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第53話 カミツキウサギ

アネモネ「カミツキウサギの巣ですが、入り口が4箇所確認できました」


風呂場に入ってきた狩猟人のアネモネが全裸で報告を始める。

女性型ガーディアンからの報告はなぜかしばしばこういう形を取る。

そういえば、最初にエロい挙動を始めたのもアネモネだったか。


一樹「それは中で繋がっているということか?」

アネモネ「確認はできていませんが、まず間違いなく繋がっていると思われます」

一樹「4箇所か。うまく人を配置しないと逃げられてしまいそうだな」


ローズやパンジーたちと比べるとやや締まった体つきだ。

おっぱいも小ぶりだがなかなかいい形をしている。


アネモネ「現時点で確認できたのは4箇所ですが、実際はもっと多いと思われます。大きな巣ですと10箇所以上の入り口があることも珍しくありません」

一樹「全て確認するのにどれくらいかかる?」

アネモネ「2週間ほどあれば9割程度は押さえられると思いますが、全てとなると見当がつきません。ウサギもできるだけ見つかりにくい場所に入り口を作りたがります」

一樹「そうか」

アネモネ「駆逐するものと思っていましたが、殲滅をお望みでしょうか?」

一樹「追い払って済むものならそうしたいが、戻ってきたりはしないのか?」

アネモネ「可能性はなくはありませんが、用心深い魔物ですので怖い思いをした場所に戻ってくることはあまりありません」


無用な殺生は控えたいし、生態系への影響も最小限に抑えたい。

食べる分だけ捕まえて、あとは追い払って済むのならその方向で行こう。

残る問題は、燻し出したカミツキウサギが村の方へ行くのをどう防ぐかだな。


アネモネ「今回はウサギが嫌う臭いの草を焼いて燻し出そうと考えています。臭いは2週間ほど巣穴にこもりますので、その間に巣をつぶしたり入り口を石で塞ぐなどの対策も可能です」


いつの間にか小ぶりなおっぱいが俺の顔に触れんばかりに迫ってきている。

直立していたアネモネが身を乗り出してきたのか?


一樹「ああ、では追い払う方向で行こう」

アネモネ「はい。村に近いほうの入り口から煙を炊けば、森の奥の方へ追い出せるでしょう。少し離れた場所で新たに巣穴を作るはずです」


再び元の直立姿勢に戻ったアネモネが笑顔で説明を続ける。

生産系ガーディアンたちの表情は基本的にいつも笑顔だ。

だが、さっき見上げた顔は笑っていなかったように見えたな。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


村長に作戦を説明すると、件の草は村人たちが集めてくれた。

その間にアネモネは新たに2つの入り口を発見する。

6つの入り口のうち、村に近い2箇所から煙を流すことにした。

村側が少し標高は低いから、きっとうまいこと巣の中に拡がるだろう。


カミツキウサギは体長50cmほどのやや大型のウサギだ。

基本的に臆病な魔物で、積極的に人を襲うことは滅多に無い。

だが、脅かしたり巣に近づき過ぎると噛み付いてくることがある。

致命傷になることはまず無いが、その前歯は腕を貫通することもあるそうだ。


カミツキウサギが村側に流れるのを防ぐため、剣士を10人動員する。

更に4人のアーチャーを加え、まずは横一列で進んで山の方へ追い立てる。

村人には秘密だが、左右の茂みの中ではゴブリン30体も包囲網を補っている。


ウサギは始めの内は追われれば追われただけ逃げていく。

しかし、巣穴が近づくと逃げるのを止め、後ろ足で地面を叩いて威嚇を始めた。

表情は険しいが、よく見ればなかなか可愛らしい顔をしている。


更に歩を進める。

数匹が威嚇を止めて巣に逃げ込む。

ついに残った数匹が襲い掛かってくる。

いや、襲っているのはこっちか。


慎重に狙いを定めて顎を砕く。

肉と肝臓を頂くつもりだから、消化管と胆嚢は潰したくない。

前歯も売れるらしいが、そっちは硬いらしいから大丈夫だろう。


入り口前に残ったカミツキウサギを片付け、集めた草に火を点ける。

なんとも癖の強い臭いが拡がっていく。


カミツキウサギの動きは意外と素早かったな。

素の俺の能力では対応できずに噛まれまくっていただろう。

ダンジョンの魔力でスピードと動体視力、思考速度を強化して対応した。

こっちの世界の冒険者なら普通に対応できるんだろうか?


不意に横の茂みが揺れる。

身をよじって「何か」の軌道から体をそらしつつ、飛び出してきたものを叩き落す。

続けてガサガサと茂みがゆれ、十数匹のカミツキウサギが飛び出してくる。


一樹「抑えろ!村に流すなよ!」


巣の入り口が村側にまだ残っていたか。

山側の入り口から逃げてくれれば殺さずに済んだものを。


背後に控えていたジェシカとエイミーたちが応戦する。

もとよりこういう事態のために連れて来た戦力、特に慌てることなく対応している。

後ろに逃さない事が最優先だが、できれば可食部を潰さないようにお願いしてある。

ビキニアーマーの剣士たちは淡々とカミツキウサギの首を切り飛ばしていく。

彼女らにとっては特に苦戦するような相手ではないようだ。


仕留めたカミツキウサギは後方の村人たちに渡し、村まで運んで捌いてもらう。

毛皮は冒険者ギルドに買い取ってもらい、前歯はこちらで取って置く事にした。

解体手数料代わりに、肉と肝は村人とギルド職員で食べていいと言ってある。


ウサギたちの突撃が止むと、数人の剣士を見張りに残して撤退する。

ウサギはそこそこの数が取れたはずだから、一晩じゃ食べ切れないだろう。

塩漬けか干し肉か・・・保存方法は村人の方が詳しいだろうから心配は無用か?

そういえばダンジョン内の温度湿度は調整できるんだったな。

冷凍庫にできるだろうか?冷凍庫って-18度だっけ?-24度だったかな?


一樹「なるみ、ダンジョンの温度ってどれくらいまで下げられるんだ?」

なるみ「魔力消費を気にしないなら、-200度くらいはいけるよ」

一樹「棚1つ分くらいのスペースを常時-20度を維持・・・あ、冷凍庫って分かるか?」


そういえばなるみはなぜか俺の地球での生活を知ってるんだよな。


なるみ「うん、確か家庭用の冷凍庫で-18度だったよね」

一樹「小さなクローゼット1つ分のスペースを常時-18度にするとかだと維持コストはどうなる?」

なるみ「維持コストは100リットル当たり1日1000ポイントくらいだね」


剣士型ガーディアン2人分か。

安くはないが、今の魔力収支なら特に気にするほどのコストでもないな。

村人たちがウサギ肉をもてあますようなら引き受けよう。


撤退した剣士たちを拠点の地下に戻し、俺は村唯一の宿屋に向かう。

扉を開くと、解体作業を既に終えた村人たちが宴会の準備をしていた。

この宿屋はもうすぐ取り壊し予定だから、ここでは最後の宴かもしれない。

床に残る赤黒い染みも、遠からず薪にでもなって消えるだろう。


アビー「一樹様、おかえりなさーい!」


事務員風の服にウサ耳の髪飾りを付けたアビーが出迎える。


一樹「なんだ?まだ始めてなかったのか?」

アビー「そんな薄情な事しませんよ。ささ、座ってください」


勧められるまま中央の席に座ると、今度はアデーレが酒を手に寄って来る。

やはりウサ耳を付けたアデーレは、俺にグラスを渡して酒を注いでくれた。

なぜか着たままのコートの胸元から、先日のビキニらしきものが見える。

俺の前だからあの格好でないといけないとでも思ったのだろうか?

ところがアビーが普通(?)の格好だから慌ててコートで隠したのだろう。


アビー「では僭越ながら!カミツキウサギの駆除成功のお祝いと、迅速に対応してくださった領主一樹様への感謝を込めてかんぱーい!」

村人たち「かんぱーい!」


乾杯と同時に以前もきいた牧歌的なメロディーが奏でられる。

今回は笛や打楽器の様な物もいくつか加わっているようだ。


村長「今回は本当に助かりました。それにしても陳情からわずか2日での解決とは驚きました。バルバス男爵の治世であれば何ヶ月待たされたことやら」

一樹「優秀な部下のおかげだな。まだ村が小さいからってのもある。次回も同じようにできるかは分からんが、問題があったときは早めに相談してくれ」

村長「承知しました。心強いお言葉に感謝します」


実際、今回の件は狩猟人のアネモネの活躍に拠る所が大きい。

それはそうと、住民からすると俺はバルバスの代わりって事になるのか?

奴を殺した事を後悔はしていないが、俺は政治の勉強をしたことはない。

俺は統治者として、貴族生まれのバルバス以上の存在足りうるのだろうか?


女将「お待たせしました。まずは腿肉のバターソテーです。お口に合うといいのですが」

一樹「いい匂いだ。頂こう」

女将「本当は何日か熟成させたほうがおいしいんですよ。よかったら後日またいらしてくださいね」

一樹「そうか。楽しみにしておこう」


同じ料理が次々と他のテーブルにも運ばれていく。

レアの肉は柔らかく、ナイフを入れると赤みがかった肉汁がこぼれた。

添えられている小さな葉っぱは間引きした野菜の芽だろうか?

まだ少ないが、新鮮な野菜も食べられる時期になってきたようだ。


アビー「それにしてもすばらしい腕前ですねー。胴体部分に矢傷や切り傷がなかったんで、毛皮の査定額は最高値でつけられますよ」

一樹「それはよかった。だが、変な気遣いはしないでくれよ?他の人間と同じように査定してくれ」

アビー「大丈夫です。文句なしに最高の状態ですよ。あれなら欲しがる職人は多いはずです」

一樹「そうか」


今度はバラ肉の香草焼きが運ばれてくる。

目の前で肋骨と平行に切り分けられ、数本ずつが配られていく。

肉自体は少ないが、旨みと脂の甘みがたまらなくうまい。


女将「さて、お待ちかね!カミツキウサギの炙り肝、冒険者風でございます」

アビー「待ってましたー!」

一樹「冒険者風か」

女将「生憎とレシピが出回って無いんですよ。臭み抜きはしっかりやって、あとはシンプルに塩を振って炭火で炙ってみました」

一樹「なるほど、美味そうだ」


人数も居るので2切れほど肝が刺された串が配られていく。

舌の上でほろりと溶けるように崩れる肝は臭みもなくまろやかな味わいだ。

微かにブランデーのような香りもするが、臭み抜きの酒として使ったのだろうか?


アビー「美味しい!冒険者ってこんなのいつも食べてるんですねー」


冒険者が食べてるのはたぶんもっと生臭さが残ってるんじゃないかな?


アビー「アデーレ、どう?おいしくない?」

アデーレ「はい、美味しいですね」

一樹「確かに美味い。これはまた捕まえたくなるな」

アビー「ぜひお願いします!楽しみにしてますよー!」

一樹「うむ!承知した」


他の村人たちの表情を見たところ、今日の料理はなかなか好評のようだ。

美味い肴のおかげで酒も進むらしく、談笑の声が暖かく室内を満たしている。


少年「いらねーって言ってんだろ!」


揉め事か?なにやら十代半ばくらいの少年の声が響く。

やや赤みがかった顔をみると、どうやら少し酔っているようだ。

この世界では15歳で成人だし、飲酒の年齢制限もないらしい。


少年「あいつが来なきゃ無理に開墾を急ぐ必要も無かったんだ!感謝する道理なんてねーだろ!」

婦人「ルーク、やめなさい!」

少年「せっかく作った畑も取り上げられて、今開墾してる畑だって、あいつの物になるんだろう!?」

婦人「ルーク!」


参ったな、聞か無かった事にしたい。

けど、そういうわけにも行かないんだろう。

こういうのを聞き流してうまく言った試しは無かった。

もっとも、今までの例と違って今回は向こうに理がありそうだけどな。


俺はゆっくりと立ち上がる。

場の空気が凍り付くのを感じる。

さて、どう声をかけたものか?

どうにも考えがまとまらない。


突如、横から飛び出してきた男が少年を張り倒す。

そのまま少年の頭を押さえてすぐ横で平伏する。


男「申し訳ありません!私の育て方が間違っておりました!子の不始末は親の不始末。罰は私がお受けします」


少年の父親か、助かった。

変に怖がられている感じはさすがに傷つくが、今は都合がいいか。


一樹「心配せずとも罰するつもりは無い。ただ、もう一度確認しておくぞ。ここが魔族の土地であるという事について改めて論を交わすつもりはない。異議があるならば戦いによって決する事になるだろう」

男「はい、滅相もありません」

一樹「先代が守ってきた森を切り開くのは不本意ではあるが、お前たちの言い分も分からなくは無い。俺に従って生きるなら、飢える事の無い暮らしが出来るよう俺も力を尽くそう。それでも不満だというのなら、人間族の王の下に戻るがいい」

男「寛大なお心に感謝します!どうか、このまま住まわせてください」


なにか言いたげな少年の頭を押さえ付け、男が改めて頭を下げる。


一樹「下がって手当てをしてやるといい。今後どうするかは、親子でよく話し合って決めるように」

男「ありがとうございます!失礼いたします」


男は少年の口を塞ぎながら後ろから抱えて退出する。

ルークと言ったか?少年はまだ言いたい事がありそうだ。


ここの領有については俺自身もあまり納得できていない。

その状態で議論をしたところで、説得するのは難しいだろう。

だが、こちらも命がかかっている以上、多少の無理も通さねばならない。

街など作ろうとせず、ただの敵のままで居たほうが楽だったのかな?


村長「すみません、お騒がせしました。ささ、どうぞお席へお戻りください。お前たち、ほら音楽だ!」

一樹「いや、俺が居てはやり難いだろう。ウサギの肉は全て好きにしていい」

村長「いえいえ、そのようなお気遣いは無用です。どうか楽しんでいってください」

一樹「いや、今日はもう疲れた。休む事にするよ」

村長「そうですか。おい、領主様がお帰りだ!お疲れ様です!本日のウサギ退治、ありがとうございました!」


村人たちに拍手で見送られ、俺は手を振って応えながら退出する。

この世界では戦争で支配者が変わることはよくある事と言っていたか。

果たして俺は領主として彼らを納得させる事ができるのだろうか。

自分でも納得できないまま相手を説得するなんてのはクレーム対応ではよくあった事。

俺ももっとディベート力を磨いておくべきだったかな。


いや、俺の命もそうだが、そもそもはなるみの命と相続権を護るための戦いだ。

一応の道理はあるはずだし、納得できなくても勝手に投げ出していい物でもない。

ディベート力もあるに越した事は無いが、最後は力で応じる事は変わらない。

早く開拓を一段落させて、メインダンジョンの防衛力強化に取り掛かろう。

村人たちとの確執は、時間をかけてゆっくりと解消させていくしかないだろう。



翌朝早く、ルーク少年は村を出て行った。

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