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チェリーエレクション  作者: 今できる犬
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手紙

一太郎は、告示日前日に保険証書や通帳等の整理という終活のような準備をしていた。


よく刑事は常に司法解剖されてもいいように新調の下着を着るという通説があるように、過去の孤独死や悲惨な現場の映像がフラッシュバックしてしまう一太郎に染みついていたことも影響しているのかもしれない。


また、一太郎は、緊張でなかなか寝付けなかったこともあり、そこで遺書にも似た手紙を書いた。


誰に向けたわけでもない。ただ、残したかった。常に死を意識している一太郎にとって「今」という時が永遠にこないことの侘しさを感じてしまう性分と明日は何が起こるかわからないという不安の裏返しなのかもしれない。


迷惑をかけたくないという根本的な真面目さが、選挙という戦いに向いていない証拠なのかもしれない。


味方がいない一太郎にとっては尚更である。


よくドラマ等では挑戦者にはヒロイン的な女神がいることが多いが、現実は存在しない。


だが、そのような趣旨の真実はこの平等過剰反応社会では決して公に発言することできない。

社会の影を無視した偽善者達から社会的制裁を受けることになるから気を付けなければならない。


<手紙の内容>

今日、失敗だらけの人生の中で感じた社会に対する主観を記す。

客観的には負け犬の遠吠えだ。


報われることはない日々。いつか光は射すのだろうという淡い考えもまた前に進むためのエンジンになる。そしてアクセルを踏む。だが、それを世間は徒労と嘲笑うのが常なのかもしれない。結果が全て。過程など、結果が伴わなければ無価値同然。人間は、社会という仕組みの中でレール上にある課題をこなし、平均的な結果を出し続けるか、又はレールから脱線した上で突き抜けた結果を出すことでしか評価はされない。資本主義社会、選民思想は常に人間の潜在意識を刺激する。誰もが人並みか人並み以上でありたい。上級国民でなくても中流であり、決して自分が最下層にいるなんて思いたくない。そう思えるならむしろ、楽なのかもしれない。堂々と弱者であることを自覚し、そして堂々とあらゆる制度を利用する。恥の文化を尊ぶ日本ではある意味勇者なのかもしれない。なぜなら恥の文化の犠牲者はこの国では多すぎる。また、誰しも自分は他の人とは違う。そういった驕りはなかなか除去することは難しい。どんな人格者であっても不安という化け物はふとした時(疲れた時等)後方から表れる。謙虚という和の伝統のおかげで時には、我に返ることもあるが、ふとした出来事でまた優越感が甦るのは、誰かの不幸で自分の現状を正当化できる機会がこの情報化社会かつ不安煽り社会に溢れているからであろう。一寸先は闇。歯車が狂えば、もう復帰は困難。守るものがある場合は悲惨だ。認めたくない現実、かつてあれだけ嘲け見限った心理の反対の世界を味わう衝撃は、世間体という間接殺人の道具に抵抗はできない。上手くいくときもあれば上手くいかない時もあるという楽間主義的な言い分を開き直って言える人物の方が社会の真理をついていることには普段気づかない。レールという呪縛。社会の歪みへの一億総現実逃避が緊急事態への備えの甘さを露呈する。最悪の事態を想定して行動するというある種の積極的かつ悲観的な考え方は、正常性バイアスの虜である人々には受け入れられることのないものかもしれないが、現に危機は常にある。だが、当事者意識は身に付かない。まるでドラマかアニメの世界のことのように認識する。もしそういった危機に偶然にも遭遇しない人生があるとしたらなんて幸せなんだろうか。守られて生きて守られない人を想わずに生きる。なんて素晴らしい人生だろうか。でも日常という日々が続くとき、現実に危機は被る人達は気づかない。結局、危機に対する対策措置を決めるのは幸せな奇跡とも言える守られた人達である。そしてその結果に対する責任は負うことはない。守られない人達には結果を要求し、守られる人達には結果責任は忘れ去られる。例えば教育制度が間違っていようが、信頼していた外資に裏切られ損失を出そうが知ったことじゃないという風に。優秀な人がたくさんいるのになぜ社会は良くならないのか。天才と呼ばれる人がいるのになぜ社会は良くならないのか。ちゃんとやってくださいよ。せめて潔く責任を引き受け、覚悟をもってやってほしい。できないのなら最低限度の生活が送れるくらいの報酬でいいので私にやらせてください。


一太郎の目に、自然と涙が溢れた。


すかさず、机の上にあるティッシュ箱からペーパーを掴んだが、いつもの癖で多く掴み過ぎてしまったことに一瞬自分に興ざめしたことは内緒である。今日も元気だ。


次号こそ告示日(6月下旬更新予定)




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