三章終わり
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そして、古代樹の中へと戻っていくと、コ・オーやカムギやダヴィや鳥や虫や動物や魚といった乗客たちに温かく迎えられた。なんとか皆の尽力と古代樹の生命力で火は消し止められ、全焼することはなかった。パルラストレヴィストロースは照れ笑いをしながらパルに戻ると、記憶の根の列車の前へと立った。しかし何をするでもなく、彼女はそれを凝視した。これから先自分は何をすればいいのか? パルには分かりかねた。パルが猛禽類の車掌にそれを尋ねようとした時、
"パルさん! ちょっとよろしいですか!"
と、木陰に隠れていた先ほど戦闘中に彼女に声をかけた謎の男が現れた。それは真エドウであった。彼は乗客らをかき分けて、パルの前にやって来た。
"どうか、サリヴァンの決戦のために、貴方の力を貸して下さい。"
真エドウはひざを落とし、頭を下げた。
それに対し、パルやコ・オーやカムギやダヴィや鳥や虫や動物や魚といった乗客等そこにいたすべての者は、ただ沈黙していたが、それはその発言を温かく見守るわけでも場違いだとせせら笑うわけでもなかった。
するとパルが、
"車掌さん、記憶の根の列車は動きますか?"
と聞く。
"はい、いつでも。"
と猛禽類の車掌が答えると、パルは鳥や虫や動物や魚の乗客に対して、
"皆さん! 私は記憶の根の列車頭取として! この列車でサリヴァンに向かいたいと思っています! すいませんが、私のわがままを聞き入れてはもらえないでしょうか、お願いします!"
パルが頭を下げた。
すると、
"サリヴァンって、人の住んでいる所でしょ? 行ってみたぁ〜い!"
"なんか、おいしい食べ物あるかなー!"
"人間に復讐だ!"
"人間の社会集団を観察して論文に活かそう!"
等々、概ねの賛同が得られた。
パルがそれを確認すると、古代樹中に響き渡るように叫んだ。
"行きましょう! サリヴァンへ!"
***
パルは兄のダヴィと相席し、パルの前には真エドウ、ダヴィの前にカムギが、相対して座る席にとなった。
皆は皆聞きたいことがあり過ぎて、話すタイミングがつかめず、沈黙してしまっていた。他の、鳥や虫や動物や魚の乗客達は、サリヴァンへの物見遊山にかつてないほど活気立っていた。
最初に口火を切ったのは真エドウであった。
"この度はご協力有難うございます。私は、死者の学校の校長代理を務めております、真エドウと申します。"
と言ってパルにてを差し出した。
"私は記憶の根の列車頭取のパルラストレヴィストロースよ。よろしく。"
と握手を交わした。しかしパルは頬杖をつき、真エドウをにらみつけていた。
"ところで、死者の学校って一体なんですか? そして、私を記憶の根へと導いた理由はなんですか?"
と尋ねた。
それを非常に重要な質問であると察したカムギとダヴィは、そのまま黙ることにした。
"そうですね、貴方が記憶の根の列車の頭取だから言いますが、記憶の根の列車が自己の探求であるならば、死者の学校は国家の探求といったところです。死者の学校は様々な命、死者も含めて、が、共に学び合いより良い世界をつくるためにある場所です。そして。私はそこで校長をしています。では、私が貴方を記憶の根の列車に導いた理由について。それは、貴方がポノウェにいた時から、貴方が記憶の根の列車を所有できる素質があると見込んで養育されていたからです。"
"じゃあ、私の今までの人生は、すべてアンタ達の手の上で踊っていたというわけね。"
パルが静かに、心のある声でそう言った。
この時、隣のカムギとダヴィは、とんでもないやつらのケンカが今にも始まりそうな空気で、生きた心地がしなかった。
では、当のパル本人はどう思っていたかというと、このパルラストレヴィストロースという力を、いかに暴走させることなく、自らの意識と精神の下で、主体性を持ってサリヴァンと関わって活かせるか、を考えていた。は確かに、エドウと出会った頃のばかりよりは自分というものを持ってはいたが、それにパルラストレヴィストロースの力がつり合っているとは言えなかった。その力の使い方が分からず、右往左往しているというのが今の彼女には等しかった。
真エドウはそれを見抜いていた。
"そういう意味では、私もポノウェのカーヴィンによって生み出されたわけだから、彼女の手の上で踊っているのかもしれない。だな少なくとも、今話す私の言葉は私のものであり、生きているのも私なんだ。残念ながら。だがもし、私の命のアイデンティティが脅かされているなら、私は私がここで生きるということを証明したい。死者の学校とはそうゆう所なんです。死んでいった己の命が、は私の命とは何であったか。そこから何を伝えていくか、それを共有知として共に学び国家を営んでいく、それによって世界を形作ってゆきたい、そのような思いの場所です。"
"その、世界、って、何ですか? そんなボヤンとしたもので逃げ切れると思ってるんですか?"
とパルが食ってかかった。
"そう……、世界……。世界はね、想像力のことじゃないかな。貴方がいろんな花や建物や、食べ物を食べて、そしていろんなことを思い考えた、それが世界だと思う。"
"私は想像力? ってやつと世界とは、別物だと思うんですけど。"
すると真エドウは腕を組んだ。
"そうかー。うん、そうかー。では。貴方にとって、世界って、何ですか?"
と真エドウが聞くと、パルが拗ねたに、
"わからないです。そんなこと考える必要がありますか? 私は今身の周りで生きているので、精一杯です。私は世界が無くなったって生きていけます。縛られません。"
と言った。もしかしたらそれが、記憶の根の列車と死者の学校の差異であるかもしれなかった。自己であるか、国家であるか、その大きな隔たりである。
"そうか、貴方は凝視しているんだね。明朗だ、だから美しいんだね? だったら、いつか貴方にも、貴方だからこそ、死者の学校を、見て欲しい。貴方のような自己は確たる何かではない、見続ける葦で、合っているかな?"
と真エドウが言うと、パルはそれを凝視した。
"私は真エドウさん、タイプじゃないですね。"
*三章終わり*




