表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/103

40,答えないねぇ

 目の前に展開された魔方陣を読み取って、チグサはゆっくりと後ろを向いた。

 視線の先ではアンドレイが息を切らせてこちらに走ってきており、目線を前に戻すと猫が立っていた場所には知らない人間が立っていた。


「おい団長!」

「誘導してたのは別で居るみたいだ。何人かで組んで、誘い出してたんだねぇ」

「呑気に言ってる場合か」

「いやぁ、そこまでの危機は感じなくて」


 チグサの横に追い付いてきたアンドレイが文句を言うのを軽く流して、チグサは目の前の人間に意識を向ける。

 もう少し先まで誘導したかったようだが、チグサが止まったので諦めてここでよしとしたのだろう。


「ついでに、アンドレイ」

「なんだ」

「迷子の件とは別らしい」

「……はぁ……一度にまとめて面倒を引き寄せるなよ」

「ボクに言わないでよ」


 チグサとアンドレイのいつも通りのやり取りを、視線の先の人間はただ静かに聞いている。

 一度は攻撃の意思を見せたはずだが、アンドレイが合流したからか、今は動こうとする様子を見せていない。


「エリオットは?」

「馬車の護衛」

「なるほど、妥当だ」


 チグサをアジサシ馬車から引き離して、馬車の方に何かをしようとしていた可能性もあるのでそちらにも護衛をつけるのは妥当だ。

 普段ならばこちらにもあと一人か二人は人が来るだろうけれど、今は早朝でそれほどの人数が起きていなかったのだろう。


「さて、そんなわけでこちらは準備万端なのだけれど……君は誰かな?」


 相変わらず動かない視線の先の人間は、長い外套に身を包んでフードを被っているせいで男か女かも分からない。

 姿を隠すという意味では、やはりあの格好はちょうどいいのだろうな、と場違いな事を考える。代わりにすごく怪しいしちょっと目立つけれど、人通りのほとんどない時間ならば問題はないのだろう。


「答えないねぇ」

「……団長」

「任せるよ」


 ジーっと視線の先の人間を観察しているチグサの耳に顔を寄せて、アンドレイが小さく許可を請うてくる。具体的な事を何も言わなくてもなんとなくお互いの行動を察しられるのは、長い付き合いの恩恵だ。

 許可を出した次の瞬間にはアンドレイの腕がチグサの腹に回り、思い切り引き寄せられてもなんとなく察しはついていたので特に驚きはない。


「ぐえぇ……」

「予想してただろ」

「それとこれとはまた別さ……体勢どうにかならない?」

「今は無理」


 チグサを抱えて思い切り後ろに跳んだアンドレイの足元には、魔方陣が展開されている。

 チグサが多少の魔法を扱えるように、アンドレイは多少の魔方陣を扱える。合流時にチグサの目の前に展開されたのも、アンドレイの魔方陣だったのだ。


 今回は撤退用に使っているようだ、と腹を抱えて持ち上げられているせいで視界に映ってくる魔方陣を観察しながら、余裕のある時は後ろを確認して先ほどの人物が追ってきているかを確かめる。

 どうやらついてきては居ないらしい。チグサの誘導に失敗し、アンドレイが合流した時点で諦めていたのかもしれない。


「あ、団長!!ご無事だ!!!」

「おはようコリン、まだ朝だから音量を下げようね」

「はい!!」

「下げようね」


 途中で楽な姿勢に抱え直されはしたが下ろされることはなく、チグサはアンドレイに抱えられたままアジサシ馬車の元まで帰ってきた。

 既に起きていたコリンはエリオットから事情を聞いたのだろう、朝から元気いっぱいだ。


 その声を聞いて馬車の中から何人かが降りてくる。セダムが居ないのは、まだ寝ているんだろうか。

 まぁまだ朝の早い時間であることに変わりはないので、寝ていてもおかしくはない。

 なんて考えている間に、馬車からカタリナが降りてきてチグサに抱き着いた。


「だんちょ」

「おはようカタリナ」

「猫、悪さした?」

「していないよ。簡単な命令か、洗脳系の魔法でもかけられていたんだろうね。あの子の意思ではなかったようだから、怒らないであげなさい」

「やだ」

「やなのか……」


 今回チグサの誘導に使われたのは猫だったが、おそらく理由の一端はカタリナだ。

 カタリナの正体を知らなくても、アジサシ馬車が留まっているところに猫が集まりがちなのは見ていれば分かる事であり、チグサもしょっちゅう猫をかまっているので、誘導する動物として選ばれたのだろう。


 後は単にこの国に猫が多いからというのもあるだろうけれど、他が居ないわけでもない。

 わざわざ猫を選んだ、というのはおそらく正解だろうし、だからこそカタリナは誘導に猫が使われたというそれを気にしているらしい。

 昔も同じようなことがあったし、その時はそこそこ大事になったからだろうか。


「で、あれなんだったんだよ」

「さて、ね……馬車の方には?」

「誰も。それこそ猫も来てねぇよ」

「カタちゃんの機嫌が悪いから、寄ってこれないみたい」


 未だ抱き着いてきて肩に頭をぐりぐり押し付けてくる茶トラ猫をあやしつつ報告を聞いて、馬車に何もなかったのならやはり狙いはチグサだったのだろう、と予想をつける。

 さて、何の用事だったのか。考えることが増えたなぁ、とため息を吐きつつ、とはいえ今日も通常営業の予定なので、開店の準備をすることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ