異世界生活の始まり
山田太郎は日々の上司によるパワハラに耐えかねて会社を辞めてしまった。休日もないブラック企業だった為、辞めても何も後悔は無かった。
心残りがあるとすれば、先輩の成瀬ルミ先輩を残して行くのが心苦しい。辛いときも助け合ってきた関係だった。よき理解者だった。辛い環境の中でも趣味の話をして盛り上がった。つかの間の癒しだった。
後ろを振り返っても仕方がない。前を向こう。会社を辞めたきっかけはもうひとつある。異世界バスツアーのチラシを手に入れたのだ。
異世界で何が必要かはわからないが、有刺鉄線を先端にぐるぐると巻き付けたバット。先端の重さはなんと3キロ。端を持った時の体感重量は30キロ。圧力鍋の頑丈な鍋のフタ。次々と旅行用バッグにつめていく。取り出しやすい小物入れには超強力噴射射程距離15メートルのスプレーとオイルライターを入れた。強力で当たるとかなり痛いエアガンも入れた。
お次は食料だ。食料は戦利品を入れる為のリュックサックに入れる。スモークサーモンとレタスのそれに塩ダレに黒コショウを振りかけたサンドイッチと、茹でた卵を混ぜて潰してマヨネーズを加えて塩コショウで味をつけたサンドイッチを入れて、デザート側りにお菓子のブラックライトニングというチョコレート菓子を入れた。
旅の準備が済んだ頃、眠くなったので仮眠をした。異世界バスは深夜にやってくる。
「やば! 寝過ごした!」
時刻は2時。草木も黙る丑三つ時だ。慌ただしくバス停に向かって走る山田太郎。すると深夜のバス停に人影があった。
「あなたも異世界バスに参加するんですか?」
と山田太郎に話しかけてきた。暗闇だから顔はよくわからないが、力のない声だ。覇気がないとでも言うのだろうか?
「はい。準備も万全。武器もお弁当も完備です」
「となると、貴方はソロでの参加をオススメしますよ。ソロはいい。任務に囚われず自由に行動できる」
異世界旅行の先輩が色々な事を教えてくれた。ツアーに参加をするなら、サターナが案内人の時にするべき。彼女は参加者全員の安全を第一に考えてくれる。
アザゼルの時はソロで行くべき。参加者よりも自分が一番稼げるクエストを選択する。
ルシファーが案内人の時は先ず無いが、あったら絶対ツアーに参加してはいけない。必ず生死に関わる大きな戦いになる。
結局、サマニエルとサターナのツアーだけに参加するのがいいらしい。結局ソロで行こうとしている俺には関係のない話だが。と山田太郎は思った。
「あ、異世界バスが来るよ」
異世界の先輩がそう言うと手に持っていたチラシが光輝いた。先輩の影が薄い。というより半透明だった。
「先輩幽霊だったんですか!?」
異世界の先輩はふっと笑うと挨拶をして消えてしまった。
「またな、後輩。良い旅を」
こうして山田太郎は異世界バスに乗り込んだ。運転手が手を出して金を受け取ろうとする。まだ、ツアーかソロで行くと決めてたものの、土壇場では判断がつかない。先輩の助言は聞くものだ。
「今日のツアーガイドは誰ですか」
「アザゼルですが」
「ソロで行きます3000円ですね。はいどうぞ」
「ご利用ありがとうございます。でも初回からソロだとあなた死にますよ」
山田太郎は先輩の助言を聞き入れてソロにした。正確にはアザゼルを避けた。
「あいつソロだってさ。恥ずかしい。ツアーに参加する金もないのかね」
「可哀想だよ。構わないであげよ? どうせ友達もいないのよ。ボッチなのよ」
他の乗客が色々、太郎の噂話をしている。
「ソロ組は一番後ろの席だよ。私の隣においで」
一番後ろの座席には3人座っていて、一番右に座る女性は胸元が少し開いた服で腹が露出している。鍛え上げられた腹筋が6つに割れて見事なクビレもある。顔もモデルのように整っていて、切れ長の目元でくっきり二重。
彼女は鈴さんと言った。
その隣に座席ひとつぶん空けて座ってるのは小柄な148センチほどの女性だが、胸は小柄ではなく、メロン並だった。顔はモデルよりアイドル寄りの顔で可愛いと美人の中間だった。簡単に言うとめっちゃ可愛い。けど美人にも見える。でも小さいから可愛い系で決まり。その人の名前はゆっけ。
左側の窓際に座るのが60センチほどの刃がある槍を持った高志だ。左右にも30センチ程の刃があるので、突きを回避するのは大変そうだ。槍のせいか3人ぶんのスペースを取っている。
「私は鈴。ただの鈴よ。私が色々案内してあげるよ。私の隣はゆっけ。こう見えて凄腕の暗殺者なのよ。一番左に座ってるのは高志。こう見えて騎士団長で王女に惚れて青春真っ只中なのよ」
ソロの先輩の鈴さんが案内してくれるというし、何やらソロも怖くなさそうだぞと思っていた。
「俺は山田太郎といいます。宜しくお願いします」
こうして俺の異世界が始まった。
「あんた、鈴さんに案内して貰えるなんてラッキーよ感謝しなさいよね」
「そうだな。鈴が新人の案内とは珍しい」
「あんたが話すのも珍しいけどね」
ゆっけがそう言うと高志も反応した。鈴が誰かの世話をするのは珍しいようだ。
「太郎くんは特別だからね。万が一にも死なせる訳にはいかない」
と言う鈴。その瞳は懐かしい人を見ているような感じである。
「わたしはモブキャラにしか見えないけどね。石を投げたら当たりそうな顔してるじゃん」
と言うゆっけ。ゆっけの理想は高く、大抵の男は不細工である。大人気ドラマのゴシップボーイのチックもゆっけにから見れば不細工であるというから驚きだ。




