第二十話
「ずいぶんと素早い対応だったな」
「別に良いだろ。それより、さっさと連れて帰れよ」
「あぁ、お邪魔するよ」
優夢から悠馬に連絡が行くと直ぐに悠馬が車で伐の家に駆けつける。
悠馬は依頼を出した翌日に由貴の身柄を確保できた事に驚きの声を上げているが、伐はタバコを吸いながら、由貴を寝かしている部屋を指差し、さっさと連れて帰れと言うと悠馬は由貴を運びに部屋へ上がって行く。
「……なんだよ?」
「他に言い方ってないんですか? 報告する事とか」
伐と悠馬のやり取りに優夢は何か言いたい事があるのか伐へと視線を向ける。
その視線に伐は言いたい事があるなら言えと言うと優夢は先ほどの由貴の中から出て行った歪みの事を報告しなくて良いのかと聞く。
「……あれは依頼外だ。不必要な事を教える理由はねえよ」
「で、でも」
「……わざわざ、あいつに関わる必要なんてないって言ってるだろ」
伐は報告は依頼とは別の物だと言うが、優夢はもう一度、伐に聞こうとする。
しかし、伐は視線を鋭くして必要ないと言い切ると優夢はこれ以上は聞かない方が良いと思ってしまったようで口をつぐんでしまう。
「それじゃあ、邪魔したな。代金は振り込んでおく」
「……あぁ、後はここら辺の修繕費は請求するからな」
「あぁ……流石に経費は払わないといけないだろうな。静音様に話をさせて貰うよ」
悠馬は由貴を担いで伐の家を出て行こうとすると依頼料を伐が仕事で使用している口座に振り込むと言う。
伐は頷くと由貴の攻撃で穴だらけになった壁や、由貴が操っていた男達にボコボコにされた玄関を指差し、悠馬は伐の言い分もわかるが自分には決定権がないため、依頼主の静音に報告をすると答えると由貴を連れて行く。
「黒須くん……」
「何だ? 依頼主がいなくなって直ぐに自分の取り分の交渉か?」
「そ、そんな事は言ってません!? ちょ、ちょっと待ってください」
由貴と悠馬を見送った後、優夢はやはり歪みの事を報告しなかった事について聞きたいようだが伐はその件に触れられたくないようであり、誤魔化すように優夢を金に汚いと言う。
優夢はそんな事は思っていないと声を上げて否定するが、伐はボコボコになった玄関にカギをかけると家の奥に入って行き、優夢は慌てて伐の後を追いかける。
「……予想以上の力を持った男だったようです。流石は猫の名前を継ぐ者と言ったところでしょうか」
「そうですか? ……大和が後継者と認めたのは間違いではないと言う事ですね」
由貴を車に乗せてしばらくすると悠馬は車を止め、電話をかけている。
電話の相手は由貴の祖母であり、今回の依頼人である『蓮沼静音』のようで由貴を無事に確保した事や彼の視点から見た伐の力量についても報告している。
伐の力量を聞いた静音は悠馬に全幅の信頼を寄せているようであり、伐の能力の高さに頷いた。
「はい……ただ、私が見る限り、黒須伐は危険です。確かに能力は高いでしょうが、あれは完全に歪み側です。優夢様を守る人間とは認められません」
「良いではないですか、あの子は何も知らないのです。それに地位や名誉に執着するよりはお金に執着してくれている方が私達には都合が良いではないですか。歪みに堕ちたにも関わらず、お金に執着しているんですから利用しやすいではないですか」
しかし、悠馬は伐を認める事が出来ないようであり、静音に進言するが静音は伐を利用しやすい人間と判断したようであり、柔らかい口調で悠馬の進言を跳ねのける。
「しかし、待ち望んだ蓮沼家の力を受け継ぐ優夢様のそばに歪みがいるのは」
「かまいません。元々、蓮沼家の力は歪みに連なっているのです。それに力が薄れている私達には何かあった時にあの子を守る事などできませんから、その力を期待した二人も役立たずでしたからね」
「……静音様、お嬢様の処遇はいかがいたしましょうか?」
悠馬は引いてはいけないと思ったようで、もう一度、進言しようとするが、静音は反対する事は許さないと切り捨てた。
静音の言葉にこれ以上、余計な事を言って静音の気分を害する事は出来ないと悠馬は判断したようで、話を変えようと助かった由貴をどうするかと聞く。
「……使えるのか判断基準にするために条件を付けましたが、殺してくれた方が手間が少なかったんですけどね」
「……始末しますか?」
静音はすでに由貴になど興味がないようで、伐が余計な事をしたとため息を吐くと悠馬は気を失っている由貴へと視線を移しながら淡々とした口調で恐ろしい事を言うと懐から銃を取り出し、気を失った由貴の眉間に銃口を押し当てる。
「……殺す価値はないでしょう。バカ息子がやっている事業の方で利用価値もあるかも知れませんしね。ただ、他に利用価値がないなら、あの子を養子に入れる事を視野に入れれば良いだけです。まぁ、蓮沼家を守る事を考えればそれが一番でしょうね」
「しかし、それを認めますか?」
「その時になれば認めさせます。バカ息子に反対する力はありません。あの子の親だって同じです。血も繋がっていないのですから、お金をいくらか積めば頷くでしょう」
静音は少し考えるとまだ由貴には利用価値があると判断したようであり、悠馬を止めると優夢を自分の手元に置く事を考え始めたようである。
彼女の言葉には自分の都合の良いものが混じっており、優夢と言う人物をまったく見ていない人間の言葉でしかない。
「それではお嬢様は家に送り届けます」
「そうしてください。後はあの子を養子に向かい入れる準備も始めてください」
「はい」
悠馬は静音からストップがかかった事で銃を懐に戻し、由貴を家に送り届ける仕事に戻ると言う。
静音は優夢を蓮沼家の養子に向かい入れる準備の指示を悠馬に出すと悠馬の返事を待たずに電話を切った。
「……養子か? あのお嬢ちゃんが頷くタマか? まぁ、俺は仕事としてやるだけか。しかし、血が繋がってようが役立たずは切り捨てるか? グループの長としては正しいんだろうけど、俺もそろそろ、考えないといけないか?」
悠馬は静音の態度に考える事があるのか小さくため息を吐くとアクセルを踏み、由貴の家まで車を走らせる。
最終回までお付き合いありがとうございました。
ノラ猫~利用するもの、されるもの~は一先ずの完結になります。
第二部にはこれからの話を作る上でわかりやすい伏線を張らせていただきました。
第三部は今のところ伐の過去に焦点を当てようと思っていますが予定は未定です。
他にも優夢なしで番外編を書きたい気もします。
いろいろと考えたいのでしばらくはノラ猫シリーズは小休止となります事をご理解ください。
また、次は第三部か番外編かは未定ですが、引き続き、伐と優夢の物語にお付き合いいただければ幸いです。
感想、ご意見なども待っています。




