第52話 賞金首
集合住宅が完成したので、開拓村の住民の引越しを進めていこう。
1階は単身用のワンルームが48部屋、2階はファミリー向け16部屋だ。
家賃は広さなどで多少差をつけるが、1階が銀貨5枚、2階が10枚を基準とする。
今までの感じだと銀貨1枚が5000円くらいみたいだし、安いんじゃないかな?
領民以外が借りる際には人頭税代わりに1人銀貨2枚を追加することとした。
この辺はインフラ維持費の財源にするつもりだ。
おそらく、領内の住民はうちの領民より王国臣民の方が多くなるだろう。
領民からの税収だけでは心許ないし、なにより税負担が公平さを欠く事になる。
同様の理由からホテルでは宿泊税を1人一泊銅貨2枚を徴収する。
部屋割りと町内会的な自治組織の運営を村長にお願いする。
そして、契約者情報の管理や集金などはクリスにお願いする。
ローゼンヴァルト公爵家は非公式に俺の領有を認めてくれてはいる。
だが、王国の内部向けの建前としてはここは公爵家の直轄領だ。
だから実務は公爵家が派遣する文官たちがやらなければ格好がつかない。
そして、俺には領を運営するための人材の当てがない。
そこで、クリスを筆頭に公爵家の配下が俺の指揮下に入ることになっている。
一応、お互いにwin-winの契約ではあるはずだが、いろいろと不安も残る。
公爵家の領地ということを既成事実化され、なし崩し的に奪われる可能性はないか?
『魔族』やダンジョンの情報を収集され、今後攻略に利用される可能性はないか?
エイミー’「一樹様、面会希望者です」
一樹「だれだ?」
エイミー’「冒険者ギルドのアビー氏一行です」
一樹「わかった。通してくれ」
裏切られる前から心配ばかりしても始まらないが、裏切られてからでは遅い。
だが、統治に必要な人材として信用できる者を用意できないという事実は変わらない。
人間族との全面対立を避けるためにも、当面は公爵家の顔も立てないといけない。
結局、用心しつつ彼らにお願いするしかないのだろう。
アビー「こんにちはー!アビーちゃんでっす!」
一樹「ああ、こんにちは」
あれ?こんなに軽いノリだったかな?
俺としてはこういう感じで付き合いたいが、領主としては舐められるのも問題だろうか?
領民たちはむしろまだ萎縮気味な感じだし、今は距離感が縮まるのを歓迎すべきかな?
アビー「また衣装をブラッシュアップしてみました!どうでしょう?」
一樹「いいね、かわいいんじゃないか?」
こちらにお尻を向けてポーズを取るアビー。
村の制圧時になるみが見せた「魔族風」ビキニだ。
前回より布面積が小さくなっている気がする。
かわいいというよりエロいかもしれない。
まあ、胸もお尻も小さいせいか、いやらしい感じはしないかな。
アビー「ありがとうございます!今回は尻尾にちょっと拘って見たんですよ」
よく出来ているが何が変わったんだ?質感?形状?
一樹「なるほど、いい出来だ」
アビー「ありがとうございます。では、そろそろ本題に入りますね。今日はいくつかご報告があります」
一樹「聞こう」
アビー「今回改めて開拓団が入るということで人も増えますので、冒険者ギルドの開拓村出張所にも応援がきました。ご紹介します、アデーレちゃんです!」
アデーレ「し、失礼します」
扉の影から同じ衣装を身に着けた女の子が入ってくる。
歳はアビーと同じくらいだろうが、立派な胸がこぼれそうだ。
ひどく緊張して見えるのは衣装のせいか、『魔族』のせいか?
アビーがやけに軽いノリだったのはこの子の緊張をほぐすためだろう。
アデーレ「この度こちらの冒険者ギルドで働くことになりましたアデーレです。よろしくお願いします」
一樹「よろしく頼む。あー、その衣装だが、無理に着なくてもいいんだぞ?」
アデーレ「いえ、大丈夫です!友好の証として着させて頂きます!」
一樹「そ、そうか」
やり方にも依るが、衣装や習慣を真似るのは敬意や友好のアピールとして有効だろう。
あれを『魔族』の標準と思ってもらうのも困るが、今指摘するのはまずいか?
後日改めて説明するとして、今は気持ちを受け取っておくべきだろう。
アデーレ「すみません、似合いませんよね」
一樹「いや、そんな事はない!かわいいよ」
アデーレ「ありがとうございます」
一樹「我が領へようこそ!歓迎する」
俺が右手を差し出すと、アデーレはおずおずと握手に応じた。
どうにもぎこちないが、『魔族』と人間族なら殺し合いにならないだけ上々か。
アビー「では次にお問い合わせ頂いていた懸賞金の件ですが、確かにプライベート・ブラックという方に金貨50枚の懸賞金がかかってますね」
アビーが差し出してきた羊皮紙には、なにやら恐ろしげな魔物が描かれている。
懸賞金を出したのはバルバス男爵家、「生死問わず」か。
バルバスは殺したはずだが、息子辺りが家を継いだのだろうか?
アビー「戦闘の影響でうちの出張所への通知が遅れていたようです。お知り合いですか?」
一樹「いや、顔を見たことくらいはあるが知り合いというほどでもないな。一応魔界の辺境を守る仲間ではある」
実際は俺がそのプライベート・ブラック本人だ。
冒険者なんかと戦うときは、仮面をつけて別人として振舞う事にしている。
アビー「では、こちらの掲示は差し控えたほうがよろしいですね」
一樹「そうだな。だが、それで立場が悪くなるようなら掲示して構わない。皆が居る前で俺が剥がしに行こう」
アビー「大丈夫です。あちらのお尋ね者がこちらでは英雄、なんてのはよくある事ですので」
一樹「そういうものか」
冒険者は定住しない者が多いという話だったな。
ならばそのギルドの活動範囲もそれなりに広いということだろう。
アデーレ「あの・・やっぱり、強いんでしょうか?」
一樹「ん?」
アデーレ「金貨50枚というと、1人なら1~2年は遊んで暮らせる額ですので」
一樹「どれくらい強いかまでは知らないな。知っていても話せない。防衛機密だ」
アデーレ「そうですね、失礼しました」
一樹「まあ、とりあえずこの間のトネールとかいう奴よりは強いんじゃないかな」
アデーレ「トネール様より?」
これも嘘だ。
戦ったのが平地だったなら?事前に他の『聖騎士』の戦いを見ていなかったなら?
奴と再戦したとして、今度も勝てる自信は全く無い。
アデーレ「失礼しました!ト、トネール、よりは強いのですね」
変な間が入ったせいで要らぬ心配をさせてしまったようだ。
一樹「気にしなくていい。奴らは王国の守護者なのだろう?」
アデーレ「はい」
一樹「奴等が王国内に留まっている限りはこちらも手を出すつもりはないし、相応の敬意も払うつもりでいる。ただ、無断で『魔界』に立ち入ったのならそれはただの侵入者。それだけのことだ」
アデーレ「はい、承知いたしました」
アビー「ではでは、次に移ってよろしいですか?」
一樹「ああ、頼む」
アビー「開拓村の皆さんからお願いがあるということです。お入りください!」
アビーの声に応じて3人のビキニ姿の少女が入ってくる。
少女たち「こんにちは」
一樹「こんにちは」
少女たち「せーの、如何でしょう?」
3人の少女たちがこちらにお尻を向けてポーズを取る。
背面にはアビー達と同じように羽と尻尾がつけられている。
後ろではアデーレが恥ずかしそうにポーズを取っている。
対照的にアビーは嬉々として再びポーズを取っている。
一樹「ああ、みんなよく似合っている。かわいいよ」
少女たち「ありがとうございます」
お尻を向けるのは衣装の特徴的な部位が背面に集中しているからだろうか?
なぜか嬉しそうなアビーはおそらく地球で言うところのレイヤー気質なのだろう。
あれ?彼女にはあれが『魔族』の正装や民族衣装でないことを既に説明したはず。
自分はともかく、なぜわざわざアデーレの緊張が高まるようなことをしたのだろう?
まさか、俺をだしにして同僚を自分の仮装趣味に引きずり込むつもりか?
少女1「お願いがあります」
少女2「村の近くにカミツキウサギが出ました」
少女3「退治してください」
少女たち「お願いします」
一樹「ウサギ?」
イノシシやノウサギなんかが農家を悩ませているのはこっちも同じか。
アビー「魔界側での呼称は存じ上げないのですが、この山脈周辺に生息する大型のウサギのことです」
一樹「ウサギの対応なら農家のほうが慣れているんじゃないのか?」
アビー「基本的には臆病な魔物ですので通常ですと簡単に追い返せるのですが、今回は開拓予定地に巣が見つかりました。巣に近づきますとさすがに反撃してきます」
一樹「なるほど」
どの程度の大きさか知らないが、カミツキウサギというくらいだから気性が荒いのだろう。
それに巣が畑の近くとあってはいくら追い払っても切がないか。
アビー「冒険者ギルドとしても依頼は受理しているのですが、巣をつぶすということなら2パーティー以上の中規模作戦になります。人を揃えるのに時間がかかりそうでしたので、領主様への相談を提案しました」
一樹「わかった。なんとかしてみよう」
アビー「ありがとうございます」
政策として開拓を推し進めている以上、ここは領主として当然対応すべき所だろう。
大型のウサギということだが、農民が追い払えるということだから中型犬サイズくらいか?
巣穴には入れないからやり方は考えないといけないが、その辺はアネモネに相談してみよう。
少女1「ウサギ食べたい」
一樹「ほう、うまいのか?」
少女1「うん」
アビー「お肉のほかにも、毛皮と前歯は買取できますよ」
一樹「前歯?」
アビー「カミツキウサギの前歯は鋼鉄並みに硬いんです。小さいので鏃くらいにしか使えませんが、魔力を通しやすい事と鉄の臭いがしない事から好む人も多いみたいですね」
一樹「なるほど」
アビー「ところで一樹様、私は肝が食べたいです」
一樹「肝か」
アビー「はい、おいしいらしいのですが、痛みやすいので出回ることはまずありません。冒険者の特権といわれています」
今回は珍しく村の目と鼻の先、村に居ながら口に出来るチャンスというわけか。
開拓予定地までは100mちょいだから、傷む前に届けられそうだな。
アビー「アデーレも食べたいそうです」
アデーレ「へ?い、いえ、私はけっこうです!」
唐突に名前を出され、慌てたアデーレの胸が大きく揺れる。
アビー「この間食べてみたいって言ってたじゃない」
一樹「そうなのか?」
アデーレ「あ・・・はい。でも、領主様のお手を煩わせるようなことでは」
一樹「いいさ、もののついでだ。それに、殺すならせめて無駄にせぬようにしっかり食べたほうがいい」
アデーレ「は、はい」
アビー「やったー」
少女2「やったー!」
アデーレがカミツキウサギの肝を食べたいというのはどこまで本気なのか。
あの様子だと、アビーか冒険者の話に相槌を打っただけなのかもしれない。
いずれにしても、彼女が打ち解ける機会になってくれるとあり難いけどな。
あとは村人たちの陳情が未だビキニ少女経由なのも気になるところだ。
まあ、これまでの経緯を考えれば態度が硬いのも無理はないのだけどね。
村の問題を解決し、肉と肝を振舞えば少しは態度を軟化させられるだろうか?
普段から一緒に野良仕事をしてはいるが、ここでまた協力姿勢を見せておこう。




