教え子から見た男
カナタと呼ばれた男が放った言葉に対し、レンは内心、苛立ちを感じた。
……なんだ、この人は。
まずそう思った。
訓練用なので刃引きしてあるとはいえ、自分が持つのは鉄の塊だ。なのに、木剣で打ち合えるとは、自分をなめているのだろうか、と。
……あるいはそれも分からないくらい実践慣れしてないか、だけども。
新たな家庭教師と言われた男の顔を見る。
気の抜けた顔をしているというか、覇気というものが感じられない人だとは思っていたけれども。
……また、私が追い返さなければ、教育の質が落ちてしまう……。
それだけは避けねばならない。
自分は強くなるためにここに居るのだから。強くなるための道が遠ざかるのであれば、全力でその要因を消さねばならない。
自分を育ててくれているセレネや、同門のティリアには探す手間を増やして申し訳ないとは思うが、たとえ嫌われても、面倒な子だと思われてでも、やるべき事だとレンは思っている。
今回も同じだ、とレンは剣をぎゅっと握る。
「では、お二人とも、こちらにどうぞ」
ティリアに案内される形で、中庭の中央に、自分とカナタが立つ。
一足一刀の間合いだ。
早ければ初撃でケリがつく、素晴らしい距離だ。
……自分の剣は、風の魔法による剣術。最初に打つのは、抜刀居合……。
もとより風の魔法を得意とする自分が生み出したのは、鞘の中に爆発的な風を生み出しての高速抜き打ちだ。
ランキング100位程度の冒険者でも、反応できない剣速を誇る。
今回もそれを撃てば、目の前の、覇気のない男は吹っ飛んで昏倒するだろう。
だが、変に無理をして教えられるより、そっちの方がお互いにとっていい。そう思っていると、
「それでは、いいですか」
ティリアが手を挙げた。勝負の合図が来る。
「はじ……」
はじめ、の声と共に柄を握り、抜刀しようとした。が、
「あ、ちょっとまった」
そんな声が水を差した。
カナタの声だ。
……なんだ、もう……!
と憤慨しようとして、気づいた。
カナタの木剣抜き放たれていて、自分の剣の柄を抑える形で止めているのに。
「!?」
驚きのあまり身が固まった。
……いつのまに……!?
これではこちらは剣は抜くことすら出来ない。
……それどころか、やろうと思えば、腕を切り落とされていた、ということ……。
「ど、どうかされましたか、カナタさん」
「その、レンさん? 君の靴ひもの結び目が取れかけているから。そのまま踏み込むと危ないよ」
言われ、目線を落として気付いた。
自分の靴ひもが、確かに緩んでいる。
「あ……」
木人への打ち込みを激しくやっていく中で緩んだのだろう。
目の前の相手を叩くのに夢中になりすぎて、おろそかになっていた。
「あ、ありがとうございます。今、直します」
靴ひもを結びながら思う。
……私が抜き放つ前に抑えた……どうやったの!?
こちらは予備動作を見せていない筈なのに。
警戒していたはずなのに。
実践だったら、斬られていたということに加えて、理解できない動きだった。
まぐれなのだろうか? いや、まぐれだとしても、確かめねばならない。
レンの目的は、「追い出し」というものから、変わりつつあった。
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