第五章:アビス・ノヴァ
底知らぬ圧倒的なセンスを持ち合わせた、新星の
名前。《アビス・ノブァ》………。実にいい二つ名
だ。名付けた本人、奏斗は我ながらそう思う。これ
からあいつはもっと成長して、いつかはあの辻蓮を
も抜かす時が来るだろう。そう………願っている。
今は11月。次の敵はかの有名な内藤 陸さんだ。
これは今まで以上………いや、今までとは比べ物に
ならないくらいに倒すのが難しくなるだろう。
そこで蓮さん以外で陸さんを唯一倒したことのある
人物がいる。迫り来る激戦に備えてその人にアドバ
イスをもらうことにした。
わかりやすい解説。それはこの世の中で特に大切な
ものの一つだと僕は思う。その具体例をあげよう。
僕が小四〜六年生の頃、渡辺先生という担任の先生
はとても話が面白く、授業も分かりやすいのだ。
実際に先生の授業や言ったことはいまでも少し覚え
ていて説得力もあったと思う。先生の話も「足の指
の間に包丁が刺さった」とか「息子が二回事故して
二回とも無傷で学校の先生に怒られるのが怖くその
まま学校に行った」とかは特に面白く他にもキリが
ない。後100行は書ける。うん、メタい。とにかく
先生の話に度肝を抜かれた。そういえば先生が授業
中に「これを交尾といいます。君たちがよく言う
S⚫︎Xね」とか言ってたっけ。とにかく先生の話に
度肝を抜かれた。このようにわかりやすい解説は
大切だ。それを僕の小学校時代が物語っている。
しかし今僕が立たされているのはそんな時代とは
真逆のものだった。
「だから、ドーンってして、バーンってするの」
「分かりません。勇斗さん」
「なんで伝わらないかなー」
頼むんじゃなかった。多分天才とかいうやつなん
だろう。そう思うことにした………。
「おう、《アビス・ノブァ》!」
「なんですかその名前?」
「知らないのか?お前の二つ名だぞ」
「え!いつの間に………」
「でも籠があったとはいえ四極連撃が防がれたな」
「そうですねー」
「…………」
「じゃあ、新必殺技を作りましょう」
「おぉいいな!」
それから色々と議論し、ついに必殺技が決まった。
それは四極連撃に加え頭部も攻撃する五極連撃だ。
四極連撃のときとは少し違い、もっとスピードを
早くして確実に大きなダメージを与えることができ
る。その後は木村師匠と練習を重ねてだいぶ出来る
ようになってきた。
これで………陸さんにーーー。
「次の敵は、今までとは比べ物にならないほど強い
ぞ」
「わかってます」
「近藤 陸。または………」
「または?」
「《超越者》。人智を超えた絶対的
存在のことを示す。その強さがゆえ、最も最強に
近い男とまで周りからは言われている」
「オーバード………」
「よし!今日も練習やるかーーー」
いつもこうだった……。陸はそう嘆く。ーーー二位。
いつだって。いつまでだって。今回こそはその屈辱
を晴らす。勇斗が最強だった、あの一年半の間。俺
はずっと下から見ていた。正直、羨ましかった…。
でも挑戦出来なかった。負けるのが何より怖かった
からーーー。《超越者》。その名は中学の頃から
あり、全てを超越しなければならないのに。出来な
かった………。そういえば最近【アビス・ノブァ】
というやつが奏斗を倒したんだったな。楓か……。
かつてそんなやつもいたな。そうだ、そいつを倒し
て、また一歩、辻蓮に近づくことにしよう。
部活が終わり校門を出るとそこには陸さんがいた。
「明日、この公園に集合だ。いいな?」
「奇遇ですね。僕もあなたと闘いたいと思っていた
ところでした」
公園は二つ名の縄張りあるあるなのか?『最強』に
最も近い男………かーーー。やって見せる。
言われた通り、指定された公園に着く。今回は木村
師匠奏斗さん、他にも知らないやつがたくさん見て
いる。
「あれ、陸さんはーーー」
そう呟いた刹那。ものすごい気配を感じとる。全身
から汗が吹き出し後ろを見ると、まるで辺りの空気
を焼くかのごとく凄まじい殺気を放ちながら歩いて
くる陸さんがいた。緊張が一気に高まる。陸さんは
黒いジャンパー着ている。闘うときは結構、体が
熱くなるんだけど大丈夫なのかな?
「一つ。話をしてやろう。俺は近頃、辻蓮を倒す
つもりだ。だからお前を倒し、俺の存在を知ら
しめてから挑戦する」
「つまりは………ビビっているんですよね?」
「は?」
「今のままでは蓮さんを倒す自信がなく、『怖い』
からじゃないですか?」
「そんなことはない。ただ新星の名を、潰したい
だけだ」
ーー今。闘いが始まる。
まずは陸さんが距離を詰めてきて、ロングアタック
を放ってくる。これはガードするもかなりダメージ
が入ってしまう。隙を見てアップアタックを入れ
反撃のチャンスを伺うもそんな合間はないようだ。
横腹に一撃。鋭い痛みが腹部を襲う。そこから畳み
掛けられ足にアンダーアタックを一撃喰らい、また
一撃ヒップアタックを放ってくるがガードできる。
ーーーここから反撃の攻勢にでる。体勢は悪いが
半ば無理やりジャンプし、頭付近まで飛ぶ。そして
ヒップアタック!ガードされるも腕を突き抜け、
見事顔面にヒットする。吹き飛ばし形勢逆転に成功
する。そして足、腹部にもダメージを与える……。
しかし、なんだ、この妙な違和感は。ーーー闘い
やすい。なぜだかは分からないが、かつての奏斗
さんの方が最初の方はよっぽど闘いにくかった。
なぜだ………?そんなことを考えていると一撃喰ら
ってしまう。それから流れをこっちに持ってくる
ものの、すぐに逆転されてしまう。その繰り返しで
一向に決定打が出せない。ーー少し早いがやろう。
五極連撃よりも一撃を重く。かつ………正確に!
「『瞬間砲=四極連撃』!」
正面 側面 背面 側面ーーー。
「ガン ガン ガン ガンッ」
成功!だがしかしーーー。
「俺は不滅だ!」
こうなってくると絶望の方が上回ってくる。そして
嫌な予感が背筋を伝う。未来予測なんてしてなくて
も分かる。おぞましい殺気。
「はぁはぁ本気を出してやるよ楓」
そう言うと陸さんはジャンパーなどの服を脱ぎ、
半袖半パン+アンダーシャツだけとなる。
「さっきよりも格段に動きやすい。さぁ続けようぜ
まだ、闘いはこれからだ!」
動きがさっきとは段違いに早くなってこっちを混乱
させてくる。最初に厚着をしていたのはこれが狙い
だったか。その刹那、僕は陸さんを見失ってしまう
「どこだ」
ーー後ろ。いた………。僕は両腕でガードを作り、
重心を落とした。重い!ガードを崩して受け流す。
間髪入れずにそこから腹にアップアタックを放って
くる。今度はもろに喰らってしまった。
「どうした!《アビス・ノブァ》。お前の本気を
見せてみろ」
ーーー未来予測!ここからこっちも本気でいかせて
もらう。陸さんが地面を思い切り踏み込み飛翔。
顔面付近にくる。これは比較的楽にかわし、着地点
を狙う。そして、ヒップアタッーーー!?陸さんは
空中で無理やり体を捻り迎え撃とうとしてきた。
流石にパワーで押し切ったものの陸さんに入った
ダメージは微々たるものに。そこからすぐに足に
向かってアンダーアタックを放ってくる。少し当た
ったがなんとか回避。今度はこっちから距離を詰め
て、ヒップアタック。しかし、ガードされる。少し
距離を取られ、詰めようとした矢先。
「『ロマン砲=轟迅』!」
轟くように強いロマン第一主義のパワー。迅速で
攻撃する高速のスピード。その両方を掛け合わせ、
凄まじいパワーを生み出すことに成功した。この
必殺技は高校に入ってから周りのやつが必殺技を
使い始めてからそれに合わせ作ったものだ。体勢が
整っているときで一定距離離れている場合のみ、
ロングアタックの進化版のようにこの技が出せる。
俺は、勝つんだ。そして、周りの奴らに強いと言う
ことを証明する。
やばい………。凄いパワーだ。気づいたら体全身が
痛い。勝たなきゃ………。僕は、僕は目の前にいる
敵を打ち倒すんだ。距離を詰めて。足にアンダー
アタックをして相手の動きをひるませる。一撃放っ
てきた攻撃もかわして、横腹にヒップアタック。
そこから陸さんがニ段アタックを放つも、一撃目は
腕でガードし、二撃目は受け流す。そのまま後ろに
回り込んでジャンプしする。狙いは頭ーー。しかし
両腕でガードされ弾かれた。そして、落ちていく
ところをヒップアタックされ、喰らってしまう。
僕は重心を落とし両足に一度ずつアンダーアタック
そこから……。四極連撃よりも早く、確実に弱点を
突け!お互いにギリギリの闘い。ここで決めるしか
ない。
「『瞬間砲=五極連撃』‼︎!」
「ガンガンガンガン」
僕は後頭部に目掛けて飛翔。ーーーこれが最後の
一撃になる。これが決まらなければ体力的にも、
肉体的にも、もう動けない。
「おらあああぁぁ‼︎」
「ガンッーーーー」
ーーーー負けた。これは認めざるをえない。こんな
にもたくさんの奴に見られている中、俺は地面に
横たわっている。
「フッ、なんとも無様な姿だな」
「ゆ、うと、か。今更この世界に興味なんぞない
だろう?」
「まぁな。確かに中学の頃『最強』になってから
初めて倒され、俺はこの世界を完全に去った…。
しかし、今日はいいものを見させてもらったよ。
《超越者》」
「ーーーその名でもう呼ぶな」
「まだ、この二つ名なんだろ。相変わらずお前は
変わらねぇな。いつまでもビビって挑戦すること
ができなかった」
「挑戦しないから負けることはない。だからずっと
二位の座を独占し続けた。それがダメだった。
自分自身わかってるさ」
「そのうちにしたから上がってくる奴に倒される。」
《挑戦者》。オーバードと読み、人智を超えた絶対
的存在のこと。その裏には『体の強さと心の弱さ
ゆえの孤独』という意味も含まれていたーーーー。




