01. 漂着
この朝のことをどれほど後悔しただろう
その日の朝
ジェイはいつものようにタバコをくわえ、ジャリジャリと小石を踏みながら海岸へと降りて行った
女と住むとタバコは外で吸ってと言われるのを面倒がる男は多いが、ジェイはヘビースモーカーなのにまったく苦にしない
とくに朝の一服は潮風に当たりながら吸うのを好んだ
海辺にある彼の店は年中常設している海の家のような造りで、1階はオーナー兼シェフをしているレストランバー、2階は住居、階下は駐車場とボードやカヤックの置き場、これは夏になると湧いてくるサーファーたちから有料で預かっているものだ
そして桟橋なしで海に繋がっている
昨夜は風が強かったのでボードの様子を見ようと、痩せた長身を折り曲げて倉庫になっている軒下をのぞいた
(ん?)
波打ち際に何か白いものが横たわり、服の裾らしいものが風に吹かれてひらひらと舞っているのが見える
目を凝らして見つめると人の形をしているのがわかった
(おいおいおいおい)
まさか、自宅の軒下に死体?
(冗談じゃねえぞ、溺れたのか?)
気味が悪かったが確認しないわけにもいかない
ジェイは仕方なくそろそろとその白いモノに近付いていくと…
やはりソレは人間がうつ伏せに倒れている体だった
「おい、アンタ、生きてるか?」
声をかけたが反応はない
もの凄くイヤだったが、手を伸ばして肩のあたりを揺すってみた
しかし動かない
体は柔らかく、少し温もりがあるように思えたのでゆっくりとひっくり返し仰向けにした
「ごふっ」
小さく咳をしたのを見てジェイはほっとした
肩より長く伸びた黒髪、細い手足に痩せた体、どうやら子供のようだ
(なんだ、生きてるのかよ)
「おい、しっかりしろっ」
意識があるのかはよくわからなかったが、とりあえず自宅に運び上げるしかあるまい
「おーい、マリーン、マリーン、大変だ!」
一緒に住んでいる女の名前を呼びながら、子供を抱いてジェイは坂道を登っていった
その途中で子供は意識がはっきりしたのか、両手でシャツにしがみついてくるのを感じる
「おお、気がついたか」
顔を覗き込むと、怯えたように彼の瞳を見上げてきた
(かっわいい顔してんなぁ、女の子か?)
「もう大丈夫だよ、えっと、日本語わかるかな?」
日本人にしては肌の色が浅黒いが、この海辺の町では珍しくもない
ただ大きな瞳と長い睫毛、南国特有の彫りの深い顔立ちは日本人離れして見えた
「ジェイ? なあに、どうしたの
あらっ!」
2階から降りてきたマリーンはジェイが抱えてきた子供を見て目を見張った
「浜で倒れていたんだ
風呂を用意してやってくれるか?」
「わかったわ、こっちへいらっしゃい」
マリーンは2階にあるバスルームに子供を抱えていったが、すぐに戻ってきた
「ジェイ、バトンタッチ」
「ん? なんだ」
「あの子、男の子よ
私じゃ恥ずかしいってさ」
夏が始まる少し前のことだった