三章②
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真エドウはエドウを尋常あらざる異空間へと招き入れた。そこは、明確な場所や住所もわからない、全面が白い一方25mほどの正方形区画の謎のスペースであった。それは、そこへと招き入れた真エドウもまた尋常あらざる人物であることの現れであった。
真エドウの姿は、顔は黒天狗の称よろしく目元を仮面で隠し鼻先の部分が鋭く突き出た形状のものであり、肩には巨大なアーマーをつけ、そこから上腕を隠すほどの大きく黒い羽根が束になってついており、下半身は太股からひざ頭までが肥大化した装甲で覆われていた。彼は左手の腰あたりに、抱えていたのでだらんと両手両足を投げ出していたエドウをひょいと投げた。
エドウはおもちゃのぬいぐるみのように騒がしくどしゃりと倒れ込んだ。
真エドウはエドウに対して憤りを感じていた。それは、あんな滑稽なていたらくを演じている人間を見ていれば万人が感じるであろうものであるが、真エドウの場合、それが自身の本体が演じているという、さらに情けない事情があった。真エドウは、本体たるエドウから、分裂してできた人格であった。おそらくこの現象には、エドウがかつて属した科学宗教ポノウェが大きく関係していることは言うまでもない。その真相はポノウェの導師たるカーヴィン・シトックならすべて知っていようが、彼女はここに来ることはできない。なぜなら、この異空間は真エドウとエドウのみがいることを許される、内宇宙的空間だからである。それは、ジョウザンシステムとも少し違っていた。ゆえに、もしかしたらここはサリヴァンではない可能性もあった。
"エドウ。俺の言った「生きろ。死より血を」の意味はわかったか? それがわからないようじゃ、このサリヴァンを救う希望にはなれないぞエドウ。お前が希望になれぬというのなら、お前を元の世界に帰すことも考えなくちゃならない。俺達は戦わなくちゃいけないんだサリヴァンと。どうかお前の力を貸して欲しい。俺を生み出したように、頼むよエドウ。"
しかし真エドウの呼びかけに、エドウはぴくりともせずぐったりとしていた。それは、エドウが、白狼に襲われてひん死の重傷を負っているというわけではない。真エドウはエドウを未知の力によって治療し、この異空間に来たこともあいまってか、白狼につけられた牙の傷はありえないことだがすべて完治していた。ではこの反応はいかにと問われれば、エドウが白痴化していたこともあげられるが、彼は元々真エドウのことを恐れていた。そこには、真エドウの元々の存在、言うてしまえばい親のようなものであるエドウが、もはや子であるといえよう真エドウを恐るとは、エドウの複雑怪奇な心理によっていたのかもしれない。だが、自分の分身がもう一人まったく物質感を持った存在として現れるという、受動か能動かはわからぬが、そんな常人にはおよそ経験しようもないことをしてしまえば、こうなってしまうのも致し方ないのかもしれない。しかし当人の真エドウは、親であるエドウに対して、取って食ってやろうという気もなければ、むしろ、友愛の情を見せているつもりだった。真エドウはエドウと分裂した者でありながら、間違いなくエドウそのものであり、自身が分裂した当時5歳時のエドウと、そのまままったく同じ要素で構成されていた。ゆえにこれは、同じエドウという要素でありながら、エドウが歩んできた人生と、真エドウが歩んできた人生がそれぞれ異なっていたからこそ、この決定的な違いが生じていたのである。そのように考えると真エドウとは、エドウの別個体というより、エドウがもしかしたら歩みえたかもしれないもう一つの可能性のエドウ、とも言えた。だがら真エドウは、エドウの内心が手に取るようにわかる気がしたし、そして手をとりあい歩み寄り、一緒に活動してゆくことも十分に可能だと考えていた。
しかし、エドウの反応は真エドウの思っていたとものとは少し違っていた。
"はっ、希望だと? お前はこの世界に希望があるとでも思っているのか? 確かに、人間一個レベルの希望なら、金持ちになりたい、腹一杯食べたい、結婚したい、可能なものもあるだろう。しかし、サリヴァンの希望? 俺は俺なりにこのサリヴァンを見てきたが、はてこのサリヴァンの希望とは? と考えたところでまったく浮かばんぞ。実はお前のサリヴァンの希望とやらも、お前とそのお仲間達の独りよがりで作り出した、サリヴァンの創造主とやらと変わらない独りよがりなんじゃないか? 少なくとも俺はエドオルム保安局員としてサリヴァンの人々と接してきて、彼らの希望とやらを見てきたぞ。それは、「このままでいい。このままで、今の自分だけが幸せでなら後はどうでもいい」てな。"
これを聞いた真エドウは胸がずきりと痛んだ。確かに、真エドウの一派はサリヴァンの希望といって今まで戦ってきて、沢山の仲間の斃れる様も見てきたが、ではかといってその変えようとしているサリヴァンの人々はどうかというと、酒を飲み遊び愉悦の限りを尽くしながら、自分より弱い人間を虐めて楽しんでいる。おそらくそんな彼らの前に、サリヴァンの希望の前に斃れていった仲間の聖遺を見せたところで、死体および汚い粗大ゴミ、と言われてしまうのは明白である。もし仮に民主選挙のプロセスでこのサリヴァンをいかにするかという判断が下される時、結果が「このまま滅びゆくサリヴァンでも今が楽しければそれでいい」となってしまえば、真エドウ達のサリヴァンの希望とはどうでもいいものになってしまう。そうなれば、真エドウ達はサリヴァンに来たNBSのように、新しい新天地へと自らのコミュニティを連れ出してゆけばよいのだが、真エドウの宿命が「サリヴァンの希望になる」である以上、それから逃れることはできないのである。無論、真エドウは今までそういった「今のサリヴァンでいい」という人々と触れ合っていなかったわけではなかった。しかし、そのような人々と触れ合ったからといって自らの行為を子供のいじけのように投げ捨てなければならない状況に真エドウはまだ陥ったことはなかったし、究極的には「自分がどうありたいか」という問題に結着してしまえば、他者の意見にむやみに流される必要もない、真エドウはそう考えた。しかしだからこそ、もう一人の自分たるエドウにまったくこの言葉を他者でない自身から反芻されるということは、驚きであった。
"確かに民主主義的プロセスで「今のサリヴァンでいい」と大多数が言ってしまえば、俺達はそれに従うしかないかもしれない。しかし、このままではサリヴァンが創造主の手により滅ぼされるんだぞ。少なくとも俺はごめんだね。その俺の意思ですら、エドウの「サリヴァンの人々」とすらは踏みにじらんする権利があるのか?"
"少なくとも俺は、サリヴァンでそういった踏みにじられていく人々をごまんと見てきた。常識としては、そうなっているということだ。もしお前達がそうゆうサリヴァンの人々からの賛同も得ずに、サリヴァンの創造主と戦い、それを殺し、勝手にサリヴァンを作り変えようとするなら、それはNBSやクレナイチョウやココルチェや市装兵団やポノウェのように、強権的な力を振りかざしてサリヴァンの人々を屈服させるしかないだろう。ま、創造主を殺せればの話だがな。"
"なあ、俺達エドウは、そういったサリヴァンの血塗られた歴史を超越した、新しい概念を生み出すために、この地に召喚されたんだ。エドウ、お前は俺と一緒に新しい概念を……、想像しようとは、思わないかい?"
真エドウに問われたエドウはきっぱりと答えた。
"俺は戦うなんてごめんだ。お前らでやってくれ。俺には関係のないことだし、創造主と戦うなんていう無茶したところで無力だ、やる価値も意味も見出せない。"
この言葉を聞いた真エドウは震えた。かつて自身を生んだ5歳時のエドウからは考えもられぬ言葉であった。真エドウは心のどこかでいかなる立ち振る舞いをしようと、自身の創造主であり、親であり、もう一人の自分であるエドウに、淡いだが確かな希望をつかむことができると信じ続けていた。しかしこの、エドオルム崩壊というサリヴァンの危機に対しても、これほどまでの諦観を持っているとなると、いよいよもう真エドウはどうしようかと思い、胸に手を当てて息を整えた。そして、もう一度エドウをしっかりと見て、言った。
"よし、もう一度、考える時間をやる。今のサリヴァンの状況も見せながら。俺は、サリヴァンを救いたい。そのために動く。ではエドウ。お前は何のために?"
真エドウはそう言うとこの異空間から去っていった。そしてほどなくして、異空間の真っ白い壁に映し出されたのは、ところどころが赤く光り燃え、黒い煙をもうもうと立てているサリヴァンの町であった。
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ファントムの働きによって白狼の襲撃がおさまったかというところで、それを見計らったかのようにサリヴァンの事態は重大な局面をむかえた。サリヴァンの町に突如、ブルーポノウェと紅市装兵団という輩が現れたのである。ブルーポノウェは字のごとく青い制服に身を包み、紅市装兵団はかつて市装兵団が使っていた装甲服を紅く塗装したものを着て、練り歩いた。それらが、ある程度の巨大な組織であるならば警察の監視を受けてしかるべきだが、エドオルムが消失した今、そういった手を入らず、各々が勝手に旗をかざしてサリヴァンの往来を闊歩した。最初、珍妙な集団が現れた時は皆冷ややかな目で見ていたが、紅市装兵団が掠奪や誘拐、傷害事件を起こし始めると、治安は瞬く間に悪くなり、昼間でもその赤い姿を見かけたら皆が逃げるようになった。こうした二つの不法集団が一つの場所にいて、衝突しないわけにはいかなかった。しかしこの衝突が、この事態の本当の脅威を見せることになる。
夜半前21時40分頃、サリヴァン民営地下鉄道、コーナル中央駅三番ホームで、ブルーポノウェと紅市装兵団のメンバー同士が諍いを起こし、そこに駆けつけた双方の仲間が次々と加勢したことで、これはただの諍いから紛争へと発展した。紅市装兵団はかつての市装兵団と同じく機関銃を装備していたので、当然銃撃戦へと発展し、流れ弾で多くの死傷者が出た。しかしこれだけでは、ある意味でテロリズムの一種として終わったかもしれない。問題はここからである。ブルーポノウェはその銃撃戦に謎の3mほどの巨大な怪物を二体投入した。目撃者によるとその生物は機関銃の弾を喰らってもびくともせず、灰色の体で、口から青白い光線を吐いたようである。その怪物によりその場にいた紅市装兵団は全滅した。そして、そこから二日後、その場に居合わせた生存者が体調を崩し、病院に担ぎ込まれた。その共通項が見出されたのは、新聞社の記者がことの真偽を嗅ぎつけ、粘り強く体調不良者達の行動履歴を分析したからである。そして、その人々には同じ診察結果が言い渡された。それは、高度の被曝であった。これは、この事案において今までと異なる要素、巨大な怪物から推察したものだが、どうやらそれがどのような理屈でかはわからないが、放射線を放出していたのでは、ということであった。この一報が流れるとサリヴァンが震えた。そして数日後、サリヴァンの大学教授や学者陣が連名で一つの文章を発表した。それは、「ブルーポノウェと紅市装兵団に、衝突を回避するように求める」というものであった。それはすなわち、ブルーポノウェに現実として生物内に放射能器官を持たせているという、そのSFじみた高度な科学技術を持った集団であるならば、このまま紅市装兵団との紛争を続けて、それ以外の大規模かつ広範囲に目に見えぬ形で行われる殺傷兵器に手を出されてしまえばい、サリヴァンは致命的な打撃をこうむる、こう考えられたからであった。それに対し、いち早く反応したのはブルーポノウェであった。彼らは代表をタキミヤハバキと名乗り、インターネット上に自らの指針と意思を発した。これはその一部である。
"我々はかつてこの地に存在した科学宗教ポノウェこそが真にサリヴァンを救うことができると確信している。それを受け継いだ我々ブルーポノウェがサリヴァンを治めれば、このサリヴァンは恒久的に平和と安定を享受できると約束しよう。我々は皆さんが気にかけるような大量虐殺をする気は毛頭ないが、それをできる技術は持っている、とだけ言っておこう。そして、そんな我々の活動を暴力を持って阻む者がいるならば、我々もそれ相応に力で立ち向かう覚悟がある。"
それからまた数日後、今度は紅市装兵団がラジオ局に押し入り、発言を行った。
"あー。俺達の求めるものは戦争なのよ。人間は戦争して泣き叫んで殺してハイになんの。それがね、すごくいいのよ。それが人間なのよ。えっと……。プルーン、ポウェーだっけ? ケンカ売ったの? 上等じゃん。俺達前にバビロン・シークレエでお前達にやられてるからさ、リベンジマッチじゃん。見つけ次第全員ぶっ殺す。んじゃ。"
こうして、ブルーポノウェと紅市装兵団は本格的に戦争状態へと移行してゆくことになる。
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サリヴァンがブルーポノウェと紅市装兵団の戦争状態へと発展していた頃、サリヴァンの郊外僻地の荒廃群には、その両者の空白地に戦火によって家を追われた人々が集まり始めていた。なぜなら、そこはサリヴァン開拓時代に開発された居住環境が、そのままの形で残っていたからである。しかし、そこには荒廃地特有の荒くれ者達の縄張り意識があり、金目の物を持って逃げて来た人々が強盗に会うことも珍しくはなかった。そんな中に子供達を中心としてコミュニティ、子供の指の城、は、あった。しかし、そんな荒くれ者達の巣窟で、なぜ子供達だけのコミュニティが成り得たのであろうか? それは、荒くれ者達の間でも一目置かれている、怪人ファントムが保護者として子供の指の城に連なっているからであった。
子供の指の城のアジトは、打ちっぱなしのコンクリートの柱のみで壁が存在しない、かろうじてブルーシートで覆っている部分もあったが、風通しの良すぎる場所であった。
そんな子供の指の城のアジトでは、子供達が床に車座になって座り、何か読み書きの勉強のようなことをしていた。彼らはどうやら識字が難しく、学校にも行っていないようであった。確かにサリヴァンは教育に力を注いでいるとはいえ、それが貧困者や弱者にまで十二分に行き届いているとはどうやら言えないようである。子供達に字を教える教師役をしているのが、怪人ファントムとこの子供の指の城では13歳で年長の少女ココであり、他5人の10〜5歳の子供達が授業を受けていた。生徒役の子供達は真新しい鉛筆と黄ばんだ紙に必死に絵本を片手に思い思いの格好でそれの文字のみを書き取っていた。それを、ファントムとココが見て回りながら、指導するのである。
"あらあら、ぬいぐるみが、めいぐるみ、になってるよ。似てるけど、くるんってなるのが、ぬ、なのよ。"
しかし、このレベルの学習で社会人として自立して生きていくの到底難しく、この学習そのものに大きな疑問が残る。もしいかなる状態であれ、サリヴァンの都市部に彼らの公的な教育の機会がわずかでも残っているならば、そちらへと接続した方が、子供達の将来としての幅は格段に広がるだろう。しかし、サリヴァンの公的教育機関は、子供達が荒廃地で暮らす親無し児であることを認めず(怪人ファントムが監督者として公的書類に記載せんと試みたが、役所に認められず、あえなく善意で私営の学習塾を開く女性に公的書類上の保護者になってもらった。)もし、正規の教育を受けんとするならば、おそらくサリヴァンが運営する児童養護施設に無理矢理に子供達の意思関係なく入れさせられてしまうだろう。しかし、このファントムを仲介した学習塾の女性の働きかけで、子供の指の城の大半の子供達は児童養護施設に入ることができ、公的教育機関で衣食住と勉学に取り組むことができるようになった。しかし、いざ勉学の道に入ると、授業のスピードについていけない、そのフォローアップに教師から嫌な顔をされる、そしてそういったはぐれ者に対する周囲からのいじめ等、決してすべて素晴らしい結果がもたらされたというわけでもなかった。ここで教師役をしているココも、一度は公的教育機関に通ったが、自身の置かれた境遇に耐えられなくなり、戻ってきてしまったのであった。
子供の指の城のアジトに、一人の若者が就職上の契約書類を持ってやってきた。
ココが彼の元へ行くと、その手渡された書類を見て、その仕事が荒くれ者だからと足元を見透かした卑怯な契約でないか、識字できない若者に代わって確認した。ファントムから教わった概略的な情報と、自身で勉強した知識を用いて、判断するのである。もしココに判断できぬことは、ファントムへと回すのである。ココは、ファントムに彼女になら任せても大丈夫だという信頼を得ていた。契約の不備を見つけ、雇用主へと殴り込んでゆき、その弁達で油断する相手を打ち負かし、ひっくり返させてしまったほどである。これは、後にファントムに、もし手でも上げられたらどうするんだと注意された。しかし、ここまでの機智と行動力のある彼女が、なぜいじめを克服できなかったのか? それは、いじめのみが逃避の原因だったのではなく、貧困の荒廃地で生きてきた彼女にとって、サリヴァンという町全体の自分達に対する無関心、そしてそれゆえの残酷なまでに冷たい視線が彼女自身のアイデンティティを大きく揺るがしたからであった。
ファントムは子供達にアドバイスするかたわら、ちらとココの姿を見た。彼は今ここにいるココに対し、彼女の将来を考えるなら無理矢理にでも彼女を公的教育機関に戻すべきなのかもしれないと、葛藤することがあった。しかし、通学中に彼女から届いた手紙に記されていた悲痛な叫びを思い返すと、何より今彼女の身を第一に考えなければならないとも思う。では、すべての元凶たる公的教育機関を変えることができれば? しかしこれは梨のつぶてであり、もはやその体制が常識となっているらしく、ファントムや子供達の保護者たる学習塾の女性の声は、嘲笑で片付けられてしまった。ファントムがココルチェにおける謀略のプロであるならば、たかだか一介のお役所を変えることなど容易ではないか、そう考えるかもしれないが、彼が行う謀略とは、力で行う洗脳のようなものについてであり、こと公的教育機関に教育的改革ではなく、力で行う洗脳をしてしまえば、その実、教師の高圧的態度やいじめと何も変わりはしない、そう感じていた。むしろ、今の公的教育機関の振る舞いと常識の方がはるかにココルチェの仕様であった。
ではそういった自身の周囲の環境に対し、ココはいかに考えていたか? ファントムや学習塾の女性、周りの信用に足る大人と話し合いながら、次の手、ファントムがこのサリヴァンに招来した本土の大学教授たるモンズダイスト・ウィリアムの元でお手伝いをしながら勉学に励み、ゆくゆくは高等教育修了試験を受けて、大学進学できないかと考えていた。これは、前述からも見た通り、ココが勉学に遅れをとっていたからいじめられた、ということではなく、むしろそれについては早熟であり、そういった所や出自、それゆえのコミュニケーションのすれ違い自身の世界とサリヴァンの世界との隔たりなどが原因としてあげられた。ココはファントムの仲介で何度かモンズダイスト教授と文通を行っており、この度にサリヴァンを訪れる際にココと会い、その資質を測り、対応を決める、という手はずになっていた。この選択が不可となったならば、ココはどうすべきか、それは選択肢の限られたクローズドクエスチョンではなく、無限に広がりのあるオープンクエスチョンと考えてるに努める。だができるならば、ファントム彼のように、貧者や弱者、自分達のような子供を助けることを、終生の生業にしていきたいと考えていた。
ココと若者が書類の確認をしている横を子供が走り抜けた。
"ちょっとレキュスタ! どこ行ってたのっ!!"
ココが通り過ぎる際に振り向いて目で追う。
すると、そのレキュスタという子供の後に続くように、一人の女性がコンクリートの柱からひょっこりと顔を出した。
ココとファントムは身構えた。もしかしたら、強盗の類のふていな輩であるかもしれなかったからである。
"ごめんくださぁ〜い。ちょっといいです?"
その間延びした声に二人は呆気にとられた。それはイシエであった。




