02. サンセットバルコニー
「3番さん、タコのアヒージョとカルパッチョ。ドリンクはハートランドとカンパリで」
「あいよ」
海で拾った少年は、結局ジェイの店に居着いてしまった。
本来なら警察にでも保護してもらうのが筋だが、ジェイもマリーンも警察にはいい思い出がない。本人も警察はどうしても嫌だと言うので、店を手伝うという約束で居候することになった。
夕陽のロケーションが特に素晴らしいジェイの店は、夕方からの営業で日没時に一気に混みだす。客の入りが天気に左右されてしまうので、シフトを考えずに使える彼は都合が良かったのだ。
少年はウィンと名乗った。
生まれはタイで日本人とのハーフ。日本語は達者だが親も兄弟もいないし、浜辺に流されてくる前のことも覚えていないと言う。
(まぁ、ウソだろうな)
たぶん話したくないんだろうとジェイは察して、ウィンが言わないことは深く訊かなかった。
ジェイにしてみれば気紛れに拾った猫みたいなものだったし、そのうちフイッといなくなってしまうかもしれないと、さほど深刻に考えてもいない。どう見ても未成年だが(ウチの客に律儀に通報する奴なんかいねえだろ)とタカをくくっていた。
ウィンはなかなか器用で、最初は皿洗い程度だったがすぐに接客に慣れ、ウェイターとしてホールに出るようになった。
もともと常連の多い隠れ家的な店だったから、接客と言っても気を遣うことは少なく、愛らしい容姿の彼は客たちにも可愛がられるようになっていった。
18時を回った頃。
店の特等席。
海にせり出したバルコニーからは沈んでゆく夕陽が視界いっぱいに広がる。
巨大なオレンジ色の火球のように、太陽は歪みながら海へと溶けていった。やがて紫色の闇が空と海の境を消してゆく。
「ヘイ! マリーン」
ウクレレの音が響き、モンステラのハワイアンドレスにレイをあしらったマリーンが現れた。
褐色の肌、エメラルドの瞳、そして艶やかな黒髪に深紅のハイビスカス。拍手と歓声がひと際大きく響いて彼女を迎える。
ハワイで生まれ育ったマリーンはネイティブのフラの踊り手。ステップは柔らかな曲線を描きつつ客席の間を踊りながらすり抜けていく。さらに豊かな胸と細い腰が揺れると客たちからチップが投げられ、マリーンは微笑みながら投げキスを返した。
ウィンはキラキラと瞳を輝かせ、マリーンの姿を追っている。
(あのお年頃にはちょっと刺激が強いかな)
ウクレレを弾きながらジェイは思春期の下半身を思って笑顔になった。
夜の風はまだ清しく
人々のざわめきを運んでいった。




