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とりぷー☆  作者: いち
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レッツ異文化交流☆ラウル視点

行く手にその小柄な姿を確認したとき、頭頂部に生えた耳から獣人族の仔が紛れこんだのかと思った。


しかし、風圧によって外れた被り物から現れた漆黒の髪に、耳が単なる飾りだと分かって思わず顔を顰めた。


実際嬉しくない事実だった。獣人族であれば例え生まれたばかりの仔であってもこの危機から脱することは容易かっただろう。


しかし、人間、しかも年端も行かぬ子どもでは到底この状況から生き延びる術は無い。それでもみすみす見殺しにするわけにもいかぬ。


「こちらへ来い!!拾ってやる!!」


声が届いたのか判断が付かなかったが、それまで呆然と立ち尽くしていた痩身が転げるように我らの進行方向へ移動し始めたのを確認して仲間達に指示を飛ばした。


「俺が拾う!!お前たちは陣形を組みヤツを追い詰めろ!!すぐに追いつく!!」



「応!!」


仲間達が素早い動作で隊列を組みなおす間隙を縫うようにして目前の小柄な影に迫った。


正直グロウダスの速度が予想以上でギリギリだったが、なんとかすれ違い様に抱え上げることができた。


そのまま腕で囲うように鞍の前に乗せ仲間へ追いつき激を飛ばす。頭の片隅でその身体の軽さに驚きながらも討伐は順調に行われた。



事後処理を各々に割り当て、改めて己が救った命を見る。


と、こぼれそうな大きな漆黒の瞳と目が合った。そのまま数秒見つめあうがそっと逸らされてしまう。怖がっているのだろうか。


助ける前は気づかなかったが、腕の中の存在はどうも幼い少女のようだ。


丁寧に手入れされた瞳と同色の髪に、嗅いだ事も無い様な芳しい芳香を放つ肌。先程ちらりと目に入った指先は赤子のように美しく、小さな爪は薄紅色の貝殻のように仄かな光沢を持ち、少女が労働階級出身でないことを示していた。


纏っている衣にしても、何と言う獣の毛皮か知らないが今まで触れたこともない上質な感触に、相当高価なものであると知れる。


獣の毛皮で仕立てたドレスなど聞いたことも見たことも無かったが、これだけ柔らかく美しい毛皮ならばそれも相応しい。


少々丈が短いが幼い少女にならば順当と言えるだろう。が、裾を飾っているレースやリボンの質と量は城で己が美を誇る貴婦人達の比ではなく、とても幼い子どもの衣を飾る代物とは思えない。俺のような貴婦人の衣装について詳しいとは言え無い門外漢でさえ目を見張る上物だった。


高価な衣装と手の行き届いた少女自身に反し、その柔らかく小さな足は泥にまみれた裸足だった。


ここからさほど離れていない山中に大規模な人買いの棲みかがあり、つい最近魔物の急な襲撃を受けて壊滅したと聞いた。


おそらくこの少女は何処かの高貴な身で件の人買いに攫われだろう。そのままここまで逃れてきたに違いない。


同色の瞳と髪を持つとすれば王家の血を引いているやもしれぬ。象牙のような肌色からして異国の姫か。先程から仲間が声を掛けているが反応する様子が無いことからして大方言葉が通じないのだろう。


かの人買い組織には転位魔術に優れた魔術師が居るとして有名だった。その魔術によって距離に関係なく一瞬で獲物を攫い、売り飛ばしてきたらしい。近々一斉に取り締まりを行おうとしていた矢先の壊滅だった。


言葉も分からぬ異郷の地に連れ去られ、魔物に襲われ、逃げ延びたと思いきやまたもグロウダス討伐などに巻き込まれるとは。その恐ろしさ、心細さは如何程の物か想像に余りある。


言葉が通じないとは思っていても、努めて優しく、少しでも不安が薄れるようにと願いを込めて腕の中の存在にそっと声をかけた。


「もう大丈夫です。我らが貴女を安全な地へ御送りします。もう、安心してもよろしいのですよ。」


だから御顔を上げてください、と優しく紡いだ想いが通じたのか、腕の中の少女はゆるゆると面を上げ大きな瞳を不安げに揺らめかせながら桃色の唇を震わせた。


「************。*************。」


やはり、少女の言語は聞いた事も無いものだった。予想していたことだから今さら動揺はしないが、それよりも万の鈴を震わせるような可憐な声音に思わず打ち震えた。

高貴な方というものはその御声さえも特別だというのか。感動に震えながらも己れを律して立て直し、運命の女神の采配により今腕の中に存在する特別な御方へ、馬上ではあったが騎士の礼をとって名を捧げた。


「私はラウルと申します。ラウル・バルトサール・クク・ツァルカーネア。ここ、シャンディネイア王国の王都を守るエドゥアルド騎士団長の任を与えられております。どうか、私のことはラウルとお呼びください。ラ・ウ・ル です」


彼女に分かりやすいように名の部分だけゆっくりと何度も発音した。

始めはきょとんと私を見上げるばかりだったが、名乗りを上げているのが理解できたのか「らうる?」と小さな声で囁いて下さった。

嗚呼その囁きのなんと甘美なことだろう!己の無骨な名でさえも至上の詩歌のように聞こえるから不思議だ。不意ににっこりと花が綻ぶように微笑むと鈴を転がすように何事か言葉を発せられた。その中にあどけない口調で何度も私の名が呼ばれ、思わず頬が綻ぶ。


「***らうる。らうる?****アキコ。ア キ コ。***?」


「アキコ様、ですか?}


おそらくは御名前を告げて下さったのだろう。王族のように尊い方々は不用意に真名を明かさぬと聞くから愛称のような物なのだろうが、素直に嬉しかった。


私が賜った御名前を口にすると嬉しそうに微笑んでくださる。


あのように悲惨な経験をされたというのに、この笑みのなんと無垢なことか。。

名を交換したことで多少御安心召されたのか、私の鎧をあちこち触れて怪我がないか気遣って下さった。非常時だったとはいえ、このように稚い方を余りにも乱暴に扱ってしまったことが悔やまれる。どこか御身に怪我などされていないと良いが。


隊の間を縫うように馬を歩かせながら部下に指示を出す。皆この幼い姫に興味が尽きぬ様子で頬笑みかけたり、何やら話しかけたりしているが少女の高貴な姿から事情を察したのか痛ましい表情で顔を伏せる者も多かった。我らがあと少しでも迅速に組織討伐へと赴いていれば、姫が危険に巻き込まれることも無かったかもしれぬ、そう思ってのことだろう。


そんな我々の思いを知らぬ気に、幼い姫は穏やかな表情で騎乗している馬の背を優しく撫でて労わってくださっている。その優しげな様子に呼ばれたのか、自由にさせていた馬たちも姫に撫でてもらおうと寄って来て我先にと甘えていた。馬と戯れる姫の心穏やかな様子に、少なくとも今は安心して寛いで居られると思うことができた。


残酷な仕打ちを受けてなお、こうして動物と戯れほほ笑む事が出来る。幼いとはいえなんとお優しく、純粋な方なのだろう。

私はこの時誓った。例えこれから先何があろうとも、シャンディネイアの騎士として、己の剣と魂に賭けて この小さな異郷の姫を守り抜く。これがシャンディネイアの名を背負いはしても未だ仕える主を定めていなかった己に与えられた運命の導きだと思った。


小さな主君を腕の中に守る幸せを噛みしめ、全隊を指揮して一路王都へと馬を走らせた。




ラウルはロリコンではありません。念のため。主人公トリップ特典で美化200%ですが、本人は気付いておりません。

ちなみに、後で本編に盛り込めるか分からないので一応補足を。

【国について】

シャンディネイア国は王政国家ですが、民主主義に近い自治をとっております。貴族も居ますが、血統より実力重視です。騎士に関しては魔物(主人公曰くファンタジーな生き物)が出没し脅威となっている世界なので、対抗できる人たちとしてかなり希少な専門職という認識です。国に忠誠を誓う義務はありますが、国王に絶対の命令権は無く、騎士が仕える相手(主君)は騎士個人の自由意思に任されています。

【髪と瞳について】

基本この世界の人々は髪も目も肌の色もバラバラ、極彩色です。そんな中で髪と瞳が同じ色、もしくは同系色というのは王家や王家の血が混じった証という常識があります。理由としては精霊に愛されている印だから。という原住民からすれば一言で済む理屈、主人公としては?な理由です。追々また御話に盛り込めたらと思います。余談ですが、色が濃く深い程血が強いとして珍重されています。なので黒髪黒目の主人公は神様レベルで高貴だと判断されました。けしてラウルがロリコンなわけではありません。

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