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異世界バスツアーにようこそ  作者: ルンルン太郎
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異世界生活14日目

 異世界生活14日目。この日は鈴さんの家に泊まり、東京で金持ち達のパーティーに出席するという。正直、俺には縁がない世界で一緒にパーティーに出たくない。豪華な料理を食べるだけ食べて愛想笑いして帰ることになるだろう。


「さ、太郎くんこれつけて」


 鈴さんの家に到着した瞬間にエプロンを付けられる。美容室や床屋で髪を切る時に使うあれだ。


「髪切るね。パーティーだし」


「ええ、どうぞ」


 しゃきしゃきといい音が出ている。髪が段々軽くなる。あらかた髪を切るとマッサージをしてくれる。ポンポンとリズミカルに叩くあれだ。


「完了。男前になりすぎて競争率上がるから髪を切りたくなかったけど仕方ないよね」


 鈴さんは元カレの事を忘れられないと言っていたのに脈ありっぽい事を呟くのをやめてほしい。つい期待を持ってしまう。


「さ、明日は早いし、もう寝ましょう。先シャワー浴びてきて。着替えは置いとくね」


 俺は一度使ったことのあるバスルームに入った。無心で手早く体と頭を洗う。新品の男性用髭剃りもあったので使わせてもらった。シャワーを浴びても失恋のショックが消えない。胸に矢でも刺さってるようだ。シャワーを終えてドライヤーで髪を乾かす。鈴さんにさっき切ってもらって少し短くなった事で簡単に乾いた。


「シャワー終わりました」


「あら、早かったわね。簡単な夜食作ったので食べて。歯磨きも済ませてね」


 夜食はカレー風味の焼きうどんだった。ちゃんと豚バラも入っている。モヤシもしゃきしゃきして美味しい。あっという間に食べて、バスルームの鏡の前で歯磨きをする。これも新品が用意してあった。鈴さんの裸のシルエットが見えて落ち着かないので、なるべく早く磨いてバスルームを後にした。もうやることはないな。もう、ベッドに入って寝たフリをしておこう。失恋の時は寝るに限る。


「太郎くん寝ちゃったの? そっか疲れてたのね…」


 鈴さんがベッドの中に入ってきた。俺は激しく動揺した。なんと後ろから俺に抱きついてきた。そして30分後、そのまま仰向けに寝かされ、俺は深い眠りに落ちた。眠った後に何かが起こりそうな空気はあったが、睡魔には勝てなかった。朝起きると俺と鈴さんは何故か裸だった。ふたりで寝ていると熱いから途中で服を脱ぎ捨てたのだろう。


「太郎くん、これ着てね。元カレので悪いけど」


 鈴さんがパーティー用の正装を手渡す。タキシードというやつだ。


「着ている間に髪をセットしちゃうね。元カレのやつで慣れてるから任せて」


 髪のセットが終ると俺はまるで別人のようになっていた。


「次は軽くだけどメイクするね」


 メイクが終ると俺はまるで幽霊先輩のような顔になっていた。本当に似ていたんだな。


「次は軽くキスするね」


「ええ、ええ!?」


 俺が驚いた瞬間にキスをされた。開いていた口に舌を突っ込まれる。


「ごめん。元カレの顔に余りにもそっくりで我慢できなかった」


「いえ、いいですよ別に」


 何がいいんだかわからないがそう答えた。俺は頭の中がパニック状態だ。


「ねえ、私のわがままなお願い聞いてくれる? 今日だけ元カレのヒロアキになってくれない?」


「別にいいですよ」


 もっと気の効いた事は言えないのだろうか。俺の思考は完璧に停止していた。パーティーでヒロアキさんを装って出席してほしいって事か。俺はパーティー会場で俺に久しぶりと寄ってくる人達に幽霊先輩のような声を使って受け答えした。話し方も真似た。影武者扱いするのが目的だったんだな。俺は少しショックで悲しかった。パーティーが終ると鈴に腕を引っ張られてタクシーに乗せられた。


「何で別人だと否定しないの? あ、ごめん。私が勘違いさせちゃったのか…元カレのフリなんかしなくてよかったのに。でも、何で声や話し方の癖とか知ってたの?」


「元カレさんとバス停前で毎日のように話してますから。俺は幽霊先輩と心の中で密かに呼んでます」


 鈴さんは口をパクパクさせて驚いている。


「私の事、カレ何か言ってた!?」


 鈴さんは俺の肩を掴んで激しくゆする。


「鈴の事をよろしくと何回も頼まれました。ことある毎にお願いされます」


 鈴の目には涙があふれ出て頬を何度もつたって落ちた。何度も何度も。


「あのバカ何で私の所に来ないのよ」


「それは俺を早く忘れさせる為さ」


 鈴さんの背後に幽霊先輩登場。感動の再会かと思いきや、鈴さんには何故か幽霊先輩の姿が見えない。霊力は高い筈なのに。


「さ、異世界ではきちんと話して人脈作ってよね。これからが本番よ。私達がよく行く国から遠い国の人達も来るの。その国の人達の収入はバスが到着する国の10分の1以下。仮に報酬1ゴールドだとしたら銀貨1枚ね。金貨を持ってる市民はほとんどいないわ。私達は豊かな国に降りてるの」


 俺は鈴さんの話を聞いて驚いてばかりだ。というか、鈴さんが話している間にも幽霊先輩が目の前にいるのに全く鈴さんは気がついていなかった。


「鈴を頼む。君なら安心して任せられる」


 幽霊先輩が消えた。すると鈴さんの顔のアップが入れ替わりで現れた。


「ねえ、話を聞いてた? つまりね、裕福な国でお金を稼いで貧しい国でお店や事業を始めるの。開業資金も物価も土地も激安よ。その時に事業をスムーズに始める為の人脈を今日は紹介するね」


 鈴さんは熱心に語っている。だが、きちっとセットされた髪の毛とメイクに見とれて、ほとんど頭に入って来ない。なんだろう。今日の俺は支離滅裂で滅茶苦茶だ。この日の感想を言うなら鈴さんがどのパーティー客よりも素敵でした。料理も美味しかったですが、それよりも鈴さんに夢中でした。おわり。という感じの日記になってしまう。俺はダメダメだった。

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