58:剣が出来ました
行儀が悪いと知りながらも欠伸を噛み殺して、カークは目の前の食事に集中した。
「体調はいいから、部屋の外で食べても大丈夫だと思うけど」
カークの言葉にルレアは微笑んで首を振る。
「あら、2人で食べる朝食は嫌?」
「嫌ではないけど、怒られないか?行儀が悪いって」
ただでさえ、ルレアは未婚の女性だ。
男の部屋に入り浸るのはあらぬ誤解を生むかもしれない。
「怒られないわ。それに関しては、私は放任されているから」
肩を竦めるルレアに何とも言えず、オムレツを食べた。
ひき肉の入ったオムレツは朝に相応しいあっさりとした味付けだが、贅沢にも香草が使用され、非常に香り高くまた、美味い。
むしゃむしゃと遠慮なく食べていると無遠慮に扉が開く。
突然の闖入者に瞠目してそちらを見ると現れたのは満面の笑みを浮かべたエメディリルだった。
「あ、ああ、メディ・・・・・・おはよう」
「おはよう!今日はどこ行く!?」
「今は食事中だからちょっと待ってくれるか」
カークの言葉にメディは頷いて納得しソファの肘掛けに腰かけるとカークに笑いかけてパンをひとつ持っていく。
「一個貰うね。ここのパンめちゃ美味しいんだよね。多分王国で3番目においしいパン」
かなり美味しいここのパンに勝る1番と2番が気になるがそれは置いといてカークは気持ち急いでオムレツを掻き込みはじめた。
メディを待たせるとろくなことが無いからだ。
目の前のルレアも同じ考えに至ったのか気持ちスピードが増している。
「いいよ、慌てなくて。僕、今日暇だし」
「え?そうなのか?」
「うん。なーんにも依頼来てないし、来てもシディアとシャルローゼでなんとかなるし」
「そうなんだ」
言いながらオムレツをもう一口食べる。
「ここの料理、美味しいでしょ」
「うん。かなり美味しい・・・・・・やっぱり貴族はすごいな」
カークの感嘆にメディはパンを持っていない手で指を揺らす。
「違うんだなあ・・・・・・貴族だから、じゃない。ここは兄ちゃんのテコ入れがあったんだ。昔はその辺の草の方が美味しいくらい不味かった」
「・・・・・・何があったらそんな不味い料理を作れるんだ?」
純粋な疑問を挟むとメディも実際理解に苦しんだのか微妙な顔を見せる。
「そればっかりは知らないけど。兄ちゃんが凄いって言いたかったの」
「ああ、凄い。直したのはいつ頃なんだ?」
「私の祖父の代です。当時の王からの要請で、ラナンティアへ・・・・・・様は陽王国の各地を周られていて、直々にご指導をなさったとか」
「・・・・・・それまで不味いのは気にならなかったのか?美味しいものに興味がなかったのか?」
カークは最早頭を抱えて考えたが、答えが出るはずもない。
当時の人間には必要のないものだったのかもしれないし。
「交易が比較的出来る海辺の方はマシだった。周易される王都もか・・・・・・森や国境付近は最悪の一言さ。食事に回せる資源が無いし、余裕もない。香辛料は高いから」
「そうか、香辛料は・・・・・・高いよな」
「今は随分と交易も進んで品質も上がってる。東側は花竜帝国からロージニア周辺を貰ったから、その恩恵が特にあるのさ。ノイバシッセは本当に上手くやってるよ」
意味が分からずカークはメディを見つめ返す。
“ノイバシッセは本当に上手くやっている”?
「ノイバシッセって?」
「ロージニア周辺を治めておられる、エジェワーディ侯爵ノイバシッセ家です」
「あー・・・・・・花竜帝国や他国との交易を引き受けているから周囲の圧力やら軋轢なんかをうまい事操作して、利益を生み、かつ、王国に結構な貢献をしているって事か。そりゃ大変だ」
どの世界でも上の人は大変だと嘆きながらスープを飲んでいると驚いたような変な物を見るような顔で2人はカークを見ていた。
「どうした?」
「君さ、農民なのにどうしてわかるの?」
メディの言葉の意図がつかめず困惑するとルレアが困った様に付け足す。
「教育をどこで受けたのか、と疑問に思っただけよ」
「そういうことなら、村にアンジェラと言うドルイドがいるんだけど、彼女からいろいろな教育を受けたんだ。彼女は物知りで」
そう言いつつ、カークはオムレツを一口食べた。
納得したようなそうでもないような微妙な顔を見せるルレアに対してメディは肩を竦めただけだった。そもそも、興味がなかったのだろう。
ノックが不意に部屋に響く。ルレアが席を立ち、扉に向かう。
「ヴェノ様」
そう言って彼女はヴェノを部屋に招き入れた。
「出来たぞ」
ぶっきらぼうにヴェノはそう言って片手に持っていた長剣を差し出す。
カークは息を詰まらせ食器を皿に置くと席を立ち、頭を下げた。
「あ、ありがとうございます」
「いい、気にするな。お前への礼だからな」
渡された長剣は素朴な鞘に収まり、一見すればただの真新しい剣だった。
「あの、抜いてみても良いですか」
「勿論だ」
興奮気味にカークは鞘から剣を抜く。現れた刀身にカークは感嘆した。
白い鱗の刀身は鋭く煌びやかで燐光を放ち、最早宝石のようだった。
「おお」
「飛竜より地竜の鱗の方が固い。が、その分、少し重く仕上がっている。気をつけろ」
「はい、あの、ありがとうござます!」
ヴェノは重ね重ね礼を言うカークにむず痒そうな顔を見せて顔を顰めると、踵を返した。
「用はそれだけだ。では」
そういってさっさと去る姿にカークはぽかんとする。
それでも、剣を思い出すと惚れ惚れとそれを見てしまう。
「おー!竜の鱗の剣か。いいね」
「うん。お礼だってさ」
興奮を抑えながら剣を鞘に戻してカークは朝食に戻った。




