異世界生活22日目開始
異世界生活22日目。今日は金曜日。鈴さんがいない。久々に自分の家に戻って週末調整をするようだ。俺は相変わらず、素振りと筋トレとゲームくらいしかやることがない。鈴さんのように株でもやっていればいいのだが、金はあってもやる気になれない。そもそも、異世界で大金を稼げてしまってその使い道すら定まらない。鈴さんは金使いの天才なんだと思う。というかその他の分野でも天才なのだろう。鈴さんと一緒にいるとそう思う機会が多い。
「やあ、久しぶりだね」
幽霊先輩が昼間から現れた。
「どうもお久しぶりです」
俺が頭を下げると幽霊先輩は笑顔でこう言った。
「鈴の恋人は大変だろう。自分の無力さを感じる筈だ。俺もそうだった。だが、君は俺ほどそれを感じてないようだ。もっと劣等感を持てよ。鈴と別れてはどうだ?」
幽霊先輩は何を言いたいのだろう。俺と鈴さんの事を応援するような事を言っていたのに。鈴を頼むとはいったい何だったのだろう。
「確かに劣等感を感じますね。俺も頑張らないと」
「何でお前はそんなに前向きでいられるんだ!」
幽霊先輩はそう叫ぶと消えた。何しに来たのだろう。俺と鈴さんは始まったばかり。異世界生活も22日目でまだ始まったばかり。正確には半年と22日目だが、時を巻き戻したので無しだ。俺は半年歳を取ったが、半年得していると言えた。
俺は気分を変えるために外食に出ることにした。今日は贅沢して沢山お金を使ってみようか。財布に5万円を入れて外に出た。定食屋の全メニューでも頼んでみようか。大食いするとこのモヤモヤした気持ちが少しは晴れる気がした。朝食に使う人もいる定食屋なだけに朝からやっている。
「いらっしゃい。あら、お兄さんずいぶんとイケメンじゃない何食べるの?」
「いえ、それほどでは。あの、変な注文ですがメニューを端から順に持ってきてもらっていいですか。どれだけ食べれるか挑戦したくて」
「ん、うちは儲かるからいいんだけどね、大丈夫かい?」
「ええ、3つ目でギブアップするかもですが、宜しくです」
「あはは、ゲーム感覚なんだね」
「ええ、そんな感じです」
俺は出された料理を片っ端から食べる。初めはカツ丼だった。やはり自分で作るより手間が掛かっているのか美味しい。カツがほどよくサクサクで卵もトロっとしている。次は親子丼。その次はしょうが焼き定食、その次は期間限定のカキフライ定食。次はカツカレー。次のカレーは飛ばしてくれた。アジフライ定食にサバミソ定食。まだまだ食べれた。海鮮丼を美味しく食べた所で終わった。
「いやーお兄さん食べたねー! 凄い筋肉だもんね。服の上からでもわかるよ。体も店に来た時より一回り大きくなった気がするよ」
「ご馳走さまでした」
「はいお粗末さまでした」
俺は代金を支払い、少し散歩をして、公園に行き猫に多めに餌を与えて、少し一緒に寝た。屋根つきの遊具のコンクリートが冷たくて気持ちがよかった。冬場は最悪だが夏場は良さそうだ。俺の体に猫が集まる。太ももの間にすっぽり収まる猫と、太もものを枕にして眠る猫。俺の胸に上がって寝る猫。皆気持ち良さそうに眠っている。夕方に目を覚まし、猫たちにまた餌を与えて夕食は回転寿司にした。高いネタをガンガン食べてみた。ウニとカニを交互にひたすら食べてみた。飽きるとホタテとエンガワをひたすら頼み、最後はサーモン祭りだった。
5万円を綺麗に使いきり、俺は膨れた腹のままアパートに戻り、仮眠を取った。起きると膨れた腹が引っ込んでいた。軽く運動して体をほぐす。目もバッチリ覚めた。さあ、今日も異世界生活の始まりだ。




