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異世界バスツアーにようこそ  作者: ルンルン太郎
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異世界生活15日目終了

 山田太郎は異世界バスを降りて予定通り早苗クロフォードのいる下水道に向かった。出来るだけ早足で歩く相当待たせてしまったので心苦しい。貧乏なので分け前をかなり期待している筈なのに。下水道に到着し、管理室のドアをノックした。早苗がドアを開けて俺の顔を確認すると出てきた。


「遅くなって悪い。色々あって」


「ほんと遅いよ。こっちはきっちり丁寧に急いで仕事したのに。まあ、いいわ。はいこれ」


 早苗から加工した魔法石を受け取った。綺麗にカットされてダイヤモンドのようだ。赤く輝いている。下水道の薄暗さではその輝きがよくわかる。次に来るのはいつだろうと思っていたら、魔法石のストックがあるのを思い出した。バッグの端から取り出して早苗に渡した。


「こんなに沢山。かなり時間が掛かるよ。また忘れた頃に取りに来たらいいよ。どうせ私なんか……あ、何でもない取りに来た時に完成していた物だけ渡すようにするね。それじゃまた後で!」


 早苗は慌てるように部屋の中に戻っていってバタンと大きな音を立ててドアを閉めた。太郎は怒らせてしまったなと後悔しながらも急いで武器屋に向かった。少しでも早く早苗に分け前をあげたかったのだ。武器屋に到着すると先客がいるようだ。


「たかがロングソードで800ゴールドだと!? 800万円じゃねえか! 高すぎる80ゴールドでも高い8ゴールド8万で売れ」


 異世界バスの乗客だろうか。見たことがない顔だ。


「妥当な値段だよ。隣の国から600ゴールドで買ったんだ。負けても650ゴールドまでだな」


 隣の国は10分の1の物価だから武器も隣の国から買おうと思っていたが、そこまで値段は変わらないらしい。300万で王都まで異世界バスで行って、武器を買おうと思っていたが行かなくて正解だった。


「いいから売れよ8ゴールドだ! 俺様は大剣豪になる男。俺に売れたって事は後々誇りになるぜ」


「8ゴールドならさっきから言ってるだろう。中古で探せと隅にある木の箱にまとめて刺さってる剣ならどれでも10ゴールドだ。8ゴールドに負けてやるから好きなの選びな」


「ふざけるな! この俺様が中古だと!? 俺は新品しか買ったことがねえんだよ。中古なんざ恥ずかしくて買えないね」


 武器屋の親父はやれやれと首を振った。お手上げというジェスチャーをして俺と目を合わせた。


「おう兄ちゃん。今日は何の用だ。その大剣を一本売ってくれるのかい?」


 2本ある大剣を1本売りに来たと思うのは妥当な所だけど違う。


「この余った大剣は錬金術師に合成してもらうつもりでいるんだ。悪いなこれは売れない。今日は魔法石を持ってきたんだ」


 武器屋の親父は石を見て驚く。眼鏡を取り出して細部まで見ている。


「これは凄い。かなり腕のいい魔法技師だな。魔法の文字が小さく刻み込まれている。相場は1200だが1500で買い取るよ。兄ちゃんは鈴の紹介だから3割増しで2000にしておくか」


「加工技師に分け前を半分払うから袋を二つに分けてくれ」


「おう。わかった毎度あり!」


 俺は武器屋の親父から袋をふたつ受け取って武器屋を後にした。少しでも早く早苗に分け前を払いたい。


「おい待てや」


 突然背後から呼び止められた。先程の客が短剣を構える。


「有り金全部置いてきな不細工。イケメンの俺様が有効に使ってやる。高級娼婦を抱いて奴隷を買って好きな時に殴って、やって、ガキが生まれたら奴隷として売って……」


 俺は反吐が出そうになった。男が短剣で突いてきた。それをギリギリで避けて手首を掴んだ。そして力を込める。


「いてて、離せよこら! ミシっていった。慰謝料請求するぞ!」


 俺は更に力を込めた。男は痛そうにもがく。何度も腕を引き抜こうとしてくるがびくともしない。残った腕で俺の顔でも殴ればいいのに、痛がるばかりだ。


「折れる。折れるって! この犯罪者がー!」


 犯罪者呼ばわりはいただけない。俺は武器を抜いていない。正当防衛だ。そろそろ反省した頃だと男の腕を離すと間髪入れずに短剣で突き刺してきた。それをひらりと避けた。何度避けても男は短剣を突いてくる。20回は回避しただろうか。誰かが衛兵を呼んでくれて男は連行された。


「何でこの俺様の神速の突きが当たらねえんだ。ちくしょうが……覚えてやがれ! お前は絶対殺す!」


 衛兵に連行されながら男は叫んだ。武器屋の親父が俺の肩を叩いた。


「なあ、なんで奴をぶん殴らなかったんだ?」


 俺は何て説明するか迷った。全力で殴ると目が飛び出して奴は死んでいた。普通の力で殴ると頬骨が砕けた。手加減しても顎の骨がひび割れた。それ以上軽く殴ると反撃されて俺が刺された映像が見えた。こんな事は他人には言えない。頭が変だと思われる。


「人を傷つけるのは苦手なんだ。モンスターなら何とかいけるけど」


「お前さんのような強い人にも衛兵が必要なんだな。この衛兵を組織してるのは鈴でな、今までは犯罪者は一切取り締まりがなくてやりたい放題。騎士団なんか俺達一般市民には何もしちゃくれないのさ。鈴さまさまだよ。ほんと足向けて寝れねえよ俺達は。いくら感謝しても足りねえ」


「そうか。鈴さんがそんな素晴らしい事をしていたのか。俺もそうさ。鈴さんにいくら感謝しても足りない。それじゃまたな、親父さん」


 俺は早苗の所に急いだ。俺がきちんと戻ってくるかも不安だろう。約束を果たすという信頼関係が崩れているからな。


「早苗、高く売れたよ。凄く腕がいいってさ!」


 俺はドアをノックせずに大声で叫んだ。すると凄い勢いでドアが開いた。俺は笑顔で金貨が沢山詰まった袋を手渡した。早苗は瞳を輝かせながら金貨を高速で数える。


「金貨が1000枚もある! ありがとう! 本当にありがとう!」


 俺は早苗に2回も抱きつかれた。その時、早苗の腹の部分が振動した。早苗は恥ずかしそうに慌てて離れた。腹の虫が鳴いたのだ。俺はいざと言うときの必殺アイテム。ブラックライトニングのお徳用袋を早苗に渡した。


「チョコレート! 貰っていいんですか!」


「うん。もちろん」


「ありがとう! またね!」


 早苗は勢いよくドアを閉めた。俺はその足で錬金術師の所に向かい、ブルーシート3つぶんの薬草を集め、全速力で駆け抜けた。スライムは相変わらず出口に集まる前で素通りできた。キマイラは現れず、今日は何事もなかった。錬金術師に薬草を渡す。


「今日も沢山の薬草をありがとね。ついでに美味しい食料もありがと」


「いえ、いいですよ。今日は食料がこれですみません」


 俺は屋台で買ったものをビニール袋に入れたものを手渡した。


「ありがとう! お腹減ってたの!」


 錬金術師は口の回りを汚しながら大きな口を開けて大量に口の中に放り込んだ。そして凄い勢いで咀嚼する。くちゃくちゃうるさい。そして空腹がいくぶん収まったのか、静かに品よく食べ始めた。今さら遅いが、物音を立てずにゆっくりと丁寧によく噛んで食べている。先程とは別人のようだ。さっきまでは獣で、今は貴婦人だ。


「あの、今日は頼みがあって。この大剣にもう1個の大剣を合成してくれますか?」


「ん、この宝石のついた大剣は普通の10倍の値段だけどいい? 半額だから1000ゴールド。これは相当いい大剣だから神経使うのよ」


 ちょうど早苗の所に行って1000ゴールド稼いだし、いいだろう。


「よろしくお願いします!」


 鈴さんに借りたと思ってた大剣はプレゼントだったらしく、宝石がついていて立派だ。ボブゴブリンから手に入れた大剣は刃こぼれしていて、所々錆びている。それが宝石がついた綺麗な大剣に吸い込まれるように1つになった。そして、まばゆい光に包まれた。眩しくて目が少し痛かった。


「これはいい重さだ!」


 山田太郎は何度か素振りして錬金術師に1000ゴールド入った袋を手渡し、ギルドに向かった。冴子達が待っており、今日もバスツアーの乗客達の行き先を探ってもらっていた。報酬の錬金術師の処で稼いだゴールドの一部を手渡し、行き先を聞いた。


「今日はサターナさんが怪我してるので気を使って平原で皆でバーベキューですって。様子見に行きますか?」


「いや、いいよ。今日は何も無さそうだし。俺達も酒屋で飲もうか」


「はい。いいですね。鈴さんが経営する酒場に行きましょう。つい最近オープンしてソーラーパネルから店内に電気が来てるので冷蔵庫が動いてて冷たいビールが飲めるんですよ」


 冴子のテンションはいつもより少し高かった。鈴さんがオープンさせた新しい居酒屋に入ってみた。


「いらっしゃいませー! あ、もしかして山田太郎さまですか? 私、鈴さんの友達で話は聞いていて。本当に鈴さんの元カレとそっくりですね。生き返ったかと…あ、失礼しました。3割引で食べさせてと鈴さんに言われているのでどうぞ、沢山食べていって下さい」


「3割引ですか。ありがとうございます。みんな、ここは俺のおごりだから沢山食べて」


「ありがとうございます!」


 要は相変わらず泣きながら食べ、冴子と愛と杏理は俺と鈴さんの関係が気になるようで根掘り葉掘り聞いてきた。付き合う事になったみたいな関係だと言うと、煮え切らない答えだなと言ったが、本当にその通りなので何も言えなかった。



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