6 帰還
ゴーレムの帰りを待ちつつ、魔物の情報を入力していく。低層の魔物は今のうちに全部入れとこう。ログに種類付きで出てくれた方が助かるしな。
簡単な画像認識も拡張機能で実装だ。多少魔力消費は増えるが、魔石を今のペースで拾えれば問題ない。最悪バフを削る。魔物に合わせて勝手に動くのが理想だからな。
「まずはクサイムから……」
まあ、こいつは特筆することもないか。戦闘が長引くと腐臭がする毒液と毒ガスを出してくるが、少なくともこのゴーレム隊でそうなることはない。仮に食らってもあれゴーレムに効かんだろ。溶けるとかでもないし。つーか基本ワンパン即殺だから。汎用処理でいいや。
あとはサンプルの画像をいくつか放り込んで終了。次はトゲウサかな。膝蹴りへの対応方法を……
と、規則正しい足音が玄関前に響いた。
ログに目をやると目的地到着的なことが書いてある。ああ、これシステム側で通知音鳴らすようにした方がいいな。集中してたら気付けないぞ。
「おかえり、って汚ね!」
当然っちゃ当然だが。最短ルートだと多少道なき道も行くしな。
木製だけど水洗いはOKだろ。よし全員そこ並べ。
「確かこの辺だったかな」
あったあった。風呂掃除用スポンジ。ここで風呂入った記憶ないから若干不安だったが、買ったのは覚えてたんだよな。
あとはテキトーな鍋に水を汲んで玄関に持ってく。1回じゃ絶対足りねーぞこれ。
水をかけて、スポンジで擦ってをひたすら繰り返して汚れを落とす。家ん中に入れるわけだし念入りにだ。
新品同様だったスポンジは、終わる頃にはすっかり歴戦の様相を呈していた。
「終わり終わり!」
全身がミシミシいってる。なんか腕と足震えてるし。疲れた。これ毎日5体分はきついぞ。
「これも……なんか……考えねーと」
やることが……やることが多い!
とりあえず、ゴーレム各位に停止命令。部屋の隅にまとまってもらう。魔石は魔核に投げ入れておく。エネルギーがかなり増えたらしい。魔核の性能がなんたらというログを横目に、ベッドに倒れ込む。
ああ、一体は飯買い行く用に残しとけばよかった。仕方ないU〇er使うか。とはいえ何食べるか考えんのもめんどい。てか汗だくだしそれこそ風呂入らないとなんだが、もう起き上がれる気がしないぜ。
*
「……ん?」
目を開けたら夜10時。そんなもんだよな。
全身の疲れこそ残ってるが、一眠りしたお陰か色々なやる気が戻ってきた。よしやるぞ。
晩飯は……マ〇クでいいやマッ〇で。ビッグ〇ックセットでポテトLにゼロコ〇ラ氷抜き。置き配にして先に風呂だ。シャワーだけささっと浴びよ。
「ふいー……」
カラスの行水レベルで上がってくる予定だったが、思いのほか気持ちよくてしっかり洗ってしまった。湯船浸かってないの勿体ないし、なんかの機会に風呂スポンジも買い直そう。流石にさっき使ったのはもうダメだ。あれはゴーレム専用ってことで。
さて、ご機嫌な晩飯といくか。
「おっと?」
マ〇クの袋の横にダンボールが2つ。オマケか!? 中身が知りたくて――あ、スライムと鳥かごか。
相変わらず仕事が早いぜAmaz〇n。飯食ったら開けよ。
ビッグマ〇クにかぶりつく。美味い。このジャンクなのがいいんだよな。ポテトを一口。塩と油の暴力。たまんねえ〜! これ〆にゼロ〇ーラをイッキ。これでカロリーが流されていくからゼロカロリーだ。
ふう、食った食った。次はスライムの確認。
箱を開けると水色のゼリーが出てきた。これこれ。スライムっつったらこれだよね。
箱から出しても動き回ることはなく、ただぷるぷるしていた。比較的大人しいやつらしい。……生きてるよな?
「おーい?」
声には反応なし。そもそもスライムって音聞こえるんだっけ。
懐中電灯モードにしたスマホを向けてみる。心なしか嫌がっているように見える……がほぼ動きがない。
試しにダンボールの端でつっついてみる(素手は溶けそうで怖いからな)。するとじわりじわりと後退した。おお、生きてた。
なんだか謎の愛嬌がある。クサイムはもっとネチャっとしててあんまかわいくない。
「鳥籠の方も見とくか」
箱を開ける。商品紹介画像で見た通りの代物が出てきた。サイズも問題なし。逆に上が結構余裕あるくらいか?
「ほら、入ってみろ」
またダンボールでツンツンして動かす。ぷるぷるもぞもぞ動いて鳥籠に入った。いい感じだ。
魔石取らせるときもゴーレムにつっつかせよう。
「じゃ、一旦そこにいてくれ」
「…………」
カゴに入ったあとはまた大人しくなった。昼行性とかなんだっけ。そもそもそういう特性あったかな。
まあ、いいか。とりあえず魔石確保用のプログラムをぱぱっと書いちまおう。
* * *
「しゃ、社長! 大変です!」
午後2時。トオルのシステムが完全停止してから丸2日が経過していた。社長の顔にも、その部屋に飛び込んできた秘書の顔にも、疲労が滲んでいる。
「後にしろ」
「し、しかし……」
「いいから黙らせろ! 文句を言うのは適当な理由をつけて解雇しておけ」
ツカサはイラついていた。現場からの報告で社内はパンク。収益グラフは真っ赤。前回比は確認したくもない。
今日だけならまだいいが、明日は? そして、その後は?
ツカサは――つい30分前と同じように――乱暴にバフ管理室のドアを開け、怒鳴る。
「おい、それはいつ直る!」
「申し訳ありませんが、ただいま原因調査中で……」
「こっちは高い金出してんだぞ! さっさと直せ!」
作業は未だに大魔核の調査で止まっている。何時間やってるんだ。何も問題ないとか訳分からんこと抜かしやがって、と内心毒づく。
しかしここにいても何も解決しない。業者を尻目に、ツカサは社長室に向かう。
「……クソッ!」
衝撃音と共にデスクが揺れ、造花を生けた花瓶が倒れた。
「あいつが壊しやがったのか……あいつが……」
頭に浮かぶのは、あの給料泥棒の顔。
「レガリアへの恩を仇で返すとは……間宮トオル……」
再度の衝撃音の後、社長室は静かになった。バタつく廊下とは対極的な静寂が、場を支配していた。




