第十一話 ロストナンバーとは
祝、総合評価が100超えました。
この評価100超えは最初に突破する目標としてただけに、初めて見たときニヤニヤが止まりませんでした。
次は200超えを目指して頑張ります。
それでは第十一話です。
「やったね、景君」
「見事な勝利だったぜ」
模擬戦が終わった景の視界に最初に入ってきたのはニヤついた希初と祐の顔だった。
「何だ、来てたのか。祐」
「当たり前だろ。景が戦うなんて中学以来だし、見逃せないイベントじゃないか」
「イベントねぇ」
祐の伸ばした手に掴まり、景は体を起こす。殴られた箇所が若干痛むが、向こうで風紀委員の仲間に肩を貸してもらいながら、ふらふらと立ち上がる板垣よりはかなりマシな方だった。
「しかし、模擬戦でも意外と来るんだな」
周りを見渡すと、ギャラリーが最初の時より明らかに増えていた。
「能力による対戦こそ、この学園の醍醐味さ。やる方も見る方もね」
景の何となく発した呟きに、近づいてきた神海が律儀に応える。
「とにかく、お疲れ様。これで、晴れて君たちは風紀委員のメンバーだ」
「一時期ですけどね」
「僕としては、ずっといてもらいたいけど」
「死ぬ次の次の次の次の次くらいに嫌です」
「微妙にリアルだね。まあ、いいや。取り敢えず、これを渡しておくよ」
ワースト六位として風紀委員の永久所属を拒否された神海は左手を景の方へ差し出す。その手の中には、「風紀委員」と白い文字で書かれた緑を基調とする腕章が二つあった。
「これは?」
「見ての通り、風紀委員の腕章さ。といっても見ての通り、今じゃ付けてる人はほとんどいないけどね」
デザインがダサいからかな、と神海は苦笑する。
「付ける付けないは個人の自由。だけど、君たちにはできるだけ付けておいた方がいいと僕は思う。それさえあれば、不良にはある程度の牽制にもなるしね」
「つまり、実力が伴っていないオレと希初にはうってつけってわけですか」
景の皮肉めいた言葉に、神海は肩を上下させる。
「そう、悪い風にとって欲しくはないな。まあ、確かに腕章を付けてる者は『自分の実力に自信が持てない』という風潮はあるけど」
言い終わると、神海は二人に腕章を渡し、どうするのかジッと見つめる。
景と希初は腕章を受け取ると、さほど迷うことなく制服に安全ピンを通す。
元より他人からの評価をあまり気にしない二人に、躊躇う理由はなかった。
「んじゃ、オレはもう帰ります」
淡白な声で景は神海に軽く頭を下げると、外に向かう。後ろから「おい、お前らが風紀委員のメンバーってどういうことだ?」と祐が訊ねてくるが、無視して先に進んでいく。
(あ~疲れた。早く家に帰って休みたい)
胸のあたりをさすりながら、スタスタと戻ろうとする景の後を追うように、希初と祐も同じく体育館から出て行った。
◇◇◇◇◇◇
三人が出て行った後、神海の下へ板垣がよろよろと歩いてきた。電気によるダメージからはそこそこ回復したが、手足のしびれはまだ残っていて思うように動かせないようだった。
「……委員長」
「おお、板垣君。お疲れ様、いい試合だったよ」
神海に温かい言葉をかけられたが、板垣の顔は晴れずにうつむいている。格下だと侮っていた相手に意外な形で逆転された彼は、風紀委員の一人として、委員長に情けない姿を見せてしまったと感じていた。
それでも板垣が神海に近づいたのは、どうしても彼に聞きたいことがあったからだった。
「委員長は、早房が俺を倒せる程の実力を持っていたと知っていたから、模擬戦をさせたのですか?」
「いやいや、まさか。一年生ながらBランクの板垣君に勝っちゃうとは僕も予想外だったよ」
神海は手を横に振りながら否定する。
「元々、この勝負は早房君の実力を認めさせるためのものだから、たとえ彼が負けたとしても、君といい勝負ができてれば問題なかったのさ。それに僕は『勝たなきゃ風紀委員に入れない』なんて一言も言ってないだろう」
神海の言葉に、板垣は「はあ」とだけ応える。
「……委員長」
「ん?」
板垣が真剣な面持ちで、神海に本当に聞きたかったことを訊ねる。
「委員長がそこまで信頼する彼は一体何者なんですか?」
「私も気になりますね。どうしてそこまで……アイツに執着するのか」
「私もこればかりは、君の口から聞かないと理解できないな」
板垣の問いに、同調する声を上げるのは彗と白河。そして、いつの間にか周りに集まってきた風紀委員も熱心に耳を傾けていた。
「ふむ、ちょうどいい機会だし、話しておこうか。僕が彼に、こだわった理由をね」
神海が周りにいる仲間を見回すと、一呼吸おいて話し始める。
「そうだな。まず君たちは、ロストナンバーって知ってるかい?」
◇◇◇◇◇◇
「なあ、ロストナンバーって何なんだ?」
祐は真向かいで全体的にこれでもかと言うくらいに真っ赤なタルトを頬張る景に問いかけた。三人は今、二人の風紀委員入りを祝おうという祐の提案により、「喫茶店 オアシス」の窓際の席に座って、それぞれが注文した飲み物やスイーツを口に運んでいる。
景が注文したのは、「春季限定、血祭り苺タルト」という何とも物騒極まりない名前をしたオアシスの新メニューで、上に乗ってる苺もさることながら生地そのものが鮮やかな赤色をしていた。
見た目は結構可愛らしく味も悪くないのだが、この名前のせいでイメージが台無しになっており、希初の情報によると、この新メニューができてから注文したお客は景が初めてだったらしい。
「どうしたんだ? 風紀委員入りの話が終わった途端に、そんなこと聞くなんて」
口の中で苺の酸味と甘みが織り成す絶妙な味わいを堪能しながら、景は聞き返す。
「いや、別に深い意味があって言ったわけじゃないんだけど……その、何か気になってさ」
祐はそう言うと、ミルクを入れてかき混ぜたコーヒーを一口すすった。
「私も知りたいな。ロストナンバーのことについては、この私ですら何の情報も掴めなかったからね」
ミニサイズの抹茶パフェを三分の二ほど平らげた希初も、興味津々の目を向けている。
「まあ、隠してたわけじゃないし、教えてもいいけど、そう大した話じゃないぜ」
景は残りのタルトを飲み込むと、光輪唯一の「ロストナンバー」という肩書きについて説明し始めた。
「“ロストナンバー”ってのは、オレみたいに順位もランクも存在しない、というかつけられない能力者たちのことを指す言葉なのさ」
「順位をつけられない能力者?」
「そ、オレの他力本願は早い話がコピー能力。能力を測定したところで、コピーした人と同じ結果が出るだけだから順位もランクも意味がないんだよ」
そこまで話したところで、景は透明なグラスに口を付けて喉をうるおす。
「へえ、そうだったのか」
祐は得心がいったような声を出し、一呼吸置くと再び口を開く。
「で」
「で、って?」
「いや、まさかこれで終わりってわけじゃないだろ?」
続きを期待する祐の言葉に、景は首をかしげる。
「これで、終わりだけど」
「……マジで!」
大声を出したため、周りの注目を集めた祐は、決まり悪そうに縮こまった。
「大声出すほどのことかよ」
ジト目で呆れたように言う景に、祐は自然と声のボリュームを落として囁くように話す。
「いや、何かもっとすごいのを想像してたけど、案外普通だったからさ」
「だから、言ったろ。そう大した話じゃないって」
「確かにそう言ってたけど、何かカッケーじゃん。“ロストナンバー”って」
「まあ、それに関しては、確かにそうだけどさ……」
その時、隣で考える仕草のまま固まっていた希初が、こちらに顔を向ける。
「景君」
「ん、何?」
「さっき、能力者“たち”って言ったよね。それって、景君以外にもロストナンバーがいるってことなの?」
「あっ、そういやそうだな。どうなんだ、景?」
二人に詰め寄られた景は、いつも通りの気だるそうな調子で答える。
「ああ、いる。会ったことはないけど」
「でも、知ってるんでしょ」
「まあ、何人かはな。まずは、この学園の創設者にして現理事長、七宝やつめ。今回の事件に関わってるらしい、遠峰望。後は、中学時代の先輩、金ヶ崎。オレが知ってるのはこんくらいかな」
景が名前を上げていく中、最後に出てきた名前に祐は「ん?」と疑問符を浮かべる。
「景、俺たちの中学に金ヶ崎なんて先輩いたか? 俺はそんな名前聞いたこともないんだが」
「そりゃ、そうだろ。お前は知らなくて当然、いや、オレ以外は知らなくて当然なんだから」
「はぁ? どういうことだよ」
「悪いが、オレも詳しくは説明出来なくてね」
祐は首をかしげていたが、景はこの話は終わったとばかりにグラスに入った水を飲み始める。
「さて、じゃあ、そろそろ帰ろうか」
水を飲み干した景は、鞄を手に立ち上がろうとしたが、希初がそれに待ったをかける。
「いやいやいや、景く~ん。まだ、肝心な話が残ってるよ」
「? 何だよ」
「決まってるじゃん! 江ノ本さんとの……」
「祐、許可。後、支払い頼む」
「許可する。後で、ちゃんと返せよ」
希初の話を察するや否や、流れるように祐とのやり取りを終えた景は、瞬時に店の中からその姿を消し去るのだった。
◇◇◇◇◇◇
「ただいま……って、誰もいないんだけどな」
鍵を開け、景は静まりかえったマンションの一室のリビングの電気を点けるとベッドに寝っ転がった。
光輪高校を入学するに至って、景は両親から「若いうちに独り立ちの経験ををした方がいい」と言われ、家から少し無理をすれば通える距離だったのにも関わらず、ここで一人暮らしをさせられている。
それを知った祐がちょくちょく泊まりに来るようになり、今や朝まで対戦ゲームやりまくることもしばしば。結局、それで二日前の朝も寝坊し、遅刻寸前にまで追いやられるハメとなったのだ。
(あ~、希初の奴。多分、明日もしつこく付きまとってくるだろうな~)
景は気を紛らわすため、今日の夕飯の献立を考えようとベッドから立ち上がり、冷蔵庫を開ける。
だが、その中は驚く程に何もなかった。
「あ~、そうだった。すっかり忘れてたよ。チクショー」
空っぽの冷蔵庫の前で、景は天井を仰ぐ。
二日前に祐が泊まりに来た際、残っていた食材を全て使いきったので、昨日の帰りに景はスーパーへ買い物に行く予定だった。
だが、襲撃の件でそのことが頭から抜け落ち、改めて買い出しに行く気力もなかったため、昨日は仕方なく取り置きのカップ麺で夕食を済ませたのだ。
「……しゃーない、行くか」
渋々、買い出しに行くことに決めた景は、戸締りをすると夕日が眩しい西に向かって道路を歩き始める。
こうして景は街へ足を踏み出すことになるのだが、これが、新たな事件の火種になることを、この時はまだ知る由もなかった。




