街頭演説(中編)
午後4時頃の夕方を迎えた。
中街台駅に学校帰りの高校生の集団が次々と駅改札へ向かっていく。
その光景に一太郎は急に声が出なくなってしまった。
なぜか。それは「恥ずかしさ」という強敵が急に一太郎を襲ったからである。
特に女子高校生の集団が一太郎の前を通り過ぎる時は悲惨である。
顔は下を向き、時にはかかってくるはずもないスマホでエアー通話をする素振りをする始末である。
「もしもし、お世話になっております…いいとも」
もはや持ち前の演技力も散々たる様子である。
<10年以上前の出来事>
大学生時代に、一太郎が普通に歩いている時の出来事である。
二人組の女子高校生が、一太郎とすれ違いざまに
「10点かな」
「うん、10点」
と呟いたのである。何やら男性を点数で評価するゲームをしていたようであり、
その時のショックが一太郎には根深く残ってしまっている。
今思えば、点数がついただけ喜ぶべきだったのでかもしれない…何点満点かは知る由もないが一太郎の今の「恥じらい」というか「恐怖」の原因となっていることは間違いない。
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そうこうモジモジしている内に、一太郎の付近に人が集まり始めた。
赤いジャンパーを身につけた3人が慌ただしく、4つほどの旗をまるで一太郎の陣地を奪うように設置し出した。
その一人が物凄い冷めたカバみたいな形相で一太郎に近づいてきた。
「ごめんね。ここ使うからどいてね。こっちは大変なんで」
一太郎は、その勢いというか、見たこともない表情の圧に屈して
「思わず、どうぞどうぞ」
と言って駅の隅っこに後ずさりするように標旗とともに歩いた。
振り返ってその元いた場所、つまりは旗が設置している場所を見ると、
旗には
「港北たくと、平和党公認」
そして何やら先ほどのスタッフらしき数名が慌ただしく、動き始めた。
「あと5分後本人到着予定」
その慌ただしい雰囲気を感じ取ったのか、学校帰りの女子高校生も何やら集まり始めた。
その様子にまた過去の記憶で胸が締め付けられる一太郎であったことは言うまでもない。
数分後、
「港北たくと、港北たくとでございます。平和党公認候補の港北たくと」
あのフリーアナウンサーの「中あおみ」のセクシー声がどんどん迫ってきた。
周囲の緊張感とともに一太郎のあれも張りつめていく。
「本人到着」
一名のスタッフが近づいてくる選挙カーを誘導し始めた。
先ほど一太郎がいた場所のすぐ後方に選挙カーを停止させ、
「中街台駅にいらっしゃる皆さん、お騒がせして大変申し訳ございません。
これより、希望区選出!平和党公認候補!港北たくとが街頭演説をいたします。
未来市、希望区の未来のために全力で演説いたします。それでは港北たくと、本人の登場です」
支援者だけでなく、駅周辺が拍手の音で包まれる。
港北たくと、本人が助手席からドアを開けて降りてきた瞬間のことであった。
集まっていた女子高校生の一人が、
「あっ。イケメン、100点」
と結構な声で呟いた。
その瞬間、一太郎の心に100キロの重りがのしかかったような衝撃を覚え、目から一粒の涙がマッハ100のスピードで流れた。
<次号>
街頭演説<後編>




