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はじめてのステータス鑑定

 夜が明け朝が来る。

 箱庭から出て初めて迎える夜明け。

 空が白み始める前からどうにも目が冴えてしまって、草原の向こうから太陽が昇るのをずっと見ていた。

 

「朝が来たの主様。今日から始めるとしよう、主様の人生を。……と言っても主様にあるのは儂だけじゃがの!なかなかにゼロからのスタードというわけじゃ!」


「ゼロだっていいよ!叢雲がいてくれれば何とかなるよ」


「そう言ってくれるのは嬉しい……嬉しいのじゃが、多分しばらくは冒険とか女子おなごとの出会いとか、そういう胸躍る体験とは無縁になると思うぞ。昨日の主様のツノウサギとの戦いを見ていて思ったが、しばらくは戦闘の経験を積むのに専念した方がいいと儂は思う。地味な、ひじょーに地味な作業じゃ。しかも命の危険がある地味な作業じゃ。別に将来の主様が戦闘を生業とするようになるとは限らないわけじゃが、それでも最低限の戦闘技術はこの世界で生きていくためには必須じゃ。極端なことを言えば、学者になるにしても戦闘技術はあって越したことはない。ずっと建物の中に篭っていられるとは限らんし、移動しているだけでモンスターに襲われることもあるでな。運が悪ければ住んでいる街がモンスターの集団に襲われることだってある。その時に戦えませんハイ終了では困るじゃろ。まぁ言わんでも主様はその気のようじゃがの」


「うん、その気だよ。戦闘技術の向上は絶対に必要だと思う。今まで漠然と冒険したい、と思っていたけど、冒険って強くなくちゃ無理だよね。当たり前だよね。どこかに行きたい、何かが欲しい、見たことのない物を見てみたい、そういうことで冒険をすると思うんだけど、何をするにしても戦いは起きるよ。だって歩いているだけでモンスターと出会うんだから」


「そういうことじゃ。分かっていてくれて安心したぞ。さて、ではツノウサギでも見つけるとしよう。泥臭くて構わんからとにかく勝つんじゃ。それが経験になる」


「了解だよ叢雲。じゃ、コソコソしながら探そう」


「うむ、頑張るのじゃぞ……とその前に、自分がどれだけ強くなったか分かるとモチベーションも違ってくるというものじゃ。儂は非常に簡易なものだが、人間のステータス状態を見ることができる。今の主様のステータスを表示するから確認してみてくれるかの。主様の目の前に見えるようになるはずじゃ」


「え、叢雲ってそんなこともできるの?」


「非常に簡易なもの、じゃ……もしかすると大雑把すぎてほとんど参考にならんかもしれん。本来はこの手の術は女神や僧侶がやるものなんじゃ。機会があったら正確なものを見せてもらうとええ。じゃいくぞ」


LV:1

HP:??/??

MP:??/??

術技:女神の加護(極) 燕返し(LV:1)


「…………」


「…………」


「えっと、レベルが1ってことは分かったね。ありがとう叢雲」


「すまんのぅ。簡易にも程があるという感じじゃの。まさかHPすら満足に測定できんとは……」


「いやいや、レベルが分かるだけでも凄いよ。つまり、これから戦闘の経験を積めばレベルが上がるってことなんだよね?それって凄くモチベーションになるよ。目に見える結果ってのは嬉しいから!それにほら、術技ってとこがあるよ」


「女神の加護と燕返し、か。女神の加護については言うまでもないの。あの3女神の加護じゃろ。特にミューズの影響じゃろな。なにせ母親なわけだしの。それにしても(極)ってのは儂も見たことがないわ。大抵は神の加護というのは戦闘時に受けるダメージを減らしたり、状態異常を防いだりとかそういうものじゃ。珍しいものになると戦闘時に全てのステータスが2倍になるなんていう反則気味のものもあるの」


「神様の加護にも色々あるんだね」


「うむ、そうなんじゃが……その場合には『女神の加護(状態異常耐性)』とか、分かりやすい表示になるはずなんじゃ。しかし主様のは(極)だけじゃから……何の役に立つのか皆目見当もつかんわ。これは、加護をアテにして戦闘をするわけにもいかんな。どういう効果なのか分からんのじゃから頼るわけにいかんし、そもそも使い方も分からん。…………最悪の場合、あの3女神の主様への愛情を表示しているだけという可能性もあるの」


「えー……愛情を受けるのは嬉しいけど、それって何かの役に立つのかな」


「多分何の役にも立たんじゃろうな」


「だよね」


「何の役にも立たんが、ステータス表示に(極)で表示される程の愛情を受けていると……」


「愛が重い!」


「もしかしたら何か役に立つかもしれんし、あって邪魔になるものでもなし、どちらにせよ今はスルーじゃな」


「スルーだね」


「もうひとつの燕返しだが、これはあれじゃな、主様が庭の中でミューズと戦った時に使ったあれじゃろうな。袈裟斬りからのそのまま太刀を返しての一撃じゃ」


「うん、あれだね。ミューズにも当たったあれ。結構考えたんだよあの技。だってさ、普通に刀を振っても当ってくれるとは限らないわけでしょ。だから、躱されることを前提にして技を組み立てたらどうなるかと思ってやってみたんだ」


「いい着眼点じゃぞ主様。剣技の中には躱されることを全く想定せずに一太刀に全てを賭けるようなものも存在するが、それは簡単なようでいて相当な使い手にだけ許されるものでな、実のところ全然簡単ではない。一太刀目が当たればそれで良し、当たらずとも返しの太刀を当てにゆくという発想は、実に良い」


「えへへ、ありがとう叢雲。刀剣の序列一位様にそう言ってもらえるとなんか自信になるよ」


「着眼点はいいがまだまだじゃな。(LV:1)と補足がある通り、改善の余地ありじゃ。ミューズが言っておったと思うが、燕返しは本来は回避不能というとんでも剣技じゃ。……じゃが、今の主様の燕返しは、精々『けっこう早い二連撃』というところじゃな。人間相手ならフェイントになり当ってくれる者もおるかもしれんが、モンスター相手だとどうしても力押しが必要になるでの、今のレベルのままでは実戦で使うのは難しいじゃろうな」


「けっこう早い二連撃かぁ。確かにそうだね。手首や肘の動きで出来るだけスムーズに二の太刀を振るえるようにはしたつもりなんだけど、まだまだだね」


「儂の過去の所有者にも燕返しの使い手は何人かおった。中級くらいになると、一の太刀と二の太刀がほぼ同時に振るえるようになる。これが出来るようになれば人間の剣士としては敵なしになる。回避も現実問題として不可能になる。ミューズが言っておったのはこのレベルの燕返しじゃ」


「一の太刀と二の太刀がほぼ同時……?それってどういうことなの?僕の中では、あくまで二の太刀は一の太刀が当たらなかった時に保険というかそういうイメージなんだけど。それにほぼ同時って不可能じゃない?」


「儂にもよく分からん。あくまで儂は刀であって使い手ではないからの。でもそうやって使っておった人間がいたのは事実じゃ。1人だけ、更に上の使い手もおった……の。あれは剣技というよりも『現象』に近かった。ま、その話はする必要はあるまい。今の主様に必要なのは、出来るだけスムーズに二連撃を振るう練習を行うことじゃ。あまり上を見てもかえって害になるでの。素振りでも木への打ち込みでも何でもいいから、今は泥臭い修行をするべきじゃろう」


「そうすることにするよ。僕は剣の天才でもなんでもないからね。ひたすら反復練習をするしか上達への道はないと思っているよ。ある日突然ひらめいた!って感じで上達すればカッコいいけど、多分僕には無理だ」


 ひたすら反復練習。

 いいじゃないか。

 望むところだ。

 才能がない僕は、いくら反復練習したところで一生叢雲が言う中級者にはなれないかもしれない。

 それでも無いと分かっている才能に夢見てある日突然上達するなんてことに頼るよりはよほど現実的だ。

 現実的ということは道筋も見えるということ。

 道筋が見えればやる気も出るってものだ。

 

「というわけでじゃ、剣の練習をしながら弱っちいモンスターを探してちまちまと経験を積むという路線でいくということでええの?」


「いいよ!地味だね!すっごく地味だね!でもそれでオーケーだよ!」


「うむ。後ろから不意打ちできるようにコソコソと探すとしよう」


「本当に地味だね!」

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