大本営
「大本営」
この言葉は、旧日本軍の最高統帥機関の名称であり、世間ではあまりいい意味には聞こえない風潮もあるが、まだ古い組織業界ではよく使われる言葉であるのかもしれない。
ところで、
市議会議員、県会議員等の地方議員にとっての「大本営」といえば、地元選出の国会議員である。
一般的に国会議員は、国会議事堂、衆議院議員会館(第1、第2)又は参議院会館、議員宿舎のある首都を拠点とする。
しかし、地元から選ばれた国会議員である以上、つまりは代議士である以上、地元の活動をしないということは地元の民意を汲み損ねるだけでなく、次回の選挙に大きく負の影響を及ぼす可能性がある。
だから、通常は国会が閉会中は積極的に地元に戻り、駅頭(駅前での演説)や様々なイベントに参加する等している。もちろん、国会開期中にも、何もしないわけではない。
地元秘書(私設秘書が多い)が選挙区内の事務所で常駐しており、国会議員の代わりに挨拶回りをはじめ、冠婚葬祭、小さな町内会のイベントにも積極的に参加することで支援者達への支持確保だけでなく、党員確保等の新たな支持者の拡大に邁進している。
また、その地元秘書達とともに支援者拡大活動をするのが、政党公認(無所属もいるが公認されない党員もいる)の選挙区内の地方議員である。
これを意味することは、「大本営」である地元議員の意向に背くことなど、地方議員にできるわけはなく、政策においても多大な影響を及ぼす。
「大本営」が主導で進めてきた重要政策であっても「大本営」が選挙に勝つために掌を返したら、従うしかない。いや、従う方が無難なのである。たとえそれが国レベルの政策ではなく、都道府県、市町村レベルの政策だとしても情勢や選挙によっては政局の争いとして国レベルの政策として語られることになる。
この事実は一太郎にとっては学生時代から信じてきた道と反してどうしても納得がいかない。
政治家とは「志」がなければならない。自分の保身ではなく、家族のためでもなく、お金のためでもなく、全ては国民の幸せのために、サンドバッグになることも辞さない覚悟が必須である。
スキャンダルがあれば、潔く辞職する。政策に掌を返すのであれば、説明責任を果たす。
選挙で民意を問うというのでは不誠実である。なぜなら政令市をはじめ、選挙では組織票の影響は圧倒的で、与党政党の公認が出れば安泰という事情がある。公職選挙法とう決められたルールの上での現象だから仕方ないというのでは、永遠に社会が良くならないというか、希望すら持てなくなる。
確かに、紛争地帯でもないし、最低限の生活は保障されているのは確かであるが、ただもう少し、「志」ある者が命を懸けて政治をやれば、よりよい社会になるのではと思わざるを得ない。
政治家と国民の意識の乖離があることの原因のひとつに、世襲やエリート政治家達には見えない世界で市民の大多数(特に若者世代)が生きていることがある。
この間には、あの有名なマニアック海溝より深い溝がある。この深い溝のままでは、格差社会と差別意識の波はじわじわと社会の底に染みわたり、緊急事態時にはどんなに掃除しても消えない染みになって闇の世界の始まりにつながるかもしれない。
以上のような一太郎なりの理想像というか、想いがあったからである。
その大本営陣営のつながりの象徴として、
今回の選挙が実施される未来市の市議会議員の半数以上は、政党所属公認候補であり、与党平和党議員の半数以上が世襲で残りも元国会議員秘書上がりである。
また、未来市長までもが、議会多数派与党の推薦を受けて当選しているため、実質傀儡市長であり、2元代表制という市長と議会の監視的緊張感は薄い。
市長提案の案は全て自動的に可決であり、市議会議員の役割は賛成、否決のボタン又は起立することである。そして市長及び議員給与は政令指定都市で一番高額である。
……
栄鬼太郎国会議員事務所
「パン、パン」
栄鬼太郎がその大きな拳で机を叩いた。
「どういうことだ。たくと。何度も何度も。あれほど色恋関係は気を付けろと言っただろ」
「申し訳ございません、栄先生」
「まったく選挙期間中にあるまじきことだ。お前の親父さんにはお世話になった恩があるから
やんちゃなお前を公認してやったことを忘れるなよ。負けは許されんからな。いいか俺と親父さんのメンツを潰すなよ」
「はい。肝に銘じて頑張ります。必ず泉とともに上位当選いたします」
「まぁ、支援者にはこちらから説明しとく」
「本当に申し訳ございません。よろしくお願いいたします」
港北たくとは、深々と頭を下げて事務所を後にした。
栄は、隣にいた私設秘書の磯子萌音に語りかけた。
「ところであの、都筑一太郎という男。調べは付いたか。ちょっとからかってみたんだろ」
「はい。調査により、都筑の一番タイプと思われる女性を接近させましたが、引っ掛かりませんでした」
「何?もっと調べろ。無所属のぽっと出が当選することはないと思うが。何か過去があるだろう。念のためだ」
「かしこまりました。ボス」
磯子も深々と頭下げて事務所から出ていった。
「なかなかええなぁ」
栄は、磯子がもってきた都筑の調査資料の一部(好みの女性と思われる)DVDの表紙に映っている女優を見て呟いた。
「タイトル:癒してあげぱい 四街道めゆ」
それはある早朝の今にも雨が降り出しそうな不穏な気配が漂うころのことだった。
<次号>
「カウンターパート」




