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Vtuberになったのに裏方をしてます  作者: 東海林


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1話

『うわ、クロ来た』


『ゲリラ!?』


『通知仕事しろ』


『今日この時間なんだ』


『寝る前で助かる』


「お前ら生活終わってんな」


配信画面のコメント欄が、一瞬で流れていく。


深夜一時三十七分。


俺――《クロ》は、いつも通り唐突に配信を始めていた。

別に時間を決めているわけじゃない。

やりたい時に始めて、眠くなったら終わる。


そんな適当なスタイルなのに、気付けば登録者は百万人を超えていた。


「で、今日は何するかなんですけど」


『雑談?』


『ゲームしろ』


『作業配信見たい』


『声聞ければなんでもいい』


「重いな最後」


軽く笑いながら、俺は椅子にもたれた。

画面には黒を基調にしたアバター。

少し長めの黒髪に、暗い赤色の瞳。


派手ではないけれど、深夜帯には妙に馴染むデザインだった。


『クロ今日静か?』


「いや普通です」


『絶対疲れてる』


「お前らエスパーか?」


『長年見てるから分かる』


「怖」


コメントを拾いながら、適当にゲームを起動する。

こんな雑な配信でも人が来るのは、たぶん空気なんだと思う。

騒がしいわけじゃない。


かと言って静かすぎるわけでもない。

深夜に、なんとなく開きたくなる枠。


リスナーによくそう言われる。


『今日会社?』


「行ってました」


『案件?』


「まあ色々」


『クロってなんか業界人感あるよな』


「なんだそれ」


少しだけ苦笑する。

……間違ってはいない。

けれど、視聴者は知らない。


俺が、配信を終えた後に何をしているのか。


Vtuber事務所《LIVENTO》。

配信文化に強い大手事務所。


ゲーム、雑談、歌、ストリーマー系。

いわゆる配信者寄りのVtuberが多く所属している箱だ。


俺、《クロ》もその所属タレントの一人。

登録者百万人、案件多数。

ソロ特化、コラボほぼ無し。

箱企画不参加常習犯。

リスナーからは、


『ソロだけでここまで来た化け物』


なんて言われているらしい。

いや、別に普通だと思うんだけど。


『クロさ、なんでコラボしないの?』


コメント欄に流れた一文に、少しだけ視線を向ける。


「あー……」


何度も聞かれた質問だ。

俺は少し考える振りをしてから。


「別に嫌いじゃないですよ」


『じゃあなんで』


「一人の方が楽なんで」


『解像度高い』


『ソロ適性SSS』


『でも見てみたいんだよな』


「機会があれば」


『絶対やらんやつ』


「否定はしません」


笑いがコメント欄に流れる。

この距離感が好きだった。

近すぎず、遠すぎない。

コメントを拾って、適当に返して。


誰かの深夜を埋める。

昔、俺自身がそういう配信に救われたからかもしれない。


だから今も続けている。

百万人を超えた今でも。


『クロっていつ寝てんの』


「寝てますよ普通に」


『説得力ない』


『裏で絶対作業してる』


「……まあ多少は」


その時、机の端に置いていたスマホが小さく震えた。


視線だけ向ける。


メッセージアプリ。

送り主は――七瀬真琴。


『第一スタジオ、配信PC不安定です』


短文、必要最低限。

いつもの連絡。


俺は小さく息を吐いた。


「じゃ、今日はこの辺で」


『急』


『またゲリラして』


『おつクロ!』


『寝ろよー』


「善処します」


軽く手を振る。


「じゃ、お疲れ」


配信終了。

モニターの光だけが部屋に残る。

静かになった空間で、俺はヘッドセットを外した。


「……さて」


椅子から立ち上がる。

部屋の隅には、使い慣れた機材ケース。


配信用じゃない。

工具やケーブル類が入った、完全に裏方用のバッグだ。


それを持ち上げる。


深夜二時。

外は静かだった。


俺の住んでいるマンションから

LIVENTOの事務所までは徒歩十分もかからない。


便利だから、という理由で住み始めた。

そして同じ理由で、俺の担当マネージャーも、この数駅先に住んでいる。


事務所に入ると、夜特有の空気が漂っていた。


静かなのに、誰かは必ず働いている。

編集室から漏れるキーボード音。


モニターの光、エナジードリンク。

仮眠用ソファ。


華やかなVtuber業界の裏側は、大体こんな感じだ。


「あ、クロさん」


受付近くで声を掛けられる。

振り向くと、配信チェック担当の小鳥遊梨沙が目を丸くしていた。


まだ二十一歳の新人スタッフ。

どちらかと言えば、普通に俺のリスナー寄りである。


「こんばんは」


「こんばんはじゃないですよ! 今配信してませんでした!?」


「してましたね」


「なんでこっちいるんですか……」


「仕事です」


「演者ですよね?」


「一応」


一応、って何だろうな。

自分でもよく分からない。


配信者になりたくてこの業界に入ったはずなのに気付けば、裏方仕事まで普通にやっていた。


最初は少しだけだった。

新人時代、機材トラブルが起きた時。


たまたま知識があったから手伝った。

それだけだったのに気付けば。


「伊織」


奥から声が飛んでくる。

聞き慣れた声。


七瀬真琴だった。

ラフなパーカー姿。


肩くらいの髪を後ろでまとめている。

眠そうな顔けれど目だけはちゃんと仕事モードだ。


「来ましたか」


「連絡来たんで」


「第一スタジオです」


「どんな感じです?」


「配信ソフト側が不安定っぽいです」


「了解」


自然に会話が進む。

四年、新人時代からずっと一緒だ。

だから今更、変な遠慮も無い。


「配信終わりですよね」


「終わりました」


「ご飯は」


「食べてません」


「でしょうね」


呆れたように真琴が息を吐く。

そのままコンビニ袋を投げてきた。


おにぎり。


「ありがとうございます」


「どうせまた忘れてたんでしょ」


「まあ」


「当てました」


そんなやり取りをしながら、第一スタジオへ向かう。

途中、すれ違った新人Vが足を止めた。


「えっ……クロさん?」


白雪ミオ。本名は白峰美桜。

デビューしたばかりの新人Vだ。


「こんばんは」


「あ、こんばんは……」


ぺこりと頭を下げる。

その視線が、俺の持っている工具バッグへ向いた。


「……それ」


「機材用です」


「え?」


「え?」


数秒沈黙。

隣で真琴が小さく吹き出した。


「その反応、もう見慣れました」


「いやだって……クロさんって……」


「配信者です」


「ですよね!?」


なんで新人全員同じ反応するんだろうな。

第一スタジオに入ると、数人のスタッフが困った顔でモニターを見ていた。


「あ、クロ君」


イベントディレクターの緒方玲が手を上げる。


「悪い、ちょっと見て」


「了解です」


PC前へ、状況確認。

OBSが不安定、プラグイン競合。


「あー……原因これですね」


「早」


「最近入れたフィルタです?」


「分かる?」


「ログに出てます」


設定を調整、再起動。

確認。


「はい、戻りました」


数秒静寂。

スタッフ達が一斉に息を吐いた。


「助かった……」


「お疲れ様です」


俺はそのまま床にしゃがみ込み、配線を軽く整理する。

使われていないケーブルが少し危なかった。


「……クロさんって、本当に何者なんですか?」


後ろでミオが呟く。

俺は少し考えて。


「Vtuberですよ」


「説得力ない……」


真琴がまた笑う。

その時、別スタジオから、誰かの大きな声が響いた。


「真琴ー! サムネ確認してー!」


天音ルナだった。本名、榊原月乃。

登録者二百万超えの人気V。


「今行きますー」


真琴が返事をする。

その横顔を見ながら、俺は軽く伸びをした。


深夜二時半。

配信は終わったけれど、俺の仕事はまだ終わらない。


まあ。嫌いじゃないんだけど。





1話だけ作ったやつでここからまだ何も書いてないですが投稿だけしました。

もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。

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