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第35話 防壁

俺は完成した石造りの防壁の上から街道の南を見やった。

ここは人間界と魔界を隔てる山脈の、南北で言えばほぼ中央の西寄りの位置だ。

北北東から南南西に向けて走る谷には、細い川沿いに細い道が伸びている。

戦前は鬼族と人間族の交易が細々と行われていた街道だそうだ。


しかし、山脈南部を支配していた『東の魔王』こと黒曜さんを人間族が殺した。

その勢いに乗って勢力を拡大しようとした人間族が、今は鬼族と衝突している。

谷に陣取っていた部隊は駆逐したが、これで終わりということはないだろう。

次なる襲撃に備えて、防備を固めなくてはならない。


俺は行きがかり上制圧することになった開拓村の北側にダンジョンの基点を置いた。

人間族の軍が攻めて来るとなると南からだから、ちょうど反対側だ。

そこからフロア拡張で街の南側までダンジョンを広げる。

そして地上に階層拡張を行い、街道をふさぐようにダンジョン地上層を構築する。

これで幅100m、厚さ30m、高さ8mの防壁ができるというわけだ。


これだけで消費した魔力が2510万ポイント。

これは剣士型ガーディアンを50人は召喚できる数字だ。

序盤からは考えられない大盤振る舞い。

この世界に来ておよそ5ヶ月、頑張ってレベル上げをした成果だ。


ダンジョンの基点を町の南側にすればもう少し安かったのだろうが、さすがに怖い。

理由は知らないが、ダンジョン入口からコアルームまで通路がないといけないらしい。

盾である防壁がコアルームと直結なんてのはいくらなんでもまずいだろう。


しかし、ダミーの通路や入り口を作ることは可能だ。

コアルームにつながるダンジョン本体は町の北側。

砦側からコアルームに続く通路は隔壁で完全に閉じられている。

ダンジョンの構造的には、この砦は丸ごと全部ダミー通路扱いというわけだ。


砦の中央には、幅10m、高さ6mほどのアーチ型の通路がある。

南側の入り口には、4本の巨大な鎖でつられた重厚な屋根が張り出している。

非常時にこの鎖をきるか緩めれば、この屋根が通路を塞ぐ仕組みだ。


襲撃者が突撃の勢いのままぶつかっても、蓋を砦に押し付ける形になる。

従って、襲撃者はこの蓋を破壊するか、後ろに引いて持ち上げないといけない。

いずれにしても突撃の勢いは減じられることになるだろう。


通路に入ると、格子状の鋼の板が天井に吊り下げられている。

これも非常時には南側の鎖を緩めて通路を塞ぐためのものだ。

南側から押した場合、やはり押し付ける形になるよう調整されている。


天井近くの両側面にはいくつかの四角い窓がつけられている。

こちらの兵士がそこから通路を見張ったり、物を落としたりするためだ。


さらに進むと通路は三つ又に分かれ、左右の道は地下へと続いている。

地下に待機させた兵士かガーディアンが、ここから相手を押し戻すわけだ。

脇道から出撃するのは平時の通行を阻害しない為だ。

通路を塞いだ蓋を敵が高威力魔法で壊したとき、巻き添えを食わないためでもある。


砦の上部には、街道を見守るように2体の乙女の裸像が立っている。

高さはそれぞれ3メートルほどで、1体が弓、1体が杖を持っている。

お察しの通り、これは砦の防衛用のゴーレムだ。

モンスターの群れや王国軍の襲撃があれば、起動して外敵を駆逐する。


ゴーレムには生体型ガーディアンにはない利点がいくつかある。

動きはやや鈍いが、防御力や攻撃力が高い。

起動中の消費魔力は大きいが、アイドル時の維持コストが非常に低い。

そして心情的に、放置プレイでも心が痛まないのが大きい。

以上の理由から、敵の襲撃頻度の低い場所の防衛に最適である。


併せて20体の固定型単機能ゴーレムも召喚した。

4体は南側に張り出した屋根を支える鎖を1本ずつ担当している。

残りは砦の前面と通路内側に8体ずつ埋め込んだ。


前面の8体は鋼鉄の矢とファイヤーストームを4体ずつが担当する。

ファイヤーストームは対集団、鋼鉄の矢は個別攻撃用だ。

通路内側は2体が格子状の鋼の板の南側を支えている。

残り6体はファイヤーストーム担当で、格子で足止めした敵を蒸し焼きにする。


さて、微調整はおいおいしていくとして、設備はだいたいこんなものでいいだろう。

だが、守備に当たる兵士をどうするかが問題だ。

オーク兵50体くらいならすぐにでも召喚できる。

鬼族の戦士も100人ほどが応援に来てくれる予定だ。


しかし、バルバスが率いていた兵が500人ほどだった。

それが撃退されたのだから、来るとすればもっと大勢、おそらく1000人以上。

こっちは防衛側で有利であるとはいえ、さすがに数の差が大きすぎる。

ゴブリンで数だけそろえても、敵に強い魔法使いとかいれば簡単に一掃されるだろう。


ゴブリンを谷の左右の森に潜ませて敵の両側面に突っ込ませればいくらか効果もあるか?

多少の混乱は与えられるかもしれないが、冷静さを取り戻せばすぐに殲滅されるだろう。

たった1度きりしか使えない上に勝算が薄過ぎる。

ゴブリン系で補強できるとしたら、砦の上にゴブリンアーチャーを並べるくらいか?


それはそうと、防衛用の兵士がゴブリンやオークってのもどうなんだろうな?

ビジュアル的には完全に魔王の尖兵、『魔族』呼ばわりを言いがかりといい難くなる。

文明国と認識させ、領有を認めさせたいという目標から考えても避けたいところだ。

できることなら人間型ガーディアンを防衛戦力として並べたい。


だが、まず先立つものが足りない。

先立つものと言えば普通はお金のことだが、ここでは備蓄魔力のことだ。

1日の収入は差し引き800万ちょい、序盤と比べればかなり潤沢な収入といえる。

それでも、全部を剣士型ガーディアンに突っ込んでも1日16人。

王国軍の襲撃がいつになるかわからないが、準備できるのはせいぜい100人程度か?


嗚呼、なんで俺はこのタイミングでメインダンジョン改装に1000万も突っ込んだんだろうな?

過ぎたことをぐちぐち考えても仕方ないんだけどさ!

あれはあれで必要なことではあったんだけどさ。

まあ、砦の上部に弓使い型ガーディアンを並べるくらいのことはできるかもしれない。


ただ、仮に魔力が潤沢にあったとしても問題になるのが名前だ。

がんばって洋風っぽい名前をつけてはいるが、正直そろそろネタ切れである。

というか、戸籍上の名前と愛称の区別がついているのかどうかすら怪しい。

向こうの人から見たら「ごきげんよう、みっちゃん様」みたいなことになっててもおかしくない。


なるみはなんかコンピュータっぽいところあるから、頼めば名前の自動生成とかできそうだ。

けど、それってどうなんだ?

いや、なにがどう問題なんだか自分でもよく分からないんだが。


シュバルツのとこから応援に来てくれてる2人なんてarcher2266とarcher2267だもんな。

ガーディアンは魔力を具現化させた魔道人形だから、番号で問題ないといえばないんだろうが。

いや、人間型ガーディアンをそろえるのは人間の国っぽい体裁を整えるためだ。

その意味では同じ顔が並んでて名前が番号じゃ駄目だよな、うん。


そういう意味では人目につく門衛とかだけユニークネームと顔があればいいのか?

砦の天辺とか、地下深くにいる兵士は仮面をつけて名前は番号で問題ない?

それで何も問題はないよな?

なんだろう?なにかひっかかる。


なるみ「さっきから難しい顔してどうしたの?」

一樹「いや、ここの防衛戦力をどうしようかと思ってさ」


そういえば、シュバルツのとこのスズネさんは中空にモニター出してたな。


一樹「なるみ、ここに召喚画面って出せるか?」

なるみ「出せるよ。消費魔力ちょっと大きいから常用はしないほうがいいけどね」

一樹「わかった。アーチャーを見せてくれ」


なるみが手をかざすと、中空に召喚アプリの画面が映し出される。

手持ちの魔力で召喚できるのは最大22人か。


一樹「こいつとこいつを11体ずつ頼む」


俺は画面に現れた中からエルフとねこ耳を1人ずつ選択する。

今の状況では人間族風に統一する意味はもうないだろう。

それにこの方が異種族が共存する国って感じに見えるんじゃないだろうか?


なるみ「同じのでいいの?」

一樹「ああ。それぞれ最初の1人は手持ちの素材で強化しよう。服は一般的な麻の服に皮鎧だ。残りの10体には仮面を頼む」

なるみ「仮面?どんなの?」

一樹「遠目には普通の兵士に見えた方がいいな。目まで隠れる兜がいい」

なるみ「むぅ、美人さんなのに~」

一樹「1人目の顔はちゃんと出すからさ。そうだ、そっちの鎧は前に言ってたビキニアーマーにしよう!せっかく作ってくれたんだしな」

なるみ「いいけど、変わった組み合わせだねぇ。こんな感じ?」


中空のモニターに、4人の女性の姿が映し出される。

2人はこちらで一般的らしい麻の服の上から皮の軽鎧を身に着けている。

残り2人は兜を深めにかぶり、下は肌も露なビキニアーマー姿だ。


一樹「へぇ、我ながら無茶振りだったけど、うまくまとめたもんだね」

なるみ「まーね!できる女のなるみちゃんです」

一樹「さすが。じゃあ、こっちがフローレン、こっちはナターシャにしよう。残りは・・・」


十分検討したはずなのに、未だひっかかる何かを飲み込む。


一樹「名前はarcher0001から連番・・・・いや、フローレンのコピーはフローレン001から連番、ナターシャの方も同様だ」

なるみ「おっけい!22人もの同時召喚ははじめてだねー。どうする?キーボードないけど、いつものターンッってやつやらなくていいの?」

一樹「いや、あれ別に決めポーズとかじゃないから!」

なるみ「えー。でもなんかきっかけ欲しいな。かずきおにぃちゃん、なんかやって」


こいつはこいつで無茶振りしやがるし・・・。

まあ、ここは乗っとくか。


一樹「いいだろう。出でよ!サモン・アーチャーズ!!」

なるみ「おいでませー」


ヅガーンッ!!

俺の芝居がかった仕草に応え、落雷のエフェクトと共に中空に無数の光の繭が現れる。

そこに22人の女の裸体が浮かぶのは壮観だが、同じ顔が並ぶ光景は異様でもある。

この砦、奥行き30mもあるから下からは見えてないよな?


22人の裸体はいつものようにゆっくりと回転する。

胸周りに虹色の光が走り、ブラジャーを形成し・・・しない?

続けてお尻を見せ付けるように半回転しながら、腰周りに虹色の光。

どうやら1人目は普通の下着で、ビキニアーマー組はノーブラ&Tバックのようだ。

最後の半回転で全身に虹色の光が走り、それぞれの衣服を完成させた。


フローレン「フローレン一同、着任します」

ナターシャ「おなじくナターシャ一同、着任いたします」

一樹「ああ、よろしく頼む」


珍妙な挨拶もあったもんだ。


一樹「この砦の屋上を任せる。平時は砦の2階に待機し、数人ずつ交代で屋上から周囲を見張れ」

アーチャーズ「はっ!」

一樹「フローレンとナターシャは町の北側の拠点を担当だ。人間として振舞うことを心がけろ。交代で見張りに当たり、定期的に寝て毎日風呂に入れ」

フローレン・ナターシャ「了解しました」

一樹「では、開始!」

アーチャーズ「はっ!」


俺は2階に続く階段を下りていくアーチャーたちを見送る。

コピーのほうはもっとエロい格好でもよかったかもしれない。

なぜだろう?コピーの方だけすごく趣味的な格好をさせたくなった。

そうじゃなきゃいけない気がした。

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