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ロストナンバー  作者: 宇野 宙人
第一章 退学組編
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第十二話 最悪の再会

やっぱり、何事もモチベーションが重要ですよね。


第十二話です。



 地元の大型スーパーで買い物を済ませた景は、両手にパンパンに膨らんだビニール袋を重そうにぶら下げ、薄暗い細道をのそのそと歩いていた。

 面倒くさがり屋な景は基本、一ヶ月に一回くらいしか買い物に行こうとしないため、必然的にその一回の買い物量は一人暮らしとは思えないほどに多い。

 今回も例にもれず、あまりの重さにビニール袋の取っ手が手に食い込みすぎて指先の感覚がなくなりかけているくらいだったため、早く家に戻ってこの腕にかかる重荷を解放しようと、景は近道である狭い路地裏を通っていく。

 

 マンションが目に見えるとこまで来て、ようやく手の感覚を戻せそうだと一息ついたとき、景の耳に聞き覚えのある不快な声が入ってきた。


「なあ、いいじゃねぇか。ちょっとくれぇ、付き合ってくれてもよ~」

「そうそう、ちょうど君みたいな可愛い子と遊びたかったんだよ」

「うひひひひひっひひぃ」


 デジャヴを感じるその会話の内容に、まさかと思って景は声のする方へ首を曲げると、案の定、そこには前に神海先輩の妹を強引にナンパしていた三人組が懲りずにまた女の子に絡んでいた。

 絡まれていた女の子は、景の位置からではちょうど三人の影になっているため顔は見えなかったが、光輪の制服を着ていることが隙間から確認できた。


「へっへっへ、なぁ、いいだ……」


 と、そこで運悪く三人組の一人と、ばっちり目が合ってしまった。


「あっ! テメェは!!」

「…………」

「無視すんな! このチビ!」


 声を荒げる87位の男は、景の顔を怒りと憎悪に満ちた目で睨みつけてきた。

 取り巻きの二人も景に気づくと正面を向き、ガンを飛ばす。


「お前らには、前にコケにされたからな。その借り、ここで返させてもらうぜ!」

(……オレは見てただけで、何もしてないはずなんだけどな~)


 景がそんな呑気なことを考えている間に、鷹岩はそのへんに転がっていた拳大の石を拾う。それを取り巻きの二人はこれから起こることを楽しむかのように、ニヤニヤと眺めていた。


(この道、選んだのは失敗だったな)


 景は心の中で嘆息する。

 

 あの時とは違って、祐がいないこの状況。携帯は部屋に置いてきてしまったし、逃げようと思っても、今なお両手に負荷をかける超重量級の物体がそれを拒む。


「どうしたっ! ビビってんのかっ!」


 無言のまま微動だにしない景に、男は片手で石を弄びながら吠える。


「オイッ! 何か言えっ、ゴラァ!」

「あ~、ほら。一応、オレ風紀委員なんだけど」


 景は一旦、袋を地面に下ろすと、制服についている腕章を三人組に見えるよう高々と掲げた。

 光輪生にとって風紀委員は警察のようなもの。故に、不良相手ならこれで引いてくれるだろうと、景は期待したのだが。


「あぁ? だから、何だよ」


 男には全く効果がなかった。


「……役に立たねぇな、これ」


 当てが外れて肩を落とす景に、男は手の中にある小石を投げつける。


 それがただ投げただけならば、景は持ち前の動体視力で簡単に避けることができたのだが、彼の投げた石は手から離れると同時に、人間の力では絶対に出せない超スピードで迫ってきた。


「ぐはっ!?」


 あまりの速さに景の動体視力をもってしても捉えられなかった石の弾丸は右肩に直撃し、痛みが少し間を置いてから津波のように押し寄せてきた。激痛が走る肩を押さえる景に、男は威圧するように言う。


「俺は二桁順位(セカンド)の鷹岩だぞ。そんなモンにビビるわけねえだろ」

「流石だぜッ! 鷹っち」

「そんな生意気なガキ、ぶちのめしちまえ!」


 取り巻きの二人が男を持ち上げる中、景は立つことも難しい程の痛みを耐えながらも制服のポケットに右手を突っ込む。


「オラッ! まだまだ、こんなもんで終わらせねえぞ!」


 鷹岩と名乗った男は、今度はポケットからビー玉よりやや大きめの鉄球を一つ取り出し、景に狙いを定める。

 

「食らいなっ!」


 これから始まるのは、獲物をただ甚振いたぶるだけの残酷なゲーム。

 その結末を想像し、歪んだ笑みを浮かべる鷹岩は、手の中にある鉄球を放り投げようとした。


 その時。


「痛っ、あああっ!!?」 


 背後から飛び出した細長い棒状の物体が、鷹岩の手に突き刺さった。 


「た、鷹っち。大丈夫か!?」

「この女、何してくれてんだ。コラッ!}


 取り巻きの二人は騒ぎ出し、鷹岩はズキズキと痛む手から一本の鉛筆(・・)を抜き取ると、それを投げつけたであろう女に目を向ける。


「テメェかっ!! こんな真似しやがったのは!!」


 鷹岩は相手を威圧するような大声を上げるが、女の方は全く怯む様子も見せず、スタスタと景の方へ歩いていく。


「全く。あまり情けない姿、見せないでくれる」

「……江ノ本」


 木刀を片手にこちらへやって来た彗は、冷徹な雰囲気を漂わせて景の前に立つ。


「仮にも風紀委員に所属する以上、無様な真似は私が許さないから」

「そうかい。ま、それはそうと、後は任せていいのかな?」


 景が訊ねると、彗はあからさまに渋々と言った表情だったが、コクリと頷く。

 

「じゃ、頼む」


 言うや否や、景は邪魔にならないよう買い物袋を引きずりながら後ろへと下がった。


「……おい。あいつ、さっき江ノ本って言ったけど、まさか」

「あの、暴走正義の江ノ本彗! マズいっすよ、鷹岩さん」


 取り巻き二人は、自分たちが絡んでいた相手がとんでもない化物だという事実に腰を抜かし、不安そうに鷹岩を見るが、彼はいつも通りの強気な態度を崩さない。


「ビビんな! 一桁順位(ファースト)だろうと、所詮は戦闘経験の薄い一年だろ。俺の敵じゃねえ!!」


 鷹岩は制服のポケットに手を突っ込むとさっきの鉄球を複数取り出す。

 

 鷹岩の能力”緩急自在(カウントスピード)”は自身が触れた物体の速度を操る。

 止まっている物体には作用しないという欠点はあるが、ある程度の質量を持ってさえいれば、どんなものでも超スピードにより凶器へと変化させることが出来る。

 

 鷹岩は取り出した鉄球を彗に向かってぶん投げると、能力によりそれは超高速の弾丸と化して迫っていく。当然、並外れた動体視力を持つ景ですら視認できなかったスピードに彗が対応できるはずもなく、鉄球は彼女の体の至る所に命中するかに思われた。


「――――――破ッ!!」


 しかし、彗は掛け声と共に木刀を振るい、全ての鉄球を薙ぎ払った。


「何っ!」


 あの鉄球で決まったと思っていた鷹岩は、続けざまに頭上から振り下ろされた木刀を避けられず、もろに食らってしまう。

 直後、バシィィィと心地良い音が響き、鷹岩は足からドサッと崩れ落ちた。


(……一撃かよ。やっぱ、強えな。アイツ)


 自分ですら避けることが出来なかった、あの超高速で飛来する鉄球を一刀で、しかも複数弾き落とす技量。

 以前、テレビで居合の達人が拳銃の弾を斬るという番組を見たことがあるが、彼女の技はそれに見劣りしないレベルの神業だった。


鷹岩(たかいわ)宗夫(むねお)。能力の無断使用、及び暴行により、風紀委員へ出頭……って、聞こえてないか」


 何の返事もしないばかりかピクリとも動かない鷹岩に、彗は面倒そうにため息をつく。

 それを見た景は改めて、彼女が暴走正義の風紀委員オーバージャスティス・ジャッジメントと呼ばれる所以を悟った。


「それから、そこの二人」


 彗が振り返ると、こっそり逃げようとしていた取り巻きの二人が固まった。


「彼と一緒に出頭してもらうから。逃げないでよ」


 彗の射るような視線を向けられた二人は、怯えた表情でカクカクと頷くと、その場に留まった。


「……お疲れ」

「別に、疲れるような相手じゃなかったけど」

「ああ、そう」


 相変わらずの塩対応に景はやれやれと肩をすくめるも、彗は意に介した様子もなく、手元の生徒手帳である端末を使い、どこかと連絡を取り始める。


(結局、これ・・の出番は無かったな)


 制服のポケットの中で握っていた改造手榴弾(中身は激辛トウガラシの粉)から手を離すと、景は両手で買い物袋を掴むが。


「っ!!」


 持ち上げようとした瞬間に、右肩から電気が流れたような痛みが走り、思わず手を離す。


「……やっぱり、無理か」

「どうする? 一応、ここに風紀委員の皆を呼んだから、この男たちを連れてくついでに保健委員のとこへ運んでもらうことも出来るけど?」


 いつの間にか連絡を終えたらしき彗が近くまで来ており、事務的な口調で景に告げる。


「いや、どうせ明日になったら痛みも引くだろうから、そこまでは必要ないけど」

「けど?」

「流石に、今の状態でこれを持って帰るのはキツイ」


 パンパンに詰まった二つの買い物袋に視線を向け、右肩をさする景。


「じゃあ、親に頼んで車で迎えに来てもらったら?」

「父さんも母さんも今は海外に旅行中」

「じゃあ、友達に……」

「連絡先知らない」

「…………」


 しばらくの間、沈黙が続いた後、彗はハーと長い息を吐く。


「ねえ、あなたの家って、どこ?」


 何の脈絡もなく投げかけられた質問に、景は戸惑いを覚えつつ答える。


「あそこに見えるマンションだけど」

「ふ~ん、そう。分かった」

「?」


 何が分かったのかよく分かってない景に、彗はパンパンに膨らんだ二つの買い物袋を持ち上げる。


「私が運ぶから、アンタの部屋までね」


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