第38話 ギルド
アウラエルの偵察は、俺たちの砦に向かう王国軍の姿を捉えた。
彼女が街で集めた情報によれば、指揮官はヘーゼルホーヘン伯爵。
部隊規模はおよそ2000人で、聖騎士が1人参加している。
一樹「また聖騎士か。いったい何人いるんだよ」
アウラエル「『聖騎士』の加護を得られるのは6人までですね。先日1人が討たれましたので、後任が決まっていなければ5人のはずです」
枠があったんだ?いや、それより・・
一樹「『聖騎士』の加護?」
アウラエル「ええ。信仰篤く、剣技に秀でた騎士の中から選ばれた6人が星神ルシファーの加護を得て『聖騎士』となります。常人の域を遥かに超えた力を得ることができるようです。類似の加護に『賢者』と『聖者』がありますが、こちらは3人ずつですね」
ルシファー信仰って転生者がでっちあげたインチキ宗教じゃないのか?
先日見た聖騎士はジャンプ力だけ見ても確かに超人的と言える。
実際に存在し、現実に力を持っているということか。
一樹「厄介な話だな。仮に6人全員を倒したとしても、すぐにまた次が現れるわけか」
アウラエル「そうですね。もっとも、格式を重んじる教会が選考の儀だの任命式だので仰々しい儀式をやりたがるそうで、後任が加護を得るのに最低でも1年はかかるという話ですよ」
一樹「1年か。まあ、多少なりとインターバルがあるのはありがたい」
アウラエル「油断のならぬ相手ではありますが、そう気を病まれる必要はありません。超人的な力と言っても、今の主様に及ぶものではありませんよ」
王国トップクラスの剣技ってのは脅威だがな。
一樹「『賢者』と『聖者』ってのは来てないのか?」
アウラエル「私が調べた限りでは来ていないようですね。彼らは大規模な攻城戦でもない限り、なかなか前線にはでません」
『賢者』はこっちでは攻城兵器の扱いなのか。
それにしても『聖騎士』に『賢者』に『聖者』ね、まるでゲームか御伽噺だな。
一樹「ひょっとして『勇者』なんてのもいたりするのか?」
アウラエル「さすがは主様、ご明察です。『勇者』は『魔王』が現れたときに異界より召喚されると言われています。今はまだいないようですが、いずれは主様の前に立ちはだかることになりましょう」
一樹「いや、『魔王』とか目指す気ないから」
アウラエル「あら、そうでしたか」
ノワールさんがまだ『魔王』の称号を得ていないってのは本当っぽいな。
『勇者』を警戒して敢えて『魔王』にならずにいるのかもしれない。
エイミー’「失礼します。面会希望者です」
一樹「通せ」
エイミー’「はっ!」
周囲を警戒しているはずのなるみからの警告はなかった。
開拓村の村民からの陳情か報告辺りだろう。
女「失礼します」
入ってきたのはロングコートの若い女だ。
女「冒険者ギルド開拓村出張所を担当しているアビーと申します。よろしくお願いします」
一樹「新領主の一樹だ。よろしく頼む」
アビー「本日はその、お願いしたいことがありまして・・・」
ロングコートの襟を両手で持ったまま、なにやらもじもじしている。
そういえば、この手のコートって入り口で脱ぐのがマナーなんだっけ?
しかし、うちにはコートを預かる使用人の類はまだ置いていなかったな。
一樹「コートを預かろう。まだ使用人が揃ってなくてね」
アビー「いえ、大丈夫です!その・・・如何でしょうか!?」
バサッとアビーがコートの前を広げてみせる。
現れたのは大胆な黒の下着!いや、ビキニか?なぜ?
一樹「えっと、、よく似合ってると思う」
アビー「ありがとうございます。なるみちゃんの格好を真似してみたんです」
アビーはいそいそとコートを脱いで脇に抱えると、反転してみせた。
背中には小さな羽根、お尻には尻尾らしきものが縫い付けられている。
一樹「かわいいね。わざわざ作ったのかい?」
アビー「いえ、夏服に端切れで羽と尻尾を付けただけですので、作ったというほどではありません」
一樹「夏服?この辺の夏服ってそんな感じなのか?」
アビー「はい。上に軽く何か羽織ったりはしますが、ベースはこんな感じですね」
冒険者は男女ともに長袖&長ズボンだったけどな。
あれは藪の中やら洞窟やらを歩くためということか。
街中で夏になれば、こちらの女の子は大胆に肌を出してくれるようだ。
そういえばアウラエルもたまにパンツ見えてるのを特に気にする風でもない。
これはちょっと楽しみかもしれない。
一樹「それは・・・興味深いね。今日は、服を見せに来てくれたのかな?」
アビー「いえ、これはなんといいますが、敵意はありませんという意思表示です」
敵意、か。
俺たちダンジョンマスターにとって冒険者は主たる敵と言える。
アビーは歩み寄りの姿勢を見せるために、なるみの格好を真似して見せたわけか。
まあ、スパイでもない限り、普通は嫌いな奴らの真似なんてしたくないもんな。
一樹「共存を目指すということであれば歓迎しよう」
俺が差し出した右手を、アビーは両手で握り返した。
アビー「ありがとうございます。それで、今日はちょっとお願いがありまして」
一樹「なんだ?」
アビー「今はこの出張所に派遣されているのですが、一応王都の市民でして、一時滞在ということで村に住むことをお許し頂けないでしょうか?」
仕事のための一時滞在か。
この村は交易都市に、メインダンジョン周辺は観光地にしたいと考えている。
一時滞在や入国審査に関する制度や人員の整備もやっていかないといけない。
アビー「滞在中はもちろんここのルールに従いますし、土地建物の使用料はお支払いします。必要であれば人頭税も」
一樹「一時滞在に関する制度は順次整えていく予定だから、その内容に従ってくれ。それと他の商売同様に売り上げの一部を税として納めるように」
アビー「わかりました。税率は1割でしたっけ?」
一樹「差し当たってはな。詳細は状況を見ながら調整していく」
アビー「ではギルドにはそのように伝えておきます」
一樹「そうしてくれ。ところで、冒険者というのはどういう仕事をしているんだ?」
アビー「日雇いや短期の仕事全般ですね。商隊などの護衛や、害獣駆除、各種素材の採集、他の街への届け物などが多いです」
これも地球で見た漫画と似たような感じか。
ダンジョン攻略は素材採集の一環だろうか?
一樹「日雇い専門の労働者派遣か。どの辺が『冒険』なんだ?」
アビー「えっと、素材の採集で未開の地や危険な場所に立ち入ることも多いんです。あと、全体的に定住しない人が多いというのもありますね。行く先々で路銀を稼ぎながら旅を続けるんです」
一樹「なるほど。そういう生き方も面白そうだ」
アビー「憧れる人は多いみたいですね。ただ、危険も多いんです。街の中ならともかく、外では魔物や盗賊もでますから。だから、冒険者はある程度戦闘ができることが前提になりますね」
この世界、治安はあまりよくないのか。
アビー「あのー、ゴブリンなどの魔物については、どのように対処したらよいでしょう?」
この世界じゃ俺は『魔族』ってことになってるんだったな。
ゴブリンなんかは俺たちの配下って認識なんだろうか?
ゴブリン型ガーディアンも使ってはいるけどさ。
一樹「俺の配下の者はこの町にも他の町にも近づかせるつもりはないが、好き勝手動いている魔物のほうが多い。住人の安全を脅かす魔物については駆除して問題ない」
正確には魔物を模したガーディアンと天然ものだが、そこは伏せておこう。
アビー「わかりました。それも本部に伝えておきます」
一樹「そうしてくれ」
冒険者ギルドって、この手の物語だと最序盤で出てくるもんじゃなかったっけ?
転生してから5ヶ月以上も経ってようやくお目にかかれるとはね。
しかも、状況的に俺は登録不可なんだろうな。
かわいい女の子とパーティー組んでゴブリン退治とかやってみたかったよ。
アビー「私の用件は以上です。次の人を入れてもいいですか?」
一樹「ああ、大丈夫だ」
アビーの手招きに応えて、ビキニ姿の3人の少女が入ってくる。
少女「領主様、こんにちは」
一樹「こんにちは」
いったい何が始まるんだ?
少女「なるみちゃんのお洋服を真似してみました」
一樹「そうか、かわいいね」
少女たちはくるりと回ってお尻を見せると、思い思いのポーズを取る。
脇を見ると手本のつもりか、アビーもお尻を見せている。
彼女の入れ知恵のようだが、何のつもりだ?
アビー「では失礼しまーす」
俺の視線に気づいたのか、アビーが退出する。
少女「領主様にお願いがあります」
一樹「なにかな?」
少女「薪がなくなりそうなので木を切らせてください。お願いします」
そういえば、許可なく木をきるなと言っておいたんだったな。
それにしても、女の子っぽくないお願い事に聞こえるがどういうことだ?
一樹「わかった。きっていい場所については今日中に指示する」
少女「ありがとうございます。次に・・・・」
俺はなぜかビキニ少女たちが代弁する村人たちの陳情に対応していく。
ひょっとして制圧時のやり取りから、女の子に甘い男認定されてるのだろうか?
それとも、これも『魔族』に寄せて協調しようという村人たちの意思表示なのか?
なるみ「うーん、3人ともかわいかったねー」
一樹「そうだな」
少女たちが去ったあと、なるみがまた例のビキニで現れる。
ちなみに陳情はどれも問題のない要求ばかりだったのですべて受け入れた。
向こうもどこまで要求していいか、様子を見ている段階なのだろう。
「女の子に甘い男」認定がさらに補強されないか少し心配ではある。
なるみ「なるみファッションの躍進はこの村から始まるのであった!」
一樹「アパレルビジネスか」
広告塔となるモデルやアイドルが必要になるな。
女性型ガーディアンなら容姿はどうとでもなる。
ただ、活動範囲が『領域』内に限定されるのが問題か。
なるみ「かずきおにぃちゃん好みのちょっとえっちなファッションとか流行らせちゃう?」
一樹「すでに夏場はビキニっぽいのが普通らしいぞ」
なるみ「あー、そういえばそうだったかも?むー、じゃあもっと攻めた衣装考えないとだね。どうしよう?」
一樹「任せる。今は王国軍への対応に集中しよう」
なるみ「アウラエルさんからの情報だと明日か明後日辺りには谷の入り口につきそうだね」
一樹「面倒だがなんとかしないとな」
なるみ「街道をまっすぐ進んでくるなら、かずきおにぃちゃんの魔法で一網打尽だけどね」
一樹「そう簡単にもいかんだろう。それに、農兵の類はあまり殺したくないな」
戦いを主導する奴は仕留めておきたいけどな。
なるみ「そっかー。あ、かずきおにぃちゃん、馬車が谷に入ってきたよ」
一樹「王国軍か?」
なるみ「違いそう。あ、アーネストさんたちだね」
モニターに映し出されたのは3台の馬車だ。
注文していた食料を持ってきてくれたのだろう。
だが、この谷に向かう街道には王国軍がひしめいていたはず。
食料を満載して敵地に向かう商隊を、王国軍が素直に通すものだろうか?
たまたまタイミングがかぶっただけならいいんだけどな。
どうにも、嫌な予感がする。




