55,キャンプ地を決めてからかな
ヒエンから情報を貰ってきて、次に行く場所が確定した。
ということで早速準備を始めて、次の日にはキマイラを出発し、まっすぐと外海の方へ向かう。
キマイラは内海寄りの国なので、距離としてはそこそこあるが……まぁ、アジサシの移動速度ならば時間はそこまでかからない。
「で、詳しい場所は?」
「内流の外とだけ。どうやって行こうかねぇ」
ひとまずは陸を走らせて進みながら、馬車の中でのんびりと会話をする。
チグサとセダムが地図を広げて向かう先について話していたら、そこにコリンが寄ってきた。見張り台にいるかと思っていたが、いつの間にか降りてきていたらしい。
「内流、って海を進んだ先ですよね?」
「そうだよ。……そういえば、コリンが乗ってからはあまり行っていなかったかな?」
「三回くらいです!正直どれがそうなのかよく分かってないです!」
「なるほどね」
年月が経つほどに関わりを減らしていたから、コリンが乗ってからは三回程度しかその先へと行っていなかったらしい。
それならちゃんと説明しておくか、と座り直して、チグサは隣を軽く叩く。
意図を察したコリンがそこに座ったので、広げた地図をコリンの方へ向けた。
「ボクらは普段空を移動するけれど、海に流れがあるのは分かるね?」
「はい!漁村でたまに変な流れがあるから海入るなって言われます!」
「うん、普通の海流は、その土地によって変わるんだ。地形なんかに影響されるからね。ただ、陸から大きく離れると、海流が全て陸の方へと向かい始める。それが内流」
第三大陸の地図の、外海側。陸地と海の境目から離れた床の部分をトンと軽く指で叩く。
実際はもっと距離があるが、まぁ雰囲気が分かればいい。今そこまでの正確性は必要ないのだ。
「基本的に、船ではそれを越えられない。どうしたって押し戻されてしまうからね。今後なにか、水流に抗って進み続けられるような船が作られない限りは、内流の先には船ではいけないのさ」
「だから空から行くんですね!」
「そういう事だね」
「……はい!団長質問!」
「なんだい?」
元気よく手を挙げたコリンに笑いかけて質問を待つ。
素直な末っ子は、自分が興味を持つまで詳しい情報を記憶しようとはしないが、一度興味持てばちゃんと吸収しようと疑問を投げてくる。
急いで覚えなければいけないことはその場で叩き込むが、それ以外ならこうして興味が向いたときに聞いてくれればいいのだ。
「なんで全部内側に向かって流れてるんですか?」
「……さて、何故だろうね?」
「分かってない事ですか!」
「正確には、知りたくないから放置しているんだ」
「……あ!神代関係だ!」
分かったぁ!と元気に声を上げたコリンに笑って、そうだよと返事をする。
チグサは神代に関わりのある事を嫌い、それを遠ざけているが、別にそれが禁句というわけではない。
不躾に土足で踏み込んでくる輩が嫌いなだけであって、それ自体を忌避しているわけではないのだ。
故に話題に出してくる人によっては普通に話題にするし、説明だってすることもある。
なのでアジサシの末っ子が無邪気に突っ込んでくることを怒ったりはしないし、そのまま元気な末っ子の頭を撫でた。
「ま、そういうわけだからね。眼下に広がる海の不思議は無視して、ジュラドースを捜索、その素材をいただくことだけ考えよう」
「分かりました!馬車でそのまま行くんですか?」
「そのつもりだけれど……まぁ、詳しくは一度キャンプ地を決めてからかな」
内流を越えるには、空を進むしかない。
アジサシからするといつもの移動手段ではあるけれど、その上戦闘まで行わなければいけない、となると、どうするのかは少し考えたいところだ。
全員で行くのかどうかもキャンプ地についてから決めることになるだろう。
なんて話をしている間に、馬車は大分進んでいたらしい。一度止まって足の飾りを外し、勢いよく空へ駆け始める。
こうなれば後はもう大して時間もかからずに海辺までたどり着けるだろう。
なんて考えながら窓の外に目を向け、高速で流れていく景色をぼんやりと眺める。
第三大陸の外海側には山が無いので、人目につかないキャンプ地は限られている。今回は、恐らく海側からしか入れない洞窟あたりに行くはずだ。
実際、馬車は一度大きく海に出た。そこから反転して、崖に開いている穴へと向かう。
「……うん、前に来た時から変わってなさそうかな」
「そうだな。誰も来てなさそうだ」
洞窟に入って停止した馬車から降りて、周囲に何か変化がないかを確認する。もしも人の痕跡が増えて居た場合、ここで出くわす可能性があるので別のところに移動しないといけないのだ。
とはいえ、今回は何も問題なかったのでさっさと馬車から物を取り出してキャンプの準備を進めていく。
馬たちは牽引用のハーネスを外されて、洞窟の奥へと向かっていった。この洞窟の奥には水が沸いているので、のどの渇きを潤しに行ったのだろう。
二頭と一緒に奥へ行っていたカタリナが戻ってきたので料理のためにも火を焚いて、その周りに各々好きに椅子を持ってきて腰を下ろす。そうして、今回の目的についての会議が始まった。




