街頭演説(後編)
「中街台駅の皆様、こんにちは!この度、未来市会議員に立候補させていただきます
港北たくとと申します。平和党公認、責任世代、子育て世代の代表として、未来市の未来と希望区の希望を創るために全力で市政に取り組んでまいります。皆様の熱い、厚いご支援をどうぞよろしくお願いいたします。現在、希望区役所では期日前投票も行われています。投票日にご都合が悪い方々には是非、期日前投票のご利用をお願いいたします。皆さんの一票が未来市の未来を創ります。港北、港北たくとでございます。……」
爽やかな声とその容姿はまさに、未来市のプリンスといっても過言ではない。
すぐ後方にいる中あおみも港北の演説にうっとりしている様子である。
「というか子育て世代って既婚者かよ」
一太郎の脳裏には、かつて法律事務所に相談に訪れた女性が話した港北の色恋話が浮かんだ。
「イケメン。モテる。色恋噂。スキャンダル。大丈夫かな」
一太郎が色々と妄想している時であった。
「泉和見子、泉和見子でございます」
という声とともに他の選挙カーが近づいて来た。
港北たくとの選挙カーの後方にその選挙カーを停止させ、助手席から一人の女性候補者が降りてきた。
それはすぐに色気という形のないものがまるでハート型になって大量に周囲にばらまかれるような錯覚させる雰囲気で、港北の元に近づいて握手を交わした。
その瞬間、周囲がざわついた。
「泉和見子だ」
さすが元アイドル。
周囲にどんどん人が集まってくる。
だが、一太郎は、見逃さなかった。
泉と港北が握手をする時の中あおみの表情を。
その表情は、恋愛ドラマで脇役の恋敵がヒロインに向ける表情。つまりそれは「嫉妬」の表情。
「平和党公認候補、泉和見子でございます…」
泉の演説が始めると、港北と中は選挙カーに乗り込み、去っていった。
もちろん、港北は去る際に、泉ともう一度深い握手をし、泉は手を離す際に色気が周囲まで飛んできそうな程のセクシーウィンクを港北に向けた。
その瞬間の中の眉間の皺が一気に鬼化したことは明らかだった。
一太郎は、
「おいおい、選挙中に色恋巻き込んで大丈夫かよ。プリンスさん。というか既婚だろ」
と呟いた時だった。
「なんかあれ、ヤバくなかった。絶対、できてるよあの2人」
「さすが、私のパートナー恋愛探偵さくらこ。感じちゃったのね。敏感なんだから」
二人の制服姿の女子高校生が笑いながら会話を続けた。
「とりあえず、ちよこさぁ。私ツイートしとくからリツイートよろ」
「りょ。さくらこ。やば仕事早いね」
「恋愛探偵舐めんな♡」
二人組はお互いにベロを出し、(笑)ながら駅改札に向かっていった。
<次話>
SNS