未来市歌
未来市は政令指定都市である。
政令指定都市とは、簡単に言えば人口50万人以上でかつ政令で指定された地方公共団体のことであり、普通の市よりも都道府県から独立して権限を行使できたりする。
未来市は全国ある政令都市20市の中でも1番人口が多い市である。
また、歴史的にも開港の地として有名であり、あのポロリを乗せたピンク船が初めて来航した地としても有名である。
今も観光地としてかつてピンク船が洋上していた場所をポロリポイントとして人気を集めている。
そしてまた、未来市の市歌である「未来市歌」は、未来市内の市立小学校、中学校、高校、大学でも入学式等の記念式典では必ず歌われるだけでなく、全国でもよくカラオケで歌われるほど国内一の知名度を誇る。
作詞は、あの明治の文豪で乳尻栄作ということもあって歴史的評価も高く、熱狂的ファンがいることも世間では周知の通りである。
<未来市歌>
さぁ、胸を張って漕ぎ出そう
希望という桃船を味方にいざ
向かう未来という夢の彼方へ
たとえ尻もちついても起き上がる今
きっと辿り着く いつか開けるその時まで
あぁ 我ら創る都 永遠なれ
一太郎は、ギターをもって家を飛び出し、中街台駅へと向かった。
「さぁ、胸を張って…」
マイクなしのコード弾き語りで歌い出した。
そう、一太郎はこの「未来市歌」の熱狂的ファンのひとりだったのである。
もちろん、大学受験の浪人時代のひとりカラオケで鍛えたその歌唱力と4年前から始めたギターがこの独奏を可能したことからも人生は何が役立つかわからないものである。
実は、立候補する前から必ず歌うことを決めていたことはもはやどうでもいいことである。
歌い始めてすぐある通りすがりのシニア世代の女性グループが立ち止まる。繰り返し歌う中、人がどんどん集まってくる。付近を散歩していた犬も何かを発見したかのように一太郎の歌を聴いて集まってくる。
「ワン、ワン…さぁ、ワン胸を張って…ワン」
色んな種類の犬の吠え声と一太郎の歌が共鳴して、今度は散歩中の保育園児達が、
「あっちだ」と指さして向かおうとしているのを、先生方が制止している。
その様子が視界に入り、一太郎は少し申し訳なさそうに声を小さくすると犬達も声を小さくするという見事なシンクロを完成させてしまい、より一層、園児たちの好奇心を高めってしまった。
結局、引率の先生方も観念して一太郎の独奏の輪に園児達を連れてきた。
一太郎は、再び申し訳なさそうにある目の前に座った一人の先生に会釈をしようとしたところ、
瞬時に一太郎の体に衝撃が走った。
なんとその先生が、一太郎が好きな女優の四街道めゆに似ていたからである。
「めゆちゃん…」
一太郎は歌声が一瞬上ずったが、周囲の犬たちがまたもや共鳴したのでこれまた何やらいい感じのメロディになってしまった。
めゆ似の先生は園児達を見守りながら一太郎の方を見ている。
その視線は一太郎の全身を熱くさせたことは言うまでもない。
それは平日の午前10時頃の比較的ゆっくりとした時間が流れる晴空の日のことであった。
<次話>
魔との闘い




