第36話 教義
開拓村の住人はほぼ全員の45人が残ることになった。
俺は村の状態を確認すべく、村長に案内してもらうことにした。
戦禍を避けて逃げたものも多く、空き家も目立つ。
まあ、俺が再開発する上ではむしろ都合がいいかもしれない。
一樹「ここは?」
村長「ここは・・・その、教会でございます。すぐに取り壊しますね」
俺はこの世界では『魔族』で、人類の敵ってことになっているらしい。
神様とも仲が悪いって設定になってるんだろうか?
一樹「いや、そのままでいい。お前たちの信仰を取り上げる気はない」
村長「ありがとうございます」
一樹「それで、えーと神父さん?指導者の人はいるのか?」
村長「司祭様がいましたが、戦渦を避けて王都へ行ってしまいました」
一樹「賢明だな」
村長「そうとも言えますな」
一樹「それで、この宗教はどんな教えなんだ?」
村長「そうですね、細かいところはいろいろありますが、主な教えは2つです。1つは『善き導き手であれ』です」
一樹「ほう」
村長「『幼き者、暗愚なる者を正しく導きなさい。めしいた者、耳の聞こえぬ者をやさしく導きなさい。願わくば星神ルシファー様が暗き空に太陽を連れて来るように、隣人に幸福を導く者でありなさい』と」
ルシファー様?音が似ているだけだろうか?
一樹「いい教えだな。2つ目は?」
村長「2つ目は・・・その、『すべてのダンジョンを破壊せよ』です」
一樹「過激だな。なぜだ?」
村長「はい、『ダンジョンは魔王を育む繭である。其は滅びをもたらすものなり』と。ほとんどの者には縁のない言葉ですな」
『魔王』とは強きダンジョンマスターが得る称号だったか。
いや、正確には一定面積以上の『領域』を保有するダンジョンマスターか。
人間族はいったいどこまで把握しているんだ?
一樹「信仰を認めるとは言ったが、そのような暴力的は教えはさすがに看過できんな。犯罪の教唆に等しい」
村長「そ、そうですな。やはり取り壊しますか?」
一樹「いや、少し修正して新しい宗派としよう。1つ目はそのままでいい。2つ目は『汝の隣人を愛せよ』だ」
村長「いい言葉ですな」
なにしろ2000年以上も愛され続けるフレーズだしな。
一樹「『争いは滅びをもたらすものである。隣人を愛し、共に生きる道を模索せよ』とするのはどうだ?」
村長「はい、その内容ならば皆も受け入れやすいかと思います」
一樹「ではそのように」
村長「かしこまりました」
太陽を連れて来る星というと明けの明星のことか。
それで名前がルシファーではさすがに偶然ということはないだろう。
ルシファー教の教祖はおそらく元地球人のダンジョンマスターだ。
信者を使って周囲のダンジョンを排除し、自分の『領域』を広げたいのだろう。
そういえば最初のダンジョンの近所にもルシファーと名乗る奴がいたな。
だが、あいつはそういう回りくどいことをする男には見えなかった。
位置的にも離れているし、おそらくは別人だろう。
それにしてもルシファー様か。
そいつは中二病か、悪魔崇拝者か?
うろ覚えだが、ルシファーというのはヨーロッパの古き神の名なんて話もあったか?
それなら普通にルシファー崇拝者だったのかもしれないな。
ルシファー崇拝者だとしたら転生者は中世以前のヨーロッパ人か?
そういえば子供にルシファーと名付けようとして揉めたってニュースもあったな。
あれは親が捻くれ者なだけだろうか?
それとも21世紀の地球にもルシファー信仰が残っている?
だとしたら転生者の出身年代は推測が難しいな。
まあ、分かったところでどうなるわけでもないか。
おそらくは好戦的なダンジョンマスターなのだろう。
周囲のダンジョンを排除することで、『魔王』の称号を狙っている。
『魔王』になることで開放される隠しコマンドってなんなんだろうな?
なんにしても、その教祖さんとは残念だがお友達にはなれなさそうだ。
村の視察を終えた俺は拠点に戻って風呂に入る。
開拓村の防備と併せて開発計画も考えなければならない。
メインダンジョン周辺の開発はカシが中心になって進めてくれている。
開拓村周辺も大筋だけ決めてあとは村長に指揮を任せるか。
アウラエル「失礼します」
脱衣所の気配はアウラエルだったか。
一樹「開拓村を見てきたよ。ルシファー教ってのは厄介そうだな」
アウラエル「そうですね。山脈南西部のダンジョンはあらかた潰されたようです」
一樹「そうか・・・」
それはつまり、他の転生者やなるみの姉妹たちが殺されたということ。
アウラエル「ところで、カエデさんとの訓練は続けていますか?」
一樹「ん?ああ、もちろんだ。言われたとおり続けているぞ」
アウラエル「では主様、カエデさんとの特訓の成果をお見せください」
体を洗い終えたアウラエルが両手を広げて促す。
一樹「わかった。触るぞ?」
アウラエル「はい、ご随意に」
俺が練習していたのは生体操作魔法の一種だ。
相手の体に触れて魔力を流し込み、任意の働きを活性化させるというもの。
カエデにはその練習台として協力してもらっている。
俺はアウラエルの下腹部に手を当てて体に魔力を浸透させる。
そして「濡れろ」と念じると、指先にぬるりとした粘液が触れた。
アウラエル「ん・・・。はい、けっこうです。ではもうひとつの魔法もお願いします」
一樹「わかった」
俺は指先を微かに動かしながら「感じろ」と念じる。
アウラエル「はんっ・・。ええ、大丈夫なようですね」
一樹「ああ、かなり練習したからな。だが、これが何の役にたつんだ?」
手を触れて魔力を浸透させれば、相手の体の状態をある程度把握できる。
俺はカエデが実際に濡れたとき、感じたときの状態を何度も観察した。
そのときの魔力の流れを繰り返し感じ取り、何度もなぞり、体に覚えこませた。
そして「濡れろ」「感じろ」のキーワードでそれを再現できるようになったのだ。
発動句は発声せずに魔法を使っていると、暴発の危険もあるらしい。
その意味では発声した方がいいのだろうが、これについてはそうもいかない。
まあ、仮に暴発しても特に危険はないし、大きな問題はないだろう。
それはともかくとして、この魔法の使いどころがわからない。
カエデとは盛り上がったから、練習はかなり楽しくできたけどな。
アウラエル「魔族の言葉に『吊り橋効果』というものがあるそうですね」
この世界では地球からの転生者を『魔族』と呼んでいるらしい。
一樹「この魔法で俺に惚れていると錯覚させるということか?ベッドに連れ込むまでが問題だがな」
アウラエル「生体への魔力の流し方には2通りあるのを覚えていますか?」
一樹「・・・目か」
この世界のほぼすべての生き物は外部からの魔力干渉に対する防御機構を持っている。
従って、敵の体内にいきなり爆炎を出現させるなんてことは基本的に不可能だ。
しかし、その防御機構を抜けてわずかながら魔力を流し込む方法が2つある。
1つは先ほどのように直接手を触れて魔力を浸透させること。
もう1つは、目を合わせた状態で視線に魔力を載せて流し込むことだ。
アウラエル「はい。主様と目が合えば濡れてしまい、手が触れれば感じてしまう。そんな状態の女なら、ベッドに連れ込むのはそう難しくはないのではありませんか?」
一樹「なるほど。理屈はわかったが、そういうのはなんというか、ずるいんじゃないのか?」
アウラエル「使う使わないはお任せします。しかし、使える手は多いに越したことはありません」
一樹「それはそうだがな」
アウラエル「今後領主として人間族の貴族たちと渡り合っていくなら、特定の女性を落とさなくてはならない場面はきっと出てきます。政略結婚をすることもあるでしょう。貴族家の娘ならそれも覚悟はしているでしょうが、それを恋と錯覚させてあげるのも、1つの優しさではありませんか?」
政略結婚か、俺には縁遠い世界の話だと思っていた。
この世界の人間が貴族社会なら、そういうことも必要になってくるか。
一樹「わかった。どうすればいい?」
アウラエル「練習しましょう。手を触れずに私を濡らしてみてください」
一樹「やってみよう」
俺はアウラエルの目を見つめた。
改めてみるとやはりなかなかの美人だ。
大きく美しい目と視線が合うと、今更ながらそわそわしてしまう。
アウラエル「落ち着いてしっかりと見つめてください。そして私の中に、主様のものを注ぎ込んでください」
こいつ、わざとエロい言い方して俺をからかってるのか?
いや、魔法の性質からしておれ自身も気分を高めた方がいいのかもしれない。
俺はアウラエルの目の、更に奥を見据えるように視線に力を込める。
視線に魔力を乗せるというのはどう言う感覚だ?
放出した魔力が中空を迷走する。
ふと、何かがリンクしたのを感じる。
さらに体の奥の方へ魔力を流し込み「濡れろ」と念じる。
アウラエル「んっ、、、濡れちゃいました」
見下ろすと、風呂の湯とは違うものがアウラエルの内腿を伝っている。
アウラエル「成功です。今の感覚を忘れないでくださいね」
一樹「ああ、わかった」
俺は肩で息をしながら答えた。
注ぎ込んだ魔力量は大したことないはずだが、なんだか妙に疲れる。
アウラエル「それと、あんまり怖い顔しちゃ駄目ですよ?優しい眼差しでさりげなく、です」
俺はそんなに険しい顔をしてたんだろうか?
そりゃロマンスを演出しようってんなら、しかめっ面は駄目なんだろうけど、、、
一樹「難しいことを言う」
アウラエル「練習あるのみです」
一樹「そう、だな・・・」
アウラエル「なにか問題があるのですか?」
一樹「いや、その・・・。内緒にしてもらえるか?」
アウラエル「はい、約束します」
一樹「カエデがな、最近は二人きりになるとすぐに濡れるようになったんだ。だから、魔法の効果を確認できないかもしれない」
吊り橋効果というより条件反射だろうか。
アウラエル「仲がよいようでなによりです。では、当面は私がお相手いたしましょう。もっとも、、、」
アウラエルが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
アウラエル「私もすぐにカエデさんと同じ状態になってしまうかもしれませんね」
くすりと笑うアウラエルに、自分の顔が赤くなるのを感じる。
こいつこそ俺になにか魔法をかけてるんじゃないだろうな?
一樹「ではそれまでに習得できるよう頑張ろう。先に上がるぞ」
アウラエル「あ、待ってください」
足早に去ろうとする俺の手をアウラエルの柔らかい手が掴む。
一樹「ど、どうした?」
アウラエル「私、主様のせいでいっぱい濡れてしまいました」
アウラエルが引き寄せた俺の指先が、おっぱいにつんと当たる。
アウラエル「ちゃんと最後までお付き合いくださいね」
一樹「ああ、そうだな。そうしよう」




