32、天真爛漫たる黄金色の希望
「それで、結局の所どうやって現状を解決するつもりなのよ?」
もぬけの殻の領主さんのお屋敷、その一階に当たる玄関ロビー。
三人目の召喚獣さんである科学者風衣装の妖狐マナさんを加え、意気込みも新たにした私達は、現状最難関とも言える『今日の夜が更けるまでに、ライフイーターの完全撃退を達成する』を目標に行動を始めました。
それを実行するに当たり、まずはマナさんの『妾が居れば解決したも同然』と言う、満ち溢れた自信の根拠について、シーナちゃんが伺いました。
「まあ、そう焦るでない。その事に付いて語るためには、妾のこの格好について触れねばならぬのじゃ!」
「格好?」
「妾の姿を見て、汝らはどの様な印象を持ったのじゃ?」
「見た事も無い変な格好。あと頭がなんかごちゃごちゃしてる」
「科学者さんっぽいと思いました」
「うむ。その感想は二人とも、概ね間違ってはおらぬぞ!」
「変でごちゃってるとは、自覚してたのね……」
まあ確かに。服装はともかく、頭の部分はキツネ耳にメガネまでは分かるのですが、そこに更にヘッドギアタイプのメカメカしいバイザーが加わると、流石に少々装飾過多である事は否めません。
「ここで話のミソとなるのが、妾の頭に装着されているバイザー、『パラノーマル・アイ』なのじゃ!」
「まーた愛なのぉ……?」
片手を腰に当て、頭部のバイザーをもう片方の手で得意げに指差すマナさんに対し、シーナちゃんが度重なる愛の過剰供給にウンザリしたご様子で、愚痴を溢されていました。
「ち、違うぞ! アイはアイでもこのアイは、目と言う意味のアイなのじゃ!」
「あいあい、ソウデスネー」
ああ、シーナちゃんがマナさんに対し完全に苦手意識を持たれてしまっていて、受け答えまで興味の無いテキトーなものに!
ここは主人となった私が、責任を持ってフォローしなければ!
「マナさん。それで、そのパラノーマル・アイさんは、どの様な素敵機能を搭載されているのですか?」
「良くぞ聞いてくれたぞ主人よ! 妾が設計・開発したこのパラノーマル・アイの機能は多岐にも及ぶ。
その機能の一つがなんと、他人のスキルをコピーする事ができるのじゃ!!」
「は!? マジで!?」
おお、まさかの高性能。
これには先ほどまで興味が無さそうだったシーナちゃんも、驚愕のご様子です。
「マジもマジ、大マジじゃ! つまりじゃ、妾がこのバイザーで主人のスキルである《鮮明眼》をコピーし、主人に代わって妾がスライムもどきを一掃すると言うのが、此度の作戦のミソなのじゃ!」
「いや、普通に凄くてビックリしたんだけど……。
でも、マナ…………さんって遠距離攻撃の方法持ってるの?
例えその魔導具っぽいので見えたとしても、直接触ったら体力吸われて、私やそこのライラの二の舞になるのがオチよ?」
今、何気にさん付けを躊躇いましたね。間の長さが生々しいのです。
「ふっ、妾を何者だと思うておる!」
「変態」
「そう、妾の正体は変態であるぞ! そんな妾が狐火を使えぬ筈が無いじゃろうがっ!!」
「否定しなさいよっ!? それじゃまるで、変態がみんな狐火使えるみたいじゃないのよ!?」
「おお、そうじゃったな。これはうっかりしておったのじゃ!」
「うっかりってレベルじゃ無いわよ!?」
狐火って遠距離攻撃だったのですね。知りませんでした。
「まあ、気付かぬ内に人の体に張り付き、生き血を啜る様など、ヒルの様にしか思えぬからな。
古来より、ヒルの対処法は火で炙るに限るのじゃ。
と言うても、住民の救出劇にしては、些かばかり地味な絵面になってしまうが、その点も許すがよいぞ!」
「いや、絵面なんて誰も望んで無いから。そんなの気にしてるのアンタだけだから」
「何を言うておる。どうせなら、助けられる側もド派手にに助けられた方が、気持ちが良いに決まっておるじゃろうが!
例えば、バックに爆発など背負えば盛り上がる!!」
「ただでさえうるさいんだから、助ける時くらい静かにしなさいよ!?」
「BGMとかあれば尚も良しっ!!」
「話聞きけよっ!?」
いやー、マナさんのボケもシーナちゃんのツッコミも、キレッキレなのです。
一時は険悪な仲になってしまわないか心配でしたが、お二人ともとても仲睦まじいご様子で、お姉さんは一安心なのですよ。
「ちょっと、そこの飼い主! アンタのとこの召喚獣なんだから、のほほんとしてないでちゃんと手綱握りなさいよ!」
「分かりましたのです。マナさーん、こっちにおいでくださーい」
「妾に何か用か、主人よ!」
「よーしよしよし、マナさんはいい子ですね~」
「あははは、くすぐったいぞ主人よ!」
階段に座っている私の膝元に手を乗せ、こちらを上目遣いで見上げるような形で近寄って来たマナさん。
私はその彼女の頭を左手で撫で、右手で猫をあやす様に喉元をくすぐってあげました。
どうやら彼女的には、この接し方はOKなご様子です。
「ヤバい、あの子マジでもう手懐けてるっ……!?」
「こうやって接していますと、なんだかマナさんがとても愛おしく思えてきましたねぇ」
「主人よ! 妾も汝の事を誰よりも愛しく思っておるぞ!」
「帰ってこーーーい!? いちゃこらバカップルしてないで町救ってーーーっ!!?」
「頼むから。二人して遠い世界行かれると話進まなくなるから、今時間が無いって言うの忘れないようしっかりしてよねっ!?」
「「はーい」」
私とだいぶ波長の合うマナさんとの、ひと時の逢瀬(ほぼ主人とペットの関係)をもふもふと堪能してしまい、シーナちゃんにその事を諌められてしまった私達は、今度こそ真面目に話しを進めていきます。
「で、肝心のライフイーターの現在の数と所在地のことだけど」
「フッフッフッ。その事についても、妾のこのパラノーマル・アイに任せるが良いぞ!」
「スキルのコピーに加えて、まだ何かあるって言うの?」
「当然であろう! 妾がこのバイザーを作るのに、一体どれだけの資金とレア素材を溶かしたと思うておる!
来る日来る日も作成失敗に次ぐ失敗、今まで貯めておった妾の貯蓄はあっという間に底を尽き、それでも作れず毎日毎日空腹度回復力最下級の水とパンくずで食い繋いでいく生活を経て、漸く倍率0.00001%の壁を乗り越え作成に成功した、妾の一番の自信作じゃからなっ!!」
そう力強く語るマナさんの瞳には、一片の光も映らない深淵なる闇を宿しており……。いえ、これ以上は触れないであげましょう、その闇は、私達には深すぎます。
「故に、この超高性能バイザーの機能の一つである、スキャン機能の出番と言うわけじゃ!
と言うよりも、スキルコピーよりこっちの方が本来の使い方なのじゃがな」
「スキャン機能?」
「これについては、実際に使って見せるのが一番じゃろう。
汝たちはそこで、妾の姿をとくと見るが良い!」
マナさんはそう告げると、私達から少しだけ離れた正面に位置取り、顔に掛けていた赤縁メガネを取り外すと、それが光の粒子となって消えていき、そして―――
「―――パラノーマル・アーーイ、ウェーーーーイクアップッ!!」
シャキーン!!と言う効果音の幻聴が聞こえて来そうなほどの決め台詞&ポーズと共に、額の部分に上がっていた赤い半透明のバイザー部分が、ガッシャン!と目元の位置に下り―――
『―――システム起動。パラノーマル・アイ、通常モードに移行します』
よくCOAOのシステムアナウンスで聞こえていた、女性タイプの機械音声の方の声が、辺りに響きました。
そして今、真面目さんがお亡くなりになられました。
「だっさ」
「―――グサッ! ぐふっ。……ふふ、フッフッフッ、ダサいと言うて居られるのも、今の内だけじゃぞ……!」
変体呼びは平気でも、ダサいと言われるのは傷付くのですね。乙女心は複雑なのです。
「ゆくぞ、パラ子ちゃん! ――モードセレクト・スキャン! フィールドスキャン&エネミーサーチ! ターゲット『ライフイーター』!」
『マスター登録者によるオーダーを受諾。解析モードへ移行。
広域地形解析、及び目標『ライフイーター』の索敵を開始します』
バイザー全体から、ウィーンピロピロピロピーーキュルルルーと怪しい稼動音と光を放ちながら、読み込み終了まで待っているマナさん。
仁王立ちした待ち姿は、地味にシュールです。
『解析、及び索敵完了。結果を立体映像として投写します』
パラ子さんなるアナウンスと共に、玄関ロビー内の床に、緑色のワイヤーフレーム状の立体映像が側面部から投射され、町全体のミニチュア模型の様な形を成しました。
その町の立体映像の中には、町全体に無数に光る青い光点と、それとほぼ重なる位置に表示されている同数の赤い光点が表示されていました。
「これが町の全体図。そして青い光点が町の住民の位置で、赤い光点が全てライフイーターの物じゃ」
「色々とツッコミどころが多すぎて頭が痛いけど、この赤いのが全部アイツらだって言うの?」
「うむ、その通りじゃ」
「これ、本当に町の人達全員に取り付いてるじゃないのよ……」
どうやら、悪い予感と言うものは連続で的中する物らしく、その余りの数の多さにシーナちゃんが弱々しくそう呟きました。
これは本当に酷い状況ですね……。
この溢れかえった赤い光点の数だけライフイーターが潜伏し、そこに加えて先日までは外部からの別の魔物たちの脅威にも晒されていたのです。
町の皆さんには失礼な言い方にはなってしまいますが、ある種この町は何か呪いにでも掛けられているのではないかと、疑ってしまいたくなるほどです。
「なに、そう悲観的になる必要は無いのじゃぞ?
なんと言っても、今はこの妾がここ居るのじゃ。汝らは大船に乗ったつもりで、ドーンと構えて居れば良いのじゃ!」
ですが、今はマナさんがいらっしゃいます。
例え現状がどんなに悲観的な物だったとしても、彼女の底抜けの明るさと、満ち溢れた自信の前には、きっと何者も敵わないでしょう。
「はぁ。今ばっかりは、マナさんの騒がしさに助けられてるわ。……その、ありがとうね」
「うむ。素直に感謝を述べられるシーナは、とても愛いやつじゃな!
あとは、実際にライフイーター共を一掃し、感動のフィナーレを迎えるだけなのじゃ!」
「そうね。気は早いけど、ちゃっちゃと全部終わらせちゃって、今日の分の憂さを晴らすしかないわね!」
何だかんだ言いながらも、二人仲良くハイタッチを交すシーナちゃんとマナさん。
私はそんな微笑ましい光景を見守りつつも、心の中では別の事について考えていました。
それは、二人がこれからの行動について話し合い続けていた間、私だけがその会話に殆ど参加せず、彼女達に黙って行っていたある行動が起因となっています。
その行っていた行動と言うのは―――
『―――《Disconnect》』
COAOのメニュー。その中でも離れた位置にいる人とリアルタイムで会話するための機能、ライブ通話。
オプションのプライバシー設定のおかげで、私だけにしか見えないその脳内仮想ウインドウには、接続不可を意味する《Disconnect》の文字が表示されています。
通信相手は、レガシーさんとメルシーです。
マナさんがライフイーターの件を解決してくれる。と言うこと自体は、最早揺るぎ無い信頼と言っていいほどの確信を持っています。
ただ、物事にはいつでも不測の事態と言う物が付いて回ります。
なので、私はそんな事態に対策するため、現在も町の外で魔物相手にレベリングしているお二人を呼び戻そうと思い、先ほどからずっと通信を送っているのですが……。
いくら待ち続けていても、通信が繋がる事はありませんでした。
魔眼持ちの直感は、未来予知に近い物を得る時がある。
それは、昨日シーナちゃんが私に教えてくれた事です。
今、私は通信画面を見ながら、収まる事の無い“嫌な胸騒ぎ”に襲われています。
果たしてその胸騒ぎは、通信が繋がらない事に因るただの不安か、魔眼持ち特有の直感が働いた事に因るおぼろげな未来予知なのか。
私には、一体そのどちらなのか、判断をつける事は出来ませんでした。
それでも、容赦無く続くこの胸騒ぎは、私に言い知れない不安を募らせていきます。
私のこの胸騒ぎが、ただの杞憂であればいいのですが……。




