表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/48

45.放課後のお茶会

 俺は今いつものカフェテラスでお茶をしている。知り合いと二人で。

 俺の向かいに座る人物は、パウンドケーキに三種類のジャムを楽しそうに選びながら口に運んでいる。

 ついでにその隣にあるパイ生地に挟まれたクリームを掬い、その甘さに目尻を下げる。

 かと思えば、硬めの生地のプレッツェルの様なパンをサクサクと食す。


 俺はどう声をかけたらいいのかと、林檎ジュースを飲みながら相手を見つめた。

 そもそも、何故彼がここにいるのだろう。


「いやあ、学生さんに混じってお菓子を食べるなんて、贅沢ですね。心持ち私も青春時代に帰ったみたいです」


 ふふふと、楽しそうに笑う。

 周囲では、そんな彼を驚き半分、ときめき半分で様子を伺っている。

 俺は確かに彼に会いたいと思っていた。

 連絡を貰えたら、何とか護衛を探して本堂へと面会に向かうつもりだった。

 そこで相談をするつもりだったのだ。


「それで、どうしてここにいるんですか……。パラデリオン様……」


 テーブルに置いた林檎ジュースが、甘い香りを放ってその水面を揺らした。



 授業が終わり、放課後。珍しく慌てたナリマー先生が教室へと飛び込んできた。

 いつもは冷静でピンと背筋を真っ直ぐに伸ばし、どんな時も優雅に廊下を歩いているのに。

 急いで来たのか、息が上がり顔が上気している。乱れた息が、いつもの倍以上に、色っぽい。

 うっかり見とれそうになったが、先生の口から発せられたのは首を傾げるものだった。


「ノイルイー、今すぐ商店エリアのカフェテラスに向かってちょうだい」


 何故カフェテラス?何かのお使い?

 よくわからないまま、急かす先生に押し出され、教室を後にした。


 向かった先のカフェテラスでは、入り口付近で数名の少女達が何やら覗き込んだり入ろうかどうしようかと逡巡している。

 どうしたんだろうと不思議に思いながら入り口へ足を踏み入れると、俺は目の前の光景に体が固まった。


「あ、お待ちしていましたよ、ノイルイー嬢」


 マフィン片手にひらひらと俺に手を振る、本堂の人気司祭様の姿があった。



「どうしてって言われましても、ノイルイー嬢が私に会いたいと連絡をよこしたのではありませんか」

「いえ、そうですけど……」


 そうですけど!いやそうですけどね!?

 何の事前連絡も無く、急に来られるとか普通思わないでしょ!

 そもそも、普通こちらがお伺いを立てる立場ですよね!?

 しかもこんなに目立つカフェテラス。


 司祭様は片手を上げて店員を呼び、追加注文をされている。

 呼ばれた店員さんは飛び上がらんばかりに驚き、緊張した面持ちで注文を取りに来る。

 ここ、セルフ方式なんですけど……。

 しかも今、請求は教会へとか言いましたよね!?一体何の経費ですか!?


「貴女もどうぞ召し上がってください。このクッキー美味しいですよ。私の奢りです」


 奢りと言われても、俺達生徒は無料なんですけどね。いや、貰いますけど。

 勧められたクッキーを遠慮なくポリポリと頂く。

 友人達ともこのクッキーは割りと頼むけど、奢りと言われると何故だか妙に美味しい。


「ええと、それでですね……」


 この状況を考える事は放棄して、クッキーの美味しさにまかせて用件を話す事にした。

 ただここで詳しく説明するのは憚られる。

 だって壁に耳あり障子に目あり所か、隠す事無くそのキラキラと輝く瞳と、掻き分けた髪から覗く小さな耳達が俺達の様子を少しも逃すものかと伺っているのだ。


「なるほど、国境砦での事は聞いております。その件で思う事あり、私に相談したいと」


 掻い摘んだ俺の説明に、目の前の彼はテーブルの最後のスイーツを食べきった。

 俺も勧められた奢りのクッキーを平らげた。


「はい、思う事というよりも試したい事がありまして。それは私一人では色々と問題がありまして……」

「問題ですか、それは何ですか?」

「ちょっとここでは、人が多すぎます」

「わかりました。では、移動しましょう」


 ふう、と紅茶で一服すると、司祭様は立ち上がった。

 俺も林檎ジュースを飲み干し、慌てて後を追った。



「ここならいいでしょう」


 二人で移動した先は、学園敷地内の歩道から少し離れた場所にある休憩スペースだ。

 敷地内には所々に、生徒がちょっと立ち寄れるようベンチが設置されている。

 小さなサロンスペースもあり、そこにはテーブルもセットになっている。

 俺は始め学園の談話室へ行こうとしたけれど、それはやんわりと止められた。

 外の風も気持ちいいですよと、司祭様は笑った。


「えと、それでですね、先程おっしゃった通り国境砦で色々あった後、私は意識を失ったじゃないですか」


 辺りに人がいない事を確認し、俺は説明を始めた。

 俺が椅子に座ると、パラデリオン様も隣に腰を下ろした。

 遠くから見ると、二人並んで空をぼっと見ているように見えるんだろうか。


「ライアールに聞きましたよ。崩れ落ちる貴女を受け止めたら、寝息を立てていたと」


 あ、ライアールが運んでくれたのか。後でお礼言っとかないと。

 ……会えるかわからないけど。

 っていうか、倒れたと思ったらグーグー言いながら寝てたって恥ずかしいな!おい!

 しかも起きたら起きたで、腹の虫がグーグー鳴るという。


「……ぐっすり眠る事ができました。で、ええと、私はそれにちょっと疑問を持ちまして」


 学園に帰った翌日の貰った休みに、ずっと考えていた聖女の力の上限値やリミッターの事を伝える。

 力を使ってあんな風に倒れたのは初めてだったので、試したい事があると。

 もう一度、いやできれば何度か同じ様に力を最大限に使って、また意識を失うか試したいと話した。


 もしまた意識を失って、倒れている時間が長く学園を休む事になるかもしれないから、そこをフォローできる人が欲しい。

 何度か繰り返して結果が同じなら、また同じ様な状況になった時に、そのさじ加減ができるんじゃないかって。

 救護や浄化の途中で、いきなり倒れる事は避けたいのでお願いしますと頭を下げた。


「確かにそれは困りますね。倒れた貴女を必ず回収できるとは限りませんし。最近は、こと魔瘴の発生が多い」

「やっぱりそうなんですか?聖女の力が弱まってたり、何が起こってるんでしょうか」

「それはまだわかりません。ですが、このままだと取り返しのつかない未来へと向かう事になりそうですね」


 司祭様はため息をついた。

 俗に言う終わりの始まりと言うやつだろうか。

 せっかく聖女の卵として頑張ってるのに、勘弁願いたい。俺の安定した未来を脅かすのだけはやめてくれ。


 話を戻し、司祭様は俺の試したい事を自分が請け負ってくれると言ってくれた。

 いいんですか?と尋ねると、私も興味がありますし、こちらとしてもその結果は必要な事ですからと笑った。

 確かに俺への仕事の斡旋は教会だし、俺の体調やその力の状況状態を把握しておかないといけないか。


「では本堂で?」


 問えば彼は横でしばらく考えた様だった。

 そして首を左右に振ると、人差し指を立てた。


「……第一騎士団の宿舎でやりましょう。警備としても、申し分ありません」





 授業が終わると、俺は急いで帰宅の準備を始めた。

 今日はこのまま外出許可を貰って、本堂の第一騎士団の宿舎に向かうのだ。

 あれから外出届も一人では受理してもらえなかったけど、今回は第一騎士団の人が迎えに来てくれるからすんなり下りた。


「やけに急いでるけど、どこか行くの?」


 リリシュが首を傾げながら、俺の机に手を置いた。


「ちょっと本堂に用があって。司祭様に、聖女の力の事教えて貰う約束あるんだ」

「珍しい、ノイルイーがすすんで勉強するなんて」


 力を使い果たして倒れる予定だとは流石に言えなくて、俺は曖昧に笑った。

 これからする事は、心配させたくないので黙っておく。

 危険な事は何もないとは思うけど、このかわいい赤毛の友人は、些細な事でも俺の心配をしてくれる。

 それはとても嬉しいことだけど、そんな事で彼女の胸を心配で曇らせたくは無い。


 鞄に色々突っ込むと、俺はリリシュに片手を上げて別れを告げた。

 学園の門を出ると、一人の騎士が俺の前に出た。

 多分迎えの人だろう。わざわざこんな所まで来てくれたのか。学園敷地の外で待ってると思ったのに。


「わざわざすみません」


 そう謝ると、騎士は笑って首を横に振り、ビッと背筋を張り敬礼した。


「いいえ、貴女を無事送り届けることが任務ですので」


 しかしすぐその真面目な顔を崩すと、俺にお茶目に微笑んだ。

 俺も笑い返し、共に本堂へと向かった。

 ……第一騎士団の騎士を護衛にって贅沢だな。



 宿舎に着くと、屋外の修練場へと案内された。

 屋内とどちらがいいか聞かれたが、大丈夫とは思うけど万が一物を壊したら悪いのでと外にした。


 私服に着替え、修練場へ向かう。

 待機していた騎士や司祭様達がぞろぞろと屋外へ移動する。

 自分の為にこうして集まってくれてる事に何だか緊張する。司祭様は、力の把握に必要な事だからと言ってくれるけど。


「いつでもはじめてくださいね。気楽にしちゃっても大丈夫ですよ、神官達も私の良く知る者達なので」


 パラデリオン様が俺の緊張をほぐすよう、優しく笑う。

 少し離れた場所では、用意された椅子に腰をかける僧衣の男達。修道女も二人いて、片方に覚えがあった。

 謁見の帰りに、俺に声をかけてきた修道女だ。彼女に連れられて、シュルス様の部屋へと行ったのだ。

 俺の視線に気付くと、彼女はにこりと笑った。


 ここを宿とする騎士達も、周りを囲むようにして立っている。

 更に後ろには、興味本位で見物しているのだろう、段差や木箱に腰をかけている者達もいた。

 その中に、ピスカの姿を見つける。初めてこの宿舎に来たとき、案内をしてくれた素朴な顔と性格の少年だ。

 俺が手を振ると、慌てたように敬礼をした。うーん、真面目だ。


 意外なのは、ライアールもいた事だった。てっきり、俺には会いたくないと思っていたから。

 石の柱に背を預け、こちらを無言で見つめている。ここでやっほー、なんて手を振ったら斬り付けられるだろうか。

 俺の視線に気付いたパラデリオン様が、小さな声で囁いた。


「あれから彼はずっと修行をしている様ですよ。いつも飲んでいた酒もやめ、仕事が終わるとふらりとどこかへ消えるのです。そして切り傷や打ち身を増やして戻って来ています」


 ライアールも意外と真面目でプライド高いんだなあ。

 酒をやめた事に驚き、眼を丸くするとその表情から何か察したのか、苦々しい顔を作った。

 そんなライアールの姿に、パラデリオン様が横で小さく笑う。ライアールは、余計な事を言うなと言いたげな顔をしていた。


 目を凝らすと確かに、端々に治りかけのものと新しい傷や痣が見受けられた。

 ライアールの睨みにもどこ吹く風で、司祭様は俺に頑張ってとエールを送ってくれた。


「じゃあ、はじめますね」


 互いを友とする二人の無言のやりとりにちょっと緊張が抜けた。

 俺は一度深呼吸してから、両の手のひらを空に向け、力を放った。

 国境砦の時の様に、雪の様な小さな光を、空に向かって浮かべていく。

 本当はなんとか波!とか叫びながら上空にぶっ放すのが早いのだろうけど、突然そんな光の柱が立ったら外にいる人達が驚くだろう。

 なので、時間はちょっとかかるだろうけどこの形にした。これなら、見覚えがある人はあるだろうし。他の聖女達もやっていたし。


 放出している最中、暇なのできょろきょろと周りを伺う。司祭様達は何かしら記録をとっている。

 手前の騎士達は流石というか、表情を崩さず警備に徹していた。

 その後ろの非番騎士達は、花火でも見ているかの様に口をあけて目を見開き、素直に驚いていた。

 国境砦の討伐に参加していたのか、その驚く者達に得意気に説明をする者もいた。


 ライアールは無言でじっと俺の様子を眺め、パラデリオン様は、時折他の神官達と話しながら頷き、俺の出す光を目で追っている。

 相当力出していると思うのだけど、まだ疲れや眠気は感じない。これもっと効率よく出すやり方、考えたほうがいいなあ。


 どれくらいたったか、ライアールとパラデリオン様が傍に来ていた。


「すみません、お手数おかけします」


 時間が思ったよりかかってしまった事に申し訳なくて、二人に謝る。

 ライアールが呆れた顔をした。


「いいから集中してろ、こいつらにとっちゃ飛びつくような情報だろ。利用してやればいい」

「そんな本人前にして言う事ですか」


 司祭様が困ったように笑う。彼の手には、何かの魔道具があった。

 その表面を見ながら、時折俺の顔やつま先から頭上まで確認する様に視線を動かす。

 そう全身をじっくり見られると、何かちょっと恥ずかしい。いや、データ取りってわかってるけども。


 傍にいるライアールは、いつもの無愛想な男だった。それでも普通に今話せて、安堵した。

 修行って何をしているんだろう。さっき見た傷や痣を見るに、結構無茶をしていそうだ。そう思い彼の傷の浮かぶ肌を見ると、


「あれ……?」


 ライアールの傷や痣は、消えていた。疑問に思ったが、すぐに自分が放っている力の影響かなと考えた。

 だけどまた、新たな傷を作ってくるんだろうな、そう思ったら視界が暗転した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ