終わるころ
夏休みが終わって新学期が始まった頃からグレダがやたらとニコラウスの面倒を見ているなぁと思っていた。
またニコラウスも泣いた場面を見られた所為か、グレダにやたら素直になっちゃうし。
良い傾向だなんておばちゃん思考でいたら、いつの間にか二人は出来上がっていた。
気が付けば二人で勉強したり、二人で訓練したりしていやがった。
ねぇねぇ、やっとできた女友達に捨てられちゃった私の気持ちわかる?
仕方ないから一人で図書館に行ったりトレーニングルームの予約をしたりしていたら、なんか毎回会う男がいる。
そう、あのフリードリヒだ。
図書館で先にフリードリヒを見かけたらそのままUターンをして、個人学習室に行ったりしていた。
あるときフリードリヒから声を掛けられた。
「僕のこと避けてる?」
「うん、避けてる」
ガーンとショックを受けた顔でフリードリヒが言った。
「なんで?僕、君に何か嫌なことした?」
「ううん、されてないけど」
「じゃなんで避けるの?」
「だって一緒に居る意味ないから」
またもやガガーンとショックを受けたような顔をしてフリードリヒが言う。
「僕は君と仲良くしたいよ」
「なんで?」
「僕、君が好きになっちゃったから」
「その好きって私が後継だからじゃないの?」
「確かにそれも一因ではあるけれど、春先に君たちに僕には容姿しか売り物はないのかって言われて、すごく考えた。今まで家族はその見掛けならどこの女領主でもイチコロだなって言ってたけれど、今考えればあれは僕をバカにしていると思う」
ちょっと悲しげな顔をしてフリードリヒが言った。
「まぁそうだよね。普通は家族でもそんな事言わないと思うし」
「僕は君たちのおかげで目が覚めた。あれからずっと自分を磨く努力をしている」
「うん、それは見て居ればわかるよ」
ふにゃッとフリードリヒが笑った。
容姿の良い男っていいなぁ、ちょっと笑っただけでも胸がドキドキするじゃんか。
「僕、あれ以来君が気になって仕方ないんだ。これって君が好きなのかもって考えていたら、君の友達のクロージングさんにニコラウスと言う相手ができたでしょ?
だから今がチャンスかなって思ってずっと君を追いかけてきたんだ。
だから僕のことが叩き潰したいくらい嫌いで無かったら避けないで欲しいんだ」
叩き潰したいくらい嫌いな虫ってあれかあれのことか?
前世でも嫌われていた黒いGか?
こちらではまだ見たことなかったけれどいるのだろうか?
「ねぇ、聞いている?」
「うん、聞いてた。そんでわかった」
ほっとしたような表情でフリードリヒが微笑んだ。
ほんっとに容姿の良い男は得だ。
ちょっと笑っただけでも、ちょっと微笑んだだけでも胸がドキドキするじゃんか。
それ以来、フリードリヒを避けないことにして、そばに来たときは構わずに一緒に居るようになった。
秋の交流祭で、グレダとニコラウスは役員に立候補して二人でてきぱきとやっちゃって、仲良し度が上がっていた。
その生スチルはどこで、みられますか?
冬休み前の凍氷祭では、もう人目なんか気にしないで二人の世界でいちゃいちゃしていた。
そこまで爆上げの生スチルはどこでやってたんですか?
私見てないんですけど。
私ロマンスゲームの生スチル期待していたのに、あの二人のイチャイチャは私の知らないところで起こって居たのよ。
信じらんない。
放課後、グレダを捕まえて問い詰めてみた。
「グレダ。いつの間にニコラウスと仲良くなったの?」
「夏休み前にいちゃもん付けられたじゃない?」
「うん」
「あの時、彼泣いたでしょ?」
「あぁ泣いてたねぇ」
「あれ見たらお腹の奥の方がきゅんってしたの」
「へ?そんな事言ってなかったじゃない」
「だって、うちの兄の暗黒剣に比べれば可愛いじゃない。
誰も教えてくれなかったなんてね」
それのどこにきゅんとする要因があるのよ?
「だから、誰も教えてくれなかったなら、私が教えてあげるって思ったの」
「はぁ?」
可愛い顔をピンク色に染めていう事かぁ?
「それにニコは地頭も良いし、何よりもあの繊細そうな顔が好みなの」
「あんたそんな事言ってなかったよね?」
「うん、だってうちの領地には絶対いないタイプだし」
「グレダんちの領地って山がある農作地帯だよね?」
「そう。周りのおじちゃんたちは体力と体格自慢の筋肉野郎ばっかりなの。
だからあの繊細なニコが可愛くて」
てれてれしながらグレダが言うけど、あんたこそどこの乙女だよ。
あぁロマンスゲームのヒロイン様だったっけ。
全く今の今まで聞いたことなかったよ。
グレダの好みは繊細な秀才タイプだったのかぁ。
そうに言われてみれば、お買い得品だよね。ニコラウスって。
そして二年になったころからこの二人はマジもんの恋人同士になっていたのだ。
どうやら、春休みの間にお互いの家を行き来して、それぞれの両親とあいさつまで済ませていたらしい。
婚約は卒業前にするらしいけれど、結婚式は初夏にするって言ってた。
羨ましいぞ。
せっかくできた友達だけど、私は友達の幸せを祈れる女なので、例え試験前に放置されても、例え行事に一人で置いてけぼりにされても、耐えた。
大丈夫、だって今までずっと一人だったから。
泣いてなんかいないぞ。
と思っていたけれど、気が付けば影のようにフリードリヒがそばにいてくれたから、頑張れたよ。
ちょっと辛いなぁと思った時、横を向けばフリードリヒがそばに来てくれたの。
そんなことされたら、胸がドキドキドキドキしたじゃんか。
学園にいる間は本当によく勉強して運動をした。
たった一人の友達だった、グレダがニコラウスに夢中になって放置されていたからね。
別に怒ってなんかいないけどね。
ふんだ。
そして、私はいつの間にかそばにいてくれて何くれと無く助けてくれるフリードリヒにいつの間にか頼っていた。
容姿の良い男は得だと何度も思ったね。
それに、フリードリヒも元々頭も良いし、一緒に鍛錬しているとあの細マッチョにドキドキした。
トレーニングルームで、二人でトレーニングしている時、うっすらと筋肉が付いたフリードリヒが飛ばす汗がキラキラして見えたときは、自分の目をこすったよ。
エフェクトすごくねって。
それに腐っても公爵家。
マナーばっちりなの。
サマーナイトセレブレーションってイベントがあるんだけど、三年になって社交界に出る前のプレイベントなのね。
ドレス着てきちんとパートナーからエスコートをしてもらうって言う練習なんだけど、元が粗雑な私だからドレスの裾さばきがちょっと苦手だったんだ。でも、フリードリヒがそれとなく手助けしてくれて、彼を見直しちゃったわ。
それに正装のフリードリヒってすごく素敵なの。
着慣れているようだし、動きはきれいだし、そして私をお姫様のようにしてくれるの。
それで、ドレス姿の私をきれいだとか、そのネックレス良く似合っているとかかわいいとか言われてもうポオっとしてしまったわ。
これで落ちない女は枯れていると思わない?
グレダもニコラウスと色を揃えたドレスを着てて、それとなくいちゃいちゃしているように見せてばっちりいちゃいちゃしてやがった。
グレダなんて腰にニクラウスの手が回っている状態で、私に手を振ってきたのよ。
負けたって思ったわ。
同じような田舎育ちの粗忽ものだったのに何あの余裕。
三年になって、フリードリヒから正式に告白されたの。
正式って言うのはおかしいかもしれないけど、きちんとお付き合いしてくださいって事みたい。
私は実家の両親に連絡をしたところ、公爵家の次男なんてなんて好物件って言ってもろ手を挙げて賛成されたのよ。
だったら答えは一つでしょ?
三年の夏休み前にキチンとお返事をした。
「この間のお返事をさせてください」
ちょっと緊張して、フリードリヒに言ったの。
フリードリヒも緊張しているみたいでちょっと強張った顔をしていた。
でも容姿の良い男はこんな状態でも、ドキドキさせてくれる。
「これからいろんな難しいこともあるけれど、私と一緒に歩いてください」
「アニエス、それってプロポーズ?」
「あ」
「すごくうれしいです。改めてこれからもよろしくね」
頬にちゅってされた。
ちゅってされたよ。
どうしよう?
胸のドキドキが止まらない。
「アニエス、トマトみたいになってるよ」
「なんでフリードリヒはそんなに普通なの?」
ずるいわよねぇ。
「僕は一年の時からずっとアニエスが好きだったから、何度も何度もいろんな妄想をしてきたんだ。
だから、頬にキスくらいでは何ともないよ。もっとすごいことも考えたことあるし。
でも、本物のアニエスにキスできてうれしい」
ニコニコしながらフリードリヒが言う。
もっとすごいことぉ?
あぁ顔の熱が引かないわ。
てか私前世で子供産んでいるのに、なんでこんなにほわほわしてるの。
でも、好きな人に好かれているって本当に嬉しい。
グレダもニコラウスとこんな風に思えたのかしら?
どうしよう。
嬉しくて仕方がないわ。
ぽやんとしていたら、フリードリヒに手を引かれて抱き込まれた。
「アニエス、先のことに絶対とは言えないけれど、僕はアニエスには誠実だと誓うよ」
「浮気はしないとは言ってくれないのね」
「浮気は絶対にしないと誓える。でも、アニエスの心が別の人を好きになるかもしれないし、僕がアニエス以外の人を好きになるかもしれない。でもその時は行動を起こす前にきちんとアニエスに話すから、アニエスも僕に話して。それで二人でいい道を探そう」
人の心に絶対はないのはわかっている。
ここで絶対に浮気はしないと言われても、他に好きな人ができたらとは思うからきちんとその言葉を受け止める。
「うん、私もフリードリヒときちんと向き合ってちゃんと話す」
私はフリードリヒの身体に手を回して抱きしめた。
三年の行事は、卒業後を見越して色々なものがあるけれど、たいていの場合はパートナー必須とか正装とかマナーとか結構大変だ。
でも、いつもフリードリヒが一緒に居てくれて、私ができないことをきちんと補ってくれる。
私も、フリードリヒのためになることができるといいなぁって思っている。
最近はグレダとニコラウスの二人、私とフリードリヒの二人。
その他にも、クラスの中に先を見据えたカップルがいくつかできている。
人脈を広げるとか将来の伴侶を探すとか、領治のための勉強とか体力作りとかこの学園でいろいろ学んで来いって爺様は言ってくれたけれど、私はすごく満喫した。
友達も伴侶も得られたし。
そうそう、アルフレートだけど気が付いたらいなくなっていた。
うちの隣の領地もいつの間にかホーエンハイム家の所領になっていた。
私とフリードリヒが結婚したら、フリードリヒの個人資産になるんだって。
フリードリヒが言うには、
「僕が持っていても仕方ないから、アニエスにあげるから頑張って領治してね」
だって。
公爵家何をやってくれちゃってんのよ。でも持参金と思えば最高よね。