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第1話 異世界転生

気が付くと真っ白い部屋に居た。

いや、部屋というより空間というべきだろうか?壁が見えない。


俺の体はすわり心地のいい椅子に腰掛けていた。

ふかふかというわけではないが、背中を心地よく支えてくれている。


目の前には真っ暗な液晶ディスプレイ。

キーボードとマウスも添えられている。

新品のようだが、俺が家で使っている1980円の安物とよく似ている。


少女「お目覚めかにゃ?」


声のほうを向くと、かわいらしい少女が立っていた。

10歳くらいだろうか?

大きな丸眼鏡と三つ編みのお下げがよく似合っている。


俺「あ・・・えっと、こんにちは」

少女「こんにちはーですにゃ、マスター」


ですにゃ?マスター?


俺「こんにちは。えっと、ここはどこか、分かる?」

少女「ここはダンジョンのコントロールルームですにゃ」


ダンジョンだと?

この状況、まるで最近流行りのラノベだな。

となると定番はあれか。


俺「ステータスオープン」


・・・・・・


俺「・・・なんつって」

少女「あー!ごめん、それは作ってなかったにゃ」


作る?


少女「マウスちょっと動かして」


言われるままにマウスを動かすと、スリープモードが解除されたように画面が明るくなる。

デスクトップには見慣れないアイコンがいくつか。

背景には俺の好きなアニメキャラのパンチラ画像がでかでかと貼り付けられていた。


俺「あ゛・・・・」

少女「そしたら左下のスタートボタンをクリックして」


固まる俺をよそに、少女は動じることなく指示を続ける。


少女「で、ダンジョンアイコンを右クリックして、プロパティを開いて」


出てきたのはシステム情報画面ということなのだろうか。

左側を見ると、

 ダンジョンレベル: 1

 魔力貯蔵量: 52300

 収入(推計): 2000ポイント/日

 維持コスト: 1500ポイント/日

などといった情報が並んでいる。


そして右側を見ると・・・


俺「管理者は笹原一樹か。なんで俺の名前が入ってるんだ?」

少女「ダンジョンマスターになって欲しいのにゃ」


さきほどからの言動からすると、この少女がこの状況を作った本人か。

少なくとも関係者であることは間違いなさそうだ。

だが、何から聞けばいい?

どうやって俺の名前を調べた?

どうやって俺をここまで運んだ?

なぜ俺なんだ?

そもそもダンジョンとは何だ?

いったい何の目的で?


一樹「このダンジョンシミュレーションゲーム?をプレイしろってことかい?」

少女「ゲームじゃなくて現実だにゃ」

一樹「現実ねぇ」

少女「使いやすいようにインターフェースは地球のパソコン風にしといたにゃ」

一樹「なるほど・・・。なんだかここが地球じゃないみたいな物言いだね」

少女「うん、別の宇宙だね」

一樹「異世界ってやつ?」

少女「そそ」

一樹「さっきまで普通に寝てたはずなんだが?」

少女「そのままお亡くなりになりました」

一樹「へ?」

少女「隣のビルの避雷針が突風にあおられてぽきっと折れちゃってね。それが飛んできてさくっと」

一樹「・・・・・」

少女「苦しまなかったのは不幸中の幸いでしたね」

一樹「そう・・かもな」


正直、死んだといわれても実感はない。

現に俺はこうしてここに居る。

少女の言葉をどこまで信じていいのかも分からない。

ただ、説明しがたい奇妙な状況におかれているのは間違いない。

確認を取ろうにも現状で情報ソースは目の前の少女だけだ。

さしあたってはこの少女の言葉を信じるしかなさそうだ。

隣のビルの管理人に恨み言のひとつも言ってやりたいところだが、この少女に当たるわけにもいくまい。


一樹「まあ、死んじまったものは仕方ない、か」

少女「そそ、切り替えていくにゃー」


死んだはずの俺がなんで別の宇宙とやらにいるのか?

なぜ俺が選ばれたの?

疑問は尽きないが、当面はこの少女と過ごす事になるのだろう。

妙な子供だが、とりあえず悪意はなさそうだ。


一樹「いまさらだけど、君は・・・なんて呼べばいい?」

少女「名前はまだにゃい!」


なぜかドヤ顔で決める少女。


一樹「えっと、芥川龍之介?」

少女「夏目漱石!」

一樹「そっか。いや、それもなんか違う気がするけど」

少女「というわけで名前決めて欲しいにゃ」

一樹「なんでもいいの?」

少女「かわいいのがいいにゃー」

一樹「んー・・・・なるみ、かな」

少女「なるほどー、初恋の女の子の名前ですにゃ?」

一樹「なんで知ってる!?」

なるみ「ではでは、なるみの名前はなるみに決まりましたー!」

一樹「それで、なるみちゃんは誰・・いや、何なのかな?」

なるみ「なるみは人型音声入出力インターフェースなのですにゃー」

一樹「なぜ人型?」

なるみ「そのほうがうれしくない?ナビがないのも不親切だし」

一樹「それはそうかもしれないが」

なるみ「この体もね、マスターが喜ぶようにいろいろ考えたんだにゃー」

一樹「待て、なにか看過できない誤解があるような気がするぞ」

なるみ「匿名掲示板の書き込み履歴に『めがねっ娘萌え~』『ねこ耳は至高』『美少女は至宝』などの発信を複数回確認しましたにゃー」

一樹「ちょっと待って、たった今匿名掲示板って言ったよね?なんで知ってるの?」

なるみ「えーと、『IPで特定しました』?」

一樹「嘘つけー!というか、掲示板特有のノリってのがあってさ、この場のノリというか言葉の綾と言うか・・・」

なるみ「その他ゲームプレイ履歴、ネット検索履歴などから嗜好を推定しました」

一樹「プライバシーって何!?するってーと、その妙な言葉遣いも俺の嗜好に合わせたつもりなのか?」

なるみ「あれ?お気に召さなかったかにゃ?」

一樹「ねこ耳もつけずににゃーにゃーいってんじゃねぇよ!」

なるみ「・・・?あ゛ーっ!!忘れてたー!」

一樹「ん?」

なるみ「いや、最初はね、ねこ耳キャラで考えてたのよ。けど、ナビゲーターとか秘書系のキャラならめがねっ娘のほうがいいかなーと切り替えたの」

一樹「なるほど、それで言葉だけ変え忘れた、と」

なるみ「そう」

一樹「じゃあ、もう普通に話して?」

なるみ「むぅ・・・、がんばったのに」

一樹「?」

なるみ「マスターが喜ぶと思って、昨日の夜『にゃーにゃー語パッチ』がんばって作ったのに」


突然異世界に放り込まれた俺を和ませようという配慮ということか?


一樹「あ・・・そっか、俺のためなんだよな。ごめん、気持ちはうれしいよ」

なるみ「あれ作るの28ミリ秒もかかったんだからね」

一樹「よし、消すか。どこだ?『にゃーにゃー語パッチ』」

なるみ「待って!使うから!なるみは普通に話すから!そっちはねこ耳メイドで使うから!」

一樹「居るのか!?ねこ耳メイド!?」

なるみ「居るよ。というか、ダンジョンの魔力で具現化させるの」

一樹「なるほど。ではさっそくやってみよう!やり方を教えてくれ」

なるみ「おおー、やる気になりましたね」

一樹「こっちの情報が駄々漏れなこととか、いろいろ誤解されてそうなとことか気にはなるがな。とりあえず、ねこ耳について自重する必要がないことは理解した」

なるみ「期待しといてね、マスター好みにばっちりデザインしといたから!」

一樹「お前のデザインときいて一気に不安になってきたんだが?」

なるみ「しつれいな。まあ、百聞は一見にしかずだよ。デスクトップから召喚アプリを開いて」

一樹「アプリかよ。ファンタジー色が消し飛ぶな」

なるみ「じゃあ、呪文でも唱えてみる?キーフレーズを登録してくれればあたし経由で処理できるよ?」


呪文だと!?

惹かれるものがなくもないが・・・いや、さすがに痛いか?

召喚対象の指定とかを全部口頭でやるのもめんどくさそうだ。


一樹「いや、アプリでお願いします。さて、召喚対象は・・・ゴブリンにオーク、スライムね。お、ドラゴンもいるのか。それに戦士に剣士、魔道士、弓兵・・・って、人型は見事に女ばっかりかよ」

なるみ「その辺はマスターのゲームプレイ履歴を参考にしましたー」

一樹「せんでいい」

なるみ「ちゃんとビキニアーマーも用意しといたからね」

一樹「・・・。それはそうと、この華奢な女の子に戦士が務まるのか?」

なるみ「まあ、魔道人形だからね、見た目と性能はあんまり関係ないかな」

一樹「そういうものか。ん?それならなんでゴブリンなんてのがいるんだ?」

なるみ「それはダンジョンの外縁部の防御用かな。天然ものに似せておいたほうがカモフラージュになるし、うまくすれば本物のゴブリンが寄ってきて住み着いてくれたりする」

一樹「ふむ・・・」

なるみ「それに、外縁部の防御はどうしても消耗が激しくなるから、マスターは女の子型はおきたくないでしょ?」

一樹「それは確かに」

なるみ「今開いてるのが『戦闘』タブだから、『使用人』タブに切り替えてみて」


今度は執事、メイド、庭師、料理人、会計士、清掃員、家屋整備士、などのアイコンが並ぶ。


一樹「豪邸でも建てるのか?」

なるみ「お望みとあらば」

一樹「ま、とりあえずメイドだな」

なるみ「ですよねー」


メイドアイコンをクリックすると、メイド服の女性の立ち姿が画面にずらりと並んだ。

ゲームのキャラクター選択画面のポリゴン映像よろしく、ゆっくりと回転している。


一樹「お前がデザインしたっていうから、ロリキャラばっかり並んでるかと思ったぞ」

なるみ「あー、ご期待に沿えず申し訳ない」

一樹「いや、違うから!」

なるみ「でも、ちゃんとちっこいのも用意しといたからね」

一樹「だから・・・・」

なるみ「分かってますって、マスター。怒んないでよ」

一樹「おちょくりやがって。分かってるならなんでお前はそんなちんちくりんなんだよ」

なるみ「んー、円滑なコミュニケーションのため?」

一樹「は?」

なるみ「出会ってすぐにタメ語で話せるようになったのって、この姿あってこそだと思うんだよね。なるみが大人の姿で出てきてたら、こうはならなかったでしょ?」


確かに、この状況で大人が出てきていたら、真っ先に考えるのは誘拐・監禁だろう。

俺なんかを誘拐してなんになるんだ、って話もあるが、異世界転生よりは現実的だ。

警戒心や疑念を、今もないとは言えないが、少なくとも今以上に抱いただろう。


一樹「そういえばお前は見た目どおりの幼女ってわけじゃないんだったな」

なるみ「でも、いまさら改まった話し方しようとも思わないでしょ」

一樹「まあな」

なるみ「『なるみ』って呼び捨てにしてくれてもいいんだよ?」

一樹「するか!」

なるみ「えー。そうだ、なるみもマスターの呼び方変えてみようかな。『おにぃちゃん』って呼んであげようか?」

一樹「やめい!」

なるみ「じゃあ、『かずき』?『かずきくん』?『お兄様』?あ、『にぃたん』?『だーりん』でもいいよ?」

一樹「・・・・まあ、正直いきなり『マスター』呼びも落ち着かないんだよな。『一樹』でいいよ」

なるみ「了解しました、かずきおにぃちゃん!」


スルーしてメイド召喚画面に戻ってみる。

ねこ耳のほかにいぬ耳、うさ耳、きつね耳、鬼娘にエルフまでいるようだ。

年齢も少女から白髪混じりのベテランメイドまで幅広い。


一樹「これ全部お前がデザインしたのか?」

なるみ「がんばりました!これなんかどう?」


そう言ってなるみが居並ぶメイドたちの内の一人(一体?)を指差す。

クリックされたかのようなエフェクトとともに詳細画面に切り替わった。

こいつは触れなくとも操作が可能というわけか。


一樹「なるほど、かわいいのは認めよう。けどさ、ねこ耳にメガネのロリメイドにツインテールに絶対領域とか詰め込みすぎじゃない?」

なるみ「パンツは水色の横じまにしておきました!」

一樹「やかましい!あと俺ロリコンじゃないから!」

なるみ「またまたー」

一樹「あのなー」

なるみ「まあ、そこはどうでもいいんだけど」

一樹「いいのかよ」

なるみ「魔力で体を構成する都合上、小さいほうがコストが抑えられるのよね。だから序盤は小さい子がお勧めかな」

一樹「なるほど」


改めて画面を眺めてみる。

とりあえずコストの部分を見てみよう。

召喚コストは20万ポイント、維持コストは400ポイント/日とある。

ぴんと来ないが、これは少ないほうということか。


画面上部にはダンジョン情報の概略っぽいものが表示されている。

魔力は52300ポイント、収支は1500/2000とある。

いやな予感しかしないが、親切にもクエスチョンマークがつけてあるのでクリックしてみる。


魔力=現在貯蓄されている魔力の総量。

収支=魔力の日算収支。分子は配下や施設の維持コスト、分母は収入の推定量。


一樹「ぜんっぜん足りねぇー!」

なるみ「いきなりメイド呼ぼうとした人はさすがに初めてだねぇ」

一樹「収入を増やさないことには話にならないな。どうしたらいい?」

なるみ「あたしたちはテリトリー内の生き物たちから魔力をちょっとずつ分けてもらっているの。だから、テリトリーを増やすこと、テリトリー内の生き物を増やし、守ること、が必要だね」

一樹「なるほど」

なるみ「ちなみにテリトリー内なら地上も地下も対象になるよ。だから、地下にも地上にもたくさんの階層を作って、いろいろな生き物が住み着くような環境を作ると効率的だね」

一樹「ふむふむ」

なるみ「これは防御の意味でも重要なんだよ。階層を下に伸ばすと、ダンジョンコアは自動的に最下層に移動するんだけど、階層が深くなれば、単純に移動距離も伸びるし、何重にも防衛ラインを敷けるようになるでしょ」


防衛、か。


一樹「敵もいるということか」

なるみ「主な敵は3つだね。1つは冒険者たち」

一樹「定番だな。冒険者はなにを求めてダンジョンに潜るんだ?」

なるみ「やっぱり、なるみの体かなー」

一樹「冗談やめなさい」

なるみ「んー、けっこう本気だったり」

一樹「なお悪いわ!」

なるみ「なるみの体ってね、『素材』なんだって」

一樹「素材?」

なるみ「なるみを殺して街に持っていくと、高く売れるらしいよ」


地球で読んだこの手の物語では魔物を殺してその体を素材にするのは定番だった。

しかし、こんな少女までその対象になるというのか?


一樹「・・・・・まあ、なんだ。何ができるか分からんが、がんばって守るよ」

なるみ「かずきおにぃちゃん、おっとこまえー♪」

一樹「やかましい!」

なるみ「最初の冒険者を撃退できたら、ごほうびに『だーりん』と呼んであげよう!」

一樹「いらんわ!つか、それは無条件でOKじゃなかったのか?」

なるみ「ちっ、覚えてたか」

一樹「それで、2つ目は?」

なるみ「2つ目は開拓者」

一樹「開拓者はどう危険なんだ?」

なるみ「樹をきられるとテリトリーから得られる魔力が減ってしまうのですよ」

一樹「なるほど」

なるみ「虫や動物もいなくなっちゃうから、よっぽどいい畑でも得られる魔力は原生林のせいぜい10分の1くらいかな。それに、ダンジョンのすぐ近くに人間の拠点ができちゃうと、攻略されちゃうリスクも大きくなるしね」

一樹「そうか」

なるみ「だから、地上にも魔獣とかを配置して、開拓者を追っぱらいましょー!」

一樹「冒険者に討伐されたりしないのか?」

なるみ「冒険者がでてきたら地上部隊は逃げてもいいと思う。開拓者を追い払うだけなら、『護衛なしには行動できない地域』ってだけで十分だからね」


個人や小さな村単位での開拓ならそれでいいのかもしれない。

しかし、国などが開拓に乗り出したらどうなるだろう?

騎士団などの護衛の下で開拓民が一気に森を切り開き、防護用の柵や塀を築いたら?


なるみ「おにぃちゃん?」

一樹「ああ、すまん。冒険者に、開拓者だったな」

なるみ「そう。そして3つ目が、ほかのダンジョンマスター、だよ」

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