10:検査結果
それから二週間後、俺は上司から検査結果と辞令を渡された。
■健康診断 検査結果■
◆判定基準◆
A:とてもよくできました
B:よくできました
C:できました
D:がんばろう
E:あきらめるな! 世界は君を幸せにするためにできているんだ!
○身長・体重検査
判定:C
身長は現状を維持。体重ははじめ拒絶するも、最後は熱さに耐え結果を出す。九月十二日の火祭りには呼べそうだ。最近担い手が少なくて困っている。ぜひ彼も後世に祭りを伝える者に(以下略)
○死力検査
判定:B
死力は3.0。なかなかCの壁を越えられない者が多い中、彼は更衣室から調達したスマホのズーム機能を活用するなど、自分なりに思考する姿勢が見られた。私の眼鏡を奪うという行為に及べば、A判定も期待できた。
○聴力検査
判定:C
二問中一問正解。C判定。以上。
あと、ハマー寺西はうちの社員なんでしょうか。もし社員だったらサインください。
○腹囲計測
判定:E
大人の魅力が分かっていない。まだ初心な男の子だから、私のストライクゾーンじゃないわ。
○レントゲン検査
判定:判定不能
私の撮影方法はやっぱり厳しすぎるのでしょうか。学生時代に使用していたフィギュアたちはみんな私の指示通り動いてくれたのに。
○レントゲン検査(胃部レントゲン)
判定:B
大人の魅力が分かっていない。私からバリウムを注がれているのに呑まないなんてありえない。もうひとバリウム呑みたかったのに。でもそんな初心なところがかわいいかも♪ 期待値をこめてBにしちゃった。次の新歓は隣いくから。
○心電図
判定:D
イオラに耐えたから失神はしなかったけど、こいつも勇者じゃない。本当にこの街に勇者がいるの。一刻も早く魔王を倒しにいかないといけないのに。もう私一人で行ったほうがいいかもしれない。
○採血
判定:A
すばらしい血でした。おいしかったです。ごちそうさま。また職場で吸いたいです。でも職場で吸うと社長に怒られるから、プライベートで吸いたいです。
○問診
判定:A
そこそこに骨のある若者ではあった。今後の成長はこれから、というところだ。
社会人として生きていくのに、自分の言いたいことを好きなだけ言えればストレスはたまらないだろう。だがそれだけでは仕事が回らないのも事実だ。ときには堪えることも覚えてほしい。とはいえ、若い時分なら少々反抗的なくらいがちょうどよいと私は思う。
■辞令■
平成二十七年五月付
宮内 仁 を
ペルー支店営業部に任ず。
「ペルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
上司に手渡された辞令を見てその場で叫びだした俺に、社長から直電がかかってきた。
『ごめーん。健康診断のときは、ノリで本社勤務がいいかな、なんて言っちゃったんだけどぉ。専務とか常務とかがぁ、海外進出をもくろんでいて~。ほら、ペルーって南米なだけに、アルパカとかいるでしょ? 毛皮で有名な。でもアルパカってそんなにいっぱいいないからぁ、むこうでどんな感じなのか調べてくる人がいないかなぁって。そしたら宮内君に白羽の矢が立っちゃったの~』
「でも俺、ペルーなんて行ったことないし……。支店ってどこなんですか? それにそもそも、何語なんですか」
『それは、駅前留学かなんかで習えばいいと思うけどぉ』
だから何語かって訊いてるんだけど……!
『とにかくもう決まっちゃったからぁ。がんばってね、宮内君。中二病の子も、吸血鬼の子も、お姉さんな人も、みんな応援してるから』
「はぁ……」
ペルーって……。
未知過ぎる世界。海外に行ったことのない俺にとっては、何も分からない世界。
だけど――
少しだけ胸が高鳴ったのは、気のせいだろうか。
「まあ、辞令ですから……しかたありませんけど……」
あきらめ気味な言葉とは裏腹に、俺はペルー行きを心の中で固めていた。
無茶苦茶な話だけど、
どうなるのか全く予想もつかないけど、
だけど――
これだけ自分の行く先が想像つかないことって、いままでの俺の人生であっただろうか。
俺、もしかして心の底で「面白そう」だと思っているかもしれない。
ペルーがどう、というんじゃなく、いまの状況そのものに。
俺は社長の再度の確認に、うなずいていた。
ペルー支店、営業部配属に。
ここから、俺の新しい社会人人生が始まるんだ。そんな気がした。
『あ、ハマー寺西さんから応援メッセージを預かってるんだけど、訊いとく?』
「結構です」




