56,準備を始めよう
ジュラドースから鱗などを拝借するための作戦会議は、お茶を片手に行われていた。
会議はまず今回の目的、ジュラドースについての説明から始まった。頻繁に出会うわけではない相手なので、何か認識の違いがないようにしておくのは大切だ。
「幻獣種、ジュラドース。外海に生息していて、陸地近くに来ることは非常に稀。全長は三メートルから十二メートルで、長く頑丈な尾びれと固く鋭いひれが二対四枚ある。毒はないけれど、背びれも固く鋭いので注意が必要。魔法で強化された武器もかみ砕くほど強い顎を持っている」
記憶を探りつつ、アジサシに売り物ではなく備品として乗せてある図鑑を開いて情報の確認をしていく。
誰も何も言わないので、基本情報での誤認識はないらしい。
ジュラドースはアジサシで何度か追ったことがあるので思い出しやすいのかもしれない。
「今回狙うのは鱗と背びれの大きな棘だね。どちらも再生するし、生え変わりの際には取れやすくなる。一番取れやすそうなのを見つけて狙おう」
「また平然と無茶を……」
「倒す方が無茶だからねぇ。可能なら牙も欲しいけどそれは難しいだろうし、よほどのチャンスがなければ狙わなくていいかな」
必要とあらば討伐方法も考えるが、アジサシは別に冒険者ではないので、素材さえ入手できればそれでいいのだ。必要以上に討伐する気はない。普通に面倒くさいし。
倒した方が素材は手に入るが、手間を考えると取れそうな素材だけ回収する方がいい。それほど量が必要な訳でもない。
「で、どうやっていくかだけれど……アンドレイ、前に作ったチャリオットってまだ使えるのかい?」
「解体はしてないから、出してみて調整すれば使えると思うよ。ただ、それだと乗れるのは多くて六人だね」
「まぁ、それだけ乗れればいいんじゃないかな。カタリナとサシャは行かないだろう?」
「行かない」
「待ってるー」
チャリオットは馬に牽引させる戦車のことだが、アジサシでは数名で移動するときに使う小型馬車くらいの扱いをされている。
アジサシの馬二頭は普通の馬ではないので、一頭で一つのチャリオットを牽引出来るのだ。そこに二人か三人かで乗っていくのがアジサシのチャリオットである。
普段は使わないので荷物の奥の方にしまい込まれているが、今回のように少し離れたところで戦闘が起こるような時には引っ張り出して来て使う。
ちなみにアンドレイが丈夫で牽引出来ればいいだろ、と作ったものなので、作りは割と雑だ。
「そうだねぇ……とりあえず、ギーネ。ボクと一緒に乗ろうか」
「えっ。はい」
いつも通り留守番だろうと思っていたらしいギーネににっこり笑いかけてから、チグサは無言なのに行きたいオーラが凄いコリンの方を向いた。
目が合うとパッと笑顔になる。……なんだろうか、全力で振られている犬の尻尾が見える。
「コリンとエリオットは確定だ。あとは……アンドレイは?」
「行ってもいいが、大してすることもないだろう?」
「魔法陣で足場作り」
「あー……準備に時間がかかるぞ」
あとはセダムが行くかどうかだが、今回は解体ではないのであまり興味はなさそうだ。
乗れと言ったら素直に乗りそうだ、と考えつつ、他に必要になるものを考える。
アンドレイが魔法陣を準備し終えるまでは待機なので、準備をする時間は十分にある。
「あの、団長。なんで僕も?」
「んー?実物と回収の様子を見るのも大事なことさ。特別何をしろってわけでもないよ。ボクの横に乗っていればいい」
「……分かりました」
チグサの意図を察したのか、ギーネは静かに頷いた。
まだどこか緊張した顔をしているが、出発してしまえば緊張し続ける余裕もないので大丈夫だろう。
ギーネはチグサの後継だ。見た目こそ変わらないが確実に歳を取ってはいるチグサが、自分の引退後にアジサシを任せるために育てている次世代だ。
だからこそ、今回のように普段は連れていかない適性外の場所にも連れていくことがある。
物を見る目はアジサシを継ぐ上で絶対に必要だ。全てをギーネ一人に覚えさせるつもりはないが、何でも直接見てみることには価値がある。百聞は一見に如かず、だ。
「レウコスは?」
「待ってるよ。小物作りたいし」
「そうかい」
そうだろうなとは思っていたが、これで留守番が三人になった。
残りは全員行くことになっても問題はないので、あとは本当に準備だけ済ませてしまえばいいだろう。
というわけで会議は終了となり、チグサはパンと一つ手を叩いた。
「それじゃあ、準備を始めよう」
その声を皮切りに各々が動き出し、チグサとアンドレイはまず荷物に埋もれているチャリオットを発掘するところから始めることにした。
ガサゴソと荷物を漁って、積んであるものを崩さないようにスペースを確保して。そうして場所を開けていった先に、目的の物を見つけた。
「あったあった、これだ」
「最後に使ったのがいつだったか……よっと」
「どうだい?」
「思ったより無事だね」
箱に収めていたそれを引っ張り出して組み立てつつ、劣化がないかを確かめる。
確かそこそこいい素材を使って作ったはずだ。そのおかげか、大きな劣化は見られない。だがまぁ、頑丈で困ることはないので、調整がてら強化もしておこう。
チグサの鑑定眼は箱の外からでも何が入っているかが分かるし、箱から出した後は劣化も分かる便利なものだ。便利な物は活用するに限る。




