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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第二部

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273:父親


「父さん」


畑の隅でプラプラしていた父を見つけて、俺は話しかけた。


「……見損なったか」

「なんで?」


父は髪をぽりぽりとかいて、それから、気まずそうな顔を見せる。


「隠してたこと」

「何を」

「神だって……この……村は」

「うん、別に。この村ってさ、おかしいところが多いんだよ」

「え」


それに気づいているとは思っていなかったのか父は俺を見る。


「だってこの村、おかしいだろ?赤貧と言って差支えのない村だ。なのに水、水だけは供給が止まったことがない」


そう。生まれてずっと、安全な水がこの村では供給されていた。

泥水など飲んだことがない。汚染された水など飲んだことがない。

非常に疑問だったのだ。

こんな村にそんな大層な浄水機能など一切ない。あるのは、井戸だけだった。

今は、魔石の嵌った蛇口が各家にあるが、以前はそうじゃなかった。


「そう、そうだよな。分かるよな……俺は水の神、ヌン……はあ、どうしたら」

「どうもしなくていいんじゃない?」

「ん?」


父は不思議そうに俺を見る。


「だが、ここの居場所がばれた。逃げないと」

「なんで」

「……神狩りをしているのは太陽の影騎士団だけじゃない」

「ヌトさんもゲブさんも普通に暮らしてるじゃん」

「あ、まあ、うん」


肩の力を抜いた父は俺を見て、苦笑いした。


「……最悪なのは、子が神成をしてしまうことだ。俺は、お前にそんな重荷を背負ってほしくはなかった。デュラもそうなるんだろうか」

「しょうがないよ。もう済んだことだし、俺はゆっくり使命とやらを探す。デュラはどうだか知らないけど」


どさっと父は座り込む。

その隣に座り、俺は話す。


「俺も秘密があるんだ」

「ん?好きな子がいるのか?」

「いない。実は俺、転生者なんだ」

「は?」


ぎょっとした顔を見せた父は俺を見る。


「俺、地球から転生してきて、今暮らしてる」

「えっ」

「父さんは、地球で何見てきた?」

「うーん」


父の目には逡巡が浮かぶ。


「特には……」

「ええ?善神は地球出身だろ?」

「だって、まあ、俺は水そのものだし……」

「あー……」


気まずい。


「……水の神様ならさ、炭酸とか出せるの?」

「たんさん」

「ほら飲んだことない?しゅわしゅわする飲み物」

「昔に飲んだことがあるな。甘い奴だろ」

「そうそう」


出せるのかなと見ていると父は気まずそうにした。


「シューがいれば作れるだろうがな。俺は無理だぞ」

「えっ」


神って何でも好きな物作れるんじゃないの。

そう聞くと父は困った顔を見せる。


「本来は、その属性に合ったものしか作れない。俺だと水だな」


溜息を吐く父を見つつ俺はどうして自分が宝石までも作れるのかちょっと気になった。


「シューは遠くにいる。まあ近くとも言えるが、まあ、とにかく忙しい奴なんだ」

「ふーん」

「はあ、実際にエジプトで信仰されてたのはほぼエネアドだ」

「なにそのえねあどって」


草の葉をぴっととってぴろぴろしながら父は話す。


「ヘリオポリス9柱神」


ぴっと草の葉を俺に向ける。


「創造神アトゥム、大気の神シュー、湿気の神テフヌト、大地の神ゲブ、天空の神ヌト、再生と死の神オシリス、魔法の神イシス、砂と戦争の神セト、祭事の神ネフティス。以上9柱神」

「ふーん」


エジプトってどこらへんだったかな。まあいまとなってはどうでもいいが。


「まあ、難しく考える必要は無い。ギリシャじゃないんだ、血縁が神に成るということはない……はずだったんだが」


俺を見る父の目には悔悟の念がこもる。


「……はあ、何で神なんかに」

「蛮神なんだって」

「え?善神じゃないのか」

「うん。新しいくくりなんだって。幻角公がそう言ってた」

「ふーん……なんで」

「エルデン・グライプでかつ邪神の神性を持っていて、善神の加護を持っているとなれるんだって」

「……難しいな」


ぴろぴろと葉を回す父はちょっと引いて俺を見た。


「ちょっと待て、エルデン・グライプになったのか」

「あ」

「死んだのか!?おい!」

「う、うん」


俺はだらだらと冷汗をかきつつ目をそらす。


「はあああ……俺は、野盗が出たら逃げろと言った、貴族には逆らうなと言った。それでも死んだのか」

「う、うん」


がばっと父は立ち上がり、俺に覆いかぶさる。


「なんで、お前が、死ななきゃならなかったんだ」


暖かい体温に俺は涙ぐみながら微笑む。


「いいよ。生き返ったし」

「結果論だ。あのな、俺はお前の父親なんだよ。愛した人の子供なんだ、ああ、俺は神なのに、お前を守れない。死んじゃったんだぞ」

「いいんだ。友達もできたし」

「友達?」


父は離れ、目を拭いながら俺を見た。


「エメディリル」

「ああ、あの8大罪」

「うん」


葉っぱを捨てて父は俺を見た。


「あいつは気まぐれだから、気をつけろ」

「うん、いやと言うほど身にしみてる」

「そっか」

「それにさ、仲間と世界中回るの楽しいよ。俺の一部が売れるらしいし、この村を豊かにしたい」

「あのな」


父は真剣に俺を見つめる。


「お前はちょっと……かなり頑張りすぎだ」

「そうかな?」

「村は俺と母さんとアンジェラが守るから、あんまり気を詰めるな」

「うーん、そうかな」

「うん。そうだぞ。まだたった20歳じゃないか。そんな子供が思いつめる何て」

「成人だよ」

「……まあ、うん。そうなんだけどな」


俺は気まずそうな父を見た。


「じゃあさ、これからは安心して村を任せるよ」

「偉そうだ」

「ふふ、シメオンさんは知っているの?父さんが神様で、母さんが元騎士団長だって」

「知っているよ」


知ってんだ。村長も人が悪い。


「俺の使命って、父さんに分かる?」

「分かるわけない」

「幻角公は役目があるって、母さんは使命があるって……そんな事突然言われてもね?」

「母さんと幻角公の言うことは正しい。何か役目があるのは間違いない。ただ、それが何かは、俺にも分からん」


えーそんなもんなのー?

楽に知る方法ないかな。


「父さんはどんな役目?」

「うん?俺は水で満たし、情を注ぐのが役目だ。満ちることだよ」

「うん?」

「まあ、水に関すること全般ってことだ。カークは何の神なんだ?」

「音」


父は不思議そうな顔を見せる。


「音か。音楽ならギリシャ神に音楽の神がいる。だから、なんかヒントを貰えるかもな」

「どこにいるの?」

「ルビアンレ鳴王国。アポロンとムーサ達だ。まあ、どちらかと言うと芸術の神って感じだが」

「へー……行ってみようかな」

「行っておいで」


俺は立ち上がり、父に笑いかける。


「ありがとう」

「どういたしまして」


父も立ち上がり、とぼとぼと歩き出す。


「はあ、ゲブとヌト帰ってくれないかな」

「なんで?」

「顔を合わせづらいんだよ。俺はソフィアに惚れて前線から抜けたから」

「ええ……」


そりゃ怒られるだろ。


「セトは俺の仲間なんだ」

「どういった経緯なんだ……?」

「セトがオシリスから逃げるのにええっと、オシリスを俺が食べて、うん、それでまあ、俺が保護している感じ」

「……まあいいが、気をつけろ。セトは気が短い」

「うん。知ってる」

「……そうだよな」


はあと溜息を吐く父を追いながら家に帰ると、ゲブ、ヌトがこちらを睨む。

いや、実際には父をだが。


「お前、よくもまあ」

「だって」

「だってじゃない!人間にうつつを抜かすなどとは!」

「そんなことより、カークにアポロンを紹介してやってくれ」

「は?」


ヌトは俺を見る。


「そいつのためになんでアポロンなんぞに橋渡ししてやらにゃならんのだ」

「カークが音の神なんだよ」

「それなら、ハトホルでいいだろ」

「あいつは駄目だ。癇癪が酷い」

「まあ、うん。そうだが、でも、お前の紹介だと言えばなんとかなるだろ」

「あの惚れっぽい癇癪持ちを相手にしろと」


ヌトは呻き、ゲブは咳払いをした。セトはそっぽを向いた。

なに、そんなやばい奴なの?地雷なの?


「……アポロンの方がいいな」


ハトホルの地雷説が濃厚になりましたが?


「そうだろ?」

「お前、また来るからな」

「くっ」


ヌトはポーチから紙を取り出し魔法で浮かせてそれに何か書きなぐると丸めて俺に放り投げる。

ぐしゃぐしゃだよ。


「それをアポロンに見せろ」

「ええ……?」

「鳴王国の王都にいるはずだ。鳴王国に神殿がある。ちやほやされるのが好きだから」

「え、ええ……?」

「気持ちは分かるがまあ、行ってみろ。音楽の神と言うのはほかにもいるんだがな」

「ハトホル様とか?」


ヌトは苦い顔を見せる。


「ああ、あいつは駄目だ。頑張ればなんとかなるが基本的に話が通じないから。邪神にも音楽の神がいるんだ。鼓笛候といってな……まあ、夢白泥の王のそばから離れることがほぼないから、勘定には入らん」


ヌトは父にローキックをしてからこちらを見る。父は微妙な顔を見せた。


「じゃ、帰る」

「あ、はい」


ヌトとゲブは出ていき、セトが心細そうに追いかける。


「……あの、またお会いできますか」

「何を言う、可愛い息子よ!」


くるっと振り返ったヌトは背を屈めてセトを抱きしめた。


「君が望むならいつでも会える。そのために出てきたのだろう」

「さあ、オシリスが何を考えているかは、分かりません」

「あれは、セトに執着しすぎだ。今度がつんと言ってやる」

「はい」


ヌトは立ち上がるとセトの頭を撫でて、それから、出て行った。

それに続いてゲブも出ていき、母と父も出てくる。


「またな」

「はい」

「今日は雲のない日にしよう。君に会えてよかった、ソフィア」

「恐縮です」

「ではまた」


かたんと扉が閉まり、父と母は互いを見つめて笑いあう。


「やだわ、あなたったらすぐ逃げるんだから」

「家族には弱い」

「そう、今度からは逃げないで」

「はい」


母は父にキスをし、2人がイチャイチャしだしたので俺たちはそっと逃げた。



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