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■カラカラ短編劇場■  作者: 乙かれぃーぬ


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5/6

ポテチ少女は生かしたい

「私の時間は止まってる、こんな灰色の世界に生きる価値…とは?」


少女は登校中の道で、そんな哲学的でもあれば一言でまとめられるようなことをボソッと呟く、目の前の蟻は必死になって金魚を運んでいる最中だ。


「生きるとは…」


2度目の言葉は問いではなく答えを出そうとポッと出た頭言葉かしらことばだ、しかし、少女は疑問に思ったことの内容を咄嗟に考える頭はなく。


「なぁ下等な生物よ、お前の命はどこにある?」


なんて言葉に変換された。

その問いには一切の意味なんてなく、ただポテチを貪る口があるだけだった。


しばらく塞ぎ込んでからふと空を見上げると、想像以上に眩しい光が目を焼いて。

めぶしゃっ!《まぶしい》と反射的に目を閉じて、太陽に中指を立ててため息をこぼした。


「学校行かないとなぁ…だっりぃーなぁぁ……行きたくねぇよぉ......はあぁぁ.....のんちゃんなぁ....もう会いたくないし出来れば顔も見たくないよぉ、けどでも...これがあるし......」


少女は昨日、同級生である友達の、のんちゃんこと、呑娘のんこちゃんと喧嘩をしてしまったのだ、罪滅ぼしのポテチと、綺麗好きな呑娘ちゃん用の箸も買っていたというのに。

気がつけばポテチの袋はほとんど空になり、落ち込む頭には反省の言葉がふわふわと付きまとっている。


「どうして私はのんちゃんにキレちゃったんだろうなぁ.....悪いのは私のほうじゃんか.....謝りたいな、謝りたくないな、いや、謝らないとなぁ、でも頭は下げたくないしなぁ」


なんて考えが頭の中を巡っては、思考はただぐるぐると旋回せんかいして離れずに、同じ場所を行ったり来たりしているだけだった。


少女はこのままじゃいけないと、のんちゃんに謝る言葉を考えてみることにした。


「素直に、昨日は勝手にのんちゃんのポテチ食ってごめんなさい!これだよなぁ、でも私のキャラじゃないしなぁ

へっへ〜ごめんね〜一緒にポテチ食おうよっ☆

いやいやいや!ないないないない!2つ目にしていっちばんダメそうなの出たよ!ってかポテチはもう食べちゃったし!私のバカっ!

う〜ん、最初っから謝らずにいつもの感じで、お!呑娘じゃん!元気ぃ?昨日は勝手にポテチ食っちゃってごめんね!駅前に美味しいケーキ屋が出来たんだってyo!放課後に寄ろう、yoっ!...ってこれを言ってる私はいったい誰なんだyo!?

私は一回、冷静になったほうがいいみたいだ」


少女は頭を冷やそうと、蟻の群れを数えながら、巣へと運ばれてゆく金魚に目を移すと、とあることに気が付いた。


「この金魚まだ息をしてるじゃんかくっそとおとっ!え?とおとっ!エラ呼吸尊えらこきゅうとおとっ!」


エラをパクパクとさせる金魚に多少のエンパシーを感じた少女は、金魚の救出へと手を動かしたかと思ったらピタっ、と手を止めた。


「私の手で触って大丈夫なのかな、金魚は人肌で絶命するっておばあちゃんが言ってたし、そうでなくてもよ?

もしかしたらこいつはあと数秒の命でさ、タイミングよく私が触れた瞬間に寿命を迎えでもしたらよ?

私の手が温もりを与えた結果の絶命か、金魚が寿命を迎えての絶命かなんてわからなくなるじゃんなによなによ!それって寝覚め悪っ!

放っといても勝手にこいつは息消沈するけどさ、見殺しの汚名を背負って登校しろは流石に受け入れられない運命さだめよ、背負うのは汚名じゃなくてリュックサックだけにしなさいよ!

ってもう2年前にリュックサックなんて捨てて、のんちゃんと一緒に行ったデパートで中学用のカバンを買ったじゃないの!

あの時のデパートのペットコーナーで、トゲトカゲに威嚇をされていたのんちゃんは今どうしているのかな、この頬を伝ってゆく一筋の雫はどこへと流れてくのだろうか、まあいいわよそんなことは、金魚よ金魚!」


少女は触れられるだけで消えそうな命をどうにかして救出するべく思考の寄り道にシャッターを下ろして、目の前の現実へと目を向けた。


「そうだ!人肌で死ぬなら箸で掴めばいいじゃない!のんちゃん用のポテチ箸.....これで金魚を掴んだら、今日はもう呑子ちゃんとポテチが食べられなくなっちゃうかも.....仲直り.....のんちゃん...ポテチ.....の空袋....金魚の命...を救える呑子ちゃん箸.....汚れ..絶好......えぇい呑子ちゃんのことはこの際どうでもいい!私は金魚を助けるんだ!」


少女が蟻の群れへと箸を伸ばして金魚を掴み、まだエラが動いてることを確認すると、走って池に行くよりもこの方が早いからと、振りかぶって放り投げた。

金魚の着水を見届け、波紋へと駆け出すと、不器用に泳ぎ出した金魚にホッと胸を撫で下ろして、少しずつ泳ぎが上手くなる金魚をにやにやと見守っている。


不意に背後から聞き馴染んだ声で名前を呼ばれると、少女は振り向きもせずに、あたふたと口だけが勝手に動いた。


「ののののんちゃんどうしたの?私は金魚と遊んでる最中なんだけど!だけどきっと蟻はお腹が空いてるからケーキ屋に行こうよ!昨日はほんとごめん!」


「あー、うん、私も昨日はごめんね〜、さっちーが好きなポテチ買って来たんだ、じゃじゃーん!マカロニサラミ味ぃ〜!これ食べながら登校しようよ!」


「うん..あの...箸..ある」


「わぁ!ありがとう!さっちー優し〜!この箸めっちゃ可愛いんだけど!ねえねえどこで買っ.....って、な、なに泣いてるの?」


「うっせーし泣いてねーしうっせーし、なに泣いてねーのに泣いてるとか言ってんの?意味わかんないし、ほら早く学校行くよ!あとその箸でさっき金魚掴んで池に投げた」


「ふざっ!口つけちゃったんだけどぉ!ほんとに何してたのさっちー!?ってかなんだその笑顔は!?」


少女は呑娘のんこに追いかけられながら思う。


今日は学校に着いたらのんちゃんと何をしようか、なにを話そう、お昼は購買部でなにを買って一緒に食べて、放課後はケーキ屋に行ったらどんなケーキを選ぼう。

2人が走る音と共に、騒がしい笑い声が、灰色の道に色を付けて学校へと流れていった。

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