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41,釣れるかな

 やけに多い迷子の原因調査と、チグサをどこかへ誘導しようとしていた人物の捜索と調査。

 その二つと、通常営業のアジサシの運営。計三つほど重なったタスクをこなしつつ数日が経ち、当初の予定だった皮の加工とコリンの新しい剣の作成が完了し、いつでも次へ行ける状態が整った。


 だからこそ、ちょっと強引に動いてみようかとチグサが笑うのを、止める者はいなかった。

 正確には、止めたところで止まらないのだから言っても無駄なんだよなぁこういう時の団長、と諦めた者が大半、分かりやすくていいな、と心からの同意をしたものが二人ほどだった。


 元々迷子の件はガルゴレ殿にも共有して何か不審なものはなかったか確かめてもらっていたので、そちらは一旦置いておいてチグサを狙った何者かを突き止めることにする。

 放置してここを去ってもいいのだけれど、こういうのは放置するとずっと面倒臭い可能性があるのだ。アジサシは目立つので、度々そういう面倒ごとにも触れてきた。


「さあ、じゃあ作戦の確認をしようか」

「作戦っていうほどのものかぁ?」

「うるさいよエリオット。はい、第一段階、ボクが囮として一人でフラフラしてきます」


 既に何か言いたげなアンドレイと、その段階でもう心配なんだがと声にも出したエリオットを無視して、チグサは話を続ける。

 あの二人が本当に納得するような作戦は安全策なので、強引に動くと決めたら無視するしかないのだ。


「第二段階、釣れたら猫を経由してカタリナに知らせがいきます」

「まかせろー」

「にゃーん!」

「お、気合十分だね」


 元気なお返事に思わず笑ってしまいながら、カタリナの膝の上に乗って会議に参加していた猫の頭を撫でる。

 この猫はチグサをどこかへ誘導しようとしていた子だ。あの後結局カタリナにしこたま怒られたらしく、今回は名誉挽回のために協力してくれるらしい。


「第三段階、出来るだけ根本まで迫ってから呼ぶから、呼んだら来てね」

「雑なんだよなぁ」

「一人で追おうとするなよ」

「はっはっは」

「おいこら」


 アンドレイが怒ってるなぁ、と思いつつもそれを放置して、チグサは懐から道具を引っ張り出す。

 以前猫に誘導されていた時にも投げたものだ。ただの威嚇用だけれど、そこそこ効果があるのはこれまでの旅路で確認出来ている。


 これは強い衝撃が加わると、周囲に魔力を一斉放出する、というものだ。

 製作者はアンドレイとサシャ、そしてレウコスである。チグサも自作できるくらいには馴染みのあるもので、アジサシ団員はみんな非常用に持ち歩いている。


「これに対して警戒を示してきたからね、ボクに用事があるけれど、ボクらに詳しいわけじゃないらしい」

「だからってなぁ……」


 まだまだ納得していなさそうなアンドレイだけれど、反対を押し通すつもりもないらしい。

 長引くと面倒くさいというのはアンドレイも分かっているのだ。なにせ、アンドレイはチグサの持ってくる面倒ごとの全てに巻き込まれてきた男なので。


「まぁこんな風にアンドレイがうるさいからね、気配消してついてきててもいいよ」

「おい」

「うるさいのは事実だろう。そんなに信頼ないかい?」

「自分に対しての見積もりが甘いんだよお前は」

「あ、始まっちゃった」


 やいやい言い合うアジサシツートップを眺めつつ、他の者たちは各自自分の動きを確認し始める。

 二人が言い合っているのもアジサシの中では日常なので、放置も手馴れたものだ。どうせすぐに収まると知っているので、わざわざ諫めることもしない。


「あたしは馬車に残るかな。行っても何も出来ないし」

「おれも馬車の護衛だな。目に見えて人が居ねぇのはあれだろ」

「僕も、いつも通り店番かな……コリン君はどうする?」

「団長についてく!」

「団長じゃなくて副団長についていけー」


 言い合う二人を横目に団員たちの動きは決まっていき、言い合いが収まる頃には全員が確認を終えた。

 そんなわけで、まぁ何であれ動きは決まったからとアジサシは動き出した。

 いつも通りの場所に移動して店を開き、まずはチグサが馬車を降りる。囮なので、分かりやすくいつも通りアジサシ団長の姿である。


 その後に少し間をおいてアンドレイとコリンが降り、また別でレウコスとセダムが降りる。カタリナも猫を何匹か連れて、どこかの路地へ消えていった。

 馬車に残るのは、エリオットとサシャ、ギーネだ。今日は人の少ない日だと言えば納得される面々が残り、通常通り営業を開始する。


「さて、釣れるかなー」


 怪しくないように適当に仕入れもしてこようかな、なんて思いながら、チグサは一人のんびり道を進んでいく。

 布を見たり糸を見たり、その他素材を見てみたり。

 もはや囮であることを忘れそうになりくらいには平和に仕入れをしていたら、どこからか視線を感じ始めた。


「おや」


 ようやく釣れたか、と顔を上げて、視線の先に居た猫にそっと指先を差し出す。

 野良猫に出会った時のチグサがよくやるいつもの行動なので、これ自体は何の不思議もない行動だ。

 今回は、これが合図になる。


 ふいっとそっぽ向いて去ってしまった猫を見送って、振られた……と呟きながらチグサは仕入れに戻ることにした。

 一度逃げたからか、随分と慎重だ。実際に姿を捉えるのにはまだ時間がかかるだろう。

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