの想定通りの感想を持ってもらえたようだ。

ローリスクで稼げるが、一攫千金というわけでもない。


先ほど話にも出ていたが、死人が出たのは飛び石のある溝の所だ。

水中に潜んでいるのは触手モンスターと100匹ほどの人食いウナギ。

溝の壁面には小さな横穴が無数に開いていて、人食いウナギはその中に潜んでいる。

触手モンスターは本体が壁の中に隠れていて、穴から触手だけ出して侵入者を捕らえる。

そういった状態なので水中に向けて攻撃魔法や矢を放ったとしても効果は薄いだろう。

常時新しくお湯が流れ込んでいる状態なので、沸騰させたり凍らせたりも難しい。


とはいえ、『聖騎士』の跳躍力なら飛び石を使わなくとも溝を跳び越せるかもしれない。

男を排除しようとするゴーレムや触手モンスターを倒すことも可能だろう。

だが、その先にあるのはダンジョンコアではなく、お風呂とちょっとお高いだけのキノコだ。

しかも、そのキノコは女を派遣すればほぼノーリスクで回収できる。

そんな場所に、わざわざ『聖騎士』や高レベル冒険者が命がけで挑もうとするだろうか?


アウラエル「想定通り、問題なく機能しているようですね」

一樹「そうだな。あとはこの報告を受けた冒険者ギルドが、このダンジョンの踏破禁止令を出してくれれば計画は成功だ」


女冒険者にしてみれば、ほぼノーリスクで小遣い稼ぎができるおいしいダンジョンだ。

加えて各種ポーションの重要な原料の1つであるマリョクタケの存在。

採れるのはダンジョンやドラゴンの巣など、基本的に危険な場所が多い。

それゆえに供給が不安定で価格も高くなりがちだ。

不定期とはいえ、採取可能な場所は1つでも多く確保しておきたいはず。


「あのダンジョンは潰すな」「掲示に従い男は入るな」

そういう要求が女冒険者、冒険者ギルド、アルケミスト等から出るのではないだろうか?

それが今回の『えろえろダンジョン』の狙いなわけだが、うまくいってくれると嬉しい。

場合によっては俺のほうからもそういう風に誘導してみよう。

いや、そういうのはアウラエルとかに任せたほうがいいかな?


アウラエル「そのためには『継続的に』稼げるダンジョンという評価が必要になりますね」

一樹「そうすると、もうしばらく時間がかかるか」

アウラエル「そうですね。機会があれば働きかけてみますが、我々は無関係という建前で行くのであればあまり積極的には動けません」

なるみ「じゃあ、入ってきた冒険者の観察はしっかり続けないとだね」

一樹「ん、ああ。そう・・だな」


自分で作っておいてなんだが、どうにも目のやり場に困る。

いや、俺の趣味が多分に入っていることは認めよう。

気になるのは後ろの二人の視線か。


アウラエル「問題が見つかったときにダンジョンの改修ができるのは主様だけですから、主様が直接観察するのが一番ですね」

一樹「わかった、そうしよう」

アウラエル「今回の『えろえろダンジョン』の概要は把握できましたので、私は次回から席を外してもよろしいでしょうか?」

一樹「ああ、もちろんだ。問題ない」

アウラエル「ありがとうございます」


顔に出てたか?

アウラエルはたまに心を読まれてるようで怖い。

いや、この程度は表情を読むまでもないか。


なるみ「かずきおにぃちゃん、なるみも次回から席外したほうがいい?」


なるみまで、だと?


一樹「そこはどちらでも大丈夫だ。なるみの好きなようにしてくれ」

なるみ「はーい。じゃあ、次回も一緒にみようね」

一樹「ああ、そうだな。そうしよう」


今回は見つけてもらえなかったけど、立体アスレチックの中から更に地下にいける。

そこは30m四方の温水プールになっていて、深さは2.5mほどもある。

底はでこぼこになっているが、怪我をしないように角はしっかり丸めておいた。

そのでこぼこの床のあちこちにコインや魔石を忍ばせてある。

次の訪問者にはぜひそちらも探索して欲しいものだ。もちろん、全裸で!

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