第3話 マイダンジョン
なるみ「なるみちゃん、ビキニメイドばーじょんっ!」
なにやら仁王立ちでポーズを決めるなるみ。
一応断っておくが、俺がやらせてるわけじゃない。
真っ白だった空間は白い石造りの部屋に変わった。
中央に据えられた台座には小さな水晶のような石が見える。
シュバルツの所から帰った夜、俺はちょっと気になって召喚アプリを確認していた。
あの笑顔の素敵なメイドさんの姿は、こちらのリストには無かった。
召喚できる対象はダンジョンマスターごとに異なるということか。
倉庫前の衛兵の顔も探してみたが、やはり見つからない。
こちらのリストはなるみがデザインしたと言っていた。
向こうの分はスズネさんがデザインしたということか。
なるみ「むぅっ、まさかのノーリアクション!?」
・・・「人形」か。AIのようなものだろうか?
シュバルツは人形だといっていた。
なるみが人形だとして、人形使いはどこにいる?
どこかの科学者だかSF作家だかが言っていた。
必ずしも遺伝情報の記憶素子がDNAである必要はない。
宇宙のどこかにはDNA以外の遺伝子を持つ生き物がいるかもしれない。
たんぱく質ではない体を持つ生き物がいるかもしれない。
ましてやここは異世界だ。
水晶のような体を持つ生命体がいたって不思議はない。
まあ、なんにしても俺を喜ばそうとしているのは違いないだろう。
一樹「似合ってる。かわいいよ、なるみ」
なるみ「いやん。やっと素直になったね、かずきおにぃちゃん。よし、今日からこれをデフォルトにしてあげよう!」
一樹「それはやめろ」
ビキニメイド姿の幼女を侍らせるとか、ビジュアル的に痛すぎる。
ノワールさんに見られでもしたら大変だ。
なるみ「ごしゅじんさま、朝食は森のナッツのミックスベリー添えでございます」
一樹「ありがとう」
差し出された皿には木の実と野いちごがいくつか並んでいる。
まるでおままごとのような光景だが、ここへ来てからほぼ3食これだ。
栄養面が気になるところだが、今の俺は何も食べなくても問題ないらしい。
ダンジョンから供給される魔力で生きていけるのだという。
それでも俺が食事を取る理由は2つ。
1つ目は俺の精神安定の為。
食べなくても生きていけるといわれても、何も食べないのはどうにも落ち着かない。
顎と舌が刺激に餓えているのを感じる。
2つ目は魔力生成の為。
俺の体は食べたものから魔力を生成し、ダンジョンコアに供給することができるらしい。
現状では微々たる量だが、一応足しにはなるし、生成効率も少しずつ上がっているそうだ。
一樹「冒険者は来てるか?」
なるみ「まだ入り口は見つけられてないみたい。けど、森をうろついてるのはちょっと増えてきたかな」
高レベルな魔術師や神官は、ダンジョンコアの「気配」を感じ取れるらしい。
しかし、生まれたてのダンジョンコアは小さく、売価もそれ相応だ。
前情報なしに森の中を探し回る労力を考えると、高レベル魔術師にとっては割に合わない。
代わりに低レベル冒険者が、アバウトな情報だけを頼りに骨を折ることになるという。
なるみが視線を向けると、モニターに2組の冒険者が映る。
一組は森の中を探索中、もう一組は川辺で小休止のようだ。
戦士風の男が鎧を脱ぎ、肩の蚯蚓腫れに軟膏を塗りこんでいる。
一樹「毛虫作戦はそれなりに効果を上げてるようだな」
シュバルツの毒蜘蛛を真似たわけではないが、俺も毛虫型ガーディアンを森に配置している。
毒は放っておいても10日程度で痛みは引くし、後遺症も無いはずだ。
体力・気力の消耗を促し、早々にお引取り願うのが目的だ。
できれば蚊にしたかったが、さすがに小さすぎて敵味方の識別ができないらしい。
「この星の人類とそれ以外」を区別できるのがぎりぎり毛虫サイズだ。
なるみ「うん、時間はいくらか稼げたね。まだ心細いけど、初心者冒険者くらいならなんとか撃退できると思う」
一樹「今だけは不親切な魔術師たちに感謝だな」
高レベル冒険者たちは、できればある程度コアが育ってから狩りたい。
だから発見を遅らせるために「気配」の情報もぼかしたり小出しにしたりするそうだ。
それでも低レベル冒険者は、運よくできたてのダンジョンを発見し、コアを持ち帰れば金と名声が手に入る。
たとえ手に負えなくても、地図と周辺情報を売ればいくらかの稼ぎにはなるというわけだ。
一樹「走りこみに行ってくる。ナッツごちそうさん」
なるみ「はーい。また集めとくね」
一樹「・・・いつもすまんな」
俺も何度か自分で集めようとはした。
しかし、、虫食いがあったり、痛んでいたり、そもそも食べられない木の実だったりでどうも要領を得ない。
以降、俺はトレーニングとダンジョン運営に集中するよう言われている。
俺が食べられる木の実の判別を覚えるより、ダンジョンを大きくして採集人を召喚するほうが効率的だそうだ。
なるみ「それは言わない約束だよ、おとっつぁん」
一樹「・・・。行ってくる」
なるみ「いってらっしゃいませ、ごしゅじんさま」
今度はメイドカフェか?世界観ごちゃつき過ぎだろう。
俺は白い石造りに変わったコントロールルームの扉を開いた。
扉の外は薄暗い空間が広がっている。
俺は周囲より石段2つ分だけ高くなった場所にでた。
ここはダンジョン最奥部のボス部屋。ボスは俺だ。
武術の心得は皆無だが、ダンジョンの魔力で強化すれば思考速度や身体能力を常人の数倍に強化できる。
正面には20mほどの石畳の細い回廊が伸びており、その両脇を池がはさんでいる。
石畳は黒い石以外を踏むと沈んだり傾いたりする仕掛けだ。
池には酸を吐くテッポウウオ型のガーディアンが潜んでいる。
池のさらに両脇には、矢狭間が並んでいる。
そこにはシュバルツが貸してくれた弓使いが両脇に一人ずつ控えている。
なるみはまだシュバルツを警戒しているらしく、兵を借りることにもいい顔はしなかった。
ダンジョンマスターが他のマスターを殺せば、相手のコアを取り込むことができる。
資産とテリトリーを一気に増やすチャンスというわけだ。
ただ、現状であいつが俺を殺す気なら、小細工など必要ない。
それに、「争う気はない」という彼の言葉に嘘は感じられなかった。
それにしても、会ったばかりの俺になぜこうも親切にしてくれるのか?
まさか、太らせてから食うつもりか?或いは本当にただの防波堤代わり?それとも純粋な親切心か?
援軍のアーチャーは俺の監視くらいはしているかもしれない。
ただ、おそらくいきなり攻撃してくることはないだろう。
ちなみに弓使いたちは最初、立ったまま入り口を見据えて動かなかった。
さすがに居たたまれないので、今は椅子に座って待機してもらっている。
レザーのビキニアーマーが寒そうなのは気になったが、あいにくと女物の服は持ち合わせていない。
ましてや弓使いの動きを妨げない機能的な服となると、どうにも見当がつかない。
要らないとは言われたが、とりあえずひざ掛けだけ渡しておいた。
池に挟まれたまだら模様の石畳を歩く。
なるみはテリトリー内ならどこにでも瞬間移動できるらしい。
俺もダンジョンマスターになることで瞬間移動できるようになった。
ただ、こっちはテリトリー内からコントロールルームへの一方通行だ。
外に出るときはこうして自分の足で歩かなければならない。
階層がもっと深くなったら、シュバルツのようにエレベーターを作ろう。
石畳の回廊を抜け、不規則な石段を登ると、また扉を開く。
この門を守るのは2体のオーク型ガーディアンだ。
オークの武器はふつう棍棒や石斧らしいのだが、こいつらには鉄のメイスと盾を持たせている。
本体も野生のオークよりは強いし、ある程度連携攻撃もできるようになっているらしい。
駆け出し冒険者なら撃退できるだろうし、中堅相手でもそれなりにてこずるはずだ。
何も無いフロアを進むと、また階段が見えてくる。
オーク以外にもモンスターを配置したいが、あいにくと予算が足りない。
シュバルツに倣って毒蜘蛛でもばら撒いてみるか。
洞窟内に毛虫はさすがに不自然だろうしな。
階段を上るとゴブリンの集落が広がっている。
強引だが、近くに住んでいたゴブリンを追いたてて移住していただいた。
シュバルツに差し入れてもらった剣を放り込んでおいたが、さっそく使っているようだ。
ただ、鞘に戻すという発想はないらしく、あちこちに抜き身が転がっている。
もったいない気もするが、多少痛んでいるほうが自然に見えるかもしれない。
俺が歩を進めるとゴブリンたちが道を空ける。
別に調教したわけではないが、魔力を込めて威圧すれば攻撃はしてこない。
何度か繰り返しているうちに俺の顔を覚えたようだ。
踏み固められた土の坂を上ると地上に出た。
ここまでが今の俺のダンジョンのすべて、全3層だ。
これでどこまで守れるのか、正直心もとない。
最終的には街を作り、この地の人間たちに領有を認めさせる。その目標は変わらない。
しかし、ダンジョンコアが人間たちにとって「獲物」である以上、無防備に招き入れるわけにもいかない。
まずは、しっかりと防備を固めなくては。




