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【第七夜】たいいくかんのて

「学校を建てる時ってさ、広い場所が必要じゃん」

「そうだねぇ」

「だからさ、もともと広い場所をそっくり綺麗にして使うんだよ」

「もともと広い?」

「寺だよ。それも墓地込みでな」

「うっそぉ。お墓どけて学校建てるのぉ?」

「だよ。だから、供養のための祠を作ってさ」

「祠なんてあったっけ?」

「体育館の裏にさ、俺たちがしゃがんだら隠れちゃうくらいの大きな平たい石が埋まってたじゃん」

「……あー……あったあった! ちょうど、こないだエノに聞いた『しのあみだくじ』の辺りかなぁ」

「何、しもやんってば、『しのあみだくじ』知ってんの?」

「詳しくはないよぉ。エノが教えてくれたんだぁ」

「あー……じゃあ、あのハンドル、やっぱりエノだったんだ」

「ハンドルぅ?」

「地域のな、コミュニティサイトって知らない? インターネットで地域の口コミ情報を投稿するサイト。その七不思議板がけっこう面白くてよく見るんだけど、そこに薬に詳しいカプセル・エノってのが居るんだよ。前からエノっぽいなぁって思ってたんだよな」

「まぐっちゃんも詳しいんだねぇ。僕、それ聞いたの一昨日だよぉ」

「そっかぁ? 俺は小学生の頃から知ってたし! 昔さ、かくれんぼの時、あそこの裏に隠れたことあるんだよ。そしたらさ、裏にだけなんか細かい字みたいなのがびっしり彫ってあるのな」

「裏にぃ?」

「そう、裏に。人の名前っぽいのがギッシリ。妙に気になったからそれ、教頭先生に聞きにいったんだ。ほら、教頭先生、ここいら出身じゃん」

「森先生?」

「そーそー。しもやん、記憶力いいよね。んで、教頭先生が教えてくれたんだよ。生まれずに供養された人たちに贈られたお名前なんですよ、って……つまり、水子供養した数ってことだよね」

 背中がなんだかざわざわする。なんでこんなことになったんだっけ。確か、クラス会のお知らせをまぐっちゃんのとこにしたら、クラス会には出たくないとか言い出して……とりあえず説得するために飲みに誘ったら……なぜか七不思議の話ばっかり。もう幾つ目だっけぇ? 僕の知っているのと、微妙に違うとことかあったけれど……例えば大介くん死んだことになってたし……でも、まぐっちゃん、話が上手ですごくまとまった話に仕上げてるんだよねぇ。それにしても、テンション高いなぁ。

「それでな、『たいいくかんのて』ってあったじゃん。俺さ、あれ、その水子供養の赤ちゃんの手だと思うわけよ」

「その七不思議は僕らの頃からあったよねぇ」

「俺さ、見たことあるんだよ」

「えっ?」

「五年生の時『六年生を送る会』ってやったじゃん? あんとき、俺、照明係でさ、体育館の二階にのぼったんだ」

「バスケゴールの高さにはりついている渡り廊下みたいなやつぅ?」

「そう。校庭側以外、いっつもカーテンがかかっているそこそこ!」

「ずっとカーテンかかってたの、夏とか特に暑苦しかったよねぇ」

「もともとはさ、近所の住民がさ、覗かれているみたいで嫌だとか言い出したんだよね。でもさ、あんなとこ普段誰も居ないじゃん? でもさ、学校側としてはそういうクレームを放置するわけいかないらしくって。で、カーテン」

「わかったぁ! まぐっちゃん、カーテンまくって覗きしたんでしょぉ!」

 まぐっちゃん、小学生の頃はいつも女子にちょっかい出してた気がする。まぐっちゃんが卒業アルバムで覗きをしそうな人ナンバーワンになった時、申し訳ないけど「そうかも」って思っちゃったもんなぁ。

「ちげぇよ! いや、違ってねぇか」

 それから、まぐっちゃんは声のボリュームを少し落とした。

「照明係の時な、苦情が来るかもだからカーテンは絶対に開けないこと、とか、念押しされたんだよ。でもさ、風が強いのか、バンバンと窓を叩く音がするわけ。だから俺……ちょっとだけ見てみたんだよ」

 その時、僕は気付いてしまったんだ。腕まくりしたまぐっちゃんの手、それも特に手首のあたりに、赤い痣みたいな……小さな小さな手のひらの形が、ちょん、ちょん、ってついているのを。

「カーテンをそっとずらすとな……外側から小さな手形がいっぱいつけられてたんだよっ!」

 芸が細かいなぁ、まぐっちゃん。僕を怖がらせようとして、こんな準備までしてたのかぁ。

「あはは。ちょうど、このくらいの大きさの、って言うんでしょぉ?」

 僕がまぐっちゃんの手についている赤い手形の一つを指差した。その途端、まぐっちゃんは変な裏声みたいな悲鳴をあげたんだ。そして立ち上がり、手をぶんぶんと振り回しながら外へ走っていってしまった。本当に一瞬のことだったから、僕は呆然と見送るしかなかったんだ。

 その時のことを僕はいまだに後悔している。あの時、僕が指差したりしなければ、いや、せめて、外へ出ようとするまぐっちゃんをしっかり止めていれば……まぐっちゃんは交通事故に遭ったりしなかったはずなんだ。




(了)


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