表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

5

 何が起きたのか。

 マリーは王子とは全く関わっていない。視界にも入った覚えがない。


「何故私が?」

「セーラにいじめられながらも耐え抜く君に惹かれたのだ」


 その言葉に一層唖然とする。

 誰が誰をいじめていたというのだ。

 今のマリーは小説ようにセーラにいじめられていない。むしろセーラに助けられて学園でうまく立ち回れるようになった。

 訂正を求めようとするアントワーヌ王子は制した。


「言わなくてもいい。わかっている」


 そういいながらアントワーヌ王子はきっとセーラの方へと睨みつけた。


「セーラよ! お前には愛想ついた。お前はこのいたいけな少女を苛め抜き、自分の引き立て役にと利用した。可哀そうなマリー嬢はそれでも懸命に努力して……私はお前を断じて許すことができない」


 アントワーヌ王子の声が響き渡る。

 一体何が起きているのだ。


 茫然としている合間に数名の令嬢が私の前へと現れる。


「私、みました。セーラ様がマリー嬢にどんな意地悪をしたか」


 身に覚えのない話にますます困惑する。

 それは小説の中の場面である。

 今のマリー、私には全く存在しない記憶だ。


 階段から突き落とされた。

 それは私が勝手に足をくじいて落ちてしまったのだ。駆け付けたセーラが心配して保健室へと連れて行ってくれた。


 教科書を隠された。

 私がうっかり移動教室中に紛失しただけである。セーラは一緒に探してくれた。


 教養がないと笑われた。

 違う。何度やってもできなかった私にセーラはめげずに手を差し伸べて教えてくれた。


 何もかも根も葉もない物語だ。


「一体どうしたの。私は……」


 そんな目に遭っていない。私はセーラ様に助けられてばかりだったの。


 そう言いたいのに口が思うように動かない。声にならない。


 一人の令嬢が私のすぐ目の前まで現れた。


「認めなさい。それであなたは幸せになれるの」


 聞き覚えのある声に私はぞっとした。

 そんなはずはない。

 だって。


 目の前にいるのは私。


 マリー・グレイルではない。

 私の前世。川本みやの姿だった。


 どうして私の前世の姿、そのままの令嬢が登場しているの。


「あなたは誰?」

「私はミーア・リバレイン。ああ、可愛そうなマリー嬢。恐怖で何も言えないのでしょう」


 ミーアはちらりとセーラの方をみた。

 セーラは青ざめてミーアの方をじっと見つめる。

 どうして何も言わないの。どうして。

 セーラなら毅然と否定できるだろう。


「これが、あなたの望みなの?」


 ようやく出たセーラの言葉。その声に私は胸の奥が熱くなった。

 どうして忘れていたのだろう。

 セーラの声は何度も聞いた、大事な声だったのに。


「やめて!」


 私は二人の間に回り込んだ。このバカげた断罪劇を止めなければならない。


「どうして邪魔するの?」


 ミーアは忌々し気に私を睨んだ。


「これはあなたが幸せになる物語なのよ。川本みや」

「みやちゃん?」


 セーラは私の方をみた。

 私はミーアに向かって首を横に振った。


「違う、違う」


 彼女を犠牲にしてはいけない。

 彼女を傷つけてはいけない。

 その為に書いたわけじゃないのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ